母親襲来
リリと話してから、俺の悩みもすっかり無くなり、何の憂いもなく誕生日を迎えられると思って安心していた。
それが、まさか、家族によって俺の平穏が乱される事になるなんて――。
「ユーリアス様、リリアーベル様、奥様からお手紙が届いております。」
「お母様から?」
入学式の後、すぐに領地に戻ってしまったが、来月の俺達の誕生日には、王都の屋敷に来ることになっている。
「もしかして、俺達の誕生日のことかな。お母様が、張り切って準備するって言っていたけど、何か確認したいことでもあったのか?」
「……誕生日?」
「そうだよ。来月は俺とリリの誕生日だろう。今年は、16歳の大切な誕生日だから、友人達も招待して、いつもより盛大にしようって話していただろう。」
リリが、今、思い出した様な顔で、俺と目を合わせた。
「誕生日のこと忘れてたわ。全部お母様に任せっきりだったわね。」
「やっぱりリリも忘れてたんだ。実は俺も最近まで忘れてた。」
入学してから、色々あり過ぎたんだ。忘れていても仕方ない。
それより、お母様からの手紙が気になる。この時期に連絡してくるなんて、面倒事でなければいいが、お母様もリリと一緒で、予想外の事を仕掛けてくるから、急に不安になってきた。
リリがセバスから手紙を受け取り内容を確認する。そのまま無言で、開いた手紙を俺に見せた。
''今すぐ、王都へ向かいます''
真っ白な便箋の真ん中に、それだけが大きく書かれていた。
「こちらに向かうって……。」
「この手紙、いつ出したのかしら?」
領地から王都まで、そんなに離れていない。出発前に手紙を出して、すぐに領地を出発していたら……。
「ユーリアス様、リリアーベル様、お客様がいらしてます。」
リリと顔を合わせて、すぐさま部屋を出る。注意されるギリギリの速さで廊下を歩き、玄関ホールへ向かう。
「あら、私の可愛い天使ちゃん達、ご機嫌いかが?来月まで待てなくて来ちゃったわ。さあ、お母様に可愛いお顔をよく見せてちょうだい。」
玄関ホールでは、お母様が相変わらずの綺麗な笑顔で、両手を広げて待っていた。
「お母様、ずいぶん急ですね。」
出迎えてすぐに、リリを抱きしめているお母様に、もっと早く連絡して欲しかったと不満を伝えると、不思議そうな顔をする。
「変ね。ちゃんと手紙を出したはずよ。届いてなかったの?」
「今さっき届きました。」
「なんだ。ちゃんと届いているなら良かったわ。」
ほぼ同時に届いたら、先触れの意味がないのだけれど、お母様に言っても仕方ない。
今回は、数分でも手紙が早く届いたから、まだ良い方だ。酷い時は、お母様が先に来て、手紙が遅れて届くからな。
「ユーリも、ほら、よく顔を見せて」
お母様が、今度は俺を、ぎゅうと抱きしめる。
「お帰りなさい、お母様。今回は、誕生日の準備で先に来てくれたのですか。よくお父様が了承してくれましたね。」
お父様は、お母様を大切にしている。だから、自分の元を一人で離れるのを心配して、いつもなら絶対に許可を出さない。
今回は、誕生日の事があるから特別に許可を出してくれたのかと、有り難く思っていると、お母様から信じられない言葉が飛び出した。
「別に、テオの許可は貰ってないわ。でも、ちゃんと、此方に来ることは手紙を残してきたから大丈夫よ。」
まさか、黙って出てきたのか。お父様の悲痛な叫びが聞こえてきそう。
「それより、私、疲れたわ。色々と、双子ちゃんの話を聞きたいけれど、先に休ませてちょうだいね。」
「それじゃあ、お母様、私がお部屋まで一緒に案内しますね。」
リリがお母様の腕を組んで、二人嬉しそうに部屋に向かった。
「セバス、念のため、お父様に無事にお母様が着いたことを伝えておいて。」
「畏まりました。」
お母様が無事なことを伝えれば、一応お父様も安心するだろう。
本当なら、来月の誕生日前に二人で王都に来る予定だったのに、1ヶ月近くもお母様から離れて、お父様は耐えられるのだろうか。
お父様を不憫に思いつつ、今日はお母様の為に、夕食を豪華にして貰おうと料理長の元へと急いだ。
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