とても簡単なことだった
帰宅後、リリは緊張の面持ちで、俺の後について部屋の中に入った。
「ユーリ、話ってなに?何を悩んでいるの?」
ゴクリと喉を鳴らして、リリが思った以上に緊張した声で話す。
「いきなりだな。まずは、座って話そうか。喉も乾いただろう。お茶を入れてもらおう。」
部屋のソファに座るよう言うと、俺の隣にリリが座った。
エナにお茶をお願いして、用意している間に、どう切り出そうか考える。
お茶の用意が済むと、エナに退室するよう伝え、一口飲んでから、リリに向き直る。
リリもお茶を一口飲んだのを確認して、俺は、言葉を続けた。
「リリに話しと言うのは、何と言うか…、怒らないで聞いて欲しいんだけど…、その…アンジュ嬢の…ことなんだ。」
「アンジュのこと?彼女がどうかしたの?」
不思議そうに、じっと俺を見つめるリリから目を逸らし、覚悟を決めて一気に話し出す。
「アンジュ嬢と友人になって喜んでいるリリには悪いんだけど、彼女とは距離を取って欲しいんだ。最近まで従姉の取り巻きだったこともあるし、リリが傷つくのが嫌だから慎重に見極めたいんだよ。だから、リリは怒るかもしれないけど、アンジュ嬢とは…、彼女とは、今は…離れていて欲しい。」
言ってしまった。リリの友人を疑って離れて欲しいなんて、嫌な思いをしていないだろうか。怒っていないだろうか。
怖くてリリの方を向けずに、目を閉じたまま、リリの言葉を待つ。
しばらくの沈黙の後、リリの鈴の音のような可愛らしい明るい声が響いた。
「なんだ、そんなことかぁ。悪いことかと思って心配した。深刻なことじゃなくて良かったよ。はぁ、緊張した。」
安堵の表情を浮かべ、良かったと天使の笑顔を見せるリリに、こっちは拍子抜けしてポカンとしてしまう。
「ユーリが何か悩んでるから、深刻すぎて言えないのかと思ったけど、私が怒ると思ったのね。あのね、これくらいで怒るわけないでしょ。」
「えっ…だって、怒らないの?俺を嫌いになったりしないの?」
俺の言葉に、逆にリリが驚いた様子を見せる。
「どうして、それでユーリの事を嫌いになるの。そんなこと有るわけないじゃない。ユーリが、何もないのに、そんな事を言う訳ないわ。それなら、私のことを考えての事でしょう。ユーリは優しいから、何があったか話さないだけで、彼女のことで何かあったのね。」
沈黙が、肯定を意味することが分かっていても、俺は、何も言えなかった。
「そうなのね。ユーリが何も言えなくても、私はユーリを信じてるわ。だから、アンジュとは、しばらくの間、距離を取るようにするわ。」
その言葉に、安心して全身の力が抜ける。リリが嫌わないでいてくれることに、嬉しくて涙が出そうだ。
「ありがとうリリ。あぁ、嫌われなくて良かった。リリの友人を悪く言うことに怒られないか、嫌われないか心配で、食事も喉を通らなかったんだ。はぁ、よかった。安心したらお腹空いてきたな。」
クスクスと可愛い笑い声が、直ぐ傍から聞こえる。視線を移すと、リリの顔が近くにあった。
「そんなことで悩んで食欲が減ってたの。みんな心配してたのに、理由を聞いたら呆れちゃうかもしれないわね。」
「そんなことじゃない。俺にとっては大事なことだよ。リリに嫌われたら俺は、生きていけない。」
「大袈裟ね。私がそんなことでユーリを嫌いになるわけないのに。私はちゃんと分かってるわよ。ユーリがいつも、私のために動いていること。だから、理由なく酷いことを言わないって信じてる。姉思いの弟に、私はいつも、感謝してるのよ。」
ソファから立ち上がり、俺の前に立つと、幼い頃のように、頭を撫でてくれる。
少しだけ恥ずかしくて、横を向くと、可笑しそうに笑う声が聞こえた。
「リリはたまに、意地が悪いな。だけど、そうだな。俺を信じてくれて、ありがとう。」
あんなに悩んで、どう言えばいいか苦悩してたのに、答えは簡単だった。
ちゃんと話せば、リリは俺を信じてくれる。嫌いになることはない。
アンジュ嬢の事は、距離を取ると約束してくれた。それなら、誕生会の招待についても、解決したのと同じだ。
ここ数日の悩みが消えて、スッキリした。明日は、心配かけたみんなにも、ちゃんと謝って、大丈夫だと改めて伝えよう。
悩みが全て片付いたと思って、俺は、心から安心していた。
―――そうだよな。物語のヒロインがそんなことで、諦めるはずがない。
前世の親友が言ってたじゃないか。物語の強制力は、ハンパないって……。
物語も70話を超えてきましたが、ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ヒロインが出てきたばかり、まだまだ双子の物語は続いていきます。
次話も、読んでくれると嬉しいです。よろしくお願いします。




