可愛い天使 と ヒロイン(仮)
「リリアーベル、今日のダンスも剣舞も本当に見事だった。君の美しさに、つい見惚れてしまったよ。まるで女神が降臨したようで、輝く君から目が離せなかった。短い練習期間で、あれだけの素晴らしい出来栄え、流石だな。機会があれば、ぜひ今度、俺と踊って欲しいな。どうかなリリアーベル。俺の手を取ってくれる?」
現在、帰りの魔動車の中、リヒトがリリの事を褒め称える。いや、口説いている?
リリに向かって手を差し出して来たので、きちんと手を払っておいた。
「もう、ユーリったら、人の手をそんな乱暴に叩いちゃ駄目でしょ。リヒトも褒めすぎ。ちょっと恥ずかしいよ。」
真っ赤になった顔を、パタパタと両手で扇ぎながら、照れてるリリが最高に可愛い。
「林檎みたいに真っ赤になって可愛いな。そんなに可愛らしい顔をされると、美味しそうで、食べてしまいたくなる。」
リヒトが、視線を真っ直ぐに、じっとリリを見つめて艶っぽく微笑む。
リヒトの言葉と視線を受け、リリは更に耳まで真っ赤になる。まるで獲物に狙われた子ウサギの様に、ふるふると体を震わせて動けない。
本気モードのリヒトは、色気が駄々漏れで危険だ。こんな大人なリヒトは、リリには早過ぎる。
「ちょっと、リヒトやり過ぎだ。そんな破廉恥なこと言うなら、リリの視界に入るな。喋るな。近づくな。」
リリの目の前に手を当てて、リヒトが見えないように視界を遮る。
「アハハハ、いや、悪い。余りにもリリアーベルが可愛すぎて、つい…な。」
普段は、俺達の近くで兄のように見守ってるから、リヒトの唐突な甘い言葉には、いつも対応が遅れてしまう。
大人の色気に慣れないリリには、リヒトの誘惑は毒だ。絶対に、惑わされないよう、大人リヒトは、リリの視界から消えてもらおう。
それに、正直今は、リヒトに構ってる暇はない。
まずは、最優先で考えなければいけない事がある。
対決の終了後に、リリが声をかけた人物。
あれは、前世の友人の言葉を信じるなら、ヒロインに一番近い人物になるだろう。
ヒロインの特徴、ピンクの髪色にピンクの瞳を持つ、コルトブル男爵令嬢。
♢♢♢♢♢♢
「あの、コルトブル男爵令嬢に、お話があります。少しだけお時間いいですか?」
「…っ、……は……はいっ!」
突然リリに声をかけられ、動揺を見せる彼女。
俺もリリも、彼女とは初対面の筈なのに、リリは彼女を見つけて嬉しそうだったし、俺も何故だか、胸の奥がざわついて落ち着かない。
(ヒロイン疑惑があるから、気になるのか…。)
二人が、その場を離れようとするのを、咄嗟に呼び止める。
「リリ、待って。俺も一緒に話を聞いてもいい?」
リリが、コルトブル男爵令嬢を振り返り、どうするか様子を伺う。
「あっ…えっ…わ…私は…大丈夫…です。」
「じゃあ、ユーリも一緒に来て。」
邪魔が入らないように、校舎近くまで移動する。人が居なくなった所で、リリがコルトブル男爵令嬢に話し掛ける。
「あの、コルトブル男爵令嬢、ずっと貴方に会いたいと思ってたの。貴方は私の事覚えてますか?」
不安げな顔で、コルトブル男爵令嬢に問いかける。
「えっ…はい。覚えて…ます。まさか…ゴルドリッチ侯爵令嬢様も…私の事、その…覚えているのですか?」
パァと笑顔になり、コルトブル男爵令嬢の両手を握って、嬉しそうなリリ。
二人の会話から、どうやら面識があったようだと理解した。
「覚えててくれて良かった。あの時、色々あって、そのままだったから、ずっと気になっていたの。」
「大丈夫ですよ。あの時の事は、その…大変だったと思うので、あれから、他のお茶会でも…お見かけしなかったので…やはり体調が優れないのかと…」
二人の間に面識があるのは分かったけど、俺の知らないリリの交友関係に、何だか少しだけモヤっとする。
「あのさ、二人とも知り合いだったの?リリがコルトブル男爵令嬢と面識があったなんて知らなかったよ。もしかして前からの友人とか?」
リリが俺に秘密にしてたことが、少しだけ面白くなくて、口調が強くなる。
そんな俺の態度には気づかすに、リリは考える様子を見せ、コルトブル男爵令嬢を上目遣いで見上げて、自信無さげに声をかけた。
「友人…って言ってもいいのかな?」
すると、コルトブル男爵令嬢の様子が、さっきまでと豹変する。
「ピャッ……えっ、何。かわ…可愛すぎる。私の心臓止める気なの。えっ…ど…どう…どうしよう。天使…天使様が、私に…友人…?えっ、友人って言ってもいいの?ただの人間が?えっ……友人なんて言って、バチが当たらない?でも、でも、折角、天使様が言ってくれてるのに、拒否するのも…ていうか、拒否したくない。よし…ひゃあああ…私を見てる……目が合っちゃった……可愛いぃぃ。うわぁ……あの…あの、友人で、大丈夫でし。」
こんなに喋るのかと驚くぐらい早口で、盛大な独り言?の後に、友人だと告げた瞬間、最後の、最後に盛大に噛んだ。
コルトブル男爵令嬢が、真っ赤な顔で悶絶する。
「フフ…友人。ユーリ、彼女は私の友人だよ。」
「いや、今、友人か確認したよね?二人は、元々、友人関係じゃないの?どういう関係?」
「えーとね、それは、今はまだ内緒。とにかく、友人だから、ユーリも彼女と仲良くしてね。」
内緒の言葉が気になるが、仲良くしてねと言われたので、仕方なく頷く。
「それよりも、さっきの対決、あなたが私に一票入れてくれたのよね?」
リリは、彼女がアンナマリーではなく、自分に投票したと確信しているようだ。
「は、はい。」
「とても嬉しいのだけど、アンナマリーとの関係は大丈夫?お友達だったのよね?」
「あ…いえ、私の家は、クランネート伯爵家に、昔からお世話になっていて、それで、アンナマリー様についていただけです。殿下が好きな方に自由に投票するように言っていたので、私はそれに従いました。」
コルトブル男爵令嬢が、俯き加減で小さな声で告げる。
いくら殿下の言葉に従ったと言っても、あの性悪従姉の事だから、彼女がリリに投票したのを知ったら、酷いことになりそうだ。
「コルトブル男爵令嬢、勇気を持って、自分の意思に従い、リリに投票してくれたこと感謝します。ありがとう。もし、従姉が貴方に何かしてきたら、俺に教えて欲しい。」
「そうね。アンナマリーが何か言ってきたら、私があなたを守るから、絶対に教えてね。だって私たちは友達だから。私とユーリをいつでも頼ってね。」
「あ…ありがとうございます。ゴルドリッチ侯爵令嬢様。それにゴルドリッチ侯爵令息様。」
安心したように答える彼女だが、話し方はまだ固い。
「ねえ、もう友達なんだから、私の事はリリアーベルと名前で呼んで欲しいな。」
「それでは、俺の事もユーリアスと呼んでくれ。」
彼女は、視線を彷徨わせていたが、決心したのか、リリと俺に向かって今度は大きく声を上げる。
「リリアーベル様、ユーリアス様、私の事も、どうか名前でお呼び下さい。私は、アンジュ・コルトブルと申します。アンジュとお呼び下さい。」
「アンジュね。可愛い名前。よろしくね。アンジュ。」
リリが、嬉しさの余り、アンジュ嬢に抱きついた。
「ひゃあぁぁ…」
リリの突然のハグ攻撃に、アンジュ嬢が、プシューと音が聞こえそうな勢いで、真っ赤になって固まっていた。
(悪い子では、無さそうかな。)
避けようと思っていたヒロイン(仮)と、友人になってしまった。
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