可愛い天使 VS 宿敵 《最終対決本番》
俺は、リリの控え室を出て直ぐに会場に向かった。
今日の対決の為に、わざわざ舞台まで造り、観客席まで用意されている。希望があれば、一般生徒も観戦できるようだ。
舞台の前、中央に豪華な椅子が準備されており、その横に審査員席が用意されている。
中央の豪華な席が、誰の為の椅子なのかは、今は聞かないでおこう。
「ユーリアス遅かったね。君の為に、特等席も用意したよ。ここなら、誰にも邪魔されず、じっくり見物できるよ。」
セドリック殿下が、楽しそうな笑顔を浮かべて、俺の元にやって来た。
「まさかとは思いますが、特等席ってこれの事じゃないですよね。絶対に座りませんよ。」
先程の豪華な椅子を指差し、眉をひそめて不機嫌に答えれば、セドリック殿下は更に楽しそうな顔になる。
「残念だな。ここなら、リリアーベルの勇姿もよく見えるのに。他の者に譲ってもいいのかい。」
「…うっ、リリの為なら…仕方ないですね。」
誰よりもリリが見える場所に、他の誰かが座るのだけは嫌なので、特等席は譲らない。
俺の返事に満足したようで、席に着くよう促される。
「そろそろ始めたいけど、リリアーベルがまだ来てないね。」
一瞬、殿下が不安気な表情を見せ、校舎の方へ視線を向ける。
昼間の事もあるし、セドリック殿下にも、リリの事を伝えておこうと思い、殿下の耳元に顔を寄せる。
「実は、内密に話したいことが…。」
控え室での事を殿下に簡単に説明する。剣の入れ換えの所では、怒りで顔を歪ませていたが、リリの怪我の原因を聞くと、吹き出して可笑しそうに笑い出した。
「剣を拾うために足で蹴るなんて…フッ…令嬢が…くくっ…足蹴り……本当に…フフッ…リリアーベルらしい。はぁ…リリアーベルは毎回、予想を遥かに越えてくるな。ユーリアスが此処に居るということは、怪我は大丈夫なのか?」
「本人は掠り傷で平気だと笑ってましたね。それで、昼間の事と今回の犯人が同一の可能性もあるので、何か分かれば情報が欲しいのですが…。」
「わかったよ。しかし、この件は一旦、私に任せてくれないか。悪いようにはしないから。」
殿下が、少し口角を上げて不敵に笑う。その冷たい表情に、俺は少し寒気がした。
その冷たい空気を変えるように、天使の明るい声が聞こえた。
「遅くなりました。リリアーベル・ゴルドリッチ、只今、到着しました。」
天使の登場に、セドリック殿下の表情が、一気に明るく笑顔になる。
「みんな揃ったみたいだね。それでは、最終対決を始めよう。」
♢♢♢♢♢♢♢♢
対決の順番は、くじ引きで決められた。
先攻はアンナマリー、後攻はリリだ。
「ユーリアス、貴方の為に一生懸命頑張ったの。私の剣を貴方に捧げます。」
相変わらず、気持ち悪い視線と言葉に吐きそうになって顔も険しくなる。
視線を合わせたくなくて、咄嗟に横を向くと、隣に座る殿下と目が合った。
殿下の目が、前を向けと訴えてくる。仕方なく舞台を見ると、従姉が照れながら定位置に着いた。勘違いされないよう、必死に視線を合わさないよう気をつける。
アンナマリーは、剣を使った型の披露だった。我がゴルドリッチ家が、一番始めに習う剣の型。父親から指導を受けたのか、剣筋は悪くない。
我が父より劣ると言っても、伯父もゴルドリッチ家の長男だったのは間違いない。剣の腕は、やっぱり優れている。
真っ直ぐに振り下ろす剣の軌道も、突きの構えも、素人とは思えない出来だった。
観客も審査員も皆が見つめる中、舞台上からは、空気を切る音だけが響いていた。
(剣を扱ったことないと言っていたが、絶対嘘だな。)
剣を触ったことも無い者が、1日や2日でここまで仕上げてくるのは考えられない。剣の道はそこまで甘くない。
(確かに、令嬢がここまで出来るのは凄いけど、それだけだな。)
最終対決は、俺を楽しませることが審査基準だが、これを楽しいかと言われると違う。
正直、これより凄い達人技を見慣れてる俺にとっては、退屈だった。
「わぁ!!素晴らしい。」
「とても綺麗だったぞ!」
「格好良かった!」
従姉の剣技が終わると、沢山の拍手と歓声が上がった。
それに答えるように、舞台で礼を取った後は、観客に手を振って答えていた。
「クランネート伯爵令嬢、ありがとう。素晴らしい剣技だったよ。それでは、次はリリアーベルの番だよ。準備はいいかな?」
殿下の声掛けと共に、リリが舞台の真ん中に立つ。
その姿は、タキシードを着ており、片手には剣が握られている。
その姿に、会場からは驚きの声が上がる。
「皆さんが楽しめますように…。お願いします。」
リリの掛け声と共に、ワルツが流れる。
すると、リリが剣を横にして両手で支え、ワルツを踊り出す。
優雅に、そして力強く、舞台上を剣と共にダンスが続く。
「あの子が踊ってるの男性側よね。まるで相手の女性が見えるようだわ。」
「とても楽しそうに踊ってるな。こっちまで楽しくなるよ。」
そういえば、幼い頃のダンスの練習では、よく男女交替しながら踊ったな。
リリは、大人しそうに見えて豪快だから、男性に合わせるよりもリードする方が得意だった。大きくステップ、ぐるんと回って、ゆっくりステップ。
幼い頃の思い出が蘇り、懐かしさに自然と笑顔になる。
気づけば音楽が終わって、舞台の中央に立つリリが紳士の礼をする。
大きな拍手が起こる中、リリが、被っていたシルクハットを舞台上から、こちらに投げた。丁度、狙ったように俺の元に飛んできた帽子を受け取ると、リリが舞台袖に消えた。
すると、今度は前世で言うところのアラビア風の音楽が流れてきた。
そして、現れたのは美しい女神。
先程のタキシードを脱ぎ捨て、今は、踊り子風衣装で、妖艶に美しく剣舞を舞う。
薄いベールで顔半分を隠しているが、見える目元が色っぽい。
リリの瞳と同じ紫の衣装で、胸元を飾る装飾が、剣で舞うたびにキラリと揺れる。
鋭く舞う剣先が、凛々しく美しく、全てが魅了される。
まるで羽でも生えているように軽やかなステップに、この世の美を集めたようなリリの姿や、見事な剣舞に目が離せない。
最後までリリの美しさに魅了され、終わって後も、しばらく動けずにいた。
「ありがとうございました。」
リリの言葉に、会場中から大きな拍手と歓声が起こり、しばらく鳴り止まなかった。
♢♢♢♢♢♢
「二人とも素晴らしい対決だったね。それでは、審査に入るよ。どちらが良かったか審査員には勝者の名前を書いて、この箱に入れて欲しい。前にも言ったように、投票するのは個人の自由で、何者にも縛られない。匿名だから心配しないで投票してくれ。」
審査員5人がそれぞれ名前を記入して、投票箱に用紙を入れていく。
「票を確認する前に一ついいかな?勝者への褒美を考えてなかったね。君たちは勝ったら何を望む?」
セドリック殿下が、二人に問う。
「私は、ユーリアスとの婚約を望みますわ。」
従姉がニヤリと笑みを浮かべる。
「ユーリアスとの婚約ね。本当にいいの?王族が関わる対決の意味を、令嬢はきちんと理解しているのかな?」
「分かっております。その上でユーリアスとの婚約を望みます。」
勝ちを確信してるのか、従姉は意見を変えなかった。
「それならいいよ。では、リリアーベルはどうする?」
「私は、アンナマリーがこれ以上、私とユーリや家族に関わらないようにしてくれたら、それでいいです。」
「わかったよ。リリアーベルが勝てば、クランネート伯爵令嬢のゴルドリッチ侯爵家への接近を禁ずる。必要なら我が父に相談しよう。それでは、結果が出たようだ。」
我が父に相談って、王様まで巻き込むのは、少しやり過ぎな気もするが、リリは、王様にも気に入られているから、王命とか出そうでちょっと怖いな。
「まずは、リリアーベルに一票。」
セドリック殿下が、箱から用紙を取り出し、記入された名前を見せながら、発表していく。
「クランネート伯爵令嬢に一票。次に、リリアーベルに一票。」
お互いの近しい人2名を審査員に選出しているから、2票ずつは当たり前。学園長が誰にいれるかで決まるはず。
「リリアーベルに一票。そして、更にリリアーベルに一票。4対1でリリアーベルの勝利とする。」
会場から勝者を讃える拍手が起こる。
「そんな…そんなの…嘘…嘘よ!」
拍手が鳴り響くなか、従姉の叫び声がこだました。
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