可愛い天使 VS 宿敵 《怪我の真実 》
「リリ!!何があった!誰にやられた…クソッ…絶対に許さない…リリにこんな…ああ…血が…今すぐ手当てを…」
「ちょ…ちょっと待って。危ないから剣を離すから、待って。」
リリの血だらけの姿に、心配や怒りや後悔など、色んな感情がごちゃ混ぜで、平静ではいられない。
すぐに、リリに近づき怪我の状態を確認しようとするが、リリの''待って''の言葉と、セバスに後ろから羽交い締めにされ止められる。
「ユーリアス様、落ち着いて下さい。リリアーベル様に近づくのは、剣を置いてからです。待て、ですよ。待て。」
リリがゆっくり剣を床に置いた。それを見届けてから、セバスの拘束が解ける。
「リリ、あちこち血が出てる。一体、何があったの。今すぐ出血を止めないと…リリが出血多量で死んでしまう。」
持っていたハンカチで腕の出血部位を圧迫する。下を見ると、右足の脛からも出血していた。
「ユーリ落ち着いて。これだけで死んだりしないから、ただの掠り傷だよ。それに…その…自業自得だから、あまり騒がないで恥ずかしいから…。」
ばつが悪そうに視線を逸らすリリに、呆れたような顔でリリを見ているセバス。
少し落ち着いて部屋を見てみれば、リリが怪我をしているのに、俺以外は誰も慌てた様子がない。
「リリ、説明してくれる?」
深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、何があったのか知りたくて説明を促す。
「ユーリ座って話そうか。セバス悪いけど、汚れちゃったから綺麗にしてくれる?お願いね。」
セバスに指示を出し、俺とリリは椅子に座る。透かさず、侍女のエナがリリの足の怪我に清潔な布を当て圧迫する。
「エナ、ありがとう。」
「本当に平気なのか?縫ったりするような怪我じゃないの?」
心配でリリの顔を覗き込むが、リリはふいっと、俺とは反対側に顔を逸らした。
「本当に平気だから。それでね…何があったか説明するとね。ちょっと、長くなるかもなぁ…。だから、後で話したほうが…。」
「リリアーベル様、観念して早めに詳細をお伝えください。」
セバスが、床を綺麗にしながら、早く話せと笑顔で圧をかけてくる。
それを聞いて、リリが決心したのか、怪我してない方の手で俺の手を握り、改まって話し出す。
「ふぅ…わかったわ。ユーリ話す前に約束してね。絶対に怒らないこと。約束できる?」
「約束する。だから、ちゃんと説明してくれ。」
リリから笑顔が消えて真面目な顔になる。重々しい空気が流れ、深刻な話しになると思い、姿勢を正して耳を傾ける。
「実は、準備のために部屋に来て、あの剣を見た時に違和感があったの。私の剣と違うなって思って、確かめるために剣を持ち上げたらね、すごーく重くて、落としそうになったの。それでね…落ちちゃうって思って…支えようと刀身を持ったらね…何故か腕にザクって…ね。それで、痛い!って両手を離しちゃって…剣が落ちたから……拾おうと思って、咄嗟に足で蹴っちゃった。」
ヘニャと、リリが可愛い照れ笑いを見せた。俺も釣られて顔が緩むが、可愛い笑顔には騙されないと、気合いを入れ直す。
「だからね。この怪我は自業自得なの。ユーリ約束よ。怒らないでね。」
つまり、知らない剣を見つけて持ってみたが、余りに重すぎて片手で持てず、手を添えようとしたら、何故か腕を切りつけてしまい痛さで剣を落として、まずいと咄嗟に足で蹴って脛を切ったと言うことか。
「リリィィィ…」
「わぁー怒らないって約束だよ。心配かけてごめんなさい。私が悪かったわ。許してユーリ」
俺は、リリをギュッと抱きしめる。驚いたリリがビクッと体を震わせる。
「誰かに襲われて怪我をしたのかと思って、血だらけで、心配で心臓が止まるかと思った。リリが元気で、誰かに傷つけられたんじゃなくて良かった。」
一先ず、安心したら力が抜けた。剣を足で蹴るなんて、淑女としては有り得ないけど、リリらしいと言えばそうなのか。
(考えるより先に…足が動いたんだな。)
リリの恥ずかしそうな、申し訳なさそうな微妙な笑顔が珍しくて、可笑しくて逆に気持ちが落ち着き冷静になれた。
「リリの話し通りなら、誰かがリリの剣を他の剣と入れ換えたことになるけど、犯人は見てないよね?」
部屋のみんなが首を横に振る。
「荷物を運んだのが、お昼頃なので犯人はその後に剣を入れ換えたと思われるのですが、扉の前には護衛が見張っていましたので、不審な人物も居なかったようなのです。」
どうやってリリの剣を入れ換えたのか謎が残る。それに、剣を変えただけでは、対決にも支障はないはず。何のために入れ換えたんだ。犯人の意図はなんだ。
「ユーリアス様、実は、この剣なのですが、かなり重さがあり、体の小さなリリアーベル様では持ち上げるのが、やっとなのです。剣の扱いが苦手なリリアーベル様では、持ち上げるだけでバランスを崩し、最悪、大怪我をする可能性もありました。」
セバスの言葉に、俺も剣を持ち上げてみる。俺でも重いと感じる程で、確かに体の小さな人なら、かなりの負担だ。
リリは、体も鍛えているし、運動神経は良いから、咄嗟に体が動いて危険を避けることが出来たのだろう。 (今回は、余計な所に動いて怪我をしてしまったけどな。)
「今回の犯人は、リリが剣の扱いが苦手だと知っていて、わざと重くて扱いにくい剣と入れ換えたんだ。これは、リリに危害を加えようとしたと見て間違いない。犯人は、一人しかいないだろうな。あいつだ、アンナマリー。」
リリが怪我をして得する人間。犯人は、あいつしか考えられない。
「ユーリ待って。証拠もないのに決めつけちゃ駄目よ。それに、アンナマリーだって、剣を折られたのよ。彼女も被害者なの。それに、誰かが間違って剣を持っていったのかもしれないし、私の怪我は自業自得だから、一度、剣の事は忘れましょう。それより、もうすぐ本番だから、準備しなくちゃ。」
血が止まり、包帯も巻いて貰ったのを確認して、リリが立ち上がり準備を始める。
「この怪我で出るつもり?」
「包帯巻いてもらったし、ちょっと切れたぐらいで痛くもないから平気よ。それより、ユーリは、そろそろ会場で待っていて。私、頑張るから楽しみに待っていてね。」
背中を押されて、扉から外に出される。扉が閉まる前に、最後に気になることを確認する。
「リリの予備の剣はあるの?なければ、対決の許可は出せないよ。」
先程の重い剣しかないのなら、リリは十分なパフォーマンスは出来ない。
また、怪我をする可能性がある中で、参加は許可できない。
「不足の事態を想定して、予備はこのセバスが肌身離さず持っておりましたので、安心してください。それでは、ユーリアス様、会場でお待ちください。」
扉が閉められる瞬間まで、笑顔のリリが手を振っているのが見えた。
今は、リリの言う通り、会場で始まるのを大人しく待っていよう。
リリは、優しくて疑うことを知らない天使だから、変わりに俺が犯人を見つける。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次こそは、最終対決です。二人の因縁の対決に終わりがくるのか。
次も読んでいただけると、嬉しいです。
よろしくお願いします。




