殿下の無茶振り
剣を使って俺を楽しませること?
そんなの無理だ。令嬢が、剣を使うなんて、怪我でもされたら大変だ。
それに、剣に触れたことが無い人が殆どだろう。そんな人に、いきなり剣を使って楽しませろなんて、無茶振りもいいところだ。
「セ…セドリック殿下、剣を使うとは、どう言うことでしょう。私、一度も剣を扱ったことがないのですが、そんなの無理ですわ。」
アンナマリーが、怯えながらも殿下に抗議する。
そんなアンナマリーに冷ややかな視線を落とし、セドリック殿下が再度告げる。
「最終対決の内容に変更はないよ。言っただろう。最後は私が、対決内容は決めると。これは決定事項だよ。これでも悩みに悩んで、二人に公正であるように選んだ結果だよ。クランネート伯爵令嬢も剣が扱えないけれど、リリアーベルも剣だけは扱えないからね。幼い頃に、ユーリアスの真似をして、一度怪我をしてからは剣を持つことを禁止されているからね。」
あの時の事は、よく覚えている。俺が、剣の訓練を始めて少しした頃だ。
訓練が楽しくて、一日中ずっと訓練場に居たら、リリも一緒に訓練を受けると言い出したことがあった。
最初は、木刀で素振りをするところを、リリは間違えて大人用の真剣を使って素振りしようとして、勢い余って自分の足に剣を振り下ろしたことがあった。
今思い出しても恐ろしい。俺は、「リリが死んじゃう!」と大騒ぎして、大人達も余りの事にパニックになり大騒ぎになった。
実際は、靴を履いていたのと、剣が地面に刺さった事もあり、深い傷にはならなかった。それでも、出血してたし、足には怪我を負ったのだから、リリは剣を持つことを禁止された。
それに…実は、リリは武器を扱うことが苦手だ。素手での攻撃や魔法なら強いが、どうしてか武器を持った途端、ポンコツになる。
だから、怪我をしないように、リリには武器類を持つことを禁止されている。
そういった事情は、セドリック殿下も知っている筈なのに、剣を使った対決なんて無茶だ。
「ああ、因みに、ゴルドリッチ家からは、先程、リリアーベルが剣を使うことは許可してもらっている。」
一体、いつ、許可してもらったんだ。この対決も、数時間前に始まったばかりなのに、そんな暇あったか。
疑いの目でセドリック殿下を見ていたら、ベルのことをチラッと見てから、ニッコリと微笑んだ。
どうやら、ベルを使って許可を取りに行かせたらしい。リリの従魔なのに、どうやって殿下に従わせたのかは、今は聞かないでおこう。
「両親の許可があるなら、私は剣の対決でも構いませんよ。何がきても、次は私が勝つので、内容は殿下に任せます。」
リリは、剣を使うと聞いても、変わらず胸を張り、次こそは負けないと意気込んでいる。
普通なら、流石リリだと褒め称えたいが、不安でいっぱいだ。
「でも、剣なんて…。怪我でもしたらどうするの。それとも、傷物にしてユーリアスが責任を取るということなの。それならそれで文句はないけれど…」
アンナマリーが、不穏なことを呟いている。俺が決めたことではないから、何かあれば、責任は是非とも殿下に取って頂きたい。
「では、再度伝えよう。最終対決は、剣を使ってユーリアスを楽しませること。別に剣で戦えと言うことでは無いのだよ。それぞれが、剣を使っていれば、何をしてもいいよ。」
しんと、その場が静まり返る。
「セドリック殿下、剣を使えば何をしてもいいなら、それは、剣を使うなら内容は自分で考えるということですか?」
「そうだね。自分で考えた物を披露して欲しい。それと、あと一つ追加させてくれ。魔法は禁止だよ。リリに剣と魔法の両方を許可してしまうと、少し、いや…かなり危険だからね。」
セドリック殿下の''魔法禁止''に、リリがショックを受けた顔をする。
(魔法使う気だったな。禁止にしてくれて助かった。)
武器と魔法の組み合わせは、他人なら問題ないが、リリ本人が使うとなると話は別だ。リリが怪我をすることも心配だが、死人が出たら洒落にならない。
「それと、最終対決の勝敗を決めるのは、私ではなくて別の者にお願いする。勿論、ユーリアスでもないよ。ユーリアスだと、リリアーベルに有利になってしまうからね。」
セドリック殿下は、周囲を見渡す。そして、4人の生徒を指名した。
「お互い不利にならないように、平等にいこう。まず、リリアーベル側から、ビアトリス嬢、リヒト殿を、クランネート伯爵令嬢側から、ガラワルト子爵令嬢、コルトブル男爵令嬢を、審査員として指名しよう。名前を呼ばれたものは前に出てくれるかい。」
指名された4人が前に出て、殿下の前で整列する。
「この4人に、もう一人学園長にも参加して頂こうか。合わせて5人で、最後に投票してもらい票の多い方が勝ちということにしよう。君たちは、自分の意思で誰に投票するか決めていいからね。無記名で誰が投票したか分からないようにするから安心してね。」
お互いの友人達から、代表が出ているから公平と言えばそうなのか。
でも、友人なら誰に投票するか明白だ。それだと学園長次第ということになる。
それなら、最初から学園長だけに勝敗を決めてもらえばいいのに、わざわざ友人を出してきたのは何故だろう。
俺には、セドリック殿下の考えは、よく分からない。
それに、アンナマリー側の代表者。
やっと見つけたのに、やっぱり敵なのか…。
「もう、新入生歓迎会も終了の時間だね。二人とも、初めての事だから練習も必要だろう。もうすぐ休みに入るから、その前に決着させたいな。それでは、3日後ということでいいかい?」
アンナマリーは、渋々といった様子で頷き、リリは笑顔で頷いた。
「それでは、3日後の放課後に、この場所で行おう。剣を使ってユーリアスを楽しませるなら、魔法以外何をしてもいい。最終的に投票で勝敗を決める。では、二人とも怪我をしないよう気をつけてね。」
こうして、最終決戦は3日後に持ち越しとなった。
「ユーリ、私、今日から早速練習する。まずは剣がちゃんと持てるか確認しないとね。」
「怪我だけは、絶対に気をつけて。危ないことはしないこと。リリ、ちゃんと聞いてる?」
剣が持てるかどうかも分からないなんて、心配でどうにかなりそうだ。
いつも読んで頂きありがとうございます。




