忘れていた過去
「ああ、ユーリアス、待っていたわ。私に会いに来てくれたのね。」
声のする方へ視線を向けると、知らない女が恍惚とした笑顔で、こちらに近づいてくる。
「ずっと、貴方が会いに来てくれるのを待ってたのよ。もう、どうしてすぐに会いに来てくれなかったの。私、寂しかったわ。」
両手を広げて俺に抱きつこうとする女を、反射的に避ける。一気に全身に鳥肌が立つ。
(うっ…気持ち悪い。吐きそうだ。)
女のきつい香水の香りと、気持ちの悪い笑顔に、吐き気を催す。
「もう、そんなに恥ずかしがらないでいいのよ。本当に可愛い人。」
意味の分からないことを述べながら、勝手に触れようとする女から距離を取る。
「ユーリアス、ねえ、逃げないで。大丈夫よ。ここには、誰も私達の仲を邪魔する者は居ないわ。だから、素直になっていいのよ。」
(何を…言ってるんだ。頭がおかしいのか…この女)
ねっとりとした気持ちの悪い視線に見つめられ、恐怖で寒気までしてきた。
今までも、女性から好意の視線を向けられることはあったが、この女が俺を見る目は、何か違っている。
体の奥から込み上げてくる嫌悪感と恐怖心が、忘れていた何かを思い出しそうで、息苦しくて咄嗟に胸を押さえた。
(…さっきから気持ち悪くて…ヤバい…倒れそう。)
息苦しくて呼吸も乱れる。
この女が現れてから、今まで経験したことない程の体調不良に、気を抜くと倒れてしまいそうだった。
初対面の筈なのに、俺の事を知ってるような話し方に、ずっと何かが引っ掛かっていた。
(…まて、なんだっけ…この顔…見覚えが…)
気持ち悪くて視線を逸らしていたが、顔を確認するため前を向く。
ねっとりと纏わりつくような気持ち悪い視線に覚えがある。
「そんなに見つめないでユーリアス。恥ずかしいわ。でも、そうね、貴方になら私を独占する権利をあげるわよ。」
ブルーの髪色、気持ちの悪い視線を向けてくる茶色の瞳、望んでもないのに要らない権利を押し付けてくる迷惑な………従姉。
「ユーリアス、そんなに私を見つめるくらいなら、私達の喜ばしい再会に、今すぐ抱き締めていいのよ。」
(…思い出した。俺の一番嫌な記憶)
俺は、基本的に女性が苦手だ。特に、嫌いなのが、俺の意思を無視して話しかけてくるような非常識な女は大嫌いだ。
それは、幼い頃の出来事がトラウマになったのが大きかった。リリを傷つけ、俺の気持ちを無視した忌々しい出来事。
そのトラウマの原因が、目の前にいる。
「さあ、ユーリアス。」
両手を広げて、迫ってくる。
「ぅ……うわぁぁぁ!!!」
突然の叫び声に、周囲にいた学生達が一斉にこちらを振り向く。
一番嫌いな女を目の前に、更に俺の呼吸が速くなる。
一瞬、驚いた顔をした女が、何を勘違いしたのか、うっとりとした目で俺を見つめて、信じられないことを言う。
「そんなに叫んでしまうくらい、嬉しかったの。仕方のない人ね。」
何も変わってない。昔から自分が一番で、俺が本気で嫌がってると何故か信じない。
俺を見ないで欲しい。触れられたくない。気持ち悪い。今すぐ消えて欲しい。
「愛しいユーリアス。」
そう言いながら、俺の腕に触れようとした、その時だった。
「私の大事な弟に何してるの!」
後ろからグイッと腕を引かれて、女から距離が離れた。
そして、俺の前には、世界一格好いい俺の可愛い天使が立っていた。
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次は、月曜日の夜に投稿予定です。
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