新入生歓迎会 ④
「ユーリ、今日はお互い別行動しましょう。」
朝食時、リリから突然の別行動宣言に、ショックで持っていたフォークが手から滑り落ちる。
ガシャンと、フォークが食器に当たり大きな音と共に床に転がる。
(なんて…今、なんて…言った…?)
リリの言葉が信じられなくて、受け入れられない。
「ごめん、リリ。よく…聞こえなかった。もう一度言ってくれる?」
「今日は、別行動しましょう。ユーリは、領地経営科だけ見学できたらいいでしょう。私はビアトリスと淑女科の見学をするから、別々の方がいいわ。」
聞き間違いではなかった。今日も一緒に回るのを楽しみにしていたのに、別行動なんて絶対に嫌だ。
「俺は淑女科も一緒に行く予定だったよ。急にどうして別行動なの。何か理由があるの?」
「だって、ユーリには淑女科の見学は必要ないでしょ。絶対に淑女科の見学場所には来ないで。」
今日は、淑女科の見学スペースで、リリと楽しくお茶を飲む予定だった。
これだけを楽しみに、ここ最近は頑張ってきたのに、来るなと拒絶されてショックで死にそうだ。
「私は、ビアトリスと回るから、ユーリは、リヒトと回って。そして、絶対に淑女科には来ないで。絶対よ。リヒト、ユーリのことお願いね。」
リリのお願いに、リヒトが頷く。
「わかった。でも、リリアーベルひとつ言いかな?君と居られなくてユーリアスが寂しそうだから、帰ったら一緒にお茶でも飲んであげてくれ。」
「もちろんよ。帰ったら、みんなで今日あった楽しかったことの報告会しましょう。」
「…わかった。」
納得できないけど、取りあえず返事をする。
学園で、リリと離れるのは不安があるけど、淑女科は基本的に女性しかいない。不埒な男共は居ないので、その辺は安心できる。
問題は、ヒロインの件だが、まだ見つかっていない以上、リリへの影響が気になる。今日は一先ず、ビアトリス嬢が一緒なら心配ないだろう。
念のため、ルミナやベルも護衛についてもらおう。
ということで、新入生歓迎会2日目は、リリとは別れて行動することになった。
♢♢♢♢♢♢
「じゃあ、また後でね。」
「ああ、また後で。気をつけてね。リリ。」
泣く泣くリリとは別れて、俺はリヒトと領地経営科へと向かう。
それにしても、学園に着いてからのリリは可愛かったな。
魔動車を降りて、さっき別れる前まで、ずっとキョロキョロと何かを警戒していた。
その姿が、リスっぽくて余りの可愛さに顔がニヤけて仕方なかった。
どうして、俺の姉はこんなに可愛いのだろう。一つ一つの動作がいちいち可愛すぎてツライ。
やっぱり、心配だ。あんなに可愛くては、目的場所に着くまでに、攫われるかもしれない。
「ユーリアス、さっきのリリアーベルの様子、何かを気にして変じゃなかったか?お前と別行動したいと言い出したのも気になる。何か心当たりはないのか?」
リヒトが話しかけたことで、少し冷静になる。もう少しでリリの後を追うところだった。
心当たりを考えてみても、何も思い浮かばない。そもそもリリに悪影響を与えそうな物は先に排除してきたつもりだ。
リリが、不安になったり、警戒するような事はないはず。
「俺にも、よく分からないんだ。確かにリリのさっきの様子は気になるけど、念のためルミナとベルにも注意するように話しているから大丈夫だと思うよ。」
リリを守る会のメンバーとして、二人とも張り切っていたから心配ないだろう。
「それよりも、早く見学して帰ろう。リリとのお茶会が待ってるんだから、さっさと面倒事は終らせたい。」
「プッ、相変わらずだな。お前は何があってもリリとの時間が大切か。」
「当たり前だろ。大事な姉との時間は、何物にも代えがたい時間だ。」
さっさと見学を終わらせて帰るために、俺達は目的地へと急いだ。
見学は、何事もなく無事に終えることが出来た。
領地経営については、家でも多少は勉強している。最近は、領地への視察も父親に同行しているので、実地経験もさせてもらっている。
学園で学ぶこともあるだろうが、見学した印象では、一年で学ぶことは殆ど家庭教師から教えられた事だったので、復習程度にはなるかもしれない。
今日は、午前中だけ見学して午後は参加せず帰宅予定なので、約束の場所でリリを待つことにする。
(ちょっと早かったか)
早く終りたいのと、何となく領地経営科の事も分かったので、早々に見学を切り上げて待ち合わせ場所に来てしまった。
「やっぱりまだ早かったな。」
リヒトが苦笑する。
「別にいいだろう。リリが来るまで待ってればいいんだから」
俺が早く終らせたくて、最初から最後まで急ぎ足だったのを、リヒトは隣で呆れて見ていた。早く終っても、リリが居ないことは知っていたが、これは気持ちの問題だ。
「ルミナが、ユーリはリリの事になると残念って言ってたが、納得だな。」
「失礼な。ただリリが大事なだけだよ。領地経営科の見学よりも、リリを待ってる時間の方が有意義だからいいんだよ。」
そう言って、リヒトの方を向いた時だった。リヒトの後方に見える、ピンク色。
「リヒト、ごめん。ちょっと急用思い出した。リリが来るかもしれないから、リヒトはここで待っててくれ。」
「あっ、おい。ユーリアス、ちょっと待て」
俺は、リヒトの制止も聞かずに走り出す。
(ずっと探していたんだ。今度こそ逃がさない)
ヒロインかもしれないピンク色を追いかけて、建物の角を曲がる。
(あっ、見つけた)
人混みの中でも目立つ色。この世界では珍しいピンク髪の女性。ヒロインらしき人。
俺は、何も考えずに彼女を見失わないよう一定距離を保って後を追う。
その時は、彼女しか見てなかったから、自分自身が何処にいるのか気づいてなかった。
朝、リリと約束したことも忘れて、俺は気づけば、淑女科の見学場所に立っていた。
「ああ、ユーリアス、待っていたわ。私に会いに来てくれたのね。」
ゾッとするような粘着質の甘えた声。
初めて聞くはずの女性の声に、嫌悪感と恐怖から、俺はその場から動けなかった。
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