腹黒王子の腹の中
「いやあ、先程の試合は見事だったね。」
「ユーリ、本当に格好良かったわ。私の弟は世界一強くて格好いい自慢の弟よ。」
見学席に戻ると、セドリック殿下とリリが何やら楽しそうに盛り上がっている。
「殿下、嵌めましたね。」
「何を言ってるんだい?ユーリアスは、可笑しな事を言うね。私は何もしていないよ。」
だから、目が笑ってないんだよ。張り付けたような作り笑いに辟易する。
この腹黒王子、わざと俺に見せつけるようにリリに顔を寄せ、俺を煽ったところに、リリからの声援で、俺が絶対に負けられない状況を作ったな。
リリの可愛らしい声援に我を忘れて、加減を間違えて瞬殺してしまうなんて失敗だ。
これじゃあ、わざと手を抜いていたのが丸分かりじゃないか。
先輩に対して失礼に当たるし、防戦一方だったのが、実は演技だと知られて、本当に恥ずかしすぎる。
くそぉ、先輩に気を遣ったのもあるけれど、俺自身が目立ちたくなかったのに、これじゃあ、注目される。
もう既に、いろんな視線がこちらを向いている。先輩方からは驚きや戸惑いの視線、見学席の令嬢達からは、気づきたくないが、熱い視線を感じる。
「はぁ、殿下のせいですよ。どうするんですか。こんなに目立ってしまって。なるべく静かに学園生活を送りたかったのに、リリにも何かあったらどうするんです?一生、殿下の事を恨みますよ。」
セドリック殿下は、眉尻を下げて困ったような顔をする。それが、余計に腹立たしい。
「そうは言ってもね。ユーリアスが先輩に遠慮してるみたいだったから、それは色々と失礼になるだろう。だから、ユーリアスが本来の力を出せるように、リリアーベルから声を掛けたらと提案しただけだよ。それにね、オリヴァーの余計な行いのせいで、リリアーベルが年頃の可愛らしい女性だとその他大勢に気づかれてしまったからね。ユーリアスがリリアーベル以上に注目されて、上手く盾になってくれたら、その辺の悪い虫は追い払えるだろう。」
セドリック殿下が、こちらを見ている令息達を、氷のような冷たい視線で圧倒する。みんな怯えて視線を逸らしたり、席を立って逃げ出す者もいる。
「後半の言葉が殿下の本心ですか。確かに、リリへの不躾な視線には腹が立ちますが、別に俺が目立たなくてもリリの盾になれるでしょう。逆に動きにくくなりましたよ。」
俺が目立てば、近くにいるリリまで目立ってしまう。二人が一緒にいると視線を集めるようになれば、別行動が必要になるかもしれない。
「盾の役割をして、ユーリアスが皆の興味を引いてくれたら、リリアーベルには君以外の者が傍に居れば大丈夫だろう。」
「……はっ?まさか、その俺以外の者が、殿下だったりしませんよね?セドリック殿下は婚約者がいるでしょう。」
俺の探るような視線に、殿下は可笑しそうに笑う。
「ユーリアスが任せてくれるなら、全力で守ると約束するよ。リリアーベルは、私の婚約者の大切な友人だからね。私にとって大切な女性で、守るべき存在なのは変わらない。」
「嫌です。殿下には絶対に任せられません。腹黒王子のせいで純粋なリリが穢れる。」
おっと、つい、本音が出てしまった。
「ハハハ、ユーリアス今の不敬だよ。」
やっと本心が見えたと思ったら、すぐに隠してしまう。厄介な腹黒王子め。
「ユーリアス、セドリック殿下はビアトリスの事を大切に思っているのよ。だから、ビアトリスの親友の私にも優しくしてくれるの。あまり失礼な事を言っては駄目よ。」
「はぁ、リリが純粋すぎる。やっぱり、ちょっと殿下から離れて。」
疑うことを知らない純粋なリリが、セドリック殿下を、ただの優しい人だと誤解している。良い人そうに見えても、殿下の腹の中は真っ黒だ。きっと、天使の世界には、腹黒なんていないから、リリは分からないんだね。
純粋で素直な天使が、すぐに騙されてしまうから、俺は気が気じゃない。
念のためリリを二つ隣の席に移動させる。そして、リリとセドリック殿下の間に、ベルを挟んでガードする。
「リリアーベル、ユーリアスも、そろそろ午前中の見学が終るようだ。午後に備えて、昼食にしよう。早くしないとリリアーベルの大好きなケーキが無くなってしまうよ。」
それまで黙って聞いていたリヒトが、誰も居なくなった訓練場を指して、昼食に誘う。
「本当だ。人が居なくなってる。リリ、俺達も行こう。」
「そうね。じゃあみんなで行きましょう。リヒトもセドリック殿下もね。ベルとルミナもいるから、今日は外で食べましょう。」
「王宮料理人が作ったイチゴのタルトもあるよ。リリアーベル、好きだろう。」
セドリック殿下が、自然な手つきでリリに手を差し出す。リリは反射的に手をのせ、エスコートされる形になった。
「流石、王子様ね。自然なエスコートだわ。今日はユーリの負けね。」
ルミナが面白そうに笑って、ベルの背に乗る。
「この腹黒王子、俺のリリから離れろよぉ。」
結局、リリは最後まで殿下にエスコートされながら、テラス席で美味しい食事にデザートまで堪能して、俺たちは午後の魔法科の見学へと向かった。
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