活動開始
「ベルにルミナ!また追いかけて来ちゃったの!?」
テーブルの真ん中に陣取って、トグロを巻いているルミナと、リヒトに首根っこを掴まれて引き摺られてきたベルを見て、食堂にいた生徒達が騒然とする。
「入学式の時に、ユーリにあれだけ叱られたのに、二人とも全然反省してなかったのね。ここは、学園で勉強するところなの。遊ぶ場所じゃないのよ。二人とも、めっ!」
リリが立ち上がり、片手を腰に当てながら、二人を指差し注意する。
眉間に皺を寄せ、怒ってる表情を作っているが、いちいち仕草が可愛すぎて、叱られている気がしない。逆にリリが可愛すぎて、つい頬が緩む。安定の可愛さだ。
ベルの隣にいるリヒトも片手で口元を覆い笑みを堪えているようだ。
ベルとルミナも同じだったようで、怒った顔のリリを孫を見るような優しい表情で見守っている。
「ちょっと二人とも、ちゃんと聞いてる?私は、怒っているのよ。人に迷惑をかけることをしては駄目よ。わかった?」
「「わかった。」」
「分かってくれてよかったわ。二人とも良い子ね。」
ルミナとベルが揃って返事をしたが、顔を見ると何か企んでる顔だ。絶対に分かってないだろう。
「…んんっ。リリアーベル、こいつらは絶対分かってないと思うぞ。リリアーベルは優し過ぎる。しっかりお仕置きしないと、また侵入してくるぞ。」
リヒトが二人を睨み付けると、「キュッ」と情けない声を出して二人が小さく縮こまる。
「ちょ…ちょっと、睨まないでよ。リリの言うことは分かったわよ。でもね、この前セドリックが言っていたでしょう。私たちが学園の規則に縛られる必要はないのよ。そうでしょう?だから、いいわよね?」
ルミナが、セドリック殿下の方へ視線を移す。突然話しかけられて、少し驚いたような殿下だったが、ニコッと微笑んでルミナの言葉に答える。
「そうですね。私が規則に縛られない存在だと言いましたね。……お二人なら人に危害を加える事は無いだろうし、リリアーベルの傍を離れないなら、学園に通う許可を出すよう学園長に話してみましょう。一応、陛下にも話しておきますね。」
「さすが王子様は話が分かるわね。私もベルも、リリに何も無ければ、手出しはしないわよ。」
「そうだ。我もリリが無事なら何もしないと約束しよう。」
許可が出たところで、丁度、予鈴の鐘が鳴る。
「あっ、もうお昼休みも終わりね。どうしよう。リヒトは、二人を探していたから食事がまだでしょう。」
「食べなくても別に大丈夫だ。」
「そんなの駄目だよ。待ってて、食堂のおばさまに、サンドイッチ作ってもらうから。」
急いで、食堂のおばちゃんの所に行こうとするリリの腕を、リヒトが掴まえて引き止める。
「それなら、リリアーベルの残りのソレをくれ。そんなにお腹空いてないから、これだけで十分だ。」
リヒトが、リリの食べかけのフルーツタルトを摘まんで、そのまま食べてしまった。
指についたクリームを舐め取る仕草が、妙に色っぽい。
「……、そんな食べかけ…足りない…でしょ。」
「いや、いつものタルトより、格段に美味しいし、俺は十分満足だよ。」
リリの頬がうっすら色づき、照れているのが見てとれる。
油断した!リヒトの奴、ずっと狙ってたのか。ああああ、何かいろいろ負けた気がする。
セドリック殿下を見ると、口角は辛うじて上がって笑顔に見えるが、視線が鋭くリヒトを睨み付けている。
「リリアーベルそろそろ魔法塔へ行かないと遅刻するよ。」
セドリック殿下が、リリに優しく声をかける。先程、リヒトに向けた冷たい視線ではなく、柔らかく優しい表情だ。
「そ…そうですね。それじゃあ、二人ともまた後でね。」
セドリック殿下とリリが二人でその場を離れた。
「俺も、先に行くよ。ユーリアスあとは任せたぞ。」
食堂に一人残され三人を見送ると、楽しそうな声に我に返る。
「これは、やっぱり守る会の活動開始よね。」
「我が主は、やはり人気があるな。げえむの主人公と言っても過言ではない。」
「はっ?どういうこと?」
二人が一斉に俺を見て、溜め息をもらす。
「さっきの様子を見ても何も思わないの?」
さっきの…というと、リヒトのことかな。
「リヒトがリリを信仰してるのは、いつものことだろう。ただ、あんな…リリの食べかけを…ぅぅ…許せん。」
ルミナが口をあんぐりと開けて、信じられないものを見るような目で俺を見る。
「ユーリは、リリを愛でること以外は本当にポンコツね。残念すぎて可哀想になるわ。」
(どういうことだ?意味が分からない。)
訳が分からなくて混乱してるのが顔に出てたのか、ルミナが説明する。
「あの二人は、どう見てもリリの事が好きでしょう。コウリャクタイショウになりそうな二人がリリを好きなら要注意よね。リリが巻き込まれるかもしれないから、守る会の活動を開始しなくちゃ。」
「そうだぞユーリ。リリは悪役令嬢だと言っていたが、どう見ても主人公だ。主人公は悪役令嬢に虐められるんだろう。そうならないように、リリを守る必要があるな。」
えっ?あの二人がリリを好き?そりゃあ友人だし、神だと崇めているから、好きか嫌いかで言えば、好きなんだろう。でも、それは恋愛とは違う…よな。
「二人ともいいか。まず、セドリック殿下は婚約者がいるから、リリに恋愛的な気持ちは無いよ。リヒトは、恋愛というか崇めてる神様を大事にする感じだろう。恋愛の好きとは違うだろう。それに、小さい頃に、恋愛フラグは折れて、回避出来てるはずだ。」
「恋愛フラグ?が、何かは知らないけど、折れてないわよ。リリを見る二人の目は恋する人の目よ。ユーリはお子ちゃまだから、分からなかったのね。」
馬鹿にされてるのは分かったぞ。いや、でも…恋愛の好き?婚約者がいるのに?神だと崇めているのに?
「恋愛の好きって…なに?俺、考えたら前世でも彼女いたこと無いから、恋愛の好きが分からない。えっ?フラグ折れてないの?シナリオ続行中?リリが悪役令嬢?えっ?」
「ユーリ落ち着いて。取りあえず、今は分からなくてもいいわよ。リリを守ることが大切なんだから、おかしな因縁つけられないように、私達が傍にいて守るわ。」
「そうだユーリ安心しろ。我が、リリに近づく男どもを排除してやる。」
「…はい。分かりました。取りあえずお願いします。俺は…一人で…もう一度考えたい。」
何かいろいろ上手くやって、バットエンドを回避したと思ってたのに、俺の勘違いだったのか。いや、まだ決まってない。ここが物語の世界かも分からないから、恋愛したからと言って、すぐに悪いことは起きないだろう。
(恋愛…?あの二人が、リリを恋愛対象として好き?)
えっ…リリが…恋愛…。何か…嫌だ。世界が何かとか、どうでもいいから、リリが家族以外を選ぶ未来は、まだ先だろう。
結婚を反対する父親の気持ちがわかる。俺は、まだ彼氏なんて認めません!
整理がつかずに、パニック状態の俺が、ふと視線を向けた先。
「……っ!」
食堂から出ていく人の後ろ姿に、驚きで呼吸が止まる。
忘れかけていた前世の記憶が鮮明に思い出される。
『ヒロインは、可愛らしい容姿と明るく素直な性格で、攻略対象者を魅了するんだよ。その可愛らしい容姿の特徴が……。』
一瞬見えた、その誰かは…ピンク色の髪をしていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次は、金曜日(4/17)の夜に投稿予定です。
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