笑顔が似合うから (オリヴァー)
〈オリヴァー視点〉
「えっ…ちょ…嘘だろ…。」
リリアーベルが激怒して、顔を背けたまま俺を見ようとしない。このままでは、謝っても許してくれないだろう。
ここまで怒ったリリアーベルは見たことがなかった。
『無理です。噂が消えるまでオリヴァー様とは、お話ししません。』
口を利かないと宣言されて、ショックで放心状態のまま唖然とする。
俺が何をしたと言うのか…。
ただ、教室へ向かう途中で噂を聞いただけだ。まさか、その噂がリリアーベルの事だなんて分かるわけがないだろう。
しかも、その噂がリリアーベルにとって不快に思う噂だなんて知る由もない。
大体、初等部からの飛び級だと聞けば、リリアーベルの事だとは思わないだろう。
珍しい新入生の噂を、みんなに伝えたかっただけなのに、何故こんなことになるんだ。
しかも、何故かリリアーベルの中では俺が噂を広めた張本人になっている。
誤解だと伝えたくても、怒って此方を見ようともしない。本当に、どうしてこうなった。
お前に、そんな顔をして欲しいわけじゃないんだ。
♢♢♢♢♢♢♢
入学式から数日経っても、リリアーベルは不機嫌なままだった。
どうやら噂のせいで、リリアーベルが好奇な目で見られ、登下校中は嫌な思いをしているようだった。
リリアーベルの気持ちを何とか切り替えたくて、声を掛けようと思ったが、入学式の時みたいに拒絶されるのが怖くて、彼女を前にすると声が出ない。
この俺が、女一人の機嫌を気にして何も出来ないなんて、そんなこと有り得ないだろう。
自分の臆病な部分を見せつけられたようで、無性に腹が立つ。
このままで良いわけがない。俺らしくない。
俺は、リリアーベルとの関係がこのまま壊れるのだけは我慢ならない。
だって、そうだろう。俺には何の非もないんだ。それなのに親友との仲が壊れるなんて馬鹿げてる。
だけど…そうだな。リリアーベルがいつまでも不機嫌なのは面白くない。
それならば、彼女の憂いを取り除けばいい。
リリアーベルも言っていたじゃないか。噂が全て消えるまで俺とは話さないと…。
だったら、俺も憂いなく彼女と話せるように、彼女の願いを叶えてやろうじゃないか。
それから俺は、時間の許す限り他のクラスへ出向いて、知り合いを見つけては噂を否定して回った。
俺が噂を否定して回ってる事が知られていくと、直ぐに噂話をする者が居なくなった。
ほんの数日で、忌々しい噂は全て消し去った。
思ったよりも早く事が済んだ。そろそろ、限界だったんだ。
これで、リリアーベルと仲直りできる…はず。
♢♢♢♢♢
「おはようございます。オリヴァー様。」
「…っ、お…おはよう。リリアーベル。」
翌日、教室に入ると、いつもの笑顔でリリアーベルが挨拶してくれた。
久しぶりに聞く明るい声と、満面の笑顔に、少し緊張して声が上擦る。
「今日は、話しかけてくれるんだな。」
俺の問いかけに、一瞬キョトンとした顔を見せたが、思い出したように慌てて話し始めた。
「あっ、そうでした。あの時は、酷いこと言ってごめんなさい。オリヴァー様が噂を広めた訳じゃないのに、恥ずかしくて酷いことを言いました。」
「いや、リリアーベルがまた俺と話してくれるならいい。まだ俺と…その…友達でいてくれるか?」
「もちろんです。私の方こそ酷いこと言ったのに、友達でいてくれるんですか?」
「当たり前だ。」
嬉しそうに笑う彼女を見て、俺も嬉しくて自然と笑顔になる。
「オリヴァー、リリアーベル嬢、おはようございます。二人共、仲直り出来たのですね。オリヴァーよかったですね。噂を否定して回った甲斐がありましたね。」
エリオットが、声をかけてきたと思ったら、言わなくてもいいことをペラペラと話し始めた。
「な…なぜお前がそれを知っているんだ。べ…別にリリアーベルの為にした訳じゃない。俺の…その…名誉のためだ。噂を広めたと思われていたからな。誤解を解くためだ。」
リリアーベルが、驚いた顔で俺を見つめている。
「最近、私を見てもコソコソ話す人が減っていたんです。今日は、全くそんな人が居なくて、不思議に思ってたんですけど、オリヴァー様のお陰だったんですね。ありがとうございます。オリヴァー様!」
リリアーベルが、俺の右手を両手で包んで感謝の気持ちを伝える。
久しぶりにリリアーベルを近くで感じて、妙にドキドキしてしまう。
「だから、別にお前のためじゃない。」
「オリヴァー照れてますね。」
エリオットが、俺の顔を見てクスクスと笑っている。
「うるさい、エリオット。それ以上何か言ったら話せなくなるように魔法をかけるぞ。」
「それは嫌なので、黙りますね。」
そう言うと、エリオットは笑いながら自分の席へ戻っていった。
すると、リリアーベルが握っていた右手をくいっと引っ張った。
「オリヴァー様、私、自分が皆から幼く見えていることが恥ずかしくて、どうしようもなかったんです。でも、友人達が分かってくれるので、今はもう大丈夫ですよ。」
リリアーベルの表情は、いつもの明るい笑顔で、俺の見たかった笑顔だった。
この笑顔を、俺はずっと見ていたくて、ずっと守りたかった。だから、これだけは伝えたい。
「そうだ。一つだけいいか。俺が噂を聞いた時リリアーベルの事だと知らなかったのは、俺にはお前が幼い女の子には見えてないからだ。俺にはお前が、ちゃんと綺麗で笑顔の素敵なレディに見えている。だから、ずっと笑っていろ。お前には笑顔が似合っている。」
「…っ」
俺の言葉に、顔を真っ赤にしたリリアーベルが、パッと握っていた右手を離して、そのまま席に戻ってしまった。
それを少し寂しく思ったが、リリアーベルの反応が、いつもの彼女とは違っていて、何だか嬉しくて、俺は落ちつかなかった。
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