入学式は大騒ぎ②
――入学式――
新入生達が無事会場に入ることができ、予定通りに入学式が始まる。
うちの精霊と魔獣のせいで、始まる前から騒ぎになってしまったが、セドリック殿下のお陰で何事もなく入学式を始めることができた。
前世の入学式とは違い、大まかに保護者と新入生が分けられているだけで、席は決められていない。
当然、リリの隣は俺とリヒトで固めている。最前列には、セドリック殿下と婚約者のビアトリス嬢が並んで座り、その後ろには、エリオットとオリヴァーが少し離れて座っている。
保護者席を見てみると、両親と共にベルとルミナも大人しく参加して…いや、寝ているようだ。どうやら、学園長の挨拶に飽きてしまったみたいだ。
どこの世界も''長''が付く人は、話が長くて眠気を誘発するものらしい。
俺もつい、欠伸が出そうになるのを必死に耐える。
不意に、左肩に何かが当たった。
見ると、リリが完全に目を閉じて俺の肩に寄りかかって寝ていた。
そういえば、昨日は魔法塔で遅くまで作業をしていたな。可愛い寝顔に、俺の眠気は一気に覚めた。
このまま寝かせてあげたいが、式の途中に眠ってしまうのは、流石に淑女としてはマイナスだ。
丁度、学園長の挨拶が終わり拍手が響き渡る。その隙に、体を優しく揺さぶり、リリを起こす。
「リリ、学園長の挨拶が終わったよ。」
パッと目を開けて、もたれてた体を起こしながらも、まだ眠そうだ。
「ふぁぁ、ごめんねユーリ。別に眠ってはないのよ。少し…意識が飛んで…ほんの少しユーリの肩にぶつかっただけなの。全く、少しも眠くはないからね。私はちゃんと起きてたよ。」
リリが、必死に言い訳しながら、目を擦って小さく欠伸をしている。
「もうすぐ式も終わるから頑張ってリリ。次はセドリック殿下の挨拶だよ。」
「それなら、ちゃんと聞いておかないと駄目ね。寝てる暇なんてないわ。」
「やっぱりさっきは寝てたよね。」
「……。」
リリが気まずそうに、そっと視線を逸らす。
学園長の話も、ちゃんと聞かないと駄目なんだけど…、まあ、リリが可愛いから別にいいか。
セドリック殿下が前に出ると、先程より大きな拍手と歓声が上がる。
女子の皆さんは、セドリック殿下の言葉を聞き逃さないよう必死に耳を傾ける。婚約者がいても、王子様は大人気だな。
「流石、セドリック殿下は人気者ね。話も簡潔で眠くならないわ。」
それは、学園長に対して失礼だと思うが、俺も同意見なので軽く頷く。
最後に、セドリック殿下が此方を見てニコッと笑った。その瞬間「キャー!!」と悲鳴が上がる。
前の席の女生徒達が、「目が合ったわ。」とか
「わたしに微笑んで下さったわ。」と、盛り上がっている。まるでアイドルのライブ会場のようだ。
隣のリリを見ると、セドリック殿下の最後の視線には全く気づいてないようで、普通に拍手していた。
超がつくほど鈍いのもリリらしい。本当に天使。
その後も、何事もなく式は進み、無事に入学式は終了した。
♢♢♢♢♢♢
「ユーリ、私ちょっと…お手洗いに行ってくる。先に教室に行って待ってて。」
式が終わり教室に向かう途中、リリが小声でそう告げる。
「一人で大丈夫?」
「平気よ。」
リリは頷くと、一人でさっさと行ってしまった。少し心配だ。
リリは気づいてないけど、実は物凄く方向音痴で、よく道に迷う。普段は、俺かリヒトが一緒だから迷わないように誘導しているのだが、本人はそれに気づいてない。
さて、どうしよう。でも、女子トイレの前で待つのも…変態だと思われたら嫌だし、ここはリリを信じて教室で待つ…か。
教室までは、この廊下を突き当たりまで真っ直ぐ進むだけだから、逆に迷う方が難しい。
悩んだ末、リヒトと先に教室で待つことに決めた。
――リリが教室に来ない。
やっぱりリリを待てばよかった。リリなら真っ直ぐの道でも迷うほど、極度の方向音痴だと知っていたはずなのに…。
変態だと思われたくなくて、自分の体面ばかり気にしてしまった。そんなことより、リリの方が大事なのに、俺は何て馬鹿なんだ。
余りに遅いので、ビアトリス嬢にトイレの中まで確認してもらったが、リリは居なかった。すでに教室に向かって迷ってる最中なんだ。いったいどこに行ってしまったんだ。
リヒトやビアトリス嬢、エリオットまで、みんなで探しても見つからない。
どうやったら迷うことが出来るのか不思議過ぎて、リリの居場所を予想する事も難しい。
今日は、離れる予定がなかったから、追跡する魔道具は家に置いてきてしまった。
ベルとルミナも今は両親と一緒にいて、どこに居るかわからない。万事休す!
もう一度、教室まで戻ろうかと思った時、俺の天使が名前を呼ぶ可愛い声が聞こえた。
「…ユーリ!!見つけた!!」
声の方へ振り向くと、天使が走ってきて、思い切り俺に抱きついた。
「ユーリ!どこに行ってたの!探したんだよ」
リリだ。よかった無事だった。
「いやいや、それはこっちのセリフ。心配したんだよ。一体どこまで行ってたんだ。」
抱きついてきたリリを、ぎゅっと抱きしめ返し、ここにリリが居る事に安堵する。
「ああ、よかったね、お兄さんが見つかって。もう迷子になっちゃ駄目よ。それじゃあ私は失礼しますね。」
同じ制服をきた女の子が、リリの頭を撫でて、そのまま元来た道を戻っていく。
「…あっ!すみません。ありがとうございました。」
俺は咄嗟にお礼を述べたが、その女の子は軽く振り返り、そのまま行ってしまった。
「リリ、みんな心配してるよ。教室に行こう。どうしたの?そんなに迷子が怖かった?」
珍しくリリが抱きついたまま離れないので、心配で声をかけると予想外の反応が返ってきた。
「わたしが!お姉ちゃんなのに!ちゃんと15歳なのに!みんな…みんな…子供扱いして!」
顔を真っ赤にして怒ってる。
えっ、なに、可愛い。ふるふる体を震わせて、真っ赤になって怒るリリが可愛くて、眩暈がして倒れそう。
「こんなにちゃんと大きいのに…もう!もう!どこをどう見ても同じ新入生でしょ!」
(ああ、なんとなく…わかったかも…。)
さっきの女の子は、リリの事を勘違いしてたんだな。それで、俺の事をお兄ちゃんと言ったのか。
「そんなに怒らないでリリ。ほら、みんな心配してるから教室に戻ろう。」
怒るリリの手を引いて教室まで向かう。廊下を真っ直ぐなので、あっという間に教室に着いた。
「リリアーベル!どこに行ってたの!無事に見つかってよかったわ。」
ビアトリス嬢が、リリを見て駆け寄ってきた。
「教室に…向かってたんだけど、ちょっと遠回りしてたみたいで…、案内してもらった…の」
それは、一般的に迷子になったと言うんだけどね。本人は認めたくないようで、みんなには遠回りしていたと説明していた。うん、可愛い。
リリが見つかって、やっとひと息つけると思ったら、勢いよく扉が開いて、オリヴァーが慌てて入ってきた。
「おい、聞いたか。今年の新入生に飛び級で、初等部の子が入学したらしいぞ。俺は知らなかったんだけど、この国に飛び級なんてあったんだな。めちゃくちゃ可愛い子で、金髪に紫の瞳の女の子なんだってさ。Sクラスらしいから、俺らと同じクラスだろう。一体どんな子だろうな。」
オリヴァーの話を聞いて、みんな一斉に、ある一人の女の子に視線を移す。
「わた……わた……わた…」
あっ、ヤバい。リリが壊れた。
「どうしたんだ?リリアーベル。わたわた言って…、あれ?そういえば、お前も…金髪に紫の瞳だな。珍しい色なのに、他にも同じ色がいた…ん…だ………あっ…」
オリヴァーも色々察したようで、スーと視線を逸らした。
「私はもう15歳よ!どこからどう見ても15歳でしょ!失礼しちゃうわ!それなのに、みんな子供扱いして!迷子じゃないし!親とはぐれてないし!同じ新入生だし!」
リリが恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にしてオリヴァーを睨んでいる。
オリヴァーは、気まずそうにしてリリを直視できないでいる。
そう、リリは魔力過多のせいで、成長がゆっくりになり、身長があまり伸びなかった。しかも、可愛らしい顔立ちで幼く見える。つまり、童顔なので、前世で言うところの小学校高学年の女の子くらいにしか見えない。
今日は、俺とリヒトが傍にいたから、余計に小さく見えたんだな。俺も180cm超えるが、リヒトは190cmを超える高身長。その間に居るリリは、普段以上に幼く見えただろう。
もしかして入学式の間、ジロジロ見られてたのも、初等部の子が混じってると思われてたからなのか。
だから、感心したような、不思議そうな、驚いたような色んな反応だったんだな。
リリは、まだ納得いかないようで、オリヴァーに詰めよっている。
「オリヴァー様、変な噂を広めた罰として、私がちゃんと15歳で皆さんと同じ年だと訂正して回ってください!」
「はっ?俺が広めたわけじゃないんだが…。俺も聞いただけで…、まさかリリアーベルの事だとは…、ちょっと誰か…おい!ユーリアス助けてくれ。」
「すみません。怒ったリリは、俺でもどうにも出来ません。」
「ユーリアスそんな冷たいこと言うなよ。リリアーベル悪かったって。」
「無理です。噂が消えるまでオリヴァー様とはお話ししません。」
「えっ…ちょ…嘘だろ…」
怒ったリリに、必死に謝るオリヴァーの姿に、いつものメンバーからは笑いが起こる。
いつも通りの変わらない関係に、何だかとても安心する。
始まりから終わりまで賑やかな入学式で、初日から騒がしかったけれど、これはこれで、俺たち双子らしい始まりになった。
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