ビアトリス・ハイラート
5歳の小さなお茶会の日。
私は、運命の出会いをしたの。
それは美しく綺麗で、純白の輝く宝石のような存在。このまま何にも穢されず、変わらず輝き続けられるよう、私が守って差し上げなくては…。
私、ビアトリス・ハイラートは、幼い頃から第一王子殿下の婚約者にと言われ続けていた。お互いの気持ちなどは関係のない婚約。
恋愛結婚が主流とは言え、将来の王妃ともなれば、恋だの愛だのだけでは、国を守ることは出来ない。そのため、幼い頃から王子の婚約者候補として、マナーや勉強に頑張ってきた。
5歳になる頃には、周りの大人達からは小さな淑女と呼ばれ、第一王子殿下の婚約者として、恥ずかしくない程にマナーも教養も身につけていた。
「今度、王宮で第一王子殿下のお茶会があるんだが、ビアトリスも招待された。婚約者選びも兼ねているだろうから、しっかり殿下の心を掴んでくるんだぞ。」
「はい、お父様。殿下に婚約者として選んで頂けるよう頑張ります。」
家族の期待に応えるよう務めを果たすのが、公爵令嬢としての私の役割。
そこに、私の気持ちは関係ない。望まない婚約でも、私が何か言うことは許されないのだから、心を殺して言われるままに動くだけ。
♢♢♢♢♢♢
ちょっと…ちょっと…ちょっと、ちょっとぉ!
何なの!何なの!あの可愛い生き物は!
目が大きくてクリクリして、フワフワして柔らかそうね。あぁ、触ってみたいわ。
私が話しかけると怖がってしまうかしら。私は完璧な淑女と言われているけれど、それが逆に冷たい印象を与えてしまう。それに、私はつり目がちで、怒ってると勘違いさせてしまったり、睨んでると思われることもある。残念だけど、眺めるだけに留めておきましょう。
王宮の小さなお茶会には、高位貴族の令息数人と、私の他に令嬢は一人だけ。
その令嬢は、噂の双子の姉だった。
双子は、噂以上の美しく整った顔立ちで、この場の誰よりも綺麗だった。
二人寄り添い、姉の口元についたクリームを弟が拭ってあげようとしたり、甲斐甲斐しく世話を焼いている。
なんて!羨ましいの!
私もクリームを拭って差し上げたい。席が隣だったなら、誰よりも早く口元を綺麗にしてあげられるのに。
双子の姉、リリアーベル様が子供扱いをされて怒っていらっしゃる。
その姿も可愛らしくて愛らしい。
「フフ、リリアーベル様は、本当に可愛らしい方ですね。ユーリアス様との姉弟仲も良くて羨ましいですわ。」
あまりの可愛さに我慢できなくて話しかけてしまいました。淑女教育で感情を表に出さないよう教育されているのに、その可愛さに感情が漏れてしまいます。
そうなのです。実は私は、小さくて可愛いものが大好きなのです。
お部屋も、ぬいぐるみや可愛い小物で溢れています。見た目とのギャップが有りすぎて、家族からは、外では黙っているように言われています。
初めてリリアーベル様を見た瞬間、その可愛さに衝撃を受けました。私が知っているどの可愛いよりも可愛いのです。
今すぐ抱きつきたい衝動を我慢するのに意識を集中していたら、つい思ったことが口から出てしまったのです。
私の発言に怯えていないか不安になります。
「私から見れば、ビアトリス様が綺麗で眩しく見えますよ。―――」
なんと、リリアーベル様は、私を怖がるどころか、綺麗だと褒めてくれたのです。
こんなに嬉しいことがあるでしょうか。
「まぁ、こんなに可愛らしく言われたら、私も嬉しくて照れてしまいますわ。」
私の言葉を聞き、リリアーベル様が顔を赤くして照れています。
何でしょうか。この愛らしさ。同じ人間でしょうか?
先程から、感情が爆発しそうなのを抑えるのに必死です。これ以上可愛いことを言われたら、我慢できないかもしれません。今までの人生で一番の苦行です。
ふと気づくと、第一王子殿下がリリアーベル様に話しかけています。
何やら王家の思惑があるようですが、リリアーベル様は気づいてないようです。
第一王子殿下の見かけに騙されないか不安になりましたが、リリアーベル様の周りには彼女を守る騎士がいて、きちんと守ってくれているようです。
ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、殿下は懲りずにグイグイ攻めています。
精霊様やフェンリル様を怒らせても懲りないなんて流石セドリック殿下です。
ただ、このままでは、殿下の思惑通りに進んでいくかもしれません。リリアーベル様を巻き込まないように、手助けをしようと思った矢先、殿下の言葉にリリアーベル様がお友達宣言をしてしまったのです。
王家は、精霊様とフェンリル様の力を取り込もうと考えているのでしょう。一番早いのは、婚約を結ぶことです。
殿下と友達なんて、そのまま婚約までいってしまったら…私は…。
「―――お友達になるためのお茶会でしょう。私は…その…ビアトリス様とお話できて、すごく嬉しいです。これからも私と仲良くしてくれたら嬉しいです。」
まぁ!なんて素晴らしいことでしょう!殿下のお陰でリリアーベル様とお友達になりました。
殿下のほうをチラッと見ると、口元がピクピクしています。
自分よりも公爵令嬢と話せて嬉しいなんて言われたら、流石の殿下も傷ついたかしら。作り笑いも限界のようです。少し気持ちがスッとしました。
お茶会の間、何度かヒヤヒヤしましたが、リリアーベル様とお友達になれて私は大満足です。
今度はぜひ、我が家に招待しましょう。きっと、リリアーベル様なら、私の可愛いもの好きを知っても、変わらずお友達でいてくれると思います。
お茶会の後、しばらくして私と殿下の仮婚約が決まりました。
どうやら殿下は、リリアーベル様をゆっくり取り込む作戦に切り替えたようです。
聞けばリリアーベル様は、好きになった方と結婚するのだとか。ゴルドリッチ家の方針も同じようで、婚約の打診をしても即断られたようです。ご両親もリリアーベル様も素晴らしい考えです。
殿下が、リリアーベル様に好きになってもらえる可能性はゼロではないでしょうけど、私を仮婚約者にした時点で殿下が選ばれることは、ほぼ無くなったでしょう。
リリアーベル様は、友人を大切にします。
友人の婚約者を奪うような事はしないので、私が殿下の婚約者で有る限り、リリアーベル様を殿下から守ることが出来ます。
幼い頃から殿下の婚約者にと言われ続けて、初めて良かったと思いました。
私たちも15歳になり、もうすぐ学園の入学式です。
純粋で素直で可愛らしいリリアーベル様は、絶対に王家になんて利用させません。
これからも、私が親友として、リリアーベル様の可愛らしさを守って差し上げますわ。
読んでいただき、ありがとうございます。
明日も夜に投稿予定です。




