黒髪の綺麗な男の子 ②
翌日、お父様は朝早くから王宮へと向かった。また暫くは、王宮に泊まり込むらしい。
「お父様、体は大丈夫かな。昨日は、とても疲れているように見えたわ。今日も朝早くから王宮に戻ってしまったし、いったい何が起こっているのかしら。」
「そうだね。僕も心配だよ。昨日はしっかり眠れているといいな。まぁ、お母様がついているから大丈夫だとは思うけどね。この前の魔族絡みの事だと思うけれど、心配だね。」
僕とリリは、お父様が向かった王宮を眺めなから、早く問題が解決するように願った。
♢♢♢♢♢
それから2日後、黒髪の男の子が目を覚ました。
「こ……は、ど…こだ…」
その子は、うっすらと目を開けて眩しそうに顔をしかめた。
「よかったわ。やっと目を覚ましたのね。全然起きないから心配したのよ。どこか痛いところはない?苦しいところはない?」
リリが、男の子の顔を覗き込み明るく声をかける。突然、目の前に可愛らしいリリが現れて、驚いたらしく男の子が「ひゃっ!」と大きな声をあげる。
「ちょっとリリ。急に顔を近づけたら駄目だよ。(天使が現れたら)誰だって驚いちゃうでしょ。」
「あっ、ごめんなさい。目を覚ましたのが嬉しくて、驚かせるつもりは無かったのよ。それで、どこか痛いところはない?」
リリが一歩後ろに下がって、もう一度男の子に優しく声をかける。
「いや…どこも痛くない…大丈夫だ。それで、ここは何処だ?君達は…誰だ?」
男の子は、体を起こして僕たち双子を交互に見ていたが、その表情は少し警戒して強張っているように見えた。
「私は、リリアーベルよ。あなた大怪我をしていて、うちの庭に倒れて居たのよ。ルミナが回復魔法をかけて、出血は止まったんだけど傷は治せなくて、ずっと目を覚まさなかったから心配したのよ。」
男の子は、リリの話を聞きながら、じっとリリを凝視している。その目は大きく見開き、徐々に顔が赤く染まる……ん?…赤く、染まる?
僕は、サッとリリの前に立ち、これ以上リリを見つめることがないよう、視界を遮った。
「僕は、リリアーベルの双子の弟で、ユーリアスと言います。無事に目覚めてよかったです。えっと、喉は渇いていませんか?果実水は、いかがでしょう。」
チリリンとベルを鳴らすと、メイドが直ぐ様やって来る。
「何か御用でしょうか。あっ、目を覚まされたんですね。直ぐに奥様にお知らせしなくちゃ。」
メイドが慌てて出ていこうとするのを止める。
「ちょっと待って。彼に果実水を持ってきてくれない?リリは、お母様に彼が目覚めたことを知らせてきてくれる?」
「畏まりました。直ぐにお持ちします。」
「私も直ぐにお母様を呼んでくるわ。」
部屋から二人が出ていくと、僕と彼の二人だけになり、若干気まずさが部屋を漂う。
余りの静けさに耐えられなくなり、声をかけようと身を乗り出すと、彼の方から話しかけてきた。
「ユーリアスと言ったか、その、俺を助けてくれて、ありがとう。もう気づいているかもしれないが、俺は魔族だ。名前をリヒトと言う。」
やっぱりそうか。僕には日本人だった記憶があるので、黒髪は馴染みがあるし、逆に安心する髪色だ。しかし、この世界の人間には殆ど見られない色だ。全くのゼロでは無いが、かなり珍しい。どちらかと言うと黒髪は、魔族の色とも言われている。
そして、先ほど彼が目覚めてから、ずっと気になっていた瞳の色。金色に輝く瞳も人間には余り見られない。
魔族は人間よりも魔力が多く、それが瞳や髪の色に表れる。魔力が多くなると黒髪、瞳は金色に輝くと言われている。
そうすると、このリヒトと言う彼は、かなりの魔力の持ち主と言うことになるが…。
――コンコン。ノックの音と同時に扉が開かれる。
「失礼します。ああ、よかった。無事に目覚めてくれて、安心しました。どこか具合の悪いところはありませんか?痛いところは?」
普段は、落ち着いているお母様が、慌てた様子で部屋に入ってくると、リヒトの顔を見てホッと安堵の表情を見せた。
「体は大丈夫です。それより、俺を助けてくれてありがとうございました。リリアーベルも助けてくれてありがとう。」
お母様の後ろから顔を覗かせていたリリに向かってお礼を言う彼に、僕は少し警戒する。
「私は何もしてないわ。お礼ならルミナに言ってね。ルミナが回復魔法をかけてくれなかったら、危なかったのよ。」
ここに来る途中に会ったのか、首にルミナが巻き付いていた。リリがルミナを首から外して、リヒトの前にルミナを差し出す。
「君がルミナか。貴重な光魔法を使ってくれてありがとう。お陰で助かった。まさか精霊に助けられるなんて思いもしなかったな。」
「仕方なくよ。リリのお願いだから聞いてあげたの。それより、あなた大丈夫なの?私の魔法は、魔族にそこまで効果はないはずだけど、一応止血は出来たけど、そこまで魔法が効いてる訳じゃないでしょ。」
精霊の魔法は魔族には効かない?初めて聞いた。だから、ルミナの魔法が時間がかかってたのか。魔力もごっそり使って時間かけた割りには、止血だけっておかしいと思ってたんだ。
「いや、かなり助かった。あのまま血が止まらなかったら命はなかった。ルミナ殿には感謝しかない。」
リヒトが、ルミナに深く頭を下げる。照れて恥ずかしそうにしながら、ルミナがリリの腕に巻き付く。
「ま…まぁ、助かったならよかったわよ。」
ルミナが感謝され照れてる姿を見て、リリが嬉しそうに微笑んでいる。
そして、そんなリリの姿にリヒトが見惚れている。このリリを見る目は危険だ。
恋愛警戒アラートがピーピー鳴ってる。リヒトをリリに近づけたら駄目だと僕の本能が叫んでいる。
そっと、さりげなくリリの前に立ち、リヒトの視界からリリが見えないようにする。
「……それで、迷惑をかけるが、体が戻るまで暫くここに置いて貰えないだろうか。人間の国には頼れる人が居ないんだ。」
うっ。怪我人で頼れる人が居ないと言われたら、答えは一つしかない。
いくら、リリを守るためとは言え、薄情な人間にはなりたくない。そんなことをしたら、僕がリリに嫌われてしまう。
僕が、葛藤しながら心がザワついている間に、お母様が了承の旨を伝えた。
「もちろんです。リヒト様のお体が回復するまで我が家で静養なさってください。王宮にいる私の夫にも、目覚めたことと我が家で静養なさることは伝えておきます。安心してお体を休めてくださいね。」
お母様は、そう言うとリヒトに一礼してから、部屋を出ていった。
お母様、リヒトの名前知ってたな。それに、王宮に報告するってことは、やっぱりリヒトは今回の魔族が訪問してきた事と何か関係があるんだ。リヒトがどんな立場の人か、もう何となく分かってしまった…が、もし、僕の考えが当たってるなら、やっぱりリリとは近づけたら駄目だ。
早く問題が解決するように願ったけど魔族の問題と、リリの問題は別物だ。
確かに最近、乙女ゲームの世界であって欲しいと初めて思ったが、このタイミングでそんな要素はいらない。
フッフッフ、リリを守る会が久々に活動する日が来たようだな。
「しばらくここにいるのね。よかったわ。あなた、リヒトって名前なの?素敵な名前ね。リヒト様、どうぞよろしく。仲良くしましょうね。」
リリの可愛らしい''仲良くしましょうね''発言に、我に返った僕は、顔を真っ赤にして頷くリヒトに、果実水の入ったコップを差し出した。
「まあまあ、リヒト様!折角メイドが準備してくれたのです。果実水をどうぞ!美味しいですよ!さあ!飲んで下さい!」
「わ…わかった。あ…ありがとう。ユーリアス」
リヒトは困惑しながらも、目の前に差し出された果実水を一気に飲み干した。
「リヒト様、何かあればぜひ!僕に!声をかけてくださいね。」
「あ…ありがとう」
「ユーリずるい。もうリヒト様と仲良くなったの?やっぱり男同士だと仲良くなるのもあっという間なのね。」
リヒトがぎこちない笑顔で僕を見た。僕は満面の笑みを浮かべて、果実水の入っていたコップを受け取る。
リヒトとは、打ち解けた感じを演出。リリが勘違いしてるなら好都合だ。このままリリが自分への好意に気づかないようにしなければ…フッフッフ。まぁ、リリなら言わなければ一生気づかないと思うけどね。
あとは、これからリヒトと仲良しアピールでリリを遠ざける。
ふっ、明日から忙しくなりそうだ。
ここまで、読んでいただきありがとうございます。
明日は、大体22時以降の投稿になると思います。




