満月と炎の花 ⑤
花畑が見渡せる位置に、移動してきたセドリック殿下と俺は、爆発音のする方を黙って見ていた。
多分、ドラゴンの攻撃だろう炎が上がり、時々、稲妻が走る。これは、ベルの魔法だろう。
段々と激しさを増す攻撃の音に、リリの事が心配で、今すぐ駆けつけたい。
「ユーリアス、心配なんだろう。月の光が届くのは、まだ少し先だ。私の事はいいから、リリアーベルの所へ行ってくれ。ユーリアスの剣があれば、助けになるはずだ。」
セドリック殿下が、俺の様子に気づいて戻るように言ってくれる。
俺は三人を信じて、セドリック殿下を護衛した方が良いに決まっている。
三人を信じてるが、リリの様子が見えないことが、こんなにも不安だなんて、リリが傷つくことが、自分の死よりも怖い。
「ユーリアス、王子とは私が一緒に居てやろうか。リリアーベルが心配なら行っておいで。月が昇るまでに戻ってきたらいいのだから、ほら、行ってきなさい。」
突然現れた精霊王様が、俺の背中を押してくれる。セドリック殿下も、早く行けと視線が語る。
「二人共、ありがとうございます。心配なので、様子を見てきて、必要なら手伝ってきますね。月が昇る前には戻ります。」
俺は、そのままリリの居る方向へ走り出した。
「ここは、安全だから任せておいて。ユーリアスも楽しんでおいで。」
精霊王様の楽しんでの言葉には、力が抜けてしまったが、気合いを入れ直して、リリの元へと急ぐ。
リリが居るはずの場所へと到着すると、その光景に、俺は目を疑った。
「はっ?これは、どういうこと?」
確かに、凄まじい攻撃が繰り出され、所々で地面が抉れて、攻撃力の凄さが分かる。
こんな攻撃を人の身で受けたら、怪我だけでは済まないだろう。
だが、目の前では、確かにドラゴンと戦っているのに、誰一人、緊迫した様子もない。
「人の子よ!次は我のブレスを受けてみろ!ちゃんと、避けられるかな。ギャハハハ。」
ドラゴンが、楽しそうに宣言すると、今度は可愛い声が、楽しそうにその場に響く。
「私とリヒトなら、簡単に避けられるわ。さあ、ドラゴンの本気を見せてみなさい。」
可愛い声の主は、当たり前だが、可愛いリリだった。
可愛くドラゴンを挑発して、ドラゴンの宣言したブレス攻撃を躱す。
「なかなかやるな。次は我の爪で切り裂いてやる。それから、ファイアーボールの連続技だ。次は避けられないだろう。ギャハハハ。」
また、ドラゴンが宣言した通りの攻撃を仕掛けてくる。それを、リリとリヒトが上手く躱す。
一つだけ避け損ねた炎攻撃を、近くで見ていたベルが稲妻の魔法で、消し去った。
ずっとこんな調子で、宣言した攻撃をリリとリヒトが回避して、危ないとベルが魔法を消し去る。
ドラゴンとリリが、ただ楽しそうに戯れている様に見えてくるのは、見間違いかな。
「ベル、少しいいかな。これは、本当に真剣勝負をしているの?それとも、何かそういうルールの勝負?」
リリが心配で仕方なかったのに、この状況に、訳が分からず脱力する。
「ユーリアス、戻ってきたのか。リリとドラゴンは、真面目に戦ってるのだろうな。リヒトは、それに付き合ってる感じだろうか。一応、ドラゴンは、かなり手加減をしているだろうが、直撃すると最悪死ぬからな。我も、ちゃんと、守護の役目を果たしているぞ。」
精霊王様が、大丈夫だと言っていたのは、こう言うことだったのか。
ドラゴンは、本気で俺たちを排除するつもりは無いのか。
それなら、どうして攻撃する必要があるんだ。排除の意志がないなら、普通に会話で終わりなのに………。いや、まさかな。
「何だか、リリもドラゴンも楽しそうだな。」
一つの可能性を考えて、ベルに聞こえるように呟く。
「楽しいのだろう。今日が初めての番人としての仕事だそうだ。精霊王様に事情を聞いて、手加減するから勝負したいと訴えたらしい。まあ、ごっこ遊びの様な感じで、番人としての初仕事を満喫してるようだぞ。」
やっぱり普通に楽しんでいるだけだったか。ごっこ遊びって何だよ。
「リリも分かってて付き合ってるってことか。はぁぁ、心配したのに拍子抜け。」
目の前で、ドラゴンと天使の戦いを見ながら、溜め息を吐く。
「いや、リリは知らないで相手してるから、本気だろうな。わが主は純粋だな。ドラゴンの態度にも疑うことなく、本気の勝負を単純に楽しんでいるだけだ。」
うん、可愛いが決定。気づかすに、本気でごっこ遊びに付き合うリリは、天使すぎる。
真剣勝負で、次の攻撃を宣言して戦うなんて有り得ないのに、リリの事だから『親切なドラゴンさんだわ。』くらい思ってそうだな。
しかし、いつまで続けるんだろう。そろそろ、暗くもなってきたし、目的を忘れてもらっては困る。
「ギャハハハ、人の子よ、我の攻撃を全て避けるとは、流石だな。しかし、お前は逃げるだけで、ちっとも攻撃してこないな。逃げるだけで実は弱いのか。そうだな、ヒト族は弱い生き物……」
「聞き捨てならないわ。私は弱くない。そんなこと言うなら、私も攻撃するわ。魔法は使えないけど、私が作った魔法銃があるから、それで勝負よ。」
負けず嫌いの天使が、ドラゴンの言葉を遮り、とうとう最終兵器を使うと宣言する。
ドラゴンは、多分このまま勝負を終わるつもりだったのだろう。
リリの攻撃宣言を聞いて、動揺して慌てている。
「さあ、いくわよ。ドラゴンさん。」
リリが、取り出した魔法銃を、動揺するドラゴンに向ける。
「えっ、本気?魔法銃って何?もう勝負は終わりじゃないの!」
ドラゴンの叫ぶ声が聞こえる。
そして、リリは、容赦なく引き金を引いた。
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