満月と炎の花 ⑥
リリが、容赦なく引き金を引く。
ピュンッッッ!! ドッッゴーン!!
凄まじい爆発音と共に、ドラゴンの後ろの広範囲に渡る木々が消えた。
いやいやいや、えっ?魔法銃から見たこと無い何かが飛び出していったんだけど、何?
それに、破壊力が以前よりも上がっていて凄すぎなんだけど、どうして?
リリ以外の全員が、真っ青な顔をして、この惨状に驚きを隠せない。
ドラゴンに至っては、体を小刻みに震わせて、少し涙を浮かべているように見える。
「やっぱり、ドラゴンさんは強いわね。魔法銃を避けるなんて流石だわ。改良に改良を重ねた魔法銃は、狙った相手を必ず仕留めるだけの破壊力があるのに、それを瞬時に避けるなんて素晴らしい力ね。」
いや、避けてなかった。ドラゴンは動けずに、その場に立ったままだった。
リリの狙いが、たまたま外れたから、ドラゴンは犠牲にならなかっただけで、当たってたら即死だった。
「リリ、ドラゴンを殺しては駄目だと精霊王様に言われただろう。そんな殺傷能力が高い武器を使って、万が一にもドラゴンに当たってたらどうするの。」
俺は、急いでリリに近寄ると、魔法銃をリリの手からすぐに離す。
こんな危険な武器をリリに持たせて、間違ってリリに当たったら大変だ。
「あら?ユーリもこちらに来たの?見ての通り、ドラゴンさんは強くて、どんな攻撃にも対処できるから平気なのよ。本当に、ユーリは心配性ね。」
可愛い笑顔を見せながら、呑気に見当違いの事を言うリリに、俺は力が抜ける。
「それでも、こんな危ない武器を使っては駄目だろう。真剣勝負には過剰な力だ。今のは、リリが卑怯な手を使った事になってしまう。ドラゴンが強かったから無事で良かったけど、やり過ぎたことは謝らないと駄目だ。」
ドラゴンの威厳を保ちつつ、リリが二度と魔法銃を使わないようにするため、わざと卑怯という言葉を使う。
リリは俺の言葉を聞いて、やっと気づいたようで、ドラゴンの後ろの消えた木々を確認する。
「ドラゴンさん、ごめんなさい。確かにユーリの言うとおり、武器を使ってはいけなかったわ。ドラゴンさんは、自分の力だけで、戦ってくれたのに、私は武器を使って卑怯でした。ごめんなさい。この勝負は、私の負けね。」
リリが謝ると、ドラゴンがゆっくりとリリに視線を向ける。
そして、先程とは違って丁寧な言葉遣いで答える。
「いえ、私も少し調子に乗ってしまったので、お互い様です。私も、いろいろとすみませんでした。今回は、私の負けでいいので、花はお持ち帰りください。」
ドラゴンは、自分の事を『我』って言ってたのに、一人称が『私』になっている。しかも、とても丁寧な話し方に態度だった。
本当に、ごっこ遊びの様な感じだったんだな。折角、キャラも作って挑んだのに、リリの純粋さに負けたのか。うちの姉が、純粋で可愛すぎて申し訳ない。
「それじゃあ、引き分けってことにしませんか。ドラゴンさんは本当に強かったもの。私が、魔法を取り戻せたら、今度は魔法で真剣勝負しましょうね。」
リリの言葉に、ドラゴンが違う意味の涙を浮かべて、何度も頷いていた。
「取り敢えず、勝負は終わりでいいのか?そろそろ暗くなってきたから、セドリックのところに戻った方が良いのではないか?」
ベルの言葉に、辺りを見渡せば、空は夕陽のオレンジから、夜の黒に変わってきている。
「急いで戻ろう。」
俺たちは、そのままセドリック殿下の元に急いだ。
♢♢♢♢♢♢♢♢
「ああ、戻ってきたね。どうだった?楽しかった?」
精霊王様が、戻ってきた俺たちに向かって、楽しげに質問する。
「楽しかったですよ。やっぱりドラゴンさんは強かったです。また、勝負する約束もしたんですよ。」
リリの嬉しそうな報告に、精霊王様も満足気だ。
「楽しそうで良かったよ。それに、間に合って良かった。もうすぐ月が上り、光が届くよ。ユーリアスも王子も準備はいいかな?」
精霊王様の言葉に、鼓動が速くなり緊張で表情も強張る。
「ユーリ、セドリック殿下、私は何も出来ないけど、応援担当として、2人を応援します。どうか、頑張ってください。2人なら大丈夫です。」
リリも両手を胸の前に組み、傍で見守ってくれている。
リヒトやベルも、ドラゴンまでも、見守ってくれていた。
「セドリック殿下、俺は余り、力になれないかもしれませんが、精一杯やるので、よろしくお願いします。」
「ユーリアス、私は君を頼りにしているよ。2人で、やり遂げてみせよう。」
そう言って頭を下げた俺に、セドリック殿下が嬉しい言葉をくれる。
そして、花畑を前にして、殿下と2人で並んで両手をかざす。
しばらくすると、暗闇から優しい光が広がっていく。
「綺麗な満月だな。」
精霊王様の呟きの後、月明かりに照らされた花畑一面に真っ赤な炎が広がった。
「今だよ。二人とも全てそのまま凍らせるんだ。」
精霊王様の合図を聞いて、ありったけの魔力を使い魔法を発動する。
目の前の炎が、段々と、確実に氷に変わる。
勝負は、ほんの数分だけ。
「……っ。はぁ……きつ……。」
俺は、すぐに魔法の威力が落ちてしまうが、セドリック殿下は全く変わることなく、目の前の炎を凍らせる。
辛いはずなのに、表情に全く出さない。流石、セドリック殿下だ。
数分で燃え尽きるはずの花は、あっという間に氷の中に閉じ込められ、目の前には炎に変わって、氷の花で埋め尽くされていく。
「二人とも凄いよ。全部一気に凍ったよ。綺麗な氷の花だよ。」
リリが嬉しそうに飛び上がる。
「良かった。無事に、役目を果たせたね。」
セドリック殿下が、そのまま地面に倒れ込む。かなりの魔力を使ったので、俺も殿下も立っていられないほど疲れていた。
「二人とも大丈夫?魔力を、私が余った魔力をあげるから、魔力吸収して下さい。」
そう言って、リリが俺と殿下の手を握る。
「ハハ、ありがとうリリ。」
「リリアーベルのお陰で直ぐに回復できそうだよ。」
リリの温かな魔力が、少しずつ体に流れてくる。体も少しずつ楽になってくる。みんなのお陰で、無事に終わることができた。
これで後は、花を採取したら治療薬を作れる。
これで、リリがまた魔法を使えるようになる。
「本当に、よかっ……。」
―――ボゥッ!!
無事に終わって、安心した瞬間だった。
目の前の氷の花に、再び炎が咲いた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
【補足】
リリの改良に改良を重ねた魔法銃は、当初のユーリの提案から、かなり外れた物に改良されてました。
1、普通の弾から、魔力を凝縮した魔力弾へ。威力数倍。
2、勝手に照準。リリの代わりに狙いを合わせる
3、生き物以外に攻撃。(リリに当たるのを回避)
リック兄様とお母様の発案です。




