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満月と炎の花 ④



 翌日の夕方。約束通りに精霊王様が迎えに現れた。


「リリアーベル、昨日ぶりだね。みんなも準備は出来ている?そのまま転移で移動するから、魔法陣の中に入ってくれ。」


 ビッガートル家のみんなが見送る中、採取に向かう全員が、魔法陣の中に入る。


「リリ姉様、ユーリ兄様、どうか無事に帰ってきてね。皆さんも、怪我しないように気をつけて下さい。」


 チェリーちゃんが心配そうな顔で、言葉をくれる。

 

「リリ姉さんもユーリ兄さんもみんなも、頑張ってね。無事に花を持ち帰れることを祈っているよ。」


 タイガが、笑顔で言葉をくれる。


 家族みんなからの言葉は、やる気と力をくれる。特に、リリには効果抜群だ。


「二人とも心配しないで、必ず花を持って帰ってくるわ。期待して待っていてね。」


 最高の笑顔を浮かべたリリが、二人に向かって手を振る。


「それでは、花咲く広場へ向かおう。」


 精霊王様の言葉を最後に、俺たちはその場から転移した。




♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「さあ、着いたよ。」


 精霊王様の言葉に、周囲を見渡す。一瞬で、屋敷の中から外に景色が変わる。


 辺りには建物などは無く、ただ緑が視界一面に広がっている。少し離れたところに、木々が見えるが、目の前は広大な花畑になっていた。


「これだけの広さに咲く花を、一斉に凍らせるのか。」


 俺の呟きに、セドリック殿下も難しい顔をする。

 

 俺の魔力は人並みか、それより少し足りない。魔法については、ほぼセドリック殿下に頼ることになるだろう。

 これだけの広さだと、俺の魔法は殿下の助けにもならない。


 思った以上の広さに動揺する俺と殿下の元に、リリの可愛い声が響いてくる。


「思っていたよりも広いのね。ここの全部に炎の花が咲くのね。炎で燃える花も綺麗だとは思うけれど、ユーリと殿下の咲かせる氷の花は、もっと綺麗でしょうね。」


 リリの最後の言葉につられて、もう一度、聞いてみたくて、俺はリリに尋ねる。


「咲かせられるかな?」


「勿論よ。ユーリとセドリック殿下なら必ずできるわ。綺麗な花を咲かせられるわよ。」

 

 リリは、俺と殿下の魔法を少しも疑ってない。必ず成功すると思っている。


 リリの言葉に、さっきまでの不安が嘘のように消えていく。


「ありがとう。リリのお陰で元気が出てきたよ。そうだな。俺と殿下なら絶対に成功できる。リリに綺麗な氷の花を見せてあげるね。」


 俺の表情が和らいだのを見て、リリが嬉しそうに笑って、頼もしい言葉をくれる。


「楽しみにしてるね。私も頑張ってドラゴンさんの相手をするから、こっちは任せてね。終わったら、私も花の採取を手伝うわ。」


 本当に、強くて純粋で頼りになる姉だ。可愛い以外の要素もいっぱいで、困ってしまうよ。


「リリアーベル、私は花の採取を優先するから、手助け出来ないけれど、君も気をつけて。必ず、君の魔法を取り戻そう。」


 セドリック殿下も、リリの言葉に心の不安は消し飛んだみたいだ。

 殿下もいい笑顔を見せて、完全に迷いは無くなったように見える。

 

 うちの可愛い姉は、やっぱり天使だ。


「二人とも、やる気になったようで良かったけれど、月が出るまでは、もう少しかかる。その前に、対処しないといけない者が現れたようだよ。」


 精霊王様の視線の先を見ると、赤色の大きな尻尾の様なものが、木々の間から見え隠れしている。


「一つ言っておくけど、ドラゴンは殺しては駄目だよ。彼は大事な精霊国の民だからね。彼も番人としての役割のために此処に居る。だから、戦うことはあっても、殺しては駄目だ。彼も手加減はしてくれるだろうから、君たちが死ぬことはないよ。大丈夫だから、相手をしておいで。」

 

 精霊王様の言葉が聞こえていたかの様に、地響きと共に、真っ赤な巨体を揺らしながらドラゴンが現れた。


「ギャハハハ、ヒト族の身でありながら、恐れずに、我の前に姿を現した事は褒めてやろう。だがしかーし、花を奪うなど許しては置けぬ。花が欲しいなら、我を倒して見せろ。」


 何故か嬉しそうなドラゴンが、鼻息荒く、期待に満ちた目で俺たちを見る。


 突然のドラゴン出現に、みんな驚いて直ぐには言葉が出てこない。


 ドラゴンは、黙ったままの俺たちを、キラキラした瞳で、じっと見つめて何かを待っているようだ。


 誰も言葉を発しないまま、数十秒、数分と、時間が過ぎる。一体、なに待ちの時間だろう。

 

 ドラゴンの表情が、段々と不安そうな顔に変わっていく。


「ユーリ、もしかして、ドラゴンさんは私たちが何か言うのを待ってるのかな?」


 俺のシャツを引っ張り、背伸びしたリリが小声でそんなことを言う。


「確かに、何かを待つとしたら、ドラゴンの発言に対する返答とか?」


 俺の呟きを聞いたリリが、不敵に笑いドラゴンに向かって前に出る。


(あっ、えっ?うちの天使が先手を取る気か?)


 倒して見せろと言われたから、その返しで先に攻撃を仕掛けるのかと思ったら、リリはやっぱりリリだった。


「ご機嫌よう、ドラゴンさん。貴方の言うとおり、私たちは炎の花を頂きに参りました。番人であるドラゴンさんの役割は知ってますが、どうしても花が欲しいので、ドラゴンさんを倒させて頂きます。」


 ビックリする程、普通に挨拶しただけだった。その返しは、予想外で可愛すぎる。

 

 先に攻撃した方が有利なのに、ドラゴンの言葉に素直に言葉で返すなんて、可愛いリリだから許される事だよ。


「主よ、ここは攻撃した方が良かったのではないか?ドラゴンもそれを待ってたのではないか?」


「えっ、そうなの?でもね、ベル、挨拶したら挨拶で返さないといけないのよ。それに、ほら見て、ドラゴンさんも嬉しそうよ。だから、これで合ってるのよ。」


 合ってるのか?


 ドラゴンの顔を見ると、リリの言うとおり、不安な顔から、また嬉しそうな顔に戻っている。


 これで、合っていたようだ。


「ギャハハハ、丁寧な挨拶を返すとは、流石だな人の子。我を恐れないだけある。しかーし、だからと言って手加減はしないぞ。正々堂々、我と勝負して、勝てば花を譲ってやろう。では、いくぞ!勝負だぁぁぁ。」


 ドラゴンが叫ぶと、突然クルンと回転して、長い尻尾が俺たち目掛けて振り下ろされる。


 突然始まった攻撃にも、みんな咄嗟に回避する。日頃の鍛練の成果が、ここで発揮できた。


 ドラコンは、攻撃を避けられて驚いていたが、ニヤリと笑うと次の攻撃を仕掛けてくる。大きな体なのに動きが素早くて、ついていくのも大変だ。このドラゴンは、かなりの強さだ。


「セドリック殿下、ここはリヒト達に任せて、少し離れましょう。」


 当初の予定どおり、ドラゴンはリヒトとベルとリリに任せて、俺と殿下はこの場を離脱する。

 思った以上の広大な花畑だ。殿下には、かなりの負担がかかるだろう。

 

 月が出るまでは、もう少し。セドリック殿下を守り通さなければ、俺は念のため持ってきた剣を構えて体勢を整えておく。


 先ほどの場所からは、ドカンドカンと物凄い音が聞こえており、激しい戦いが想像できる。


 リリを残してきたことを後悔しながらも、リリやみんなを信じて無事でいることを祈っていた。


 月の光が届くまで、あと少し。

 


 


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。次も読んでもらえると嬉しいです。


 月が完全に出るまでは、リリの活躍をお楽しみ下さい。

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