満月と炎の花 ④
翌日の夕方。約束通りに精霊王様が迎えに現れた。
「リリアーベル、昨日ぶりだね。みんなも準備は出来ている?そのまま転移で移動するから、魔法陣の中に入ってくれ。」
ビッガートル家のみんなが見送る中、採取に向かう全員が、魔法陣の中に入る。
「リリ姉様、ユーリ兄様、どうか無事に帰ってきてね。皆さんも、怪我しないように気をつけて下さい。」
チェリーちゃんが心配そうな顔で、言葉をくれる。
「リリ姉さんもユーリ兄さんもみんなも、頑張ってね。無事に花を持ち帰れることを祈っているよ。」
タイガが、笑顔で言葉をくれる。
家族みんなからの言葉は、やる気と力をくれる。特に、リリには効果抜群だ。
「二人とも心配しないで、必ず花を持って帰ってくるわ。期待して待っていてね。」
最高の笑顔を浮かべたリリが、二人に向かって手を振る。
「それでは、花咲く広場へ向かおう。」
精霊王様の言葉を最後に、俺たちはその場から転移した。
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「さあ、着いたよ。」
精霊王様の言葉に、周囲を見渡す。一瞬で、屋敷の中から外に景色が変わる。
辺りには建物などは無く、ただ緑が視界一面に広がっている。少し離れたところに、木々が見えるが、目の前は広大な花畑になっていた。
「これだけの広さに咲く花を、一斉に凍らせるのか。」
俺の呟きに、セドリック殿下も難しい顔をする。
俺の魔力は人並みか、それより少し足りない。魔法については、ほぼセドリック殿下に頼ることになるだろう。
これだけの広さだと、俺の魔法は殿下の助けにもならない。
思った以上の広さに動揺する俺と殿下の元に、リリの可愛い声が響いてくる。
「思っていたよりも広いのね。ここの全部に炎の花が咲くのね。炎で燃える花も綺麗だとは思うけれど、ユーリと殿下の咲かせる氷の花は、もっと綺麗でしょうね。」
リリの最後の言葉につられて、もう一度、聞いてみたくて、俺はリリに尋ねる。
「咲かせられるかな?」
「勿論よ。ユーリとセドリック殿下なら必ずできるわ。綺麗な花を咲かせられるわよ。」
リリは、俺と殿下の魔法を少しも疑ってない。必ず成功すると思っている。
リリの言葉に、さっきまでの不安が嘘のように消えていく。
「ありがとう。リリのお陰で元気が出てきたよ。そうだな。俺と殿下なら絶対に成功できる。リリに綺麗な氷の花を見せてあげるね。」
俺の表情が和らいだのを見て、リリが嬉しそうに笑って、頼もしい言葉をくれる。
「楽しみにしてるね。私も頑張ってドラゴンさんの相手をするから、こっちは任せてね。終わったら、私も花の採取を手伝うわ。」
本当に、強くて純粋で頼りになる姉だ。可愛い以外の要素もいっぱいで、困ってしまうよ。
「リリアーベル、私は花の採取を優先するから、手助け出来ないけれど、君も気をつけて。必ず、君の魔法を取り戻そう。」
セドリック殿下も、リリの言葉に心の不安は消し飛んだみたいだ。
殿下もいい笑顔を見せて、完全に迷いは無くなったように見える。
うちの可愛い姉は、やっぱり天使だ。
「二人とも、やる気になったようで良かったけれど、月が出るまでは、もう少しかかる。その前に、対処しないといけない者が現れたようだよ。」
精霊王様の視線の先を見ると、赤色の大きな尻尾の様なものが、木々の間から見え隠れしている。
「一つ言っておくけど、ドラゴンは殺しては駄目だよ。彼は大事な精霊国の民だからね。彼も番人としての役割のために此処に居る。だから、戦うことはあっても、殺しては駄目だ。彼も手加減はしてくれるだろうから、君たちが死ぬことはないよ。大丈夫だから、相手をしておいで。」
精霊王様の言葉が聞こえていたかの様に、地響きと共に、真っ赤な巨体を揺らしながらドラゴンが現れた。
「ギャハハハ、ヒト族の身でありながら、恐れずに、我の前に姿を現した事は褒めてやろう。だがしかーし、花を奪うなど許しては置けぬ。花が欲しいなら、我を倒して見せろ。」
何故か嬉しそうなドラゴンが、鼻息荒く、期待に満ちた目で俺たちを見る。
突然のドラゴン出現に、みんな驚いて直ぐには言葉が出てこない。
ドラゴンは、黙ったままの俺たちを、キラキラした瞳で、じっと見つめて何かを待っているようだ。
誰も言葉を発しないまま、数十秒、数分と、時間が過ぎる。一体、なに待ちの時間だろう。
ドラゴンの表情が、段々と不安そうな顔に変わっていく。
「ユーリ、もしかして、ドラゴンさんは私たちが何か言うのを待ってるのかな?」
俺のシャツを引っ張り、背伸びしたリリが小声でそんなことを言う。
「確かに、何かを待つとしたら、ドラゴンの発言に対する返答とか?」
俺の呟きを聞いたリリが、不敵に笑いドラゴンに向かって前に出る。
(あっ、えっ?うちの天使が先手を取る気か?)
倒して見せろと言われたから、その返しで先に攻撃を仕掛けるのかと思ったら、リリはやっぱりリリだった。
「ご機嫌よう、ドラゴンさん。貴方の言うとおり、私たちは炎の花を頂きに参りました。番人であるドラゴンさんの役割は知ってますが、どうしても花が欲しいので、ドラゴンさんを倒させて頂きます。」
ビックリする程、普通に挨拶しただけだった。その返しは、予想外で可愛すぎる。
先に攻撃した方が有利なのに、ドラゴンの言葉に素直に言葉で返すなんて、可愛いリリだから許される事だよ。
「主よ、ここは攻撃した方が良かったのではないか?ドラゴンもそれを待ってたのではないか?」
「えっ、そうなの?でもね、ベル、挨拶したら挨拶で返さないといけないのよ。それに、ほら見て、ドラゴンさんも嬉しそうよ。だから、これで合ってるのよ。」
合ってるのか?
ドラゴンの顔を見ると、リリの言うとおり、不安な顔から、また嬉しそうな顔に戻っている。
これで、合っていたようだ。
「ギャハハハ、丁寧な挨拶を返すとは、流石だな人の子。我を恐れないだけある。しかーし、だからと言って手加減はしないぞ。正々堂々、我と勝負して、勝てば花を譲ってやろう。では、いくぞ!勝負だぁぁぁ。」
ドラゴンが叫ぶと、突然クルンと回転して、長い尻尾が俺たち目掛けて振り下ろされる。
突然始まった攻撃にも、みんな咄嗟に回避する。日頃の鍛練の成果が、ここで発揮できた。
ドラコンは、攻撃を避けられて驚いていたが、ニヤリと笑うと次の攻撃を仕掛けてくる。大きな体なのに動きが素早くて、ついていくのも大変だ。このドラゴンは、かなりの強さだ。
「セドリック殿下、ここはリヒト達に任せて、少し離れましょう。」
当初の予定どおり、ドラゴンはリヒトとベルとリリに任せて、俺と殿下はこの場を離脱する。
思った以上の広大な花畑だ。殿下には、かなりの負担がかかるだろう。
月が出るまでは、もう少し。セドリック殿下を守り通さなければ、俺は念のため持ってきた剣を構えて体勢を整えておく。
先ほどの場所からは、ドカンドカンと物凄い音が聞こえており、激しい戦いが想像できる。
リリを残してきたことを後悔しながらも、リリやみんなを信じて無事でいることを祈っていた。
月の光が届くまで、あと少し。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。次も読んでもらえると嬉しいです。
月が完全に出るまでは、リリの活躍をお楽しみ下さい。




