満月と炎の花 ③
精霊王様が帰った後は、部屋はしんと静まり返っていた。
(ドラゴンか。予想以上の相手だな。)
採取の為には、魔力を残さないといけないから、セドリック殿下は、ドラゴンの相手は無理だろう。
そうすると、リヒトとベルが相手をすることになる。
俺も、魔法を使わず剣を使えば、ギリギリまで相手をすることは出来るかもしれない。
実際、フェンリルとドラゴンなら、どちらが強いのだろう。フェンリルの方が強いなら、勝算はある。
「ベル、実際にフェンリルとドラゴンは、どちらが強いんだ?戦ったことはあるのか?」
ここは、本人に聞くのが一番良い。質問されたベルは、少し考えてから、自信満々に答える。
「それは、勿論、フェンリルだ…と言いたいが、どうだろうな。だが、相手は若いドラゴンだと言っていたから、我が強いだろうな。生きてきた年数でも変わるだろう。若いと言うことは、それだけ戦いの経験も少ないだろうし、経験値から言うと、我の方が絶対に強いと思うぞ。」
その言い方だと、ドラゴンとフェンリルは同等の強さなのか。
経験や年齢で、個体によって勝負は分からない。
それなら、初めに考えたように、ベルとリヒトにドラゴンを任せて、セドリック殿下には採取に集中してもらう方がいい。
「明日の事だけど、ベルとリヒトは主にドラゴンの相手をしてもらっていいか?それでも足りなければ、俺も剣を使う。セドリック殿下は、採取のために魔力を温存しておいて下さい。」
「分かった。主のために、勝利を誓おう。」
「俺も、それでいい。」
ベルとリヒトは、初めから戦うつもりだった様で、直ぐに賛成してくれた。
「確実に採取できるよう、ユーリアスの言う通り進める方が良いだろうね。精霊王様が言っていたことが本当なら、ドラゴンも本気で戦う気は無いだろうし、二人に任せるのが得策だろう。」
セドリック殿下も、花の採取を一番に考え、俺の意見に賛成してくれた。
「それじゃあ、やることは決まったし、明日はそれぞれの役割を果たせるように、今日はゆっくり休もう。」
俺の言葉を聞いて、みんなが立ち上がり、各々部屋へと戻ろうとする。
「待って。私は?私は何をしたらいいの?まだ私の役割が決まってないよ。」
瞳をキラキラさせて、期待の眼差しで俺を見ている天使がいる。
やっぱり、このまま解散とはいかなかったか。他の全員が、俺に任せたと言わんばかりに、黙って様子を見ている。
「そうだね。えーと、リリは……応援担当とか?これは重要だよ。みんなが無事に役割を果たせるよう、ルミナと一緒に遠くから、みんなの事を応援して欲しい。」
俺が真面目な顔で告げると、リリは一瞬だけ笑顔を見せたが、直ぐに不機嫌な顔になる。
「ユーリ、応援担当って何?それって、遠くで隠れてろって事?みんなが私のために頑張ってるのに、私だけ安全なところで見てるなんて嫌だわ。ユーリは、花の採取があるから、代わりに私が二人と一緒にドラゴンさんの相手をするわ。」
うっ、応援担当って言っても騙されなかったか。以前のリリなら、役割が貰えたって喜んでいたはずなのに、さすが16歳。可愛い天使も、ちゃんと成長しているな。
「でもね、リリは魔法が使えないし、武器も使えないだろう。リリが気になって、リヒトやベルが、戦いに集中できないと怪我をするかもしれないよ。だから、ここは大人しく応援担当で我慢して欲しいな。」
俺の説得にも、首を横に振りながら、納得してくれない。
リリを危険に晒したくないのに、本当に困ったな。いつもの事ながら、頑固な天使を説得するのは、何よりも難しい。
「ユーリ、私は自分の事なのに、ただ見ているだけなのは嫌なの。私もみんなと一緒に頑張りたいの。ちゃんと、武器も持っていくわ。だから、リヒトとベルと一緒にドラゴンさん担当にして、お願いよ。ユーリ。」
(はぁ、この顔ズルいな。)
リリの背が低くて、どうしても俺を見る時は、見上げる形になるのは分かるよ。
それが、どれだけ可愛いか本人は理解しているのか。
潤んだ大きな瞳に、上目使いでお願いする時のリリの可愛さは、天を突き抜けて宇宙に届く程の可愛さだ。
それに、今回はリリの決意も含まれている。人任せには決してしない。リリの強さ。
可愛い上に、心の強さまでプラスされたら、そんなの可愛すぎて格好良すぎて、何でも許してしまいそうになるだろう。
女の子なんだから、安全な場所で、ただ黙って守られていれば良いのに、普通の女の子はそうだろう。
(いや、違うか。そんなのリリじゃない。)
後ろで守られるのではなく、一緒に隣で立ち向かうのがリリだな。
「分かったよ。でも、危なくなったら直ぐに離れてよ。それと、武器って何を持っていくの?リリは、武器の扱い苦手だよね。少し前に剣で大変なことになったの忘れたの?剣は禁止だよ。」
武器全般が苦手なのに、何を持ち出そうとしてるのか確認しないと、ドラゴンとの対決の前に、自分で自分を攻撃してしまいそうだ。
「護身用にお母様から持たされた、魔法銃があるの。これは改良版で魔石を使うから魔力もいらないし、前に向けて撃つだけだから、簡単なのよ。」
「リリが使うと、仲間に当たらないか不安になるよ。それ、使ったことあるの?」
リリが使ったら、狙い外れて仲間に当たって大惨事になりそうだ。お母様ってば、何て物をリリに持たせているんだ。
「使ったこと?あるわよ。ちゃんと、前に飛んでいったから大丈夫よ。」
「確認だけど、飛んでいったのは魔法銃の弾だよね?リリが飛んでいったとか、他の人が飛んでいった訳じゃないよね?」
リリが少し考える。考えないといけない時点で不安だ。
「飛んでいったのは、人じゃなかったから大丈夫よ。」
魔法銃の弾って言わないところが気になる。一体何が飛んだんだ。
「ユーリ、さっき私はドラゴンさんの担当だと言ったから、取り消しは無しよ。リヒトとベルと、ルミナは私の首に付いて参加ね。」
これがベストな方法なのか。仕方ない。
これだけのメンバーが揃えば、何とかなるだろう。
「それじゃあ改めて、明日は、みんなで協力して、目的を達成する為に最善を尽くそう。今日は、ゆっくり休んで、明日に備えよう。」
今度こそ、みんな各々部屋へと戻っていった。
――― 翌日。夕方、花咲く予定の花畑。
「ギャハハハ、ヒト族の身でありながら、恐れずに、我の前に姿を現した事は褒めてやろう。だがしかーし、花を奪うなど許しては置けぬ。花が欲しいなら、我を倒して見せろ。」
目的地に着いた途端、楽しそうに笑うドラゴンに、勝負を挑まれてしまった。
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