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満月と炎の花 ①



 満月の夜を明日に控え、ビッガートル家の屋敷に、みんなが集まった。


「セドリック殿下、よく無事に出てこられましたね。彼女は何も言わなかったのですか?」


 少し疲れた様子のセドリック殿下を前に、疑問を口にする。


「ああ、少し騒いでいたけれど、エリオットとオリヴァーが何とか宥めてくれたよ。二人には後で、労いの言葉を掛けてあげないとね。」


 かなり苦労して出てきたんだな。だからと言って、許せる事と許せない事があるのだが、これくらいなら許さないと駄目だろうか。俺は、目の前の殿下とリリを見ながら苦悩していた。


「リリアーベル、その、この間の湖での事だけど、色々と誤解があるようだから、少し話したいのだけど、時間をもらえないかな?」


 湖での誤解を解きたいのだろう。セドリック殿下が、リリに話し掛ける。


 今、セドリック殿下は、リリの隣で、リリに触れそうな程の近い距離に座っている。

 

 リリの隣にいるのは、許せないので、今すぐに引き離したいが、リリの為に無理して出てきた殿下に、それも言えず悶々とする。


「セドリック殿下、この間の事は大丈夫です。私は、ちゃんと分かってますよ。殿下の事を知っていれば分かることなのに、殿下にも彼女にも酷いことを言いました。ごめんなさい。」


 リリの言葉にセドリック殿下が困惑する。誤解を解こうとしたのに、断られては何も言えない。


 そう言えば、湖に行った翌日に、精霊王様と話したリリが、スッキリした表情で戻ってきたな。その時に、セドリック殿下とアンジュ嬢の事を話したと聞いた。

 何を話したのか不明だが、新たな誤解が有るように思うのは、気のせいだろうか。

 

 少し殿下が気の毒になってきたな。仕方ない。今だけは、リリの隣を許してあげよう。

 少しだけ、リリをセドリック殿下から離して距離を取ると、精霊王様が部屋に入ってくる。


「みんな、揃っているかい?明日の事を話しても平気かな?」


 精霊王様が、いつもの調子で話し始める。精霊王様の言葉に、みんな揃って頷く。


「明日は、夕方には目的地に向かう予定だ。花は、月の光が当たると、一斉に炎が咲く。だから、夜だと間に合わないからね。早めに行こう。当たり前だけど、炎が出る前の花は意味がない。だから、早く行ったからと言って、採取が出来るわけではないよ。」


 やっぱりそうだよな。炎の花が薬になるのだから、炎が出ないと意味がない。

 タイムリミットは、ほんの数分。セドリック殿下と二人で、同時に炎を凍らせないといけない。


 どのくらいの広さなのか知りたいが、明日にしか分からないということか。

 不安は残るが、どんな場所でも、やるしかない。


「それで、一緒に行く人は決まったか?ユーリアスに王子、ルミナにベルだったか?これだけか?」


 精霊王様の言葉に、やる気に満ちた可愛らしい声が上がる。


「精霊王様、私も行きます。魔法は使えないけど、私も役に立つかもしれないでしょう。」


 リリなら言うと思ってた。でも、リリは今回、連れていく予定は無かった。

 わざわざ危険に飛び込む必要は無い。魔力の事もあるから、リヒトにお願いして残ってもらうつもりだ。


「駄目だ。リリは、留守番だよ。何があるか分からないのに、危険すぎるよ。」


 俺の言葉に、リリが明らかに不満そうな顔をする。


「私の体のことなのに、留守番なんて嫌です。精霊王様、お願いします。私も連れていって下さい。」


 リリは、俺ではなく精霊王様に向かって話し出す。

 俺に言っても無駄だと思って、精霊王様に許可を貰うつもりだ。

 可愛いリリの可愛い抵抗には困ってしまう。


「私は、リリアーベルが行きたいなら許可するが、ただ、私は何があっても助けることは出来ないよ。あの場では、私は干渉することが出来ない。リリアーベルに危険が迫っても手を貸すことは出来ないけれど、それでも行くのかい?」


 精霊王様が、リリに問いかける。リリは、良い笑顔を見せて断言する。


「それでも、自分の事だもの。私は行きます。何があっても、自分の身は自分で守るので、大丈夫です。」


 力強くそう言うリリに、精霊王様が嬉しそうな笑顔を見せる。


「リリアーベルなら、そう言うと思っていたよ。ユーリアス、諦めてリリアーベルも連れていくことだな。リヒトを護衛として連れていけば良いだろう。彼ならそれが出来るだけの実力はある。」


 名指しされたリヒトは、俺を見て自信を持って頷く。


「ユーリ、お願い。私も行きたいの。絶対にユーリや殿下の邪魔はしないし、リヒトの傍から離れない。必要なら魔道具も持っていって、危なくないようにする。だから、お願いユーリ。」


 断ろうと思ってたのに、リリの必死に懇願する姿に、言葉が出てこない。


「ユーリアス、俺がリリアーベルを守るから、一緒に連れていってくれないか。ここで断って、リリアーベルが黙って付いていく方が危険だと思う。」


 リヒトの言葉に、リリが唇を引き結び、急に黙って大人しくなった。


「リリ、まさかとは思うけど、リヒトの言ったことを実行しようと思ってないよね?駄目だよ!」


 リリが、すっーと視線を逸らした。本当に、この天使は可愛いだけじゃなくて、行動力も有りすぎて困ってしまうよ。


「はぁぁ、もう、分かったよ。リヒトの傍を離れないって約束するなら、一緒に行くのを許可するよ。」


 リリが、キラキラと瞳を輝かせて、今度は、じっと視線を合わせて嬉しそうに微笑む。

 こんな時に可愛い笑顔を見せるのも卑怯だよ。くそぉぉ。負けた。


「では、全員決まったようだな。それでは明日の夕方また迎えに行くから、みんな、今日はゆっくり休んで体力と魔力を温存しておくんだよ。」


 精霊王様がそのまま帰ろうとするのを、ルミナが慌てて呼び止める。


「ちょっと精霊王様、大事なことを言い忘れてるわ。」


「大事なこと?何だったかな?」


 精霊王様の態度に、ルミナが呆れて溜め息を吐く。


「番人よ!今は誰が番人をしているのか話しておかないと対策が立てられないわ。」


 そうだった。番人の事を聞こうと思っていたのに、ピクニックでの事で、すっかり忘れていた。


「ああ、そうだ。これは大事なことだな。今の番人は、確か……えーと……。」


 一体誰だ?前任がフェンリルで、それと同等かそれ以上の実力者。


「ああ、そうだ、ドラゴンだよ。」


 えっ、これは詰んだのでは?



読んでいただきありがとうございます。


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