いろんな意味で、勝負のピクニック ②
「みんな、そろそろお昼時間なので、魚釣りは終わりにして、昼食にしますよ。」
リリの可愛い呼びかけに、みんなが釣りを止めて、自分のバケツを覗き込む。
「今年は、誰が優勝かしら。リリ姉様は誰だと思う?私は、最初に釣ってたユーリ兄様だと思うわ。」
「誰だろうね。今年は、誰が優勝でもおかしくないくらい、みんな沢山釣っていたわね。」
チェリーちゃんとリリの可愛い二人が、楽しそうにしながら、俺たちのバケツを覗いている。
「うわぁ、みんな沢山釣ったのね。えーと、ユーリとリヒトは4匹に、凄いわ!タイガ君が5匹に、精霊王様が7匹!うわぁ、凄いですね。釣り名人よ。」
リリの驚く様子に、精霊王様がドヤ顔で胸を張る。
「リリアーベル、もっと褒めてもいいぞ。ほら、私は格好いいだろう。釣りも得意なんだよ。他にもリリアーベルが望むなら、何でも叶えてあげるよ。」
精霊王様の態度と言葉に、リリが可愛らしく笑う。そのまま、天使の笑顔で、精霊王様の前に立ち賛辞を贈る。
「精霊王様、優勝おめでとうございます。釣り名人の格好いい精霊王様に、私とチェリーちゃんから、優勝の花冠を贈ります。」
背の低いリリが、精一杯の背伸びをして、精霊王様に向かって、花冠を差し出す。
一生懸命、つま先立ちで立っているのに、全く頭に届かない。
まるで、子リスだ。可愛い子リスが、高い枝にある木の実を取るため、足をフルフルさせて頑張っている姿だ。何これ、めちゃくちゃ可愛すぎる。
そんなリリを見て、精霊王様が口元を押さえて、何かに堪えている。
分かる。精霊王の気持ちがよく分かるよ。リリの可愛さを間近で見ると、そうなるよな。
「あ…あの、精霊王様。も…申し訳…ないのですが、少しだけ、屈んで頂けると…助かります。」
リリが足だけでなく、両手もフルフル震えさせて、そろそろ限界みたいだ。
精霊王様が、慌てて屈んで頭を軽く下げる。
「優勝おめでとうございます。精霊王様。」
リリとチェリーちゃんの手作り花冠が、無事に頭に乗せられた。
「ありがとう、リリアーベルにチェリルーダ。これは、永遠に大事にするよ。」
精霊王様が、嬉しそうに微笑んで二人を抱きしめる。
花冠なので、普通なら枯れてしまうだろうが、精霊王様なら、永遠にそのままの形で保管できそうだ。
それにしても、イケメンは何をしてもイケメンだな。頭に乗せた花冠が似合いすぎて、本物の王冠に見えてくるよ。
「それじゃあ、みんな頑張ったから、お腹空いたでしょう。お昼にしましょう。ほら、ユーリも行くわよ。」
リリが俺の手を引っ張って、昼食の用意された木陰に案内する。
「俺もお腹空いたけど、リリの方が待ちきれないって感じだな。」
優勝を逃して、リリの花冠を貰えなかったのは残念だけど、可愛いリリの姿に、心が満たされる。
「だって、すごく美味しそうだったの。デザートもあるのよ。私の大好きな…」
「「フルーツタルト!」」
リリに合わせて声を上げると、二人の言葉がピッタリ重なった。
「ハハハ、やっぱりリリは、フルーツタルトだよね。食べ過ぎちゃ駄目だよ。」
「みんなの分も沢山あるから、ちょっとだけなら、多めに食べても許してくれる?」
リリの可愛いおねだりに、気分を良くした俺に、無情にもルミナから現実を突きつけられる。
「ユーリ、貴方気づいてて無視してるの?それとも、リリしか見てないから、アレが見えてないだけなの?どっち?」
リリの首に巻き付いたルミナが、不機嫌に尻尾で湖の奥を指し示す。
そんなの、気づいてて無視してたに決まってる。釣りをしている時から気づいていた。
「えっ?なに?何かあるの?」
リリが、尻尾の指す方へ視線を向けるのを阻止して、直ぐにみんなの所へ連れていく。
「リリが、気にすることは何もないよ。見なくていいから、早く食べよう。お腹空いただろう。」
木陰に用意された美味しそうな昼食を前に、リリの興味が美味しそうなサンドイッチに向かう。
「ルミナ、ちょっと来てくれる?」
俺は、リリの首からルミナを連れだし、少し離れた場所へと移動する。
「ルミナ、結界は問題なく張れてる?」
「勿論よ。だから、ほら、近づいてこないでしょう。不思議よね。ガーデンパーティーでは、問題なく入れたのに、今日は結界に弾かれて近づけないわ。何なのかしらあの子。」
セドリック殿下といつものメンバーが居ると聞いて、念のためにルミナに俺たちの周囲に結界に張ってもらった。
楽しいピクニックを邪魔されたくないのもあるが、リリの害になりそうな人は近づけたく無かった。
「結界内に入れないと言うことは、そういうことだよな。」
悪意があれば入れない結界。そこに、入れないと言うことは、彼女はリリを害そうとしている証拠だ。
「他の三人は?まさか、彼らも入れないとかは無いよな。」
「どうかしら?彼らは入れないというか、あの子を抑えるのに必死みたいね。こちらには、精霊王様がいるから、怒らせると大変だと思ってるんじゃない。」
確かに、愛し子のリリを害することがあれば、この国は終わりだ。
国のために、必死に彼女の機嫌取りをしてるんだろう。
「ねえ、ユーリ他人事のように見てるけど、少しマズいわよ。」
幼馴染み三人を憐れんでいると、ルミナが例の彼らを指して、不穏な事を言う。
「マズいって?嫌なことを言わないでくれよ。」
この流れは、いつもの嫌な予感に辿り着きそう。何とか、いい流れに変化して欲しい。
「あの子が結界を壊そうとしてるわ。ユーリの名前を連呼してるから、リリも気づいてしまうかも。あっ、精霊王様が気づいて、物凄い顔をしているわ。ああ、チェリーとタイガが怯えて可哀想だわ。」
彼らの方を見てみると、見えない壁を叩きながら、俺の名前を呼ぶ彼女が見える。
そして、それを必死に宥める三人の幼馴染み。
楽しいピクニック中のビッガートル側は、昼食を楽しむリリをリヒトが上手く隠している。そして、眉間に深い皺を寄せ、遠くの彼らを睨み付けている精霊王様。それに、怯える可哀相な従姉弟がいる。
「これは、俺が行かないと駄目なヤツ?」
「ユーリが行かないと駄目なヤツね。」
折角、リリとの楽しいピクニックなのに、何故、俺がヒロインの相手をしないといけないんだ。
あっちには、攻略対象者が三人もいるんだぞ。それで十分だろう。
「あっ、早くしないと精霊王様が限界よ。」
「はぁぁ、分かったよ。ルミナも一緒に来てくれよ。何かあったら俺を守って。」
リリに気づかれる前に走って、彼らのところへ向かう。
走ってきた俺の姿に、勘違いした彼女の嬉しそうな顔が見える。
(回れ右して天使の元に帰りたい。)
何度も足が逆に向きそうになるのを、必死に我慢して、彼らの所へ辿り着いた。
「ああ、ユーリアス様、やっと会えたわ。こちらに居らしてると聞いて会いたかったの。私を見つけて急いで来てくれたのですね。嬉しいです。」
俺は、会いたくなかったけどな。既に、有り得ない勘違いをしているので、無表情のまま言葉を交わす。
「別に、アンジュ嬢に会いに来たわけではないですよ。勘違いしないで下さいね。セドリック殿下にオリヴァーとエリオットも、少しマズいことになってるから、ここから離れてくれませんか。」
後ろの方から、ひしひしと怒りのオーラが伝わってくる。精霊王様が、かなりご立腹だ。
「やあ、ユーリアス、折角のピクニックを邪魔して悪いね。私たちは、このまま帰ることにするよ。それで一つ確認なんだけど、もしかして、ここにルミナの例のものが用意されている?」
セドリック殿下も、ルミナの結界の事は知っている。俺はすぐに頷いた。
「やはりそうか。彼女は今回は入れないんだね。」
「そうですね。まさかとは思いますが、三人は大丈夫ですよね?」
念の為、確認しておく。幼馴染みの中に裏切者がいるとは思えないが、結界がちゃんと作動してるのかの確認にもなる。
「私たちは入れるよ。オリヴァー、エリオット見せて上げて。」
セドリック殿下の呼びかけに二人が俺の側まで移動する。セドリック殿下は彼女の側に居るが、体を半分だけ結界内に入れる。
拒絶反応は無く、結界が反応してるのは、アンジュ嬢だけだった。
「えっ?どうして二人はユーリアス様に近づけるの?私は、これ以上進めないのに、どうして。」
アンジュ嬢が、見えない壁を叩いたり、俺に向かって手を伸ばそうと躍起になっている。
「コルトブル男爵令嬢、もう諦めて帰りましょう。ユーリアスにも会えたから満足ですよね。」
エリオットが、若干投げ遣りに言いながら、結界から出る。
真面目なエリオットにしては、雑な対応だ。珍しい。
「ユーリアス迷惑掛けたな。ここは良いから、お前はもう戻れ。」
オリヴァーが、俺の肩に手を乗せて軽く後ろに押し返す。
「駄目よ!オリヴァー様、勝手なことを言わないで。ユーリアス様は、私とお昼を食べるのよ。ねえ、ユーリアス様、こちらへ来てください。」
自分が結界内に入れないので、俺が出ろと言うことか。
本当に、どうしてヒロインというものは、攻略対象者を自分の傍に置きたがるんだよ。
純粋なヒロインは、攻略対象者一人一人と交流するものじゃないのか。それとも、逆ハー狙いか。
どっちにしても、俺にとっては迷惑だ。
「はぁ、帰りたい。ルミナどうにか出来ないか?」
目の前で、オリヴァーと言い合いを始めたヒロインを見ながら、溜め息しか出ない。
「そうね。どうにも出来ないわね。何か、きっかけがあれば、現状が動くかもしれないわよ。」
ルミナの言葉に、何か引っ掛かる。
「きっかけ…?」
ヒロインと攻略対象者が揃えば、次に出てくる登場人物は…?
この流れは、今日イチ悪い状況では?
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次回も読んでもらえると嬉しいです。




