魔力器官の治療法 ⑦
話が終わると、精霊王様は、明後日のピクニックを楽しみに一旦帰っていった。
ルミナは、まだ難しい顔をして何かを考えている。
「セドリック、一つ確認よ。貴方、ベルはどうしたの?一緒に行動しているのではなくて?」
リリの従魔のはずなのに、最近はセドリック殿下に使われて、まるで殿下の従魔のようになってきている。
「ベルには、他の仕事を頼んでいて、ここには居ないよ。少し気になることがあって、調べてもらっているんだ。もしかして、彼の力も必要なの?」
ルミナが、深刻な顔をして頷く。
「ベルも一緒に連れていく方がいいわ。精霊王様は、何も言わなかったけど、貴重な花を守るために番人がいるのよ。」
ルミナの深刻な顔を見れば分かる。その番人は、俺たちだけでは対処出来ないのだろう。
大切な花を守るのだから、強いのは前提として、どんな相手なのか気になる。
「ルミナは、番人が誰か知ってるの?」
俺の質問に、ルミナは首を横に振る。
「知らないわ。前の番人なら知ってるけど、少し前に変わってるの。前の番人は…フェンリルよ。」
「えっ…フェンリル?まさか…。」
フェンリルって、うちの従魔のことじゃないよな。そういえば、ベルと出会う前のことは、何も知らない。
ベルがどこで何をしていたのか、彼は何も話してくれなかった。
「ユーリアス、違うわよ。ベルじゃないわ。」
俺の考えを読んで、ルミナが先に否定する。ベルじゃないってことは、他のフェンリルだけど、強さは多分、ベルと同等かそれ以上って事だよな。
「ベルの親族になるんじゃないかしら。フェンリルは、個体数が少ないし、親兄弟って事も多いのよ。」
まさかの親族。それじゃあ、やっぱり強いよな。それと同等の何かが、今の番人ってことか。
「本当は、精霊王様から話す予定だったのに、ピクニックとお土産に気を取られて、一番大事なことを伝え忘れるんだから、本当に、昨日の呼び出しは無駄だったわ。」
ルミナが不機嫌になって、尻尾をパンパンとリリの背中に打ちつける。
「イタタタ。ルミナ、痛いわ。精霊王様も、きっと楽しすぎて忘れちゃったのよ。明後日に会うのだし、その時に聞けば平気よ。だから、落ち着いて、怒ったら駄目よ。可愛いルミナは、笑ってる方がいいわ。」
リリが、優しくルミナの頭を撫でると、ルミナは大人しくなり、リリの頬に擦り寄る。
「ごめんなさい、リリ。つい尻尾でパシパシしちゃったわ。リリが、そう言うなら、明後日もう一度聞いてみましょう。」
リリは、そう言うけど、俺は少し気になっていた。相手が誰かによって、今回の花の採取の成功率にかなり影響する。
満月の夜は、ちょうど一週間後。時間もそんなに残されていない。
「セドリック殿下、ベルは今どこですか?呼び戻すことは可能ですか?」
「それが、コルトブル男爵領に先回りして向かってもらったんだ。今回、私たちがここに居るのも、コルトブル男爵領への通り道だからなんだよ。」
それなら、呼び戻すことは可能か。誰にお願いしよう。セバスなら、魔動車の操作も出来るし、彼にお願いしてベルを呼んできてもらう?
「私がベルを呼んでくるわ。私ならベルの場所もすぐに分かるし、明日には一緒に戻ってくることが出来るわ。セドリック、調査とやらは、この際、後回しでもいいわよね?」
ルミナがセドリック殿下に厳しい顔を見せて同意を迫る。
「いいよ。リリアーベルの事が優先だ。ルミナが呼び戻してくれるなら、その方が早いからね。」
セドリック殿下は、迷うことなくルミナの言葉に賛成する。
「いや!駄目だ!ルミナは、リリの傍を離れては駄目だよ。リリに何かあったらどうするの。ルミナはリリから離れないでくれ。」
俺は、魔力暴走のことが、頭をよぎり不安で胸が苦しくなる。ルミナが離れて、また同じことが起こったら、次も助かる保証はない。そんなの無理だ。
「ユーリ、私は大丈夫よ。ルミナならベルを見つけて連れてきてくれるでしょう。早い方がいいなら、ルミナにお願いしましょう。明日までに帰ってくるなら、ルミナもベルもピクニックに間に合うわ。」
リリが最高の笑顔で、俺の手を握る。大丈夫だと気持ちが伝わってくる。
「だけど、もし、また暴走したら?リリが苦しいのは、俺は、嫌だよ。リリに何かあったら、俺は、どうなるかわからない。」
俺の言葉を聞いても笑顔を崩さず、握る手には、力がこもる。リリの表情からは、微塵も不安が感じられない。
「私もユーリが苦しいのは嫌だから、ユーリを不安にさせることはしないわ。私は大丈夫よ。1日くらいなら、リヒトもいるし、お祖父様や叔父様も居るから平気よ。ユーリが心配するようなことは起こらないわ。」
可愛いリリを守るのが一番だが、可愛いリリを信じるのも大事なこと。
「分かったよ。ルミナが戻るまで、俺とリヒトが常に傍に居るからね。絶対に離れないから、それでもいい?」
「フフ、二人の騎士様に守られるなんて光栄だわ。ちゃんとルミナが戻るまで大人しくしてるから、そんなに心配しないでね。ユーリ。」
結局、ルミナがベルを呼びに行くことになり、早い方がいいと、そのままルミナは部屋から出ていった。
「リリアーベル、少しいいかな?君、先程の話だけど、魔力暴走を起こしたの?」
セドリック殿下が心配な表情でリリを見る。
「ここに来た時に、嬉しすぎて魔力が溢れちゃったんです。でも、ユーリやリヒト達みんなのお陰で、すぐに治まりましたよ。」
リリの言葉に、殿下の表情が心配から辛そうな表情へと変わる。
「リリアーベル、必ずユーリと共に花の採取は成功させる。もう、これ以上、君が苦しまないように、必ずやり遂げると約束しよう。」
セドリック殿下が、リリの髪に優しく触れる。少し、リリがピクリと体を震わせる。
「あの、セドリック殿下、本当にいいのですか?危険な事に、殿下を巻き込んでしまって、私は何も返せないのに…。今ならまだ、断ることも…。」
「嫌だ。」
リリの言葉に重なるように、セドリック殿下が言葉を被せてくる。
「必ずやり遂げると、今約束したばかりだろう。王子の言葉は絶対なんだよ。それでも、リリアーベルが、何も返せないと気になるのならば、そうだね。全て終わったら、王都に帰って後、私と二人で出掛けるのは、どうかな?」
セドリック殿下が、優しい笑顔に冗談混じりに、リリを誘う。
「そんなことでいいのですか?勿論いいですよ。」
リリの躊躇ない返答に、セドリック殿下の方が驚いて戸惑っている。
「えっ?いいの?二人だけだよ。ユーリアスも居ないんだよ。僕と君だけで街に出るんだよ?それでも、いいの?」
「いいですよ。私と殿下の二人でお出かけですよね?それだけで、今回のお礼になるとは思えないのですが、勿論、良いですよ。」
リリの言葉に、殿下の顔が赤くなる。完全に王子の仮面が剥がれて、素に戻っている。
そんな反応するなんて、やっぱりそういうことだよな。
「リリ、少し考えて、二人で出掛けるなんて俺は、反対だよ。そんなのデー…。」
「ユーリアス黙ってくれる?リリアーベルが、今回のお礼に付き合ってくれると言ったんだよ。それ以外の意味なんて無いのだから、別にいいよね。」
殿下が、一瞬で王子の仮面を被り、必死で俺の言葉を止めてくる。リリが、狙われている。二人で出掛ける意味に、気づいてリリ。
「そうだよ、ユーリ。危険なことをお願いするのだから、一緒に出掛けるくらい、良いでしょう。」
「うん。」
ああ、リリのへにゃとした可愛い笑顔に、思わず頷いてしまったぁぁぁ。
「ありがとう、ユーリ。助けてくれる人には、ちゃんとお礼を伝えないとね。セドリック殿下、危険なことなのに、手伝うと言ってもらい、正直とても助かります。どうか、よろしくお願いします。」
リリが、丁寧に頭を下げて、セドリック殿下へ感謝の気持ちを伝える。
「大切な君の役に立てることが、私は嬉しいんだよ。だから、そんなふうに、頭を下げないで、リリアーベル。」
ここに来て初めて、緊張の解けた優しい笑顔を見せる殿下。
その殿下の顔が、うっすらと赤く色づいているのは、リリ以外みんなが気づいていた。
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