魔力器官の治療法 ⑥
機嫌の良くなった精霊王様と、お茶を楽しみながら待っていると、セドリック殿下の到着が伝えられた。
「精霊王様、セドリック殿下が、いらっしゃいました。こちらに御案内しても宜しいですか?」
お祖父様が、緊張の面持ちで精霊王様へ尋ねる。
「早かったな。すぐに連れてこい。」
精霊王様は、リリや俺たちと話していた時の笑顔が消え、底冷えするような冷たい表情に変わる。
「精霊王様、そんな恐い顔は駄目ですよ。約束したでしょう。セドリック殿下を驚かせちゃ駄目です。精霊王様は、素敵なお顔をしてるのだから、笑顔が似合いますよ。」
リリが、精霊王様の表情に対して、即座に注意をする。すると、リリの言葉を聞いて、精霊王様の表情から怒りが消えて、優しい笑顔になる。
「リリアーベルに言われては、笑顔を見せるしかないな。リリアーベルは、笑顔が好きか?」
「勿論、みんなが笑顔で居てくれる方が嬉しいわ。」
はあ、可愛いリリらしい答え。天使で可愛いリリの言葉は、神のお告げのように心に染みて、どんな人の心も笑顔にする。
「それなら、私もリリアーベルの為に、笑っているとしよう。さて、たっぷりと話をしようじゃないか。」
コンコンとドアを叩く音が聞こえ、合図をすると、セドリック殿下が入ってきた。
「精霊王様、お久しぶりです。セドリック・オーキナンド、只今参りました。」
少し緊張した様子の殿下が部屋に入ると、楽しかった雰囲気が、一瞬で重い空気に変わる。
「まずは、そこに座れ。話がある。お前も分かっていると思うが、リリアーベルの体のことだ。」
リリとの約束通り、笑顔で話しているが、威圧感が凄すぎる。普通の人なら耐えられず恐怖で倒れているかもしれない。
だが、そこは流石、王族と言うべきか。セドリック殿下からは、緊張は伝わってくるが、精霊王様からの圧にも動じず表情一つ変えない。
「それに関しては、精霊王様の大切な愛し子を守れず申し訳ございません。ただ、私もリリアーベルを傷つけられたことは許せないと思っております。犯人も必ず見つけ出し、この手で公正に罰を与えます。だから、この事はもう暫く、私に任せてもらえませんでしょうか。」
セドリック殿下の真摯な言葉と、深く頭を下げる様子に、リリの顔から可愛い笑顔が消え、戸惑いと驚きの表情を見せる。
王族が、頭を下げるなんて普通じゃ有り得ない。ましてやそれが、自分に関係することなのだから、戸惑うのも無理はない。
そんなリリの様子を見て、精霊王様の眉間に皺が寄る。怒りではなく、不機嫌な顔を見せる。
「リリアーベル、何故そんな顔になる。こいつの態度が気に入らないのか?やはり、私が動いた方がいいか。」
リリが慌てて、精霊王様を止める。
「精霊王様、違います。ちょっと驚いただけです。セドリック殿下は、何も悪くないのに、謝るなんて、そんなこと…。私の方こそ、ごめんなさい。」
リリが、セドリック殿下に向かって頭を下げる。それを見て、精霊王様の不機嫌さが、更に増す。これは、マズい。
「セドリック殿下も、リリも、二人とも頭を上げて、この話は一旦終わりです。精霊王様は、リリの魔力器官の治療法について、話があって殿下を呼び出したんですよ。まずは、その話を聞くのが大事でしょう。」
セドリック殿下も、治療法の言葉に顔を上げ、精霊王様を凝視する。
正直、俺は早く治療法の話が聞きたくて、精霊王様の機嫌が悪くなるのは避けたい。
「そうだったな。魔力器官の治療法だが、一応、思い当たる方法が、あるにはあるのだが…。」
言葉の切れ悪く、精霊王様が言いにくそうにしている。
「精霊王様、はっきり言って上げて。この子達なら大丈夫。どんな相手でも負けないで、自分達で解決してしまうわよ。」
ルミナが横から、気になる事を言う。『どんな相手でも負けない』って、一体どんなヤツを相手にさせようとしてるんだろう。
「実はな、どんな病でも怪我でも有りとあらゆる異常を治してしまう花が有るんだよ。名前は、月光炎花と言う。」
初めて聞く名前だが、俺は草花に詳しくない。他の人は知ってるかもしれないと周囲を見るが、みんな初めて聞く名前のようで難しい顔をしている。
「その名の通り、満月の日に、月の光を浴びると炎の花を咲かせる。そして、自分の炎で燃え尽きるまで咲き続け、そして枯れていく面白い花だ。」
精霊王様の言葉に、俺の中に一つ疑問が起こる。
「炎で燃え尽きる?炎と言うことは、触れることは可能なのか?」
自分自身を燃やしてしまう炎なら、触れることは可能だろうか。もし、触れられないなら採取が出来ず意味がない。
それとも、燃え尽きて枯れた物が、薬になるのだろうか。
「至極当然の疑問だな。炎の花は、そのままだと触れることは出来ない。そして、咲き続ける時間は、ほんの1~2分程だ。その間に、花は燃え尽きて無くなる。効果があるのは、勿論、咲いた花の方だ。燃えて枯れたものでは意味がない。」
触れることが出来ず、数分で燃え尽きるなら、花を採取することは不可能だ。
(精霊王様が、言葉を濁すのもわかる。これでは、治療法は有って無いようなものだ。)
折角、治療法が見つかると期待したのに、振り出しに戻ってしまい、ガックリと肩を落とす。
「ユーリアス、そんなにガッカリするな。そのままだと触れないが、手はあるのだよ。水属性の魔法だ。広大な月光炎花の咲く花畑に一斉に魔法をかけて、炎をそのまま凍らせる。そうすれば触れられるし、薬としての効果も保ったまま採取できる。」
水属性の魔法。俺も少しなら魔法が使える。しかも、俺は水属性だ。
「俺がやる。水属性なら俺が出来る。」
俺が、リリを救えるかもしれない。期待が高まる。助けられるかもしれない喜びが溢れる。
「ユーリアス、問題は、広大な花畑に一斉に魔法を掛けなければいけないことだ。一つでも炎が残れば、そこから炎が広がる。だから、莫大な魔力がいるんだよ。」
期待が高まった瞬間、どん底に落とされる。俺の弱い魔力では、花畑全体に魔法を掛けることは無理かもしれない。
(ああ、どうする?)
目の前に解決策は有るのに、そこに手が届きそうで届かない。
でも、リリのために諦めることはしたくない。
「それなら、私がユーリアスと共に魔法を行使します。私も水属性の魔法は使えますから。」
セドリック殿下の力強い声に、一斉に視線が集まる。
「セドリック殿下、協力してくれるのですか?」
「勿論だよ。その為に私は呼ばれたのだろう。そうですよね?精霊王様。」
精霊王様が、眉間に皺を寄せて苦い顔をする。
「ユーリアスだけでは、魔力が足りないからな。お前は魔力も人よりは多いようだし、魔法もそれなりに使えるだろう。それでも上手くいくかは分からない。危険も有るが、王族のお前がそこまで出来るのか?」
セドリック殿下を試すように、精霊王が問いかける。
「リリアーベルの為になるなら、私はできる以外の答えは持ち合わせていません。」
セドリック殿下の言葉に、精霊王様の表情が少しだけ和らいだ。
「それでは、次の満月の夜に、花畑へ案内してやる。当たり前の事だが、この花の事は他言無用だ。いいな。」
これで、無事にリリの魔力器官の治療ができる。
そう、思って安心したのに、そんな単純な物ではなかった。
この世界は、どれだけ俺たち双子に厳しい世界なんだ。
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