魔力器官の治療法 ④
「ちょっと、また勝手に出てきちゃったわ。精霊王様、まだ出てきちゃ駄目って言いましたよね?どうして、我慢が出来ないのかしら。私が二人に話してから、出てくる予定だったでしょう。もう、昨日の話し合いは何だったのよ。そのせいで、リリが大変なことになったのに、やっぱり無視したら、よかったわ。」
ルミナが、尻尾をペシペシしながら、怒りを爆発させている。
そんなルミナに、困ったような顔をした精霊王様が、お土産を催促する手を伸ばしてくる。
「こればかりは仕方ないよ。だって、みんなが楽しそうで、私も仲間に入りたかったんだよ。それに、愛し子が近くに居るのだから、会いたくなるのは当然だろう。あとね、私もお土産が欲しかったんだよ。リリアーベル、私には無いのかい?」
突然の精霊王出現に、ビッガートル家の皆が目を丸くして驚いている。
俺とリリは、これが二度目の事なので、少し驚いたけど、ルミナに同情する。
こんな簡単に出てきて良い人では無いだろうに、ルミナも苦労するな。
自由な精霊王様は、ルミナの怒りにも、驚くビッガートル家のみんなにも構わず、ずっとリリに向かって両手を差し出している。
「えっと…御機嫌よう、精霊王様。お土産ですよね。あるにはあるのですが、精霊王様が、いらっしゃるとは思わず、部屋に置いてきてしまいました。」
申し訳なさそうに話すリリに、ショックを受けた精霊王様が、両手を前に出したまま、目尻を下げる。イケメンの悲しい表情は、それはそれで絵になる。
特に精霊王様自身が、うっすらと光輝いているから、表情だけは映画のワンシーンみたいだ。両手を出しているところは、少し笑えるけどね。
「そんな…私のお土産……。」
泣きそうな顔の精霊王様に、ルミナの容赦ない言葉が突き刺さる。
「そんなの当たり前でしょう。さっきまで居なかったのだから、持ってくるわけないし、今はビッガートル家のみんなとの時間なんだから、精霊王様は後回しよ。精霊王様は、一度帰ったらどうかしら。」
怒ってるからか、ルミナの言葉が冷たい。もし、リリに同じこと言われたら、俺なら泣いてしまいそうだ。
「ちょっと、ルミナ酷いよ。約束を破ったのは悪かったけど、帰れなんて酷すぎる。折角、会いに来たんだから、私もリリアーベルとユーリアスと話したいよ。それから、後でお土産も貰ってから帰るよ。」
どうしても、お土産は欲しいみたいだ。まさかとは思ったが、リリの言う通りに準備していてよかったな。
ガーデンパーティーの事があるから、精霊王様がいつ現れても良いようにと、精霊王様のお土産も一応用意してある。
こんなに直ぐに現れるとは思わなかったけど、無駄にならなくて良かった。
「ルミナ怒らないで、折角、私とユーリに会いに来てくれたのだから、一緒に楽しみましょう。ちょうどお茶の時間だったでしょう。お祖父様、精霊王様も一緒に良いですか?」
「勿論だよ。」
驚きながらも、お祖父様は快く了承してくれた。
優しいリリの言葉を聞いて、精霊王様の表情が笑顔に変わる。若干、光も強くなった?
どうやら、この光は感情に左右されるらしい。
「リリアーベルは、優しいね。ああ、君たちとお茶をする日が来るなんて、私は嬉しいよ。暫くは、ここに居るんだろう。ここはね、私にとっても大切な場所なんだ。」
何かを懐かしむように、精霊王様が遠くを見つめる。
「私とユーリも、ここが大好きなんです。沢山の自然と可愛い動物達に、優しい人ばかりで、素敵な所なんですよ。ねえ、ユーリ。」
リリに同意を求められて、俺も頷く。
「そうだね。ここは、人も街も穏やかで、優しい時間が流れていて、心がとても落ち着くよ。」
王都の賑やかさも嫌いじゃないけど、この領地の穏やかな雰囲気も好きだ。
「そう言ってくれると、私たちも嬉しいな。ありがとう。」
レオナルド叔父様が、嬉しそうだ。当主として、領地の事を良く言われるのも、育ってきた場所を褒められるのも嬉しい事なのだろう。
「そうだ、リリアーベル。体調も戻ったのであれば、私も一緒に、湖に行きたいな。ピクニックをするのだろう。私も久しぶりに湖に行ってみたい。」
以前、話していた内容を覚えていたようで、精霊王様が瞳をキラキラさせている。
「大勢の方が楽しいので、精霊王様も一緒だと嬉しいわ。今すぐは無理ですが、明後日にはどうですか?ユーリ、明後日なら私も外出してもいいよね?」
リリの体調をみて決めていく予定だったが、こうなったら仕方ないか。
リリの可愛らしい、その期待に満ちた瞳で見つめられたら、駄目なんて言えない。
「リリの体調が良ければ、明後日に行こう。だから、リリも今日と明日は無理しないで、屋敷で大人しく過ごしてね。約束だよ。」
「ちゃんと約束するわ。フフ、精霊王様との初めてのピクニック楽しみね。」
今回、初の外出になるからリリも嬉しそうだ。本当なら、今日はチェリーちゃんとお出掛けの予定だった。それが無くなってしまい、二人とも内心ではガッカリしていた。
ピクニックは、一番楽しみにしていたから何が何でも連れていってあげたい。
「明後日だな。私も楽しみにしているよ。では、楽しい話しは、一旦これで終わりにしよう。」
急に、その場の空気がピリッと凍る。
「それで、リリアーベル。一つ聞きたいのだが、その体はどうしたのだ?何故そんなに傷ついている。これは、どういう事だ?」
先程までの、お土産を欲しがる子供のような姿とは別人だ。
怒気を含んだ低い声に、顔から笑顔が一瞬で消えた。冷たい表情に、抑えきれない怒りの感情が溢れだし、ピリピリと空気が振動する。その圧倒的な存在感に恐怖を感じる。
「私は言った筈だ。二人に危害を加える者が有れば、制裁を下すと。それを、おまえ達の国の王子は何と言った?二人を守ると約束したのではなかったか。約束が破られたのなら、私自ら動くと言ったはずだ。」
精霊王様の怒りに、その場にいる全員が恐怖で動けない。
先程まで、辛辣な言葉を向けていたルミナも、精霊王様の圧倒的な怒りに言葉が出ない。
「確か、昨日の体調不良も魔力過多が原因だったか?魔力器官が問題なければ、起こり得ない症状だな。ルミナがいて、魔力制御が出来るリリアーベルなら、魔力が溢れることも無いだろう。」
そこで、精霊王様が一呼吸おいて、考える様にして一点を見つめる。
「一体、誰がリリアーベルを傷つけた。いや、そうだな。この際、そんなことは、どうでも良い。精霊の祝福と私の印のついた愛し子を傷つけたのだ。ヒト族全てで罪を償うしかあるまい。」
精霊王様の言葉に、チェリーちゃんが小さな悲鳴を上げる。
お祖父様や叔父様たち大人も息を呑む。
このままでは、本当に精霊王様の怒りで国が無くなるかもしれない。
「精霊王様、待って下さい。私の体の事で、関係ない人まで巻き込むのは止めてください。私は、大丈夫です。ちゃんと自分で魔法を取り戻します。だから、罰を与えるなんて言わないで。」
精霊王様の最後の言葉を聞いたリリが、慌てて彼の元に駆け寄る。
恐怖で動けなかったはずなのに、また誰かのためになら、関係なく行動する。本当に強くて優しい人。
「リリの言う通りです。必ず治してみせます。リリの魔力器官の治療法は必ず見つける。リリが、大好きな魔法を使えるようになるまで諦めない。それに、犯人は、俺が必ず見つけて人間の法で罰します。だから、精霊王様は、俺の役割を取らないで下さい。」
リリにだけ言わせては、リリを守る騎士として失格。俺が、リリの魔力器官を治すと誓ったんだから、精霊王様は手出し無用だ。
「二人とも、それで良いの?私がやった方が早いよ?」
「「勿論です。ちゃんと自分で解決します。」」
リリと言葉がシンクロする。それを聞いた精霊王様が、プッと吹き出す。
「君たち双子は面白いね。わかったよ。今回は、二人に免じて手を出さないよ。でも、このまま、リリアーベルの体が戻らなかったら、君たちが何と言おうと制裁を下す。それを覚えておくんだね。そうそう、あの王子にも伝えておいて。ここに居るだろう。」
(誰が居るって?)
「精霊王様、セドリック殿下は、ここには居ませんよ?」
リリが不思議そうな顔でそう告げると、精霊王様も不思議そうな顔で言葉を返す。
「リリアーベル?何を言っている。あいつも、ここにいるぞ。」
意味が分からずリリと二人で顔を見合わせる。すると、顔色悪くしたお祖父様が、信じられないことに、精霊王様の言葉を肯定した。
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