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感情が大きく動いた後は要注意



 タイガに呼ばれて慌てて部屋を出ると、隣の部屋の前では、チェリーちゃんがリリを起こしている最中だった。


「リリ姉様!リリ姉様、チェリーよ。夕食のお迎えに来ましたよ。リリ姉様。」


 何度か扉をノックして、声を掛けているが、中からは返事どころか物音一つしない。


(疲れてるようだったから、まだ寝てるんだな。)


 寝起きは悪い方ではないが、珍しく起きてこないようだ。


「チェリーちゃん、リリは俺が起こしてみるよ。先に食堂で待っててくれる?」


「ユーリ兄様…、分かりました。タイガと先に行って待ってますね。」


 リリと一緒が良かったのか、少しガッカリしたチェリーちゃんだったが、タイガと共に食堂へと向かう。


「あっ、待って二人とも。悪いけど、リヒトにも声を掛けてくれる?俺達が遅かったら、先に初めてて良いからね。」


 リリが目覚めて動けるまでに、少し時間が掛かるかもしれないので、二人にリヒトを任せることにした。


「分かった。俺が声を掛けるよ。リヒト様も一緒に先に行って待ってるね。」


 タイガが、リヒトの部屋へと向うのを確認し、俺はリリを起こす為に隣に向かう。


 部屋をノックしてみるが、やはり返事はない。


「リリ、開けるよ。」


 部屋の中は薄暗く、人の気配は無かった。


 取り敢えず、確認しやすいように明かりをつけると、一瞬で部屋が明るくなる。部屋の中を見渡すと、ベットが小さく盛り上がっていた。


「リリ、そろそろ起きて、夕食の時間だよ。」


 ベットの側に腰かけて、小さく膨らんだ布団を優しく揺する。


「……うぅ……ユーリ…?」


 小さな可愛らしい声が聞こえるが、何かおかしい。


「リリ?ごめん、少し、布団を捲るね。」


 そっと、布団を捲って見ると、猫みたいに小さく丸まったリリの姿が目に入る。

 いつもなら、その可愛さに叫びたくなるが、今は別の意味で叫びそうだ。


「リリ、どうした、具合悪いの?あっつ…熱があるのか。まさか、魔力暴走?」


 リリの体に触れると、驚くほど熱くて、見ると顔も真っ赤になっている。体を小刻みに震わせ、呼吸も荒い。


「ルミナが…居なくて……用があるからって……まだ…帰って…来ないの。」


 苦しそうに息をしながら、途切れ途切れに話す。

 そういえば、ルミナは屋敷に着くと、直ぐに用が出来たとリリから離れていた。


(まだ、帰って来てないのか。)


「リリ、俺が一旦魔力を吸収するから、少しだけ我慢してね。」


 俺の体では、吸収できる魔力量も多くはなく、気休めにしかならないが、今は苦しそうなリリを少しでも楽にしてあげたい。


 リリの手を握り、魔力を吸収する。驚くほど多くの魔力が一気に流れてくる。

 すると、直ぐに俺の体の限界が来てしまう。


(なんて、ポンコツなんだ。こんなの全然足りない。)


 うっすらと目を開けたリリが、俺を見て弱々しく笑う。


「ありがとう、ユーリ。だいぶ…楽になったよ。もう…平気だから……ユーリ…もう止めて…。」


(嘘だ。まだ苦しいくせに…)


 手を離そうとするリリの手を強く握る。ルミナが居ないなら、他の誰かに頼むしかない。


 リヒトが肌身離さず持っていることを祈って、通信用魔道具でリヒトを呼び出す。


(頼む。リヒト気づいてくれ。)


 最近のリリは体調も良くて、余りにも元気で普段通りだったから、魔力過多症の事を失念していた。

 いつもはルミナや友人達が交代でリリの魔力吸収を定期的に行っていたから平気だっただけ。

 夏休みに入ってからは、ルミナやベルやリヒトが魔力を吸収していたし、足りない分は魔道具を最大限利用していた。

 今日も、それで大丈夫な筈だったのに、疲れと従妹弟に会った喜びで、魔力に何か影響したのかもしれない。


「ユーリ…ユーリが、痛いの…やだ。手を…離して…。」


 泣きそうな顔のリリが、手を離してと懇願する。それを俺は拒絶し続けた。


「駄目だ。まだ平気だから、リリは黙って」


 俺の吸収した魔力なんて、ほんの少しだけだ。リリは、こんなの比べ物にならないくらいの魔力を、小さな体でずっと受け止めている。


(そろそろ、本当にマズいかも…)


 限界の限界を超えそうになったその時、部屋の扉が勢いよく開かれる。


「ユーリアス、大丈夫か!」


 通信用魔道具で送った『助けて』の文字を見て、リヒトが来てくれた。


「リヒト、良かった。リリを頼む。魔力が止まらないんだ。」


 俺とリリの様子を見て察したリヒトが、直ぐにリリの手を取り、魔力を吸収する。


「あとは俺が引き継ぐ。ユーリアス、大丈夫か?もし動けるなら、他の人にも声をかけてくれ。」

 

「平気だ。リヒト頼んだよ。直ぐ戻る。」


 リヒトがリリの魔力を吸収していくと、少しずつリリの体の震えも止まっていく。

 それを見て、俺も気合いを入れて立ち上がり、食堂へと全力で走る。


 そこには、ビッガートル家のみんなが集まっている。魔法師としても力のある彼らなら、きっとリリを助けられる。


 食堂に飛び込んだ俺を見て、みんな驚いた様子だったが、事情を知ったお祖父様とレオナルド叔父様が、リヒトと共に交代でリリの魔力を吸収し、何とかリリの魔力は落ち着いた。



いつもの方も、初めましての方も読んでいただき、ありがとうございます。

 

 たくさんの方に読んでもらえて、とても嬉しく思います。これからも、よろしくお願いします。

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