ビッガートル領 ①
「ユーリ、リヒト、見て。牛がいるよ。」
リリが瞳を輝かせて、目の前に広がる草原を指差す。そこには、沢山の牛が放牧されており、草を食べたり、歩き回る牛が見える。
「本当だね。牧場が見えてきたから、もうすぐ屋敷に到着するかな。」
「リリアーベルは、ここに来る度に、牛を見て感動しているな。」
リヒトが、はしゃぐリリを見て、可笑しそうに笑う。
「だって、王都じゃ見られない光景でしょう。牛やヤギさんを見ると、ビッガートル領に来たんだなって嬉しくなるの。」
嬉しくてはしゃぐリリが、可愛すぎる。
リヒトが言うように、リリはこの牧場を通る度に、初めて見たかのように、嬉しそうに牛がいることを報告してくれる。
その姿が、いつも可愛すぎて、その笑顔を引き出してくれた牛に、俺は心の中で、密かに感謝を伝える。
「俺は、リリが牛を見つけた瞬間の、その可愛い姿を見ると、ビッガートル領に来たんだなって嬉しくなるよ。」
「そうなの?それじゃあ、次に来た時も牛を見つけたら教えてあげるね。」
ああ、可愛い。癒される。この天使の笑顔何なの。
久しぶりのビッガートル領に、リリも嬉しさで笑顔の輝きが増している。
学園での出来事や、この間の姉弟デートでも邪魔が入ったし、少し前までリリも何だか元気がなかった。
俺が何かしたのかと、不安でルミナに相談したら、呆れられて尻尾で思い切り叩かれた。
ルミナからは、心配しすぎと言われたが、リリが元気がないと、俺まで元気が無くなる。
俺の元気の源は、リリが幸せなのが一番で、その時に見せる笑顔なのだから、リリには笑っていてもらわないと困る。
「チェリーちゃんもタイガくんもお土産喜んでくれるかな。」
リリの可愛さをじっくりと堪能していると、少しだけ不安そうなリリの声が聞こえた。どうやら、お土産が気に入ってもらえるか心配な様だ。
魔動車のトランクの中には、ビッガートル家の皆へのお土産が、たくさん詰まっている。
お土産選びの時に、リリは皆の事を一生懸命考えて選んでいたが、気持ちが強すぎてあれもこれもと、たくさん買い込んでいた。
実際、魔動車に入るか不安だったが、何とか全て収納することが出来た。
「リリが選んだ物だから、きっと喜んでくれるよ。」
「そうだったら嬉しいな。早く皆に会いたいわ。」
リリが待ちきれないとばかりに身を乗り出して、窓から外を覗く。
「リリ、危ないから顔は出さないでね。」
「もう私は、小さな子供じゃ無いのよ。」
俺の方を振り向いて、ぷくっと頬を膨らませて怒るリリに、リヒトが吹き出して笑う。
「子供じゃないけど、その顔は小動物みたいだ。リリアーベルは可愛いな。」
リヒトが、リリの頬を指でつつくと、リリの顔が真っ赤になった。
「そ、そ、そういうのは…悪い男の人がするんだって、ユーリが言ってたよ。」
真っ赤になった顔を誤魔化すように、また外を覗くリリが、隣に座る俺の袖をぎゅっと掴んだ。
(どんな感情だ?恥ずかしいけど、嬉しい?それと不安と混乱?)
リリの複雑な感情が伝わってくる。今までも、リヒトの行動に戸惑って真っ赤になることはあったが、それだけだった。
リヒトの行動が、リリにとって何かしらの意味の有ることに変わってきている?
「酷いな、リリアーベル。俺が、悪い男に見えるの?」
リヒトの言葉に、リリが咄嗟に窓から視線を外し、彼を見てしまった。
その瞬間、袖を掴む手に力が入り、引っ張られる。これは、救難信号だな。
「リヒト、余りリリをいじめるな。リリには過剰な接触と言葉は禁止だと言っただろう。それに、俺からすれば、リリに近づく男は、みんな例外なく全て悪い男だ。」
「アハハ、確かに、ユーリアスから見たら、みんなそうだな。」
また、リヒトが笑い出す。今日は、よく笑うな。リヒトも久しぶりの旅行に浮かれているのかもしれない。これは、危険だ。
「何だか…リリの事が、心配になってきたな。旅行は、人を変える。リリ、絶対に一人になっちゃ駄目だよ。必ず俺を呼んでね。間違ってもリヒトは駄目だよ。」
リリの小さな体を抱きしめて、リヒトの視界から見えないように隠す。
王都から離れたら安心だと思っていたが、そうじゃなかった。
俺にとっては安心でも、可愛いリリにとっては、どこでも狙われる危険がある。
「リリは可愛くて純粋だから、悪い男に騙されないように、俺の言ったことをちゃんと覚えておいてね。」
「分かったわ。ユーリに言われたことは忘れないよ。」
抱きしめる俺の腕を両手で掴んで、上目遣いで真面目に返事する可愛い姉。いや、素直すぎる。
そんなリリの表情が、余りに可愛すぎて悶絶する。
「リリの事は俺が守るからね。」
最近、乙女ゲームに休みが無いことが発覚したのだ。
もう、何があっても驚かない。ちゃんと対応してみせる。
気持ちを引き締め、リリを守ると心に誓った所で、ビッガートル家の屋敷についた。
さて、お出迎えはいつものメンバーかな。会えるのが本当に楽しみだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ただ楽しむだけじゃ、双子の夏休みとしては物足りない?ユーリが望まなくても、あちらの方からやって来る。頑張れユーリ。負けるなユーリ。




