可愛い姉と姉弟デート
魔動車に乗り込み、街へと向かう。リリと話す楽しい時間に、あっという間に目的地に到着した。
「リリ、約束して。何があるか分からないから、必ず俺と手を繋いでいること。いい?」
魔動車から降りる前に、リリと約束する。この間の花祭りでは、リリから離れていたことで、リリの咄嗟の行動に対応できず、危険な目に遭わせてしまった。
あんな失態は二度と起こさない。今日は1日リリから離れないし、絶対に手を離さないと決めた。
「手を繋ぐのはいいけど、護衛も居るのだし、彼らを信じましょう。だから、ユーリもちゃんと楽しまないと駄目よ。約束して。いい?」
リリからも、嬉しい約束事が告げられる。
俺が、リリの安全ばかりを気にしているから、心配して言ってくれたんだな。それに、一緒に楽しみたいという純粋な願い。
可愛くて優しい天使のお願いには、頷く以外の答えは無いだろう。
「分かってるよ。今日はリリとの待ちに待ったお出掛けなんだから、思い切り楽しむよ。だから、リリも俺から離れないでね。」
魔動車のドアを運転手が開けてくれる。先に俺が降りて、エスコートのために手を差し出すと、小さな可愛らしい手が触れた。
「ありがとうユーリ。私も今日は淑女らしく、貴方にエスコートして貰うわ。それじゃあ、まずは何処から行く?」
降りた瞬間に、瞳をキラキラと輝かせて、右に左にと視線を忙しなく動かす。
淑女らしくと言った側から、今にも走り出してしまいそうで、リリの手をしっかりと握りしめる。
はっと気づいたリリが、慌てて淑女の仮面を被るが、街の楽しそうな様子には勝てず、直ぐに仮面は剥がれた。
手を繋いで歩きながら、リリの興味は沢山のお店に集中している。従姉弟達へのお土産選びに一生懸命だ。
「ねえ、あっち、あのお店はどうかな?ユーリ行ってみましょう。」
リリが、早く早くとグイグイ手を引っ張る。
「リリ待って。お店は逃げないから、ゆっくり行こう。」
まるで子リスみたいに可愛らしくて、引っ張られる手に思わず力が入る。
余りの可愛さに、街中なのに思わず抱き締めてしまいそうになる。どうして、リリはこんなに可愛いのだろう。仕草の一つ一つに可愛いが詰まっている。俺の姉は世界一可愛いと改めて実感する。
魔動車を降りてから、常に男の目がリリに向いているのが分かる。
先程も、リリの可愛さに見惚れて街路樹にぶつかっている男がいた。
リリが可愛くて見惚れてしまうのも理解できるが、男の不躾な視線は許せない。
リリに視線を向ける男共には、睨みを利かせて牽制するのも忘れてはいけない。
「ユーリ、どうしたの?何だか顔が怖いわ。もしかして、私が行きたい所ばかりだから、嫌になった?次は、ユーリの行きたい所に行きましょう。何処に行く?」
牽制するのに集中し過ぎて、リリを怖がらせてしまった。しかも、勘違いから悲しませるなんて、有ってはならないことだ。
今日はリリと楽しむと約束したのに、俺は本当に駄目な弟だ。
「ごめんね、リリ。違うんだよ。リリとの時間は本当に楽しいよ。ただ、リリを見る男の視線が気になって牽制してただけなんだよ。リリの行きたい所で俺も楽しいから、だから、またリリの行きたい所を案内して欲しいな。」
俺の言葉に、リリがホッとした顔を見せるが、直ぐに呆れた顔になる。
「もう、今日は楽しむことって約束したのに、約束守らないなら私も約束破るわよ。」
そう言うと、リリが俺から手を離そうとするので、慌てて握り返す。
「リリ、ごめんね。もう、絶対に余所見しない、リリとの時間を素直に楽しむから、手だけは離さないでお願い。」
必死に謝る俺に、リリが疑いの目を向けるが、リリを悲しませたくないので、今度こそ余計なことは気にしないと誓う。
「私だって、他の女性がユーリを見てる事には気づいているのよ。それでも、気づかない振りをしてるの。今日は、ユーリと楽しむ事が一番大切だと思ってるのよ。だから、ユーリも私とのお出掛けに集中して。あとね、ユーリは、自分が思ってるより数千倍も格好いいんだから、ちゃんと自覚してよね。ユーリの方こそ誘拐されちゃうわよ。」
いや、なに。この可愛い天使。もう、絶対にリリ以外は気にしないって誓う。
「俺よりもリリの方が可愛いからね。それから、俺はリリ以外について行かないから、誘拐なんてされないよ。」
「そんなの分からないわよ。綺麗な女性に誘われたら、私なんて構わず付いていくかもしれないでしょ。」
(そんな日は、一生来ないと思うよ。)
頬を膨らませて拗ねる可愛い姉を引き寄せ、少し屈んで視線を合わせる。
「リリ、本当にごめんね。今からちゃんと姉弟デートに集中するよ。男の視線も…許せないけど、リリの方が大事だから気にしないように我慢する。だから、許してくれる?」
リリが拗ねた顔から、必死に嬉しさを隠した顔になり、誤魔化すようにプイッと顔を横に向ける。
「仕方ないから許してあげる。今から、ちゃんと楽しむこと。約束ね。それじゃあ、お詫びにユーリのお薦めの場所に連れて行って。」
天使の笑顔に戻ったリリが、何処に行くのかと、期待の目で俺を見る。
「これは、責任重大だな。えーと、次はお祖父様のお土産を探すんだっけ?それじゃあ、万年筆なんてどうかな?良いお店を知ってるんだけど、リリはどう思う?」
「万年筆ね。素敵だと思う。きっとお祖父様も喜ぶわよ。レオナルド叔父様とお揃いも良いかも。」
リリも賛成してくれたので、俺のお薦めのお店までリリを案内する。
相変わらずリリを見る男の目は多いが、もう気にしない。
そこからは、二人でお祖父様とレオナルド叔父様へのお土産を選び、結構素敵な良い物を選べたと思う。
二人で沢山のお店を回り、ビッガートル家の皆へのお土産を全て買うことができた。
既に時間はお昼を過ぎている。夢中で選んでいたら、昼食を食べ損ねてしまった。
「ユーリ、私ね、お腹空いちゃった。」
「俺もだよ。どこか入ろうか。」
「それなら、フルーツタルトのお店が良いな。スイーツだけじゃなくて、食事も美味しいんだって、リック兄様が言ってたの。」
(家を出る前に話していたカフェか。)
行きたいと話すリリが可愛かった。絶対に連れて行こうと決めていたから丁度良い。
「そこにしよう。俺も気になるし、リック兄様のお薦めなら間違いないからね。」
「やったぁ。ユーリ、早く行こう。」
きっと、リリの頭の中はフルーツタルトで埋め尽くされているだろうな。
手を引き、俺の前を待ちきれないとばかりに急いで歩くリリに、ほっこりする。
(一生懸命歩く姿が、ハムスターみたいで可愛いな。)
リリの一歩は小さくて、俺の一歩だと簡単に追い越してしまう。
なるべくリリを追い抜いてしまわないように、ゆっくり歩くが、リリは小さい歩幅で俺を先導しようと小走りだ。
それが可愛くて、にやける顔を何とか我慢する。
「あっ、多分あそこだわ。」
どうやら、お目当てのカフェを見つけたようだ。
リリの繋ぐ手にも力が入る。引っ張る力も強くなった。
(早く行きたくて仕方ないんだな。)
リリの楽しみの具合が全て伝わってきて、可笑しくて笑ってしまう。
それでも、気づかずリリはカフェに向かって一直線に向かう。
(タルトが美味しかったら、お土産に持って帰れるか確認してみよう。)
そんな楽しい事を考えながら、リリについていくと、媚びた甘えた声が俺を呼び止める。
(なんで、ここに居るんだよ。)
乙女ゲームは、夏休みでも関係なく進行中だった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。




