早くこいこい夏休み ③ (その前にヒロインの猛攻)
(一体何が悪かった。何故なんだ…。)
学園の中庭にあるガゼボでお茶をする、リヒト以外のいつものメンバー。
勿論、女性は一人だけ。
彼女を囲んで、作り笑顔でお茶をするセドリック殿下と側近二人。
それに混じって、俺まで地獄のお茶会に参加している。
ここは中庭だけあって、周囲から良く見える。わざと、見せつけていると言うべきか。
「ユーリアス様が来てくれて、私とても嬉しいです。ずっと仲良くなりたかったんです。」
(俺は、全く仲良くしたくないけどな。早く終われ。地獄の時間。)
心の中で悪態を吐き、表情を作って愛想笑いする。
「あっ、このスイーツ、ユーリアス様が好きだと聞いて、ぜひ食べて欲しくて用意して貰ったんです。食べてみて下さい。」
それは、リリの大好きなフルーツタルト。
俺がそれを好きなのは、タルトを美味しそうに頬張るリリの可愛い姿が見られるからだ。
「どうですか?美味しいでしょう。」
「……。」
全然、美味しくない。可愛いリリと食べるから、その可愛さが調味料となって、スイーツの美味しさが数千倍にも跳ね上がる。
その重要な可愛いの調味料が無いのだから、美味しいわけが無いだろう。
(クソ不味いよ。)
また、心の中で悪態を吐き、お茶を一口飲んで、愛想笑いを返す。
「気に入ってくれたなら、嬉しいです。良かったら、今度一緒にカフェに行きませんか?セドリック殿下達とも約束してるんですよ。」
そう言うと、殿下の顔を見る彼女。セドリック殿下が、お茶を一口飲んでから、口角を少しだけ上げる。
「コルトブル男爵令嬢、ユーリアスは将来、騎士団に入団する予定で、毎日剣の鍛練で忙しいんだよ。学園が終わってからも、時間の余裕はないんだ。だから、あまり無理を言ってはいけないよ。君の相手は、私たちが居るだろう。」
暗に、これ以上迷惑を掛けるなと言っているのだが、彼女には届いてないようだ。
直ぐに涙目になって、両手を組んで俺を見つめる。
「ユーリアス様が、毎日頑張ってるのは知っています。でも、たまには休むことも大事でしょう。ユーリアス様の体が壊れてしまいます。私、心配です。」
心配してます。って顔で見てくる彼女を、真顔で制する。
「貴方に心配されなくても大丈夫ですよ。きちんと癒しも取っています。俺は、そんなに弱くないのでお気遣いなく。」
殿下の適当な言い訳に乗ってくる辺り、俺の事を何も分かってない。
確かに毎日の鍛練は欠かさないが、それはリリとの時間の合間にする事。
鍛練で忙しいのでは無く、リリとの癒しの時間を作るのに忙しいのだ。
不快な気持ちを押し殺し、無理矢理に笑顔を作る。
どうして、こうホイホイと涙が出てくるのか不思議だ。どこかにスイッチがあるのか。
彼女のこの顔のせいで、有りもしないリリの悪評が、どんどん学園に広がっている。
リリは、魔法塔にいて、彼女とは一切関わってないし、殿下達が常に側にいるのに、それでも満足出来ないようだ。
最後の一口を一気に飲み干し、丁度良いので直ぐに席を立つ。
「そろそろ、私は失礼しますね。一度は参加したのですから、これで満足頂けると幸いです。それでは、さようなら。」
これで、リリの元に行ける。早く可愛い顔が見たい。今日の俺は、いつもの100倍は頑張ったと思う。
最近は、可愛い天使の癒しが足りなくて、心が荒んでいくばかりだ。
「えっ?あっ…ユーリアス様。ちょっと待って下さい。ユーリアス様。」
聞こえない振りで、足早にその場を去る。
(お茶を飲むだけで、本当に疲れた。)
これで、リリが俺を束縛して、アンジュ嬢とのお茶会に参加させないっていう、ふざけた噂が消えて無くなれば、俺の今日の苦労も報われる。
毎回、アンジュ嬢の誘いを断っていたら、それが何故か、リリのせいで俺が参加を拒否してるって噂が流れ始めた。全く意味が分からない。
俺は、俺の意思で断っているのに、リリが悪者にされて、心の底から腹が立つ。
噂の原因の一つには、アンジュ嬢が毎回涙を流すのを見ていて、酷いことを言われてると勘違いした人がいたようだ。
それが、どこからリリに繋がるのか疑問だが、兎に角リリが悪者にされた。
俺の態度が原因で、リリが悪く言われるのは耐えられない。
そこで、セドリック殿下からの提案で一度は誘いを受けるように言われ、仕方なく了承した。
何の世界か知らないが、ヒロインだからって何でも許されると思わないで欲しいな。
悪い噂に関しても、無理矢理リリに結びつけているとしか思えない。
リリから絡むことは無いのに、そんなにもリリを排除したいのか。
確かに、リリは可愛くて天使で、世界中の誰よりも美しい女性だが、ヒロインの邪魔なんてしていないだろう。……していないよな。うん。してない。大丈夫。可愛い天使ってだけで、ヒロインとは全く関係ないところに居る筈だ。
こんなに過敏に反応しなくても、リリはヒロインに取って変わろうとはしていない。
もしも、そんなことがあれば、俺が絶対に阻止するよ。
リリの幸せに、不誠実でしかない攻略対象者なんて必要ない。(注 : 前世記憶からの勝手な憶測です。)
それなのに、どうしてもリリを悪役にしたいみたいだ。
アンジュ嬢は、一体何を考えてるんだろう。
あの時、リリと友人になって嬉しそうだった彼女はどこにいってしまったのか。
あれは全部、演技だったのか。そんなの、彼女を信じたリリが、余りにも可哀想だ。
今の彼女は、俺の嫌いな女性そのものだ。
はぁ、天使のリリに早く会いたい。いつもの可愛い声で名前を呼ばれたら、辛いお茶会も、リリの可愛さで上書きされて、楽しい記憶に置き換わる。
俺はリリの為なら、どんなことでもやり遂げて見せるよ。ヒロインからも守って見せる。
だから、いつでも可愛い天使の笑顔でいてね、リリ。
「ユーリアス、残念なお知らせがあるよ。」
セドリック殿下からの呼び出しに嫌な予感がした。
「どうやら君も、攻略対象者の一人に選ばれたみたいだ。」
その言葉は聞きたくなかった。そんなの絶望しかないだろう。
もうすぐ楽しい嬉しい夏休みなのに、本当に最悪だ。




