早くこいこい夏休み ①
ユーリアス視点に戻ります。
リリが、魔法塔から戻ってきてから、ずっと部屋に籠っている。
「リヒト、一体何があったんだ。リリが部屋から出て来なくて心配なんだ。」
一緒に帰ってきたリヒトも、気まずそうに顔を背けて、ポリポリと頬を搔く。
「ああ……うん。ちょっと、色々と…な。別に酷いことはしてないから、心配するな。」
怪しすぎる。リヒトの態度が、何だか余所余所しい。何かを隠している。
「本当か?それなら何故、リリが部屋から出てこない?何かあったんじゃないのか。」
リヒトの正面に回って、顔を合わせて問いただすと、真っ赤な顔のリヒトが右手で俺の顔を押し退ける。
「ユーリアス、今は本当に勘弁してくれ。リリアーベルと同じ顔で近寄るな。」
どういう事だ。双子なんだから生まれた時から同じ顔なのは当たり前だろう。今までだって普通に接していた筈なのに、やっぱり怪しすぎる。
リヒトとリリの様子から、二人に何かあったのは間違いない。
一体何があったんだ。気になり過ぎて、おかしくなりそうだ。
唸りながら頭を抱えた俺に、リック兄様が笑いながら、とんでもないことを口走る。
「ユーリ、大丈夫だよ。リリはね、少しだけ大人になったんだよ。それで、ちょっとだけ戸惑ってるだけだから、明日には可愛い普段のリリに戻ってる筈だよ。心配しなくて大丈夫。」
今、絶対に大丈夫じゃない言葉が聞こえた。
「リリが、何?リック兄様、今何て言ったの?リリが大人になった?リリに一体何したの?」
リック兄様の両肩を掴んで、逃げられないようにしてから、もう一度問いただす。
リリが心配で、つい力が入ってしまうけど、リリが心配なんだから仕方ない。
「ちょっと、ユーリさん。肩が…俺の肩が、ギシギシ言ってますよ。痛いから、本気で痛いから、ちょっと、落ち着いてユーリ。ヤバい、ちょっと、リリ!リリ、助けて!」
リック兄様が、大声で叫ぶと使用人がその声を聞いて、慌ててリリを呼びに行く。
「大人げないですよ。リック兄様、観念して何があったのか話して。リリが大人になったって、戸惑ってるって、どういう事なんだ。」
リック兄様が大袈裟に叫ぶ中、リヒトが慌てて止めに入る。
「ユーリアス、落ち着け。リリアーベルは、ただ勝負をしてただけだ。リリアーベルが勝ったら退学、負けたら学園に残ると、ヘンリック様と約束をしてたんだ。」
リヒトの説明に、リック兄様を見ると上下に首を振り、必死で頷いている。
「それで、どうしてリリが大人になるのと繋がるんだ?」
話の通りなら、勝負しただけなのに、大人になるという意味が分からない。
「それは、リリが知ることで、ユーリが知らなくても良いことだから、誓って疚しい事や如何わしい事はしてないからね。安心して欲しい。だからね、痛いから離してよ、ユーリ。叔父様には優しくして。」
リック兄様が、眉尻を下げて悲しげな顔で、優しくしてくれとお願いしてくる。
(本当に、調子がいいな。いつもすぐに、ふざけるんだから。)
「そんな顔しても誤魔化されないよ。はぁ、リリは、本当に大丈夫なんだよね。」
肩から手を離すと、いつもの様に楽しそうに笑ったリック兄様が、自信満々に返事する。
「勿論だよ。少し気持ちの整理をしているだけだよ。心配しないでユーリ。一緒に見守っていてあげよう。」
急に保護者の顔になって、そのまま立ち上がると俺の頭を優しく撫でてくる。
子供扱いに、少しだけ恥ずかしくなりリック兄様に抗議する。
「リック兄様、俺も幼い子供じゃないよ。」
リック兄様が、俺の言葉に驚いた顔を見せて、満面の笑顔で頭をクシャクシャと思い切り撫で回す。
「俺にとっては、いつまでも可愛い双子ちゃんだよ。」
何があったのか詳しく聞きたいと思う程、リリの事は心配だけど、リック兄様が付いていたから、悪いことは起こってないだろう。
完全に納得は出来てないけど、リック兄様の言う通り、今はそっと見守っておこう。
――ドドドドドドドドドドッ
バンッ!!!
「ユーリ!駄目だよ!リック兄様を死なせちゃだめぇぇぇ!!」
大きな音と共に、扉が勢いよく開き、呼吸を荒くした可愛い天使が降臨した。
「ユーリ!リック兄様は何もしてな……えっ?あれ?ユーリ?リック兄様?」
頭を撫でられてる俺を見て、リリが放心状態で固まった。
「ああ、リリ、俺を心配して来てくれたんだね。でも、大丈夫だよ。ユーリは、ちゃんと分かってくれたからね。」
リック兄様が、今度は固まったままのリリの所に移動して、頭を優しく撫でる。
撫でられながら、リリの意識が戻ってきた。
「どういうこと?私、リック兄様の命の危機だと聞いて呼び出されたのだけど、どこが命の危機なの?」
ずっと頭を撫でられながら、困惑しているリリが、俺とリック兄様を見比べている。
やっと部屋から出てきたリリは、特に変わった様子もなく、いつもの可愛いリリだ。
取り敢えず、その可愛いリリの様子に安堵する。
「少し誤解があってね。でも、ほら、誤解も解けて命の危機からは脱したから大丈夫だよ。リリも、少しは落ち着いた?」
リック兄様の言葉に、ホッと安心する様子のリリだったが、リヒトを見つけると、一瞬で真っ赤に変わった。
「ちょっと、リリの様子、やっぱり何かあったんだね。リヒトに何かされたの?」
俺の言葉に、これ以上ないくらい真っ赤になったリリが、恥ずかしさを誤魔化す様に、焦って全てを語る。
「別に…な、何もないよ。ただ、にらめっこ勝負しただけよ。別に、リヒトが、キ…キスしたとか、そんな事は無かったから。本当に、ただの、にらめっこ勝負だから。」
「キス…。リヒトが?誰に、キスしたの?」
その場の空気が一気に凍る。
「ちょっと、リリ、そんな言い方したら、キスされたことバレちゃうだろう。」
リック兄様が、リリの口に手を当てて、黙ってと合図するが、リック兄様もわざと話したよね。
それを見たリヒトが、唖然と二人を見て、恐る恐る俺へと視線を向ける。
「いや、ユーリアス。誤解だ。いや、キスは…したけど、違うんだ。えーと…。」
「へぇ、リヒトが、リリに、キスをしたの?にらめっこ勝負ってことは、二人で見つめ合ってたのかな。へぇ、それで?リヒトが……リリに………。リヒト絶対に許さん。」
リヒトに向かって、魔法を放つ。魔力は弱いけど、俺だって魔法は使えるんだ。
2〜3発、水の攻撃魔法を繰り出すと、リリが慌てて、俺の前に立つ。
「ユーリ、ここで魔法はだめぇぇ!指先にだから、キスは指先にされたの。リヒトは、勝負に勝つためにしただけだから、怒らないで落ち着いて。」
言いながら真っ赤になって、必死で止めるリリの姿に、少し冷静さを取り戻す。
「ユーリ、怒らないで。本当に勝負の為だから、勝つための戦略だよ。それで、私は負けちゃったけど、だからリック兄様との約束通り、退学は諦めることになったの。」
(退学を諦める?それじゃあ、リリは学園に残ってくれるのか。)
学園に残ると聞いて、先程の怒りも忘れて、リリを抱き締める。
「本当に?本当に学園に残ってくれるの?ああ、良かった。本当に良かった。」
これからも、リリと一緒に学園に通えて、リリと一緒に学園生活を送れる。その事に喜びを感じる。
「そんなに嬉しいの?」
「当たり前だろう。リリと一緒に学園生活を楽しむために入学したのに、リリが居ないと意味が無いだろう。」
リリが居ない教室は、光りもなく灰色で、輝きを求めて、いつでも心は明るい天使を求めてしまう。
「そう…ね。私もユーリと一緒に楽しみたいな。私、また魔法が使えるように、何とか頑張ってみる。2学期はユーリと一緒に教室で授業を受けられるように方法を見つけるわ。」
どこか、魔法を使うことを諦めているような悲しい顔を見せる時もあったが、今はそうじゃない。
「俺も協力する。リリが2学期に戻ってこられるように、夏休みが終わるまでに解決策を見つけよう。」
もうすぐ、夏休みに入る。そしたら、ビッガートル領地に遊びに行く約束がある。
お母様の実家のビッガートル家は、代々優秀な魔法師が多い家系だ。
お祖父様なら、ビッガートル家になら、魔法関連の情報も沢山有るかもしれない。
「夏休みが勝負だ。」
こんなに夏休みが待ち遠しいのは、前世を含めて初めてだ。
《このあと、リック兄様とリヒトから、きちんと事情を聞いて、冷静に怒りを制御しながらも、俺はたっぷりと二人にお仕置きしました。》
あっという間の100話超え。ここまでの長編は初めてなので自分でも驚いてます。書くのを始めたばかりで、拙い文章ですが、それでも読んでくれる人がいて、いつも感謝でいっぱいです。
ユーリとリリの物語りは、まだまだ続きます。これからも二人を応援してくれると嬉しいです。
学園は、もうすぐ夏休み。もう少し進めたら夏休み編が始まります。これからも、よろしくお願いします。




