リック兄様の楽しい恋愛講座(セドリック編)
【ヘンリック視点】
「リック兄様、また勝てたよ。残りもこの調子で、倒していくから見ててね。」
「おめでとう、リリ。今回も面白いくらい、リリの策にハマって圧勝だったね。」
余裕の笑顔が可愛い。そんなリリを見ながら、俺は少し悩んでいた。
「リック兄様の言うように、私の気持ちをエリオット様に伝えただけなのにね。卑怯だぞって言われたけど、そんなことないよね?」
やっぱり考え直した方がいいのか。俺の楽しい計画が、血を見ることになったら終わりだ。
「相手に思いを伝えたら駄目ってルールは無いだろう。だから、問題ないよ。」
それよりも、俺は残りの二人への対策で頭を悩ませていた。
最初の二人は、鈍感くんと、真面目な紳士くんだったので、そのままリリを送り出したが、残りの二人はリリが無事で居られる保証がない。
「次も絶対に勝つからね。リック兄様、退学の件よろしくね。」
リリが張り切って、次の相手の元へと部屋を出て行こうとする。
「リリ少し待って。リック兄様との約束だ。絶対に、抵抗したら駄目だよ。」
負けず嫌いのリリのことだから、ギリギリまで粘るだろうけど、そしたらリリの貞操の危機。そして、俺の命の危機。
可愛い娘と愛する妻を残して死ぬことは出来ないから、リリには早めに負けてもらわないといけない。
「分かったわ。リック兄様の言う通りに抵抗するのはやめる。絶対に勝つから待っててね。」
「えっ?リリ?本当にちゃんと分かってる?」
「大丈夫。抵抗しないよ。任せて。」
任せてって言葉が、こんなにも不安に思ったことはないけど、いざとなれば、俺が出ればいいことか。
「わかったよ。リリ楽しんでおいで。」
笑顔で頷くリリを、そのまま見送る。
可愛い姪っ子の為にも、俺の楽しみの為にも、まずは、思う存分リリの魅力を見せてあげて。
♢♢♢♢♢♢♢♢
【セドリック視点】
「リリアーベル、今日はこんなところに呼び出して、一体何があるのかな?」
突然の魔法塔への呼び出し。魔法研究の為に、彼女の研究室に立ち寄ることは有るけれど、今日はヘンリック様の研究室の隣にある応接室へと呼び出された。
(この部屋に呼ばれたと言うことは、ヘンリック様も関係してるのかな。)
どこか緊張した様子の彼女が、立ち上がると、僕の隣に座り直す。
「セドリック殿下、私と勝負です。」
そう言うと、彼女は僕に向かって両手を差し出す。どうやら手を繋ぐってことらしい。
「手を繋いで、どんな勝負をするのかな。」
最近は、魔力吸収をする為に何度も繋いだことのある彼女の小さな手。
その可愛らしい小さな手を取り、どんな楽しい事を考えているのかと、自然と笑顔が溢れてくる。
「私が3秒、目を閉じます。そして、目を開いたら勝負開始です。先に目を逸らした方が負けですよ。では、いきます。」
すると、彼女が僕の前で無防備に目を閉じる。
ゆっくり、3秒。
下がった目尻に長い睫毛。綺麗な肌は、うっすらピンク色に染まる。
無防備に見せる可愛らしい顔に、そのまま触れてみたくなる。
彼女が、ゆっくりと目を開く。
「セドリック殿下、ここから、視線を逸らすと負けですよ。」
じっと目を見て、真剣に見つめてくる彼女に、さすがの僕も我慢が利かなくなりそうだ。
「リリアーベル、この勝負はどちらかが負けるまで続くのかな?」
「そうですよ。勝負が決まるまで続きます。」
リリアーベルは、自分の魅力を何も分かっていない。
彼女は、とても可愛らしくて美しい。優しくて純粋な彼女に、沢山の人が惹かれている。
そんな彼女に両手を取られ、こんなにも至近距離で見つめられれば、誰だって近づきたくなってしまう。
それを知らず、彼女はまた、いろんな男を惑わしてしまうのだろう。
「リリアーベル、この勝負は私で何人目なのかな?他の誰かと同じ勝負をしたの?」
視線を逸らさず、彼女に問いかける。
「セドリック殿下は、三人目です。オリヴァー様とエリオット様とも勝負して、私が勝ちましたよ。」
「ああ、あの二人とも勝負したのか。確かに、あの二人になら、リリアーベルは勝てるだろうね。」
僕の他にも同じように勝負したと聞いて、僕の気持ちが一気に下降する。
(何だか、面白くないな。)
このまま、視線を合わせ続けても良いけれど、彼女の余裕のある姿に少し苛立ってくる。
前の二人の時も、きっと彼女にとっては単なる勝負。男の前で目を閉じ、手を取り合い、見つめ合う事が、どういう事か理解していない。
彼女自信を翻弄したい。
いつも心を乱されるのが、僕だけなのは納得できない。たまには、リリアーベルも僕と同じように感じて欲しい。
そして、少しでも彼女の心を揺さぶることが出来れば、僕の事をもっと意識してくれるだろうか。
「セドリック殿下、そろそろ……」
言葉の途中で、彼女の右手をグイッと引っ張り、僕の方へと引き寄せる。
急に引っ張られて体勢を崩した彼女が、僕の体に抱きつくように倒れ込む。
「…っ。セ…セドリック殿下…あの…」
そのまま離れていかないように左手は離さない。右手は、しっかりと彼女の腰の辺りを支える。
僕を見上げるその顔は、先程よりも、頬を赤く染めている。彼女の戸惑う様子に、僕の心が嬉しさに満ちてくる。
「リリアーベル、一つ忠告だ。男の前で目を閉じて、その可愛らしい顔を無防備に見せてはいけないよ。それに、可愛い瞳で相手をじっと見つめてもいけない。そんな事をしたら、相手の男は勘違いして、君に酷いことをするかもしれないよ。」
僕の言葉に、彼女の心が乱される事を期待して、気持ちが昂る。
しかし、彼女は当然のような顔をして、いつものように僕の心を掻き乱してくる。
「私だって、誰の前でも無防備に目を閉じたりしませんよ。みんなの事は信用してるので、セドリック殿下だからですよ。殿下は私の嫌がる事はしないでしょう。」
真剣な眼差しで僕を見上げて、真っ直ぐに告げる彼女の言葉に動揺する。
「リリアーベルは、僕だから、目を閉じても平気なの?」
「そうです。信用してるので。」
「僕だから、手を繋いでもいいの?」
「そうですよ。仲良しの握手もするでしょう。」
「仲良し……か。僕の事……好きなの?」
「当たり前です。嫌いならお友達になってません。」
顔が熱を持つのが分かる。きっと僕の顔は真っ赤になっている。
リリアーベルの好きが、僕のそれと違うのは分かっている。
でも、今はそれでも、彼女からの好意が嬉しいと思う。
「あっ、セドリック殿下の負けですよ。」
彼女を翻弄するつもりが、気付けば僕の方が彼女に振り回されている。
彼女から視線を外して、勝負に負けてしまった。
「ハハハ、負けてしまったね。僕が勝てると思ったのに、流石、リリアーベルだよ。」
いつの間にか、完全に素に戻り、王子としての仮面も綺麗さっぱり剥がれてしまった。
「僕は一生、君には敵わないかもしれないね。」
彼女の前では、溢れてくる感情を、表情を隠すことさえ難しい。
「殿下だけでなく、誰にも負けませんよ。私は、にらめっこが得意なので。」
見上げる顔は、得意気で可愛くて愛おしい。
今、この時だけは、誰にも邪魔されず、彼女の可愛い笑顔を独占できる。
僕に引き寄せられ、抱きついたままなのを彼女が思い出すまで、もう少しそのままで。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次はリヒト編です。よろしくお願いします。




