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(106)ざんえーけん! ざんえーけん! ざんえーけーん!

「何で、俺の言葉を信じない? 俺を信用しない? そのまま素直に斬られてりゃ、お前はまだ可愛げのある後輩だったのによ……」

「……先輩! これは!?」

「よーく分かった。 お前が、俺をどう思っていたかがな」


 デジタルデータで構成された、剣と魔法の迷宮世界。

 その中で、俺たちの隠されていた人間性は、ありありと露呈した。


 お互いが、お互いをどう思っていたか。

 だけど……。


「違うんです! 殺気っていうか、そんな予感がして!!」

「何が殺気だよ、そんなモン感じ取れる訳ねーだろ!」


 俺の弁明は当然の如く一蹴された。

 先輩の言うことはもっともかもしれない。


 だが、あるのだ。

 ディープな格闘ゲーマーであれば、分かるはず。

 相手の殺意は、ごく些細な挙動にすら現れる。

 それを感じたことがある人間は、俺だけじゃないはず。


「言い訳すんな! お前が元々、俺の事を先輩として、尊敬してなかっただけの話だろうが!」


 だが、結果的に奇襲を防いだ事実は、あちらからすれば、その結論しか導かない。

 俺の言葉は、どうあっても届かない。


 だけど……。


「やめて下さい……! 俺は、先輩とは戦いたくないんです!!」


 俺は必死に訴えた。

 今、こんな事になったと言っても、デジタル研究会ではお世話になり、一緒に遊んだ間柄なのだ。


「うるせぇ! 俺に恥かかせやがって! おい、ヤツフネ、手伝え!」


 すると、ヤツフネは薄く笑って、


「Bara、お主の見立て、まんまと外れたな。 何が『レオは俺の事を信用してる』だ。 全く信用されてないではないか」


「く……!!」


「それに貴様等、やはりリアルでの知り合いだな? 以前の態度からして、少々解せぬと思っていたが……。 ならは、身内だけで決着を付けた方がよかろう。 他人のもめ事に混じるなど、下策中の下だからな」


 部外者だと判断したヤツフネは一歩引いてきた。

 俺たちだけで決着を付けろ、と……。


「Bara……」

「お前……」


 西川先輩ガンブレイズ東先輩バストークが、心配そうに声を掛ける。


「分かってる、皆まで言うな。 レオ、戦え。 俺と」

「先輩……!?」


 何で……何でこんな事になる!?


「何で、そんな事が言えるんですか!? 俺、先輩とは戦いたくないんです! 本当に、先輩の事尊敬してるんです!」

「尊敬、ねぇ……」


 だが、その言葉の調子は、俺のことなど全く信用していない事がありありと窺えた。


「だから……黙って見逃して下さい! それに、俺が今の先輩と戦った所で、絶対に勝てませんから……! それは分かるでしょう!?」


 少しの間をおいて、先輩は口を開いた。


「レオ、一つ質問がある」


 ……? 質問?


「目の前で、罠にかかって、今にも殺せそうな奴が居るとする」


 ……なんだ、これ?


「……はい」

「そいつは命乞いをしてきた。 『金が要るんです! 心臓病の子供が居るから……!』って。 リーマンプレイヤー……だったのかな、もしかすると」


 心臓病の子供?


「で、お前ならどうする? このリーマン、見逃すか? 殺すか? ニ択で答えろ」


 何だこの質問。

 その意味不明さに俺は少し悩んだが、でも答えはすんなり出てきた。


「見逃します。 だって……可愛そうじゃないですか。 娘さんの病気が治ってから、また存分に戦えば良いんだし……」


 だが、その答えに対する先輩の評価は、「ははははは!!」という哄笑だった。


「お前らしい返答だな、レオ! ……いや、本当にお前らしいよ!」


 そして一区切りしてから、先輩は自分の答えを述べた。


「そんな状況のリーマンが、こんなところでゲームしてるか? 俺は斬ったよ」


 ……!! 

 この話、先輩の実体験だったのか!?

 でも、それじゃ、子供さんが……!


「そん……な!! それじゃ!」


 あまりに可愛そうじゃないか!

 彼にとったら、何でもいいから稼げる物に手を出したかったのかもしれない。

 ほんの小遣い稼ぎになれば、と。

 それに、娘の病気という重い現実から、一時でも目を逸らしたかったのかもしれないし!


「そう……だな。 もしかしたら、そうかもしれないな」

「そうですよ! きっとそうです!」


 だが先輩は、冷徹に言い放った。


「だけど俺には、そんな事情は全く関係ない」


 え……?


「他人の事なんて、俺には全く関係ない。 極端な話、俺には、この世界の恵まれない子供達が何人死のうが、一切関係ない。 本当にどうだっていい。 レオ、何故、俺がそう思うか分かるか?」


 あっけにとられた俺を置いて、先輩は続けた。


「それら全ては、想像のストーリーだからだよ」


 想像……!? 想像、って!

 困ってる人たちは実際に居るのに!


「実際に居る、ねぇ……。 だとしたら、何で豊かな人間は、貧しい人を救おうとしない?」

「え……?」


 俺をなおも置き去りにして、先輩はさらに続けた。


「俺思うに、それらは大半が想像の産物なんだよ。 自分の中だけで『可愛そう』とか思って、哀れんで、勝手な自己犠牲に走ってるだけなんだ」

「そんな、バカな!!」


 そんなバカな話、ありえるか!!


「だから俺は、リーマンの話も、苦し紛れの嘘だと判断した。 だから斬った」

「先輩……!!」

「でもな、お前みたいに真に受けそうな人間は少なからず居るのも分かる。 ボランティアで募金する連中とか、出来もしない世界平和活動に貢献する連中とかな。 意味が分からないよ、あの存在は」


 絶句した俺を置いて、先輩は嘆息しながら続けた。


「居もしない子供のために、人は命も財産も賭けられる。 だが、そんなのは偽善だ。 俺から見たら、そうとしか思えない」


 こんな……。

 こんな人だったのか、先輩は。

 ただ単に、要領が良くて、利害に聡いだけだと思ってたのに……。


「分かるか? お前が実家に連れ戻される、ってのは十中八九本当だろう。 だけど、俺にとっては単なる一つの、空想のストーリーにしか過ぎないんだよ。 鶴羽と同じようにな」

「先輩と何かあったんですか!?」

「お前が俺たちの間の事を知る必要はねぇよ。 知らせる事で、俺に何の得がある?」


 それにな、と先輩は一言置いて続けた。


「俺はお前が嫌いだった。 こうして、絶対的効率を追い求めているはずの俺を……。 お前等は簡単に上回ってたからな」

「……!」

「俺たちゲーマーにとって、ゲームの強さは絶対的なアイデンティティだ。 それは分かるよな」


 だから、決着を付けようぜ。

 どっちの信条が、本当に強いのか。


 先輩がそう言うと同時に、デスペナルティデュエルの申請画面が浮いた。


 色々とショックだった。

 先輩の正体というか、その本質を知ったことと。

 今までの俺に対するすげない扱い、その理由。


 と同時に、チャンスだ、という気持ちもあった。

 先輩方に襲いかかられれば勝ち目はない。

 だが、一対一なら話は別だ。


 俺は多少混乱していたが……。


「俺には……。 このデュエル、受けるよりほか、選択肢はないんですね……」

「そうとも」


 俺は観念した風を装いながら、デュエル申請のYキーに手を伸ばす。


「何で……こんな事に」

「いずれはこうなる運命だったんだよ。 遠慮なく、鶴羽の後を追え」


 その言葉は、まるで鶴羽先輩を倒したのが、南原先輩であるかの様に聞こえた。

 だけど、あの鶴羽先輩が、南原先輩達に倒されるとは思えない。

 そうだよ、南原先輩の『後を追え』は、鶴羽先輩と同じように、実家に帰れ、と言ってるだけなんだ……。


「『DUEL START!!』」


 だが、俺の動揺を余所に、燃え盛る決戦の火蓋が文字通り飛び散って、戦いは始まった。


「おらぁっ!!」

「先輩……!!」


 先手必勝とでも言いたげに、本当に躊躇なく先輩は攻撃してきた。


「……!!」


 先輩が初手に選んだ攻撃は、変幻自在のブレードアーツ。

 上段、中段、下段に綺麗に攻撃を割り振り、ガードの隙間を通して、圧倒して勝とうという攻撃。

 装備の差は圧倒的。どこかに一発でももらえば、HPゲージの半分以上がすっ飛んでいくだろう。


「ぐ……!!」


 だが、初見の相手ならいざ知らず、デジ研で南原先輩とは何度も戦ってきた。

 先輩はトリッキーな攻撃を選択しがちで、連続技や力押し、ギャンブル的な手を好まない。

 だから攻撃は比較的読みやすく、攻撃も単発になりがちだった。


「さすがに硬いな……だが、これならどうだ!」


 俺に攻撃を全て凌がれた先輩は、速やかに方針を変えた。 


「ふっ、Bara……。 お主、もうその技を使うのか」


 ヤツフネが、鼻で笑いながらそんな事を言う。


「!!」


 すると、先輩のアバターが急加速し、移動しながらのさらなる連続攻撃を放ってきた。


「これは……ヤツフネの!?」

「そうだ! レオ、お前にこのブレードアーツが止められるか!?」


 それは、ヤツフネの「転移抜刀霞斬り」をアレンジしたものだった。

 高速のダッシュを交えながら、上、中、下段と猛烈な連続攻撃を見舞ってくる。

 そのうちの一発が、マイアバターにヒット。

 想像はしていたが、7割がその一発で持って行かれた。


「ぐ……!!」

「はははっ!! レオ! 終わりだ! そのまま死ねッ!」


 俺は初見のブレードアーツ相手に、ジャストガードを決める余裕はなく、なんとか防御するのが必死だった。


「くそっ……!!」

「どうした! 手が出ないのか!?」


 南原先輩のブレードアーツは、ヤツフネの「転移抜刀霞斬り」のコピーとはいえ、隙のない技で的確にまとめられていて、反撃するのが難しい。

 そうこうしているうちに、ガードし続けている俺のスタミナが徐々に減り続けていった。


「このまま削り殺してやるよッ!」


 ……まずい!!


 本当に削り殺される、と思った俺は、一か八かの作戦に出た。

 どっちにせよ、失敗すれば死ぬのだ。

 先輩の大振りの攻撃を見定め、ジャストガードを決める……決まった!!


 先輩のアバター「Bara」が、ノックバックでたたらを踏み、僅かな硬直が出来る。


 そこで俺は、買っていた「スタミナ増強剤」を飲んだ。

 減ったスタミナゲージが一気に全回復し、白く輝く。

 このアイテムは、一定時間スタミナが減らないようになる薬だ。


「なんだ、回復薬じゃねぇのか!? そんなモン使って、何になるってんだよ!」


 先輩がそう言いながら、再び俺に切りかかってくる。


「(鶴羽先輩、すいません……。 なるべく使わないようにしたかったんですが、使わざるを得ません……!)」


 だがそれより早く、俺は隠していたブレードアーツのパレット「その1」を引き出し、攻撃を開始した。


「死ねッ……!!」


 先輩が、殺意も露わに切りかかってくるが、その攻撃は空振りし、脇を通り抜けた俺がすかさず胴を薙払う。


「なっ……?」


 マイアバター「レオ」は、南原先輩のアバター同様に急加速し、「Bara」の射程圏を出入りしつつ、細かいヒットアンドアウェイを繰り返す。


 斬って、抜けて、避けて斬って受けて斬って受けて斬って。


「……何だ、その動きはぁ!?」


 突如、先輩のアバターと同じ……いや、完全にそれ以上の速度で動き出した俺のアバターを見て、驚愕の声を漏らすBara。


「何で、お前まで、ヤツフネの技を使える……!?」


 南原先輩がそう叫ぶが、それは間違いだ。

 そして、正解は別な場所から返ってきた。


「な……!? あれは、『残影剣』……!?」


 ……やっぱり、そうだったのか。


 ヤツフネは、俺の繰り出すブレードアーツの正体を知っていた。

 ヤツフネは過去、先輩からこの「残影剣シャドウブレイド」を喰らって破れ、そしてこれを両手剣でコピーアレンジし「転移抜刀霞斬り」として使っていたんだな。


「そんな、バカな!? 何でそんな動きが出来る!?」

「Bara、落ち着け! それはスタミナ……」


 アドバイスをしようとしたヤツフネが、途中で口ごもる。

 それはそうだろう。

 この技は、ヤツフネのブレードアーツと同様に、高速のダッシュをコンボに組み込んだ移動攻撃。


 だが、鶴羽先輩が編み出したこの技の、真価と本当の意図までを、ヤツフネは完全にコピー出来た訳ではなかった。


「うおおおっ! 何だ……!? 隙がねぇ!?」


 そう。 この技の本質とその目的は、マクロを使う事でシステムの限界までアバターを高速化し、安定して相手の挙動を上回り続けること。


「スタミナが!!」


 ガードし続けた先輩のアバターのスタミナが切れ、ガード不能状態になり、無防備になる。

 そこを俺が連続で叩き続ける。


 だから、この技は必ずスタミナを補充するアイテムが必要になる。

 そうでないと、どこかで必ずスタミナを回復させるために足を止める必要があり、そこに隙が生まれ、戦闘はしきり直しとなるからだ。

 ヤツフネはそれをアドバイスしたかったようだが、あの極悪な鶴羽先輩の技に、そんな「不完全さ」は存在しない。


 圧倒的優位性の構築。

 それが先輩の信念だから。


「何で……何でお前が!? そんな技を!? 誰から!?」

「Bara、それは……!!」


 ヤツフネの技も、南原先輩の技も、所詮は先輩の技の劣化コピー。

 ほぼオリジナルを使っている俺に、叶うはずがない!


「何で……!? 何で、剣が、届かない!?」


 当たり前だ。

 鶴羽先輩は、最速のタイミングを出すために、何度も練習・研究を繰り返してきた。

 60分の1秒……。 1フレームでも早ければ、こちらの技が早くヒットするのだ。

 ダッシュ斬り一つとっても、鶴羽先輩の完璧な技と、南原先輩の劣化コピーでは、雲泥の差がある。

 実際は3フレーム程度……0.05秒にも満たぬ遅延なのだろうが、それは格闘ゲーム内では、圧差となってハンデを構成する。


「これで、終わりです! 先輩ッ!!」

「レオォオォォッ!!」


 何の劇的な展開もなく、一方的に南原先輩は俺に殴られ続け、アバター「Bara」は赤いエフェクトをまき散らしながらそのまま倒れた。


 そして俺は、倒れ伏した先輩の装備を、速攻で剥いだ。


「レオ、お前ェェエェェッ!!」


 装備を奪われた先輩が、悪鬼のような叫びを漏らすが、


「デジ研部員たるもの、いざ戦場に立ったなら、親でも倒せ……そう言ってたのは、皆さんでしたよね」

「れ、レオ……!?」


 部室で常々言われてた事を言い返してやると、先輩の口調は急に腰砕けになった。


「レオ……。 本当か、お前……。 本当に、そんな事を……」

「俺も異存ありません。 先輩の装備、頂きます」

「レオォ、ォオォォ……!!」


 先輩の装備を奪う事に良心の呵責はなかった。

 正々堂々のバトルという事もあったが、やはり俺たちが、デジ研部員だと事も大きかったのだろう。

 俺たちの間での勝ち負けは、完全に自己責任だから。

 それは、他の先輩たちも分かっているはず。



「異議あり」


 だが、俺が先輩の装備を奪い、デスペナルティデュエルが終了した時、西川先輩ガンブレイズが異を唱えてきた。


「え?」


 異議あり……?

 まさか、反対だって言ったのか?


「今奪った装備は、Baraに返せ、レオ」


 聞き違いじゃあなかった。


「そうでなければ、今お前を、この場で殺す。 ……そうだな、バストーク?」

「ああ、そうだ。 今の俺たちは、デジ研部員じゃなく、このゲームの1アクティブユーザーだ。 だから、お前の理屈は通らない」

あまりにお久しぶりですいません…。

いや、小説はちゃんと書いてるんですよ…。

でも家事で時間なくて…。

ホントだよ…。

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