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(103)回想 ~その2~

 未来はいつも、どうなるか分からない。


 龍真とのファーストコンタクトから数日後、「例の品物が届いたから、打ち合わせしたい。 家に来てくれないか?」と、電話で龍真に呼び出された。


 だが、そこで見た「例の品物」を見て、俺は絶句した。

 段ボールの梱包材の中から出てきたものは、バズーカみたいなカメラだったからだ。 龍真は、本気だった。


「スゲえデカいレンズだな、龍真」

「望遠レンズって言うんだよ。 最長で50mくらいまでは顔を視認できる。 渡しておくから、操作には慣れていておいてくれ。 手ブレ補正は忘れずにな」

「……あ、ああ、分かった」

「言っておくが、くれぐれも壊してくれるなよ、礼雄? レンズだけで10万以上してるんだからな」

「ま、まかせとけって」


 俺たちはこの数日で既に打ち解け、もう下の名前で呼びあう仲になっていた。


「でも、こんなの、どこで使うんだよ?」

「河川敷などの人がこない、しかも遮蔽物がない場合の使用を想定してる。 体育館の裏でリンチされた場合も、理科棟の外れからそれで狙える」

「こんなの、学校に持っていけるのか!?」

「何、写真部の連中に知り合いが居る。 授業中はそこに置かせてもらおう」


 当たり前かもだが、龍真は、自分がリンチを喰らった経験から、既に連中が取りそうな行動パターンを推測していた。


「じゃあ、学校に行こう、礼雄」

「え、今日、日曜日だぞ!? 何しに学校とか行くんだよ!?」

「もちろん、機材カメラを取り付けにさ」


 龍真は、どんな風に撮影すれば確実に証拠となる動画が撮れるのかも、事前にシミュレーションしていた。

 奴が別途に購入した、超小型のピンホールカメラ。


 体育館裏は、俺のバズーカカメラとは別に、コンクリート壁の排水穴に設置。


 屋上は、鉢植えの中に穴を空けて設置。(※もちろん龍真が買ってきた鉢)


 トイレは、なんとスプリンクラーみたいに偽装させたカメラを天井に仕掛けた。


「何で天井?」

「トイレは床や便器に視線が行きがちだからだ。盲点なんだよ」


 そして、カメラの設置は終わった。

 俺たちは屋上に戻ると、


「よし、じゃあ礼雄、ちょっと実際に撮影してみよう。 これを持っていてくれ」


 俺はその時、最近流行の兆しを見せていた、高機能携帯端末……スマートタブレットを渡された。


「おお……これ、スマートタブレットじゃん。 どうやって使うのさ」

「使い方は後から教えるが、それにカメラのリモコンになるアプリを入れてる。 と同時に、副モニターとしても使える」

「マジで!?」

「貸してみろ。 よし、撮影するぞ」


 龍真が、スマートタブレットの画面をタップすると、本当に携帯端末の中に、俺たちの姿が浮かび上がった。

 これは、さっき鉢植えの中に仕込んだカメラの映像だ。

 俺たちは、その画面を見ながら、ブラブラと屋上を歩き回る。


「撮影範囲はここからここまでか……」

「じゃあ、リンチ喰らった時も、この中だけで上手く立ち回るんだな。もしかして、実際にやられてるフリとかするのか、龍真?」

「やられてるフリしなくても、十分に痛いよ。 ……礼雄、操作方法を教えるから、覚えてくれ。 このままだと顔が識別できないから、ズームの方法を教える」


 こんな風にして、俺たちは、リンチ撮影の予定となる場所で、検証を重ねながら、動画撮影の手順を詰めていった。


「これって、まるで、罠張ってるみたいだな」

「……そうだな。 まさにその通りだ。 でも、獲物が罠に掛かったら、奴らに慈悲は与えない。 絶対に」



 そして、龍真が登校を再開すると同時に、血祭りの宴は始まった。


 

 龍真は、本当に毎日のようにリンチを受け続けた。

 龍真が先輩から呼び出されると、俺にあらかじめ準備していたショートメールが入る。


 俺はそこに先回りし、龍真から借りたスマートタブレットでカメラを起動し、撮影する。

 教室内で突如始まるゲリラ的な暴力については、俺が野次馬のフリをして、学生服に仕込んだカメラで撮影する。


 これを何日も繰り返し……。

 2週間で、なんと7本の動画が撮れた。


「ありがとう、よくやってくれた、礼雄……」

「あんだけ周到に準備してたんだ、ミスする訳ねぇよ」


 龍真の顔は、またもボコボコに腫れ上がり、別人のようになっていた。


 だが、それと引き替えにして撮影した動画は、もう言い逃れができないほどに、完璧に撮れていた。

 瓜生先輩とその仲間が、龍真を寄ってたかってリンチしている光景。

 龍真はその中で、殴られ、蹴られ、血を流して泣いていた。


 最後、泣いていたのが、演技かどうかは聞けなかった。



 龍真は、この動画と、医者から貰った外傷の診断書のコピーを、学校に提出した。


 だが、先生方は戒告(※注意されること)だけ、イジメに荷担していた生徒は、1週間の停学処分となっただけだった。


「バカな……処分が軽すぎる! 何でだ!?」

「なあ、龍真。 これさ、先輩方が停学から復帰したら、もっとヤバい事になるんじゃないのか」

「ああ、分かってる、そんな事……。 何で、こんな事に……!?」


 罪に対して科された罰が、あまりに軽い。

 その理由は、瓜生先輩の親が学校の有力者だったからだが、当時の俺たちにはそんな事知る由もなく、ただ、予想外の対応の薄さに、困惑するばかりだった。


「どうすんだよ、龍真」

「……」


 先輩方の停学の間、俺たちは別の手段を試みていた。

 「ワイワイ動画」にイジメの動画をアップしてみたのだ。


 普通、イジメの動画は炎上しやすく、正義感に駆られた人たちが個人情報を暴露したり、学校に電突してくれるのだが、龍真の動画は「イケメンが凹られてるの、見ててスカッとする」「これ本物? 綺麗に撮れすぎじゃね?」「何だか演技くせぇ」と、全然火がつかなかったのだ。



「……僕は覚悟を決めたぞ、礼雄」

「覚悟、って」

「連中と、全面戦争だ!」


 そう宣言した龍真は、最終手段に出た。


 なんと弁護士を通じて、警察を動かしたのだ。

 傷害罪として先輩全員を立件し、損害賠償を求める、という……。


 公権力を上回る、公権力による暴力。


 学校側は、警察に踏み込まれてもなお隠匿を決め込もうとしたが、


「あの、UIBテレビですけれど、この学校でイジメがあってるって、本当?」

「何故、この町の教育委員会は、イジメがあったことを隠すんですか!?」


 龍真が繰り出した、さらなる手段。


 例の動画を、テレビ局に送ったのだ。

 事件化する前の出来事だから、テレビ局も取材に本腰を入れてはこない。

 だが、警察に加え、テレビ局の唐突な取材があったという事実は、学校を恐怖させた。

 一度事実と違う発言をしたら、後々まで校長や教育委員会が、テレビ画面の中で、延々と槍玉に上げられる光景は、他のイジメ事件でもよく見られたからだ。


 警察への恐怖と、メディアへの恐怖。 

 ついに、これで学校は折れた。

 重すぎる腰をようやっと上げ、暴力事実があったことを全面的に認め、瓜生先輩を含め全員が退学する事となったのだ。


「よかったな、龍真」


 俺は龍真の家で、ささやかな祝杯……コーヒーとケーキを頂いていたのだが、


「いや、良くない。 まだ連中はこの町に居るじゃないか。 連中をこの街から追い出すまでが勝負だ」

「お前、どこまでやる気なんだよ!?」


 龍真は、ケーキには手もつけず、昏い視線を俺に向けてきた。


「礼雄、瓜生先輩の気持ちになってみろ。 彼は今、おそらく、何でこんな理不尽な仕打ちを受けなきゃいけない……? という思いで一杯のはずだ」


 瓜生先輩の気持ち?


「いや、理不尽な仕打ちって、そりゃ自業自得だろ」

「全くその通りだ。 だけど、相手はそう思ってない。 だから、僕たちをまた狙ってくる可能性は高い」

「マジで!? 俺たち、また狙われるのか!?」


 だから、これを身につけてもらえないか?と龍真は言って、丸みを帯びた三角型のブザーみたいなものを俺に渡してきた。


「何だこれ? 防犯ブザーか?」

「いや、違う。 使い方は後で教える」


 そう言って、龍真はもう一つ俺に筒状のものを渡してきた。


「何だこれ? 湿布のスプレー?」

「ああ、強メントールの奴だ。 これなら自然に携帯できる。 それと」


 龍真は、また段ボール箱から何かを取り出した。

 小型の剣道の胴みたいな奴。


「防刃プロテクターだ」

「ぼぅ……じん!? ちょっと待てよ!」


 お前、マジで殺し合いを想定してんのか!?

 ていうか、何で俺に渡す!?


「連中が相当おめでたい頭をしてない限り、動画を見れば、僕に『協力者がいる』と気づくだろう。 それが君だという事も、聞き込みすればすぐ分かるはず」


 何せ、僕の友達は君一人だからな……と、龍真はしみじみ呟いた。


「礼雄、君には済まないと思ってる。 できれば動画だけで片が付くのが望ましかったが、そうならなかった。 だから最悪の事態の想定と、それに対する備えだけは、しておかなくちゃならない」


「お前……」


 全面戦争って、マジで文字通りの意味だったのかよ……。


 この時、俺は初めて、龍真がこの状況までたどり着く可能性が僅かながらも存在し、それを想定していた事に気がついた。


「これがラストだ。 もちろん、警察にすぐ連絡できるようにはしてる。 だが、君だけは確実に逃げ延びてくれ」



 そして、龍真の懸念どおり、瓜生先輩は最後の反撃に出てきた。

 俺たち二人がゲーセンで遊んで一緒に帰っている最中、裏通りに差し掛かった所で、大勢の仲間で俺たちを囲んできたのだ。



「藤宮ァ!! 桐嶋ァ!! お前らのせいで、俺たちはなぁ……。 この街を出ていく事になっちまったよ!!」


「ナメてんのか!? 人の人生を台無しにしやがって……」


「絶対に許さねぇぞ、コラァッ!!」


 十数人の仲間が、俺たちを囲み、じりじりとその包囲を詰めてくる。 中には、鉄パイプや木刀を持った連中も居た。


「逃げろ、礼雄!」


「逃がすかよ!」


 俺は、龍真に教えられたとおり、連中の包囲を破って外に出ようとした。

 その際、周囲からの注意を引けるように、助けを求め大声を出した。


「誰かぁー!! 助けて、助けて下さぁーい!!」

「やめろっ! 何、寝言抜かしてんだ、テメェッ!」


 助けを求める俺を妨害しようと、腹に蹴りを入れられたが、その衝撃はプロテクターで軽減された。


「何っ……!? ぐああっ!!」


 俺はポケットに入れていた、湿布スプレーを相手の顔面に噴射した。


「目が! 目があッ!!」


 強メントールの湿布スプレーは、催涙スプレーの代わりになる。

 本物は所持しているだけでアウトだから、所持していても問題ない湿布スプレーは、簡単で効果的な護身アイテムになる。


「逃がさねぇぞ、コラッ!!」


 俺は羽交い締めにされるが、龍真からもらったアイテムを、相手の脇腹に押しつけ、電源を入れた。


「……!?」


 相手は、糸が切れた人形のように脱力して、俺の背から滑り落ち倒れ込んだ。


「な、何だこいつ!? 何しやがった!?」


 俺が龍真から貰った防犯ブザーみたいな道具は、マイオトロンという道具だった。



  *   *


「マイオトロン? ……って、何だ、龍真?」

「簡単に言えば、安全だけど超強力なスタンガンだ。 相手を簡単に無効化できる」

「スタンガン!?」

「電気ショックじゃなくて、随意神経にインタラプトする仕組みなんだ。 効果が絶大過ぎて危険な代物だから、今は販売されてない……だから、ネットのP2Pオークションで落とした」

「いくら?」

「15万円。 さすがに2個は買えなかった」

「これ、俺が持っとくの、龍真?」

「そうだ。 狙われるのは僕だから、僕が使うチャンスはない。 君が警察に連絡してくれ」


  *   *


 俺はスプレーとマイオトロンを掲げ、包囲を破って脱出した。


「誰かー!! 友達が襲われています、助けてくださーい!!!」



 通報によって、警察が現場に駆けつけた時、龍真は意識不明の重体だった。

 全治4ヶ月。 肋と右腕を折られ、ギターのコードを抑える左手は複雑骨折していた。

 警察の制止があと30分遅ければ、龍真は多分死んでいただろう、との事だった。



 病室で、俺は龍真の奴に林檎を剥いてやりながら、雑談に興じていた。


「でも、本当によかったな、龍真。 あーん」

「まぁ、生きていられた分にはな……。 むごむご」


 そう言って、林檎を咀嚼し終えると、龍真は左手を見た。


「でもな、この手、粉砕骨折してるらしい。 接骨が上手くいっても、元通りに動くようになるには、かなり時間がかかるそうだ」

「そうか……」


 ギターを弾けないのは寂しいだろう。

 いや、そんな事より、左手が動かないというハンデを、唐突に背負ったことの方がやりきれないはず。

 不安や悲しみ……今、龍真の心中を覆っているものは、そんな感情だろう。


 でも、俺にはこういう時、なんて言ってやればいいのか、分からなかった。

 下手な慰めは、龍真を傷つけてしまいそうだったから。



「そういや、永原先輩、転校したってさ」

「誰だそれ? 永原って」

「ほら、瓜生先輩の脇に居た、あの小柄な人だよ」


 だから俺は、近況を伝える事に終始した。


「そうか」


 龍真は、いろんな物を失った。


 瓜生先輩は、少年院送致となった。


 その他の先輩も、事件に見合った処分を受け、またこの事件がテレビで放送されたという事もあって、やがて全員が転校していった。


「すまなかったな、礼雄……嫌な思いをさせて」

「気にするなよ。 俺は、怪我も何もしてねぇし」

「ありがとう。 本当に……君に会えて、よかったよ、礼雄」

「男同士で、そういう話は止めろよ……。 マジで気にするな、って。 困った時はお互い様さ。 瓜生先輩、もう居ねぇんだし、これからは明るく行こうぜ!」

「そうだな」


 そして、龍真は、薄く笑った。



 これは余談となるが、この後、俺たちが瓜生先輩の話を聞くことは、本当になくなった。

 なぜなら、瓜生先輩は、進学校の中、しかも親の威光で頂点に立っていた不良生徒だったのだ。

 いわば、「不良」というカテゴリーの中では、いわゆる温室育ちだったのだ。

 そんな彼が、少年院という、本物の不良たちがひしめく中に放り込まれたその後に、どういう扱いを受けたかは想像に難くない。



 3ヶ月後、彼は院内で首を吊った。

大変お待たせしました。

今、ちょっとネット環境を喪失しているので、次回もアップに時間かかります!

小説はちゃんと書いてるので待っててね!


あと、「マイオトロン」については実在する道具ですけど、本当に危険なので販売禁止になってます。

湿布スプレーも実行可能な護身術ですが、作中の人物の真似はあまりしないでね!

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