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(102)回想 ~その1~

 イベント「チョコレートレード」……チョコを集めるという一見楽しげな、だがその本質は極悪なデスバトルイベントだった。

 その攻略には、自分の姿を隠す「ハイドローブ」が必須だと龍真バールハイトから聞かされ、俺はイベント開始まで購入画面を開いたまま、敵プレイヤーが取ってくるであろう戦法に、思索を巡らせていた。


 そんなおり、龍真が昔の話題を持ち出してきた。


「覚えてるか、高校の時の事」

「高校の時? もしかして、あの時の事か?」


 俺と龍真が、先輩方からリンチされた時の事。


「そうだ。 次があるか分からないから、少しだけ語らせてくれ。 レオ、僕はな……お前に、本当に感謝してるんだ」

「感謝……?」

「ああ、僕が瓜生うりゅう先輩に目を付けられた時、助けてくれたのはお前だけだった。 あの時の事を……僕は、一生忘れない」

「大げさだろ」


 俺と龍真。

 今でこそ互いに友人と呼べる存在だが、高校2年生の時、俺たちには全く接点が無かった。


 それもそのはず、俺は進学クラスに居たとはいえ、その中では学力は最低レベル。

 しかもチビ、キモイ、オタクと3拍子以上揃っていたため、間違いなくスクールカーストの最下位にあった。

 逆に龍真は、背高い、頭良い、格好良いと、完全無欠の超人……間違いなくスクールカーストの最上位だった。


 進学クラスに居たから、クラスメートは受験勉強に忙しく、いじめなんぞに精を出す暇はなくて、俺は最底辺だったものの、そんなに惨い扱いは受けなかった。


「桐嶋と一緒に居ても時間の無駄だぜ。 口を開けばゲームの話しかしねぇからな。 来年、大学受験だってのによ」


 代わりに、そんな陰口はよく耳にした。

 俺は空気以下、もはや存在しないというレベルで放置されていた。


 しかしながら、将来の官僚を目指している龍真はメチャ頭良かったので、周囲の学生にはモテモテ。

 「ねぇ、藤宮くん、ここ分からないんだけど、教えてもらえるかな……?」という女子が毎日のごとく列をなしていた。


 俺は人から嫌われるのは慣れっこだったので、高校2年生の時点で、もう一人で居る事は気にならなくなっていた。

 だが龍真は、やっぱこの時は若かったのか、趣味のギターを学園祭で披露しちゃったりして、女子の末期色……いや、まっ黄色な悲鳴を上げさせる、モテ期絶頂の完璧モテ超人だった。

 俺はそんな龍真を「よくやるよ」と、まさに他人事……いや、別世界の出来事として眺めていた。


 だが、禍福あざなえる縄の如しとでも言うのか、その学園祭の翌日から龍真に災難が降り懸かってきた。


 瓜生彰うりゅうあきら先輩……この学校では珍しい、だがどこにでも居る、不良生徒の頂点。


「藤宮ぁ! お前……俺の女に手を出したっていうじゃねぇか! 見てた奴がいるんだぞ! そんな事して許されると思ってんのか! ケジメつけろや、おい!」


 実際の理由は知らない。

 友人となった今、龍真が他人の女に手を出すような奴ではないとは思ってる。


 だが真相は何であれ、その日から、瓜生先輩のグループによる、龍真への苛烈なイジメが始まった。


 龍真の端正な顔は、日を追うごとに腫れ上がり、一週間が経つ頃には、まるで別人のようにボコボコになっていた。


 残酷な事に、誰も龍真の味方になる奴は居なかった。

 まわりに沢山居た女子も居なくなった。

 龍真が声をかけても、誰一人、反応しなくなった。

 瓜生先輩を恐れたのか、それとも巻き添えになって、自分の勉強が遅れるのを嫌がったのか。


 徐々に……だが確実に、龍真は孤独になっていった。

 それでも奴は、逆境にめげることなく登校してきたが、一ヶ月が経ったある日、ついに学校を休んだ。


「桐嶋……あの、悪いが、藤宮の所にプリントを届けてくれないか?」

「あ、はーい、わかりました」


 担任の指示で、奴の家にはクラスメートが交代で見舞いに行っていたが、遂に俺の番。

 内心では多少面倒だな、と思いつつも内申点のために従った。

 その時、なんとなく口にした話題。


「あの……先生、藤宮君は大丈夫なんですかね? 瓜生先輩からヤキ入れられて、怪我してるみたいなんですけど……」


 あんなあからさまなリンチ、学校側からも何らかの対策を打つだろうと思っていたのだが、


「何を言ってるんだ、桐嶋!? 誰がそんな事を言ったんだ!? 藤宮は、自転車で転んで怪我をしただけだぞ!! 瓜生先輩がどうのとか、噂で人を悪く言うもんじゃない!!」


 想像以上の語気で反論され、俺は目を剥いた。

 学校側は、龍真へのリンチを無かったことにしようとしていたのだ。


 これは後で知った事なのだが、瓜生先輩の祖父が、この学校に大恩ある人で、何かしらの援助を受けていたらしい。 しかもその縁なのか、先輩の父親が、この高校のPTA会長だった。

 瓜生家に逆らえば、学校側としても運営に相当な問題が出てくる。

 だからなるべく表に出さず、子供たちの間だけの、内部の問題として収束させたい……当時は分からなかったが、学校の思惑はそんな事ではなかったのかと、今になってみれば思う。


 俺は帰宅途中、龍真の家にお邪魔して、プリントを渡した。


「龍くん、クラスメートの桐嶋君って方が見えてるわよ」


 母親に、ごゆっくりどうぞ、と龍真の部屋に通される。

 奴はテレビを見ていたのか、座り込んだ姿勢で顔だけこっちに向け、


「桐嶋……?」


 桐嶋? って誰それ?的な表情で出迎えた。


「どうも、こんにちは」


 なので、俺は渋い表情で挨拶をした。


「君と同じ、2年8組の桐嶋礼雄です。 これ、プリント。 今度、全国模試があるんだってさ」

「あ、ああ……。 ありがとう、桐嶋くん……」


 それが、俺と龍真の、正しい意味でのファーストコンタクトだった。


「じゃな。 傷が治ったら、学校来いよ」


 コンタクト終了。

 用件が済んだので、さっさと帰ろうとしたら、


「待て。 待ってくれ。 思い出した。 桐嶋礼雄……そうだ、あのゲームの話ばかりで、いつも一人の……桐嶋君だったな、思い出した! 待ってくれ!」


 立ち上がった龍真に肩を捕まれ、呼び止められた。

 っていうか、やたら不愉快な思いだし方だな。


「ああ、そうだけど。 それが?」

「あの……」


 龍真は、少し視線を泳がせると、言った。


「あの……君は、友達は、居るのか……? 学校外とかに……」


 なんだそりゃ。


「いないけど、それがどうした?」


 その質問にそう返事すると、龍真は動揺した様子だった。


「いないって……? 全く? どこにも?」

「そうだけど、それのどこが悪いんだよ。 別に不都合ねーぞ」


「は……はは……」


 龍真は、片手で顔を覆った後、ふらふらとよろめいて、しゃがみ込んだ。


「世の中には……居るもんだな。 一人で居ても平気、って人が」

「まぁ、な」

「君は……何でそんなに強いんだ? 何故、一人で居ることに我慢ができる? 僕は、寂しいんだ。 あんなに友達が居たのに……。 誰も、居なくなって……」


 お前のは友達か?

 単なる取り巻きじゃないの?


 とツッコミたくなったけど、あの完璧超人フジミヤがあまりに哀れな姿を見せるもんで、少し不憫に思い、俺はまともに答えてやる事にした。


「俺ってさ、少し変わりモンみたいなんだよね。 周りから言わせるに」

「……」


 龍真は無言だった。

 「……少し?」というツッコミたげな表情が浮いてたのは気にしないことにする。


「だから、人は離れていく。 確かに、寂しいって思う事はあるけど、でも一人で居るのも悪くないぜ。 自分のしたいことを存分に出来るし、誰にも邪魔されない。 マジで自由なんだ」

「いや、だが……」


 だが?


「周りから非難される事もあるだろう? ……それは苦痛じゃないのか……? 僕は……もう……」

「他人の非難とか知ったことかよ」


 俺は、語気強く続けた。

 非難と聞いて、兄貴の顔が思い浮かんだ。


「クソな連中の言葉とか、何一つ耳に入れたって良いことないぜ? 普段、周りの連中の言葉に耳を澄ませてみろ。 本当にどうでも良いことしか言ってないだろ?」

「それは、君もそうじゃ……」

「ほっとけよ。 俺の価値は、俺だけが知ってる。 他人の評価なんてクソ食らえだ」


「他人の、評価なんて……」


「そうだよ。 自分で自分を信じなきゃ、誰がお前を信じる? 世界の中で、自分の味方は自分だけなんだ!」


 龍真があまりにヘコんでいたので、瓜生先輩の言うことなんて気にするな。 お前は凄い奴なんだから、とわざわざ励ましてやった。


「ありがとう……でもな、どんなに自分を信じていても、周りから一斉に非難されると、それが本当の自分の評価なのか、と思えてしまうんだ……」


 僕も……君の言った姿が、本当の自分だと信じたい。


 そう龍真は、涙声で続けた。


「……」


 こいつ、相当に参ってんだな……。

 明らかに、普段のお前こそが、本当のお前だろうによ……。


「俺さ、ゲーム好きなんだ。今度、『モンスターバスター2』ってゲーム出るんだよ」


「……?」


「今度は、アーケード版の敵とも戦えるんだ。今からワクワクしちゃっててさ、早く発売してくれないかな、って思ってる」


「……???」


「だから、それまでは何があっても死ねないよ。 どんなに孤独でも。 辛いことがあっても。 お前もそうだろ? 何か、将来やりたい事があるんだろ。 それを果たせないまま、あんな連中に負けていいのか?」


「……。」


「将来な、ゲームはもっと面白くなる。 いずれ、本当に、立体画像で戦う施設が出来て、最後には、完全に異世界に入り込めるようなゲームが出来ると思う。 ……俺は、それを絶対に体験したい。 間違いなく面白いと思うから!!」


「……僕には、全くゲームの事は理解できない。 君がどれだけ、その、ゲーム業界の未来を輝かしく思っているかも、想像がつかない……だけど」


……?


「言いたい事は分かった。 希望……か。 そうだな。 やりたい事は沢山あるのに……それを何一つ叶えられずに、負けて死ぬのはイヤだな」

「そうだよ。 お前にも、あるだろ? 自分の思い描いた将来が」

「そうだな……」


 この日本を変えたい、と龍真は言った。

 官僚になって、この日本を変える仕事がしたい、と。


「じゃ、なおさらここで死んでられないじゃんか」

「でも、どうしたら良いんだ……? あいつらは、ずっと付きまとってくるんだぞ……」


 そう言われ、俺がしばらく天を仰いで考えて……。


「ネットで検索してみたら? その、似たような境遇の奴は一杯居るだろうしさ」


 すると、龍真の奴は、驚いた表情をして答えた。


「……ネットで!? いじめ対策を探し出せ、って!?」

「うん。 まぁ、攻略法はきっと何かあるよ」


 すると、龍真は少し視線を泳がせていたが、弱気一辺倒だった奴の表情が、徐々に鋭くなりはじめ、急に立ち上がると、デスクトップパソコンの電源を入れた。


 ……お、これなら大丈夫だな。


「じゃ、俺はそろそろ……」

「待て。 待ってくれ。 存分にお茶を飲んでてくれ。 母さん! 茶菓子をもっと持ってきて!」

「いや、そろそろ帰りた……」

「待っててくれ、頼む! 暇だろうが、適当に時間を潰しててくれ!」


 結局、強引に部屋に居させられることになった。


 とはいえ、龍真の部屋には参考書や書籍、辞典ばかりで、娯楽として読める本などなかった。

 DVDも普通の映画やサッカー、MVミュージックビデオばかりで、アニメはなかった。


「……あった」


 かろうじて、マンガはあった。 古ぼけた「歴史の偉人シリーズ」が……。



  *    *



「……あったぞ。 攻略法」

「何のだよ」


 俺が菓子を食べつつ、マンガを読みながら答えると、


「何がって、君が言ったんじゃないか、桐嶋君。 いじめに対する攻略法、だよ」


 あ、やっぱりあったんだな?


「もしかして、適当に言ってたのか!? まぁ良い、これで何とかなりそうだ……それで」


 にしても、龍真の奴、さっきまでの弱気が嘘みたいだな。 表情も、完璧超人のそれに戻ってるし。


「桐嶋君……頼みがある」

「何だよ」

「手伝って、くれないか……? この『攻略法』、一人ではちょっと難しいんだ」

「いいよ」


 俺がそう返事すると、龍真は目を剥いた。


「中身を聞く前に返事するのか、君は!?」

「そんな危険な事じゃないだろ? それに、俺も瓜生先輩みたいな連中は嫌いだからな」


 それで、その「攻略法」ってのはどんな方法なんだよ、と聞いたら、


「確実なのは『証拠』を提出する事だ。 つまり、僕が虐められている現場を撮影して、それを学校、教育委員会などに持参するのが良いと書いてあった。 それと、病院に行った時の領収書や診断書」


 何でも、そういうのは第三者行為とか言って、相手に医療費を全額請求できるらしい。 よくは分からなかったが。


「じゃあ……俺に手伝ってもらいたい事って、つまり盗撮か」

「そうだけど、少し違う。 盗撮は後の事を考えると、少しリスクがある。 直接撮ってもらいたいんだ」

「直接!?」

「今、ネットのオンラインショップで、カメラをいくつか買った。 その中に、小型のピンホールカメラもある。 それを、君の制服の胸ポケットの中に仕込ませてくれ」


 ……マジかよ。


「そうだ。 なるべく危険は少なくしたいが……だが僕は、連中を確実に退学させるつもりだ。 だから危険は多少あると思う。 それでも手伝ってくれるか」

「まあ、いいけど」


 それを聞いて、龍真はまたも理解できない、という表情をした。


「返事が軽すぎる……。 これからの事をリアルに考えているのか、不安だな……。 それに君は、ちょっとお人好しすぎるぞ」

「おいおい、俺のこと心配している場合かよ」

「それはそうだな……。 ありがとう、桐嶋くん。 悪いが、遠慮なく力を借りさせてもらう。 代わりに、僕に出来る事があったら、何でも言ってくれ」

「ああ、サンキュ」

「それで、早速だが、携帯の電話番号とメールアドレスを教えてくれないか? 色々相談したいことが出てくるだろうからな」

「いいよ」


 こうして、俺と龍真は、友人となった。


 ……運命ってのは、本当にどうなるか分からないもんだ。 この時の事を思い出すと、いつもそう思う。

 未来は……いつも、どうなるか分からない。

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