(101)トレジャートレード
2月14日、バレンタインデーイベント「チョコレートレード」……一見楽しそうな、バトルとは無縁に思えるイベント。
だが、いつの間にかログインしていた龍真ことバールハイトは、俺にこのイベントが「極悪なバトルイベント」だとアドバイスしてくれた。
「どういう事だよ、バレンタインのイベントが、極悪なバトルって」
すると龍真は、このイベントは見た目どおりのものじゃない、と前置きしてから言った。
「この『チョコレートレード』は、以前のイベントを流用してるんだ。 以前のは『トレジャートレード』という名前の、デスバトルイベントだった」
確かに……このゲームは、イベント数が多すぎるので、ダンジョンやボスに焼き直しや流用が多いってのは知ってる。
でも龍真、何でお前にそんな事がすぐに分かったんだ?
「さっきも言っただろう? 露天で売ってる罠が『トレジャートレード』と同じだからだよ。 レオ、話は露天に向かいながらしよう。 先に罠を確保した方が絶対に良い」
「『罠』……だって!?」
「ああ、そうだ。 『罠』だ! 行こう、レオ!」
露天に向かいつつ、龍真はイベント『トレジャートレード』の内容を語り始めた。
「このイベントの趣旨は確かに宝探しだ。 だがその最中に、『罠』が豊富に使える事がくせ者なんだ。 最初は皆、普通に宝探しに興じているが」
「うん」
「宝を奪われた方のパーティは、『罠』を使ってのPKや強盗行為に、心理誘導される仕組みになっている」
「……マジかよ」
またか。 また殺し合いのイベントか。
「ああ、本当だ。 レオはどう思うか知らないけど、罠にかかって、身動きできない連中が目の前に転がっていたら、誰もがPKしたくなるらしいぞ」
駅で泥酔して寝ている人の財布がいつの間にか無くなっているようにな、と龍真は例え話を付け加えた。
「(しかし……それなら)」
オリオン達が、このイベントに参加するかどうかは不明だ。
だが、罠を駆使すれば、結構格上の相手とも良い線いけるんじゃないのか、これは?
そうすれば、オリオンと戦わなくても、戦利品が……。
「見ろ、レオ。 まず、これが罠の一覧だ。 まだ購入はできないがな」
思考の途中でそう龍真に促され、我に返った俺は、あわてて露天の品物をタップする。
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・毒針:50Cen (残数:300)
※罠にかかったプレイヤーを毒状態にする。 毒は薬等で回復可。 宝箱設置可。
・石つぶて:30Cen (残数:999)
※罠にかかったプレイヤーに石つぶてで固定ダメージを与える。 宝箱設置可。
・強力鳥モチ:700Cen (残数:100)
※罠にかかったプレイヤーの身体の一部を短時間拘束する。(効果を発揮する場所はランダム) 宝箱設置可。
・シビレ網:2,000Cen (残数:100)
※網にかかったプレイヤーを「麻痺」で拘束する。 麻痺は外部から薬や魔法で回復可。 宝箱設置可。
・まきびし:150Cen (残数:500)
※踏んでしまったプレイヤーの足に部位ダメージ。 防具による軽減効果あり。 宝箱設置不可。
・簡易落とし穴:5,000Cen (残数:50)
※踏んでしまったプレイヤーを短時間拘束する。 宝箱設置不可。
・携帯けむり玉:100Cen (残数:700)
※煙で敵味方とも画面が真っ白に覆われ、何も見えなくなる。
・ハイドローブ:10,000Cen (残数:100)
※敵から姿が見えなくなる。 ダメージを受けるとローブが破れ、使用不可能となる。
・きらめき高校位置図:0Cen (残数:∞)
※インスタンスマップ「私立きらめき高校」の全図。
・きらめき高校位置図【高級】:2,000Cen (残数:∞)
※インスタンスマップ「私立きらめき高校」の全図。
宝箱の位置がリアルタイムで表示される。
・宝箱【カラ】:100Cen (残数:∞)
※空の宝箱。 中身には罠、装備品、道具、通貨など何でも入れられる。 入れた中身のレアリティが高いほど、マップでは大きく表示される。
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「数、多いな!」
「だけど、大半の品が必需品だ。 ここでケチったり、適当に購入したりする奴が、このイベントで勝つ事はまず無理だ」
「という事は……やっぱり、以前のイベントに参加した事があるのか、バール」
「一応な」
龍真が言うには、このイベントはゲームがリリースされた頃の物らしい。
その時の設定は、古代王朝の廃墟から、当時流通していた金貨を持って帰ってくるというものだった。
龍真も、最初は金貨探しのイベントかと思っていたが、やがてプレイヤーの間でトラブルが頻発するようになり、最終的に大規模PKへと発展したらしい。
「でもそれで、よく生き残っていたな、バール」
「ああ。 でも、大規模PKになる前に『罠の仕掛け合い』という前段になるんだ」
皆がまだ、罠を所持している序盤~中盤戦では頭脳戦の色が濃く、的確に行動できれば、誰でも良いところは行けるらしい。
「例えば、『高級マップ』で宝を探したら、後は『ハイドローブ』で、ずっと時間切れまで隠れていれば良い。 小金稼ぎはこれで旨く行く」
「……なるほど」
確かに、それは戦法として、アリかもしれない。
ただそれは、龍真が参加していた頃の、まさに昔の話だ。
エルキッドが持っている「リコネッサンス・オービター」という、プレイヤーの位置を特定する魔法があれば、その戦法は無駄になる。
小規模な一般プレイヤーならまだしも、ビッグプレイヤーが大金をせしめようと思ったら、その方法は使えない。
「まぁそうだろうな。 僕も弱小個人だから、見逃された部分はあるかもしれない……が」
「?」
何が言いたい?
「お前は、このイベントで、オリオン達を倒すか、あるいはそれに見合った強さのプレイヤーを倒す気なんだろう?」
「あ、ああ……」
「そうしないと、お前は、地元に連れ戻されるんだろ」
「ああ」
「それは、僕にとっても願い下げだからな……。 できる限り協力するぞ、レオ」
あ……。
「ありがとう、バール……! お前が居てくれて、本当に良かったよ……! 助かった!」
「でも、僕が手伝えるのは、中盤戦までだぞ。 本格的に戦闘が激しくなったら、僕は撤退する。 お前の足を引っ張りたくないからな」
「バール……」
「もしかすると……。 僕とお前、逢うのすら、これが最後かもしれない」
最後、って……。
「……だから、存分に戦ってくれ」
「……分かった」
とは言え、このイベントの攻略法は何なんだろう。
罠が必要だってのは分かる。
だが、何をどれだけ買えば良いのか……。
「心配するな、僕が教えてやる。 まずはハイドローブ。 これは必須だ。 買わなかった人間は、即脱落というほどの、必須アイテムだ」
ハイドローブ……え?
「これ、残数が100個しかねぇぞ」
「その通り。 つまり、このイベントをまともにプレイできるのは、100人以下だ。 実際は複数買い込むから、もっと少なくなるな」
「残りの人間はどうなるんだ?」
「もちろん、闇討ちに逢って漏れなく死んでいく」
マジかよ……。
それ、条件が厳しすぎねぇか?
必須アイテムが存在するってのを知らなかったら、まともにプレイできない、ってのは……。
「いいや。 真剣に勝つ気のある連中は、さっきの説明文を見てすぐに気づくよ。 そうでない奴……ボンクラな連中は負ける。 当然の事さ。 レオ、お前もそんなにボヤッとしてて良いのか?」
「……?」
「僕はもう『ハイドローブ』を即座に購入できるよう、ウインドウを開けて、カーソルを合わせて待ってるぞ」
ワンタップ……0.1秒で購入してみせる、と龍真は言った。
「な……!?」
「お前もやるんだ。 勝つんだろ。 他人が買う前に買わなくちゃ、勝機はない」
まるで、昔の転売屋が、時間と同時の電話攻撃で、チケットを購入するみたいなもんじゃねぇか……!
「そうだ。 そこまでするから、転売屋は暴利を得られるんだ」
「わ、分かった」
「他人と同じ事をしていたら、他人には勝てない。 他人の思考を読んで、そのさらに上をいかなくてはな」
「分かった……つまり、ハイドローブは買い占める勢いで買え、って事だな?」
「殺されて奪われない程度にな」
「うへぇ……」
こういう殺伐とした思考は苦手だ。
だけど……やらなくちゃ。
勝たなくちゃいけないんだ。
ゲームで、他人に勝つには、相手の思考を読むこと。
まさに今、龍真が言ったとおり……。
「……」
俺は、購入画面を広げたまま、イベントが始まるまでを思考に費やす事にした。
まず、オリオン達は参加するのか?
「(……本質を知れば、参加するかもな)」
このイベントがデスバトル物だと知れば、自分達の強さに自信があるオリオン達は、おそらく参加してくるだろう。
だが、ただのチョコ集めと判断すれば、参加はないかもしれない。
「(……つまり、デスバトルと知らず参加、という可能性は無いって事だな)」
もし出会った場合は、デスバトルと知って参加してる事になる。
仮にオリオン達に出会わなくても、それなりの金額を稼がない事には、天麒兄貴に言い訳すらできない。
それなりの格の奴らを倒す必要がある。
だが、龍真も言ったとおり、このイベントで勝ち残る奴は、以前のイベント内容を知っている可能性が高い。 つまり古株。 必然的に強敵だ。 ビギナーズラックはまず期待できない。
「バール……『ハイドローブ』を買ったら、次は何を買うんだ?」
「次は『シビレ網』と『けむり玉』だ。 ただ……」
「ただ?」
「他のアイテムにも、使い方次第では、有用な物があるかもしれない」
なるほど……確かに『落とし穴』とか、いい感じかもしれない。
でもそれが分からないという事は、以前のイベントで、そこまでは罠を使いこなしきれなかった、って事なんだな。
「そうだ、すまない。 素人的には、確実な効果があったと思えたのが、その2つだった」
「何、それだけでもありがたいよ」
「レオ……」
「なんだよ、バール」
「覚えてるか、高校の時の事」
「高校の時? もしかして、あの時の事か?」
俺と龍真が、先輩方からリンチされた時の事。
「そうだ。 次があるか分からないから、少しだけ語らせてくれ。 レオ、僕はな……お前に、本当に感謝してるんだ」




