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(99)超必殺技伝授

「……いきなりだけど、最強の剣技ブレードアーツを教えてやる。 これは運営にバレれば、修正間違いなしの奴な」


 鶴羽先輩は、ゲーム内で「エクスカリバー」とか手に入っても、数値によっては「このパラメータのどこがエクスカリバーだよ。 スタッフは北欧神話も読んでないボンクラか」と、危うい事を言うほどシビアだ。

 その先輩が「修正間違いなし」とまで言うんなら、掛け値なしの最強兵器に違いない。


「だから、使った相手は確実にブッ殺して退場させろよ」

「あ、は、はい」


 存在がバレれば運営に修正される技である以上、第三者に見られる状況や、相手が復帰可能な状態で使うな……1対1でのデスペナルティルールのみで使用可、って事か。


「場合によってはレオ、お前がBANされる可能性もあるからな」

「アカウント剥奪ですか? 運営も、さすがにそこまではしないんじゃ……」

「お前は相変わらず甘いなぁ。 ま、いいや。 今から教えてやるから、メモしろよ」

「は、はい!」


 そうして俺は、約1時間かけて、先輩から愛用の各種ブレードアーツを教えてもらった。


 剣技ブレードアーツはその最強の技以外にも、いろんな状況で役立つものを教えてもらった。

 その中には、「ヤツフネ」が使っていた「転位抜刀自在斬り」によく似た技も入っていた。

 これは……。

 上級プレイヤーは皆考える事は同じ、ってことなんだろうか。


「これは……先輩のオリジナルの技ですよね?」

「当たり前だろ」

「先輩、ヤツフネって奴と戦ったことあります?」

「倒した相手の事とか覚えてねぇよ」


 ヤツフネが、先輩の技をコピーしたのかは分からなかった。 だが、想像もしないような新技で倒された相手は、それを真似したり越えようとするだろう。


 俺は先輩から伝授された剣技のメモを見ながら、つくづくそう思う。

 自分の優位性を長く保つためには、革新的な情報はなるべく秘匿しておかなければならない。

 情報の常として、いつか必ず漏洩するものだとしても。


 そして、剣技の伝授は終わった。


「ま、これで全部じゃないけど、今のお前に必要なものは揃ってるだろ」

「ありがとうございました。 本当に、助かります」

「で、どうだ? この情報、全部で20万円分あっただろ?」


 それを言われて、俺は一瞬返事に詰まったが、先輩からリアルマネーを引き出す事はもはや不可能なのを思い出す。


「はい、本当に……。 その価値ありました、さすが先輩です」


 だから代わりに、先日テレビで見た、太鼓持ち芸人とゴリラパーマのやりとりを真似て……。

 先輩の自尊心が満足できるよう、懇切丁寧に礼を述べた。


「そっか、そうだろ? 凄い技だろう!?」

「ええ、先輩がどれぐらい凄いプレイヤーだったのか、分かります」


 実際はアバターネームも知らないんだけど、先輩は20万円の支払いが免除されたことで心の重石が取れたのか、やたら饒舌になった。

 それとも、俺の下手なお世辞に乗せられたのだろうか……?


「だろ!? 流石に分かってるな、レオ!」

「そりゃあもちろん。 先輩なら、間違いなくトッププレイヤーのはずですから。 今回の件だって、ただ、運がなかっただけかもしれませんし」

「そうさ……。 俺は、実力あるんだよ……」

 

 そして、しみじみと言った。


「その俺が、何で、こんな地味な仕事してんだろうなぁ……」

「地味? 実家の仕事がですか?」


 先輩は実家で仕事の手伝いをしているのはさっき聞いたところだが、家業はガラス店をやっているらしい。

 しかし先輩は、ガラスは割るは(大きめの1枚ものは10万円以上するらしい)、協調性ないわ、自分の非を認めないわで、従業員の皆さんから徐々に嫌われていったらしい。


「それはきついですね……社長の息子って肩書きがあるのに……」

「社長っても、こんな中小企業じゃそんな価値ねぇよ! 大体、連中も順序を追ってきちんと説明すればいいだけなんだよ! 『こんな事も分かんねぇのか』的に済ませんなよな!」


 暴言吐きまくりだよ、先輩。

 俺も身に覚えがあるだけに、先輩の姿を外から見てると、俺もこんな感じなのかな……と思わされる。


 保科たちも、俺を見て、こんな……。


「それで、もう作る側から、売る方に回されたんだよ。 営業っての? これがもうバカバカしくてさ」


 先輩の話は痛すぎた。

 そもそも、俺を上回る社会不適合者の先輩に、そんな対人スキルを求められるような仕事ができるワケない。


「こっちが何も言ってないのに怒りだしやがってさぁ、それで会社にクレーム、それで俺が怒られてんの? 何それ? 僕に直接言えば良いじゃん? お前等ガキなの? って感じだよ」


 案の定だった。

 先輩の会社の人たちは何を考えてたんだろう。


 いや、この場合、先輩のお父さんが、息子の可能性が何かないかと、暴挙を承知でチャレンジさせただけの事かもしれない。


「足を使って営業しろって言われたって、非能率すぎるっての! 大体、そんなガラスとかの注文が、ほいほい入るワケねーだろ!」


 うわぁ、あの体力ゼロの先輩が、足で営業とか……。


「じゃあ、ネットで広報してみるってのはどうですか?」

「ネット?」

「先輩、その、検索能力とか凄いじゃないですか。 その製品を必要な企業にピンポイントでメールしてみたり、SNSで広報してみるのも良いんじゃないですか」

「ガラス必要な所ってどこだよ」

「えっと、ほら……」


 何故か、そこで龍真の顔が浮かんだ。


「だから、検索してみるんですよ! 『ガラス』『交換』とかで! そう、例えば、被災した県や市とか。 多分地元だけじゃ、足りないかもしれませんし」

「……ほう」

「あと、飛行場のすぐ近くとか。 衝撃波でガラス割れるところもあるんじゃないですかね」

「割れるかぁ? それくらいで」

「いや、知りませんけど……。 じゃあ、防音ガラスとか」

「防音ガラス?」

「ほら、北海道みたいに、二重にすれば聞こえづらくなったりしませんかね? 間を真空にするとか!」


 なんか知らないけど、連想ゲームみたいに、ポンポンとアイデアだけは出てきた。


「……じゃあ、放射能遮断ガラスとかどうですか!?」

「ねーよ!」


 既に実用化されてたりとか、空想の産物に過ぎない可能性もあったろうが、とにかく……先輩が不憫で、何か助けになればと知恵を絞り出した。


 そして俺は、しばらく先輩と喋り続け、愚痴を聞き続けた。


「お前のアイデア、役に立つかどうかはまだ分からないけど……」

「はい」

「ありがとう、礼雄。 親身になってくれて。 僕の事を理解してくれる人間が居てくれて、よかった……」


 理解してくれる人……か。

 だよな。

 先輩は……色々ピーキー過ぎて、普通の人には理解しがたい存在だもんな。

 それが親であっても、先輩の事をどれだけ理解できているか……。


「肉親ですら分かりあえないんだから、なお……」


 やべ、考えている事が思わず口に出かけた。


「とにかく先輩、仕事大変でしょうけど、頑張って下さい! 応援してます! 俺も頑張りますから!」

「ああ、でもな、礼雄」

「何ですか、先輩?」


「……今のお前は、リヴァイアサンでは勝てないような気がするな」


 ……!?


「どういう、事ですか?」

「僕も、今喋った直感だけで言ってるけど、お前、随分とヌルくなったよ」


 ヌルく……?


「あ、いや、丸くなった、と言えば良いのかな? でも悪い意味でな」


 悪い意味で!?


「どういう、事ですか?」

「いや……」


 少しの間を置いて、先輩は言った。


「出会った頃のお前は、もっと尖ってたよ。この世界のクソリア充どもを、全員ブッ殺してやる、そんな雰囲気だったのに」


「そ、そんな雰囲気出してました、俺!? てか、そんな事、考えた事ないですけど!?」


「いや、それは嘘だな。 お前は、心の底ではそう思ってたよ。 僕には分かる。 同類だから」


 絶句した俺に、先輩は続けた。


「何で……そう思うんです?」

「目だよ。 目が、鏡の中の僕と同じ色してた。 濁った、暗い色の目」


 いや、人間の眼球は全員黒だろ。

 それ先輩の思いこみじゃ……。


「お前、もしかして、リアルが充実したとか、ゲームで敵なしになったとかで、少し余裕カマしてたんじゃねぇか?」

「……!?」

「違うぞ。 僕たちは最底辺なんだ。 だから戦い続けるしかないんだ。 歩みを止めたら、死ぬしかないんだよ。 戦場に立ったら、親でも倒せ。 そう教えたよな」

「先輩……。」

「その、リヴァイアサンでお前がモメてる相手、決して倒せないワケじゃないはずだぞ。 むしろ、お前が相手を容赦なく斬る気持ちになってさえ居れば、倒せたんじゃないのか?」

「う……。 でも、今は無理です。 方法がないんですよ」

「方法がない?」


 先輩の助言は大変ありがたかった。

 オリオンのスキル「パラライジー・リストリクション」を破る方法があるのなら、連中は倒せる。


 だがそれは、倒される以前と互角の装備があってこそ。

 裸一貫の今、俺は連中と互角に戦える装備を揃えられないのだ。

 多分、凡ミス1回だけで倒される。


「課金しろよ」


 え?


「だから、課金すれば良いって言ってるんだよ。 何万かあるだろ? お前の残った生活費。 それを全部ツッコめよ」


「な、何言ってるんですか!? そこまでやったら……!!」


「どうなるんだ? まさか、廃課金厨だ、みたいな事を言い出すつもりか?」


「え? え? 先輩……?」


 貴方は……課金しない主義、だったでしょう……?


「普通のゲームじゃな。 だけど、僕の中では、リヴァイアサンは、ゲームじゃなかった。 命を賭けた真剣勝負の世界だったよ」


 真剣勝負の、世界……。


「命を賭けた戦いで勝ちたかったら、リスクを負え。 無傷で勝とうなんてのが、そもそも甘い考えなんだよ」


「だけど……!」


「皆まで言うな。 お前の言いたい事は分かってる。 でもな、ここの数万円でお前の未来が決まるかもしれないとしたら、賭けるしかないんじゃないのか?」


 ここで課金しなければ100%の死。

 ここで課金すれば、高い可能性で負けるが、だが未来を繋ぐ可能性が僅かにある。


「でもこれは、親の金……」

「そうだな。 気持ちは分かる。 だから、僕は『課金という選択肢がある』と提示しただけ、だ。 あとはどうするか、お前が決めろ」

「先輩……」

「じゃ、もう切るぞ。 お前に、武運があると良いな」

「はい……」


 そうして、先輩からの電話は切れた。


 俺は、財布の中から、生活費の支払いに使ってる、クレジットカードを取り出して、しばし眺めた。


 2年間使ってきたそのカードの表面は、多少古ぼけ、よく分からない汚れも付いている。


 父さんが、大学入学の時に持たせてくれた時はまだピカピカで新しかった。

 初めて自分でお金を下ろした時は、大人になったようで、少し興奮したものだ。


 あの時は、自分の未来が、こんなになるとは、全く思ってなかった……。


「ごめん、親父」


 悪い事だってのは分かってる。

 でも、最後に甘えさせてくれ。


「もし負けたら……。 必ず、働いて返す」


 俺の中の甘えを、今ここで断ち切る。

 だから、俊郎叔父さんの工場で働くと、自ら口にした。

 そう誓った。


 必ず、勝つと誓った。


 さよなら、あかり姉。

 酷い従兄弟でごめん。


 さようなら、小夜子叔母さん。

 美味しいご飯、毎日お世話になりました。

 時々、意味なく残してごめんなさい。



 俺は、「還魂のリヴァイアサン」その設定欄から、課金の項目を選択。



「……」


 そして、親父から貰ったクレジットカードを、スキャンした。

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