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(98)鶴羽和哉

「鶴羽……先輩?」

「そうだよ、思い出したか?」


 鶴羽和哉。


 俺が大学1年の時、この街のゲーセンで出会った最初の強敵。

 そのまま「デジタルメディア研究会」に入部する原因の先輩。

 ムラサメと似てるけど、より偏屈で、傲慢で、天上下唯我独尊という、最悪の人間性。

 でも、ゲームを心から愛し、その点に関してだけは、真摯で誠実な先輩だった。


 ……行方を、くらますまでは。


「先輩……お久しぶりです。 突然、どうしたんですか?」

「お前に、謝りたくて」


 そうだ。先輩は、「将来、起業したいから」と嘘をつき、俺から20万円を借りた。

 だがそれは、おそらくリヴァイアサンの課金に消えた。

 うっすら想像できてはいたが、あえて聞いた。


「あのお金は……どうしたんですか」

「すまない、礼雄。 お前から借りた金、結局返さないまま、実家に戻ったりして」

「そうですね……。 で、あのお金はどうしたんですか?」


 少し、間が空いた。

 自分からは言いにくいんだろうか。


「やはり、課金に全額ツッコんだんですね? 『還魂のリヴァイアサン』に」

「あ、ああ……。 知ってたのか」

「南原先輩たちに聞きました。 それで、電話を掛けてきてくれたのは、20万円を返してくれる……って事ですよね?」


 それを確認すると、またも間が空き……だが、はっきり言った。



「悪いが、返せそうにない」



 その返事は、全くの予想外だった。

 「返せそうにない」!? 

 借りた分際で、何言ってんだ!?

 誰のせいで、俺がこんな困窮してると思ってんだよ!!


 怒りが脳髄が沸騰し、目の前の視界が赤くなったような気さえしたが、それをなんとかこらえた。


 今、ここで怒りに任せて怒鳴りつけたりしたら、絶対にダメだ。

 20万円じゃなくても、ある程度返してもらう……あるいは、先輩の実家に補填してもらう、という方法もあるのだ。

 まだ、先輩の住所すら分かっていない。

 ここで電話を切られたら、俺には追う手段がない。

 怒るのだけは厳禁だ。


 俺は深呼吸して怒りを抑えると、ゆっくり話を始めた。


「……なんで、返せないんですか?」

「大量に借金がある」


 それ関係ねぇだろ、後輩だからって後回しにできるとでも思ってんのか、と思った矢先、


「……サラ金に」


 先輩は、常識を疑う返事をした。


 なんでも、先輩は「リヴァイアサン」で、実力ではなく装備の差で負ける事が許せず、ついに課金体験をした。

 だがそこから先輩は、呆れるほどの課金厨となってしまい、生活費はもちろん、周囲からも金を借りまくり、果てはサラ金にまで手を出していたというのだ。


「それ、どうやって返す気だったんですか!?」

「最初は……。 リヴァイアサンの例の『1000万円』があれば、余裕だと思ってたんだ」

「それ、噂でしょ!? ただの!」

「ああ……。 冷静になってみれば、確かにそう思う」


 俺は先輩の愚行に、思わず天を仰いだ。


 そして、金融機関からの借金を知った親御さんは驚いて、先輩を実家に連れ戻してしまったという事だった。

 借金は親父さんが立て替えて支払ったが、先輩は実家の工務店……ガラス屋さんを継ぐことを余儀なくされたらしい。


「親御さん、そんなにお金あるんなら、皆に返済できるんじゃないですか?」

「いや……」


 先輩の話によれば、親御さんもそれほど裕福、というワケではないらしい。

 金融機関からの借金は、親戚からお金を借りて繰り上げ返済し、利子地獄に陥る事だけは防いだ。

 ただ、先輩はこの時、俺たちみたいな個人から借りた金を、きちんと全員分は思い出せなかったらしい。


「(何だよ、それ……)」


 そして、その分は当然ながら「貸し倒れ」みたいな形になってしまっている。

 先輩の杜撰さにまたも怒りをぶちまけたくなったが、これもなんとか抑えた。

 あの先輩が、こうして電話をしてくれてるって事は、少なくとも、俺に対しては謝罪の気持ちがあるって事だから。


「それで、当面の間は、実家でタダ働き、って事になったんだよ」

「じゃあ、それで稼いで……」

「はっ、実家の仕事とか、バカバカしくてやってらんねぇよ! 金を稼ぐにも、まだマシな仕事が色々あるだろ!? 何を好き好んで、あんな地味な作業やってなきゃいけねぇんだよ!」


 俺は「そんな偉そうな事言ってられる立場かよ!」と、先輩を怒鳴りつけたくなったが、でも俊郎叔父さんの工場で働きたくない俺にその資格はない。


 ここまでの話を聞いて、先輩からリアルマネーを取り立てるのはまず不可能、と思えた。



 ……だが、回収はリアルマネーじゃなくても良い。

 仮想通貨……つまり、「リヴァイアサン」の中で先輩に会い、200万Cenあるいは、相当の装備を貰うだけでも良いのだ。

 それがあれば、生き延びるチャンスが出てくるから。

 そう思って先輩に、リヴァイアサンの話題を振ると、


「……もう、リヴァイアサンやってる暇ねーよ。 親に監視されてるし、携帯は通話だけのカチパカケータイに変えられてしまったからな」


 そう返してきたが、


「あの、先輩。 俺もリヴァイアサンやってるんです」

「……ほお」

「だから、無料端末でアカウント復帰すれば良いじゃないですか。 そして、俺に装備とか、資材とかくれれば……」

「それは無理だ」

「何でです!?」

「もう、アカウント凍結されてる」


 俺は知らなかったが、「リヴァイアサン」にログインしない状態が二ヶ月以上続くと、アカウントの凍結措置が取られるらしい。

 そして、それを解凍するには書類と本人証明、そして二週間の確認期間、と面倒くさい手続きが必要だった。


「ぐ……!」

「にしても、礼雄、お前も『リヴァイアサン』やってたとはな……。 ハハッ、どうだよあのゲーム。 ハマるだろ」


 何をのんきな事を!!

 良いから金返せ!

 返せって言ってんだろ!!!


「そう、ですね……」

「そうカッカするなよ、礼雄。 悪いと思ってるんだから……。 それに、お前がリヴァイアサンやってたんなら、逆に僕にとっても好都合だからな」

「……? どういう事ですか?」


「20万円は、払えない」

「それは聞きましたよ!」

「その代わりと言っちゃなんだが……僕の知ってる情報を、20万円分、伝える事では許してくれないか?」


「……え?」


 20万円分の……情報、だって?


「そんなのあるんですか?」

「今、ギリギリなんだろ、お前?」

「え、ええ」

「その価値はあるつもりだがな」

「……じゃあ、聞かせて下さい。 いや、その前に」

「何だよ」

「それなら、『麻痺』から脱出する方法を教えてもらえませんか?」

「『麻痺』? レバガチャすれば良いだけだろ、そんなの」

「いや、そうじゃなくてですね」


 俺は、麻痺剣使い「オリオン」とのいきさつを語った。

 奴との因縁、パーティメンバー、能力構成ビルド、そしてもっともやっかいな「パラライジー・リストリクション」のスキル。


「パラライジー・リストリクション……?」


 だが、先輩のリアクションは、そんなのあったっけ?

 と言わんばかりの気のない返事だった。


「先輩、知らないんですかッ!? 麻痺で100人PKしたら身に付くスキルで、防御してても麻痺させられる、やっかいなスキルなんですよ!」

「あ、ああ。 言われてみれば、そんなのあった気がする」


 気がするって……あんた、このゲームでPKと状態異常は切り離せないファクターだろ。

 なのにそんな重要な事をうろ覚えとか、本気かよ!!


「てか、雑魚すぎるスキルだから、記憶になかった」


「……え? ……え?」


 予想外の返答に、俺はちょっと固まる。

 雑魚? まさか、雑魚って言いましたか、貴方?


「ああ、麻痺とか破るの簡単だぜ」

「ど、どうやって、破れば良いんですか!?」

「お前、もうちょっと頭使えよ。 あのな……」



 先輩から聞いた「麻痺破り」の方法は、誰にでも簡単にできる……が、全く想像外の方法だった。



「そんな方法が……!? 本当に、出来るんですか!?」

「嘘と思ったなら、やってみろよ。 だからこのゲーム、麻痺や眠りの状態異常って、あんまり意味ねぇんだぞ」


 そんな……。

 こんな簡単な方法で、本当に状態異常が破れるんなら、最初から、オリオンに苦戦しないで済んだんじゃないか……。

 ただ、俺が「気づいていなかった」って、だけで……。


「そうだよ、このゲーム、情報が最も大事だからな。 ってか、状態異常ごときで苦戦してるとか、お前たちレベル低すぎだぞ」

「す、すいません……。」


「えっと、これでいくらだ?」

「え?」

「この情報の金額。 簡単な内容だけど、運営にバレれば修正入りそうなレベルだと思わないか? 高く買い取って貰いたいな」

「え、じゃ、じゃあ、1万円、で……」

「安い。 お前、僕が、どんだけ試行錯誤したか分かってんの?」

「そ、それは分かりますけど……」


 確かに、こんな奇想天外な方法までも試すとは、流石先輩、としか言いようがない。

 でも、今は感心してる場合じゃない。

 俺の生き残りのために、俺は必死にならなくちゃいけない。


「先輩、リアルマネーで返して頂いても良いんですよ」

「分かったよ、じゃあ、残り19万円分教えるよ」

「何を教えてくれるんですか?」


「攻撃型のブレードアーツ。 僕が使ってた厳選の技を教えてやるよ」


 攻撃型のブレードアーツ!

 しかも、あの先輩が厳選した技!

 なら、相当使えるレベルである事には間違いない。

 俺にとっては、まさに必殺技となるはずだ。


「それ、ホントですか!?」

「ああ、でも、一回聞いて覚えられるレベルじゃないから、メモの準備してくれ」

「あ、はい……準備できました、どうぞ」

「まず、ブレードアーツのスキルタブを開けてくれ。 今、お前、何の技持ってる?」


「ちょっと、待って下さいね……」


 俺は、各種スキルの欄を開けた際に「ブレードアーツ」を選ぼうとしたが、興奮していてか、勢い余って「マジックスペル」のタブを間違って選択してしまった。

 面倒くさいので、そのまま「ローグツールズ」「カルチベイトアーム」……と急いでページをめくっていくと、


「い8・y^@70f」


 一周して「ブレードアーツ」のページに戻るかと思いきや、意味不明な単語のページが出てきた。


 中を見れば、そこにはびっしりと、だが整然と固有剣技の一覧が並んでいる。


「(何だ、これ? バグか……?)」


 俺がその画面をバグだと判断した理由は、タップ可能……つまり、使用可能な技でありながら、見たことない技までが登録されていたから。


「『ブレイド・ストライク』……?」


 剣闘士大会の決勝で、キリエ先生が使っていた、あの光の剣の技。

 間違いない。 これは、バグだ。


「礼雄、お前やるなぁ! 『ブレイド・ストライク』まで覚えてるのかよ!」

「え、ええ……。 最近覚えたんですけど、強いんですかね?」

「強えよッ! そして、使えよッ!! それ、片手剣の技の中じゃ、最強クラスの破壊力とリーチあるんだぞ! ちょっと硬直長いけどな!」


 でも、どうしてこんな事に……?

 俺は思い上がる端末のトラブルを思いだそうとするが、該当しそうなのは、インストールの時に電源切れたことと、店長たちの襲撃でドブポチャした事くらい。

 それのどちらか……あるいは、両方か。


「そこまで技覚えてるんなら、あまり苦労しなくて済みそうだな。 おい、メモ取れ」

「あ、は、はい、分かりました」


「で、礼雄」

「はい、なんですか? 先輩」


「……いきなりだけど、最強の剣技ブレードアーツを教えてやる。 これは運営にバレれば、修正間違いなしの奴な。 だから、使った相手は確実にブッ殺して退場させろよ」

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