ジュピタとトラとドラゴンと犬1
あの、クレアちゃんの唯一の友達のジュピタです。
今回は、私が主役、と言いますか。
彼女のよくわからない心象よりも、他の人の目線でクレアちゃんを見たほうがいいんじゃないか、ということで、私が抜擢されました。
でも、基本的にはいつものように彼女に振り回されるだけの話ですから。
まあ、ぜひ読んでください。
翌日
「ちょっと、遅いわよ。あと少し遅れていたら魔獣の餌にするところだったわ」
ここからは、クレアから引き継いでクレアの友人である私、ジュピタが一人称を務めさせてもらいます。どうぞ、よろしく。
昨日家に帰って改めて母に確認すると、確かに母はクレアのお兄さんに「いいよ」といったらしい。
どうせ、というかさすがに許可が降りないだろ、と思っていた私は、あまり気乗りしなかったが、仕方なくクレアとの冒険に手を貸すことになってしまった。
母は、私の身を案じているのかわからないが、私に小さいナイフを持たせて、それで十分よ、と言い私を送り出したのだ。
「ごめんごめん」
集合時間ギリギリについたが、そこには、徐々に昇っていく太陽を睨みつけ、一人仁王立ちしているクレアがいた。そして、その隣にはクレアの兄がいた。
クレアの兄は、クレアが呼び出したときに、毎回個性的な演出で登場してくれる。そして、いつの間にかいなくなっている。それが、私の彼に関しての知っている唯一の情報だ。
クレアの他の家族には会ったことはないが、だいぶ前の国王就任のパレードで、彼女の父親や母親を見たりしたことはある。
あと、クレアの双子の妹というレイには、一度だけ会ったことがあるらしい。それは、彼女が街に繰り出して子供を集めていた時らしいのだが、私はずっとそれがクレアだと思っていたのだ。最近になって、クレアとの出会いの思い出を私が彼女に語ったときに、彼女に「それは私じゃない」と指摘されて初めて知った事実だった。
しかし、クレアの話によると、レイは内向的な人物らしいのだが、あの時の私のレイ姫に対する第一印象はそのままクレアに引き継がれているのだ。
まあ、双子だから性格も似ていたりするんだろう。きっと。
「よし、じゃあジュピタ、あんたはこれを持ってなさい!!」
クレアが私に向かって何かを投げてきた。が、そのものは私の手元に届く前にゴン、という重苦しい音を立てて地面にめり込んだ。
「なにこれ?」
「フフン、これはモーニングスターよ。かっこいいでしょっ」
確かにカッコいいかもしれないが、そのカッコいいって男のカッコいい、という感性に近いし、なにしろ実用性がないわ。
なんだ、このトゲトゲに鎖がついた奇天烈なものは。
「それで、自分の身を守るのよっ」
私は、それをなんとか担ぎ上げるが、肩に担ぐと背中にトゲトゲの鉄球が当たり、痛い。そんな感じで私が困っていると、クレアのお兄さんが気を利かせてくれて、私の代わりにそれを持ってくれたのだ。
それに、今気づいたけど、結構イケメンだな。
「じゃあ、出発するわよっ」
クレアが実に勝手に冒険へと進み始める。私は、「ちょっと待ってよ」と言いながら彼女から遅れをとらないよう、必死で足を動かす。
彼女の兄は、先程預かってもらったトゲトゲの鉄球(朝の星って意味だよな?なんか、ダサくないか?)をポケットにしまい
・・・
え、どうやって?
あれ、入れられたとしてもめちゃくちゃ痛いよね?それに、重いし。え、どうなってるの?凹んでるんですけど。凹んでるっていうか、なんか吸い込まれるようにして、・・・・。その技術が開発されるのって、二一世紀とかそこら辺じゃないの?あ、二二世紀か。最近、設定が変わったんだもんな。
実に不思議な彼女の兄の仕組みがわからないが、私は彼女の後ろについて行くしかない。
空は、青一つ見えない曇天だ。その影で、うっすらと太陽がこちらを照らしてくれている。
「ジュピタは、森の方には行かないの?」
前を向いたまま、彼女が私に質問してきた。
「行くなって、言われているもの」
森には、危険な魔獣もいれば、組織的な盗賊もいるのだ。とてもじゃないが、一人で来る場所ではない。もしかして、そいつらを撃退できるくらいクレアが強いのか、と思うが、彼女は同世代の中でちょっと足が早いだけで、それ以外はごく普通の女の子だ。
魔獣や盗賊に勝てるわけがない。実質的な戦力は、彼女の兄だけだ。それにしても、兄の方はいずれ王となる人物ではないのだろうか。だとしたら、こんなことをしていていいのか?していて、というよりは、させていては駄目なのではないか、と思うのだ。だが、だからといって彼を帰らせるわけにはいかないのも事実だ。
彼は、スラリと綺麗に生えた長い脚で、私たちの二倍くらいの歩幅で悠々と歩いている。
が、スピードはクレアに合わせているので、せっかちなクレアがふんふん鼻息を鳴らしながら歩いているのに必死についていく私と、それに合わせるために少しスピードを落としている彼女の兄、という構造になっている。
それにしても、彼女は早いな。
ザザっ、
「なによ、なにか音がしたわっ」
私は、物音も何倍も大きい彼女の声で、反射的につい身を縮こめてしまった。
森には、行商人や旅人のための一本道が敷かれていて、私たちはそれに沿って歩いているのだが、もちろん一本道なのだから、盗賊にとっては待ち伏せしがいのある場所となっている。そ
ザザッ、
「二人とも、僕の後ろに隠れてっ」
兄が前に立ち、私たちをかばう。そんなときでもクレアちゃんは「ちょっと、前が見えないわ、お兄ちゃん」などと、いつもと同じようなことを言っていた。
ガルルルルル
誰かの腹の鳴る音であればいいのにと思ったが、もちろんそんなことはなく、私たちの目の前には、森にいる魔物の中でも、トップクラスに危険な、ランスタイガーが現れた。
のを、クレアの兄がまたたく間に黒焦げにした。
えっ?
私がその場で固まっていると、クレアが「こいつは仲間にするわっ」と言い出す。まあ、動物だから人間とはわけが違うもんな、殺されそうになったとかそんなに関係ないよな、と頭では状況を冷静に分析しつつも、突然の展開についていけずにいた。
「ジュピタ、あんたこれに乗りなさいっ。私がその前に乗るわ」
私は、クレアに言われるがままに、ランスタイガーの背中に乗る。その背中は、背骨が浮き出ていて、それをてっぺんに山なりになっており、乗り心地はあまりよくないが、乗りやすさは抜群だった。
「よし、出発っ!!」
クレアが、いつの間にか取り出した子供用の剣を前に突き上げて、高らかと出発を宣言する。
次回もまだジュピタだけど、それでようやく私に戻るわ。
待っててちょうだいね。




