カイくん、もっと私のことを、いじめて
私、せっかく転生してきたのに。
カイくんは、きっとレイのことが好きなんだわ。
じゃあ、私はどうすればいいの?
せっかく、異世界に来たのよっ。ちょっと、話が違うじゃないのっ。
せっかく、夢を持てると思ったのよ。
ほんと、ただじゃおかないからね。
私、こう見えてもお姫様ですからっ。
もちろん、真っ先に浮かぶ遊び相手はカイくんしかいないので、最悪レイとの三人でもいいからなにかしたい、と思い、私はレイの部屋に向かって走る。
そして、いつものように扉を叩こうとしたところ、何やら部屋の中から声が聞こえてくることに気がついたのだ。
「あ、ちょっと、カイってば、」
「レイお嬢様こそ、・・・それは、反則ですよ、アンっ」
おいおいおいおいおいおい、ちょっと待ってくれよ。
「ちょっと、もっと優しくしてよっ」
「俺、もう、手加減できないですっ。思いっきり、いいですか?」
「そんな顔シちゃって、」
私は、耳が潰れるほど扉に自分の顔を押し付けた。
私の内側から、またしても溢れ出てくるものを感じる。もう、抑えきれない、そんな気持ち。純粋な乙女でありながら、なにか禁断のものに手を出してしまいたくなる、自分にだけはウソをつきたくない、というこの気持ち。
ずっと抱えていた夢を、希望を、それを裏切ることだけは乙女としてありえない、という気持ち。
そしてなにより、体は自分の心よりもなによりも正直だ、という気持ち、ではない本能。体は、正直なんですわっ!!!
だけど、
レイ、あんた。
許さないわよっ!!
「ちょっとあんたたち、なにシてるのっ!!!」
私は、あえて扉をまだ開かずに扉の向こうに向けて声を張り上げ、そしてなにより、自分の内なるものを鎮めるために彼らに感情の発露を向ける。
「ちょっと、なにあんた勝手に人の部屋覗いてるのよっ!!」
あ〜、やばいやばいやばい。もう、駄目、かもっ。私は、醜い悪役令嬢ですわっ。
「あれ、今パンツに手を」
「もちろん、突っ込んでないわっ」
突然扉が開き、カイくんがこちらを向いて、私が何をしていたのかに察しがついたのか、彼は冷めた目でこちらを見つめてきた。
「クレア、あんたまた邪魔しにきたのっ?!」
続いて、レイも部屋から出てきた。
「あの、レイお嬢様、たった今お姉様が」
「お兄ちゃんっ!!!」
私はとっさに叫んだ。
すると、カイくんの上半身がパカっと縦に割れて、中から兄がひょっこりと出てきた。
「どうしたんだ、親愛なる妹よっ。おっと、レイもいるのかっ。久しぶりだな、元気にしているか?お兄ちゃんとハグでもするか?」
レイは、突然の出来事に目を丸めたまま兄と抱擁を交わした。
もう、驚くことはない。
「お兄ちゃん助かったわ。もう、帰って良いわよっ」
「お兄ちゃんはいつでも妹の側にいるからなっ」
そう言って、兄はカイくんの上半身の淵の部分、つまり腰辺りの場所を掴んで、蓋を閉めるみたいに、カイくんの体を閉めると、カイくんは元通りに動き出した。
「え、あれお兄ちゃんなの?ていうか、カイ、大丈夫?」
「どうしましたか?レイお嬢様」
「カイくん、カイくんはさっきなにか見たものを覚えている?」
私はカイくんに質問する。場合によっては、もう一度兄を呼ばなければいけなくなるのかもしれない。
「何かって、・・・なんかありましたっけ?というか、また来たんですか?お姉様、」
一件落着。
「いいわ。あんたたちさっき二人でこの部屋でなにをしていたのよっ。正直に答えなさいっ」
私は、レイとカイくんとを交互に睨む。が、服にみだれている様子も無ければ、途中でまだカイくんの股間が膨らんだまま、という様子も見受けられない。
「あんたのせいで、こうなってるのよっ。あんたが遊んでばっかりだから、私が隣国との会合に行かなければ行けなくなったんだわっ。なにしてくれてるのっ」
「あら、そんなことするのね。まあ、いいわ。変なことしていたわけじゃないなら、なにも問題無いわっ」
「あ、そうだわ。ちょっとカイ、一旦部屋の外で待っていてちょうだい」
レイは、なにかを企んでいるかのような悪い笑みを浮かべている。
「でも、お姉様はかなり危険ですよ。大丈夫ですか?俺がいた方がいいと思うんですけど、」
「なによ、察しが悪いわね。プライベートな話があるのっ」
「それなら外で待っていますけど、なにかあったらすぐに叫んでくださいね。俺が駆けつけますから」
いつの間に、そんな関係になっちゃって。私が入れ替わった初日だったときは、裸も見たこともなければ、それほど距離が近かったわけでもなにのに。
そういえば、私はカイくんの裸を見たことがないな。
「じゃあ、危ないときは」
「分かっているわよ。そんな、何度も言わなくていいからっ」
ちょっと機嫌を悪くした(ような振りをした)レイが、バン、と大きな音を立てて扉を閉める。そして、レイはブツブツと「なんなのよっ。そんな心配されなくたって私はもう子供じゃないのよ。・・・子供じゃないのに、」と小言を言っていた。
なんか、こういうの見たことがある気がするぞ。
もしかしたら、レイが負けヒロインになる可能性も十分にあるわ。そうよ。現実に限って、あんなに近くに居た癖に、なびかないって話はよくあるじゃない。
わかったわ。
どんな手を使ってでも、落とすわ。カイくんは必ず。
「ほら、その辺に座ってなさいっ」
レイがそう言うので、私はレイのベッドの上に座った。
レイが部屋の奥の方へ行くので、私はレイのベッドの匂いを嗅ぐ。
くんくん
男性の性液の匂いなんて、わからないけれども、私とおんなじような匂いだけならしてくるわ。つまり、まだ大丈夫なはず。まだこのベッドに刻まれている匂いは一種類だけだわ。
安心しきったところで、私はレイのベッドに潜り込んで目を閉じた。先程まで走っていて、疲れたのだ。
「ちょっと、そんな汚い恰好で私のベッドに寝転がらないでよっ」
レイが私のことを両手でげんこつを作ってゴンゴン叩くので、私は仕方なくベッドから立ち上がる。
「なにが汚いのよっ。あんたのベッドこそ、変な匂いがするわっ」
「は、あんたの匂いでしょ?その汗臭い匂いがついただけだわ」
「じゃあ、嗅いで確かめてみたら?」
私は、自分のジャージの腹の部分を引っ張って彼女に嗅がせようとするが、彼女は私から距離をとって鼻をつまむ。
「ホント、あんたと双子だなんて最悪だわっ。私が女王になったら、あんたなんかすぐに追い出してやるんだからっ」
鼻をつまんだまま、レイはそう私に言い放った。
「なに馬鹿なこと言ってるの。私が姉なんだから、私が女王になるに決まってるでしょっ。馬鹿じゃないの?」
レイは歯を軋ませた後に、「違う」と声を裏返らせながら言った。
「まあいいわ。そんなことよりね、あんたが入れ替わってくれたお陰よ」
「なによ。別に、私はあんたみたいな胸には憧れてないわっ。そんな重そうなもの、邪魔じゃないっ」
腕を組み、しっかりと否定する。決して、その体が羨ましいわけではないのだ。
「違うわよっ。あんたがカイに私の裸を見せてくれたから、私あともう少しでカイと付き合えそうなの」
「ギャハハハハッ、うヴォエ、ゴホッ、ン、ンンン、ハハハ、」
そんな馬鹿みたいなことを言われたら、こちらは笑うしか無いじゃないか。こんなやつを好きになる人なんて、この世にも異世界にも一人も居ないわ。
「な、なに笑ってるのよ、」
「ゴホッ、ヴォエ、ヴォーーヴェ、ギャハハ、ゴホッン、ハー、」
「ちょっと、え?なに?どういうこと?」
「レイお嬢様、どうしましたかっ?!!」
カイくんが異変を感じたのか、部屋の重い扉をなんとか押し開けて、部屋に突入してきた。
私は、咳をやめない。
「カイ、なんかクレアが変なの、ちょっと、助けて、」
「大丈夫ですっ。俺が、助けますっ」
よっしゃ。ボケゴラ、クソ妹がよ。私の勝ちだ。ちょっと遅く生まれただけの癖に、粋がってるからそんなことになるんだわ。クソスカスカ巨乳野郎がよ。
ザマあみなさい、インチキ巨乳が。
これで、カイくんが危険を察知して私を医務室まで運んでくれる。そこからは、よくある保健室で二人きりっていう展開になるはずだ。
だって、ここは私のための世界。私のための異世界。私のための体。私のための城。私のための国。そしてなにより、夢見ることを諦めなかった私のためのご都合主義ですからっ。
オホホホホホホホホホホホホ。
あれ、ちょっと待って。
カイくん?なにしてるの?それ、レイだけど。顔そっくりだし、間違えちゃったのかな?触りたいなら、私は、いつもなら一つなんだけど、二つおっぱい差し出してもいいのよ?あれ、カイくん?
ちょっと、
私が、ゴホゴホという演技を続けているうちに、カイくんはレイをお姫様抱っこして颯爽と部屋の外へと駆け抜けていった。
お兄ちゃんは、私が呼ばない限り出てこないから、役に立たない。
結局、部屋には私一人だけが残った。
「ッゴホッ、ゔぉ、ヴォうえ、・・・ッス、フぅーっ」
一旦、落ち着こう。
こういうときは、状況を整理するんだ。
あれれれれ?
なんか、おかしくないか?
これから、私とカイくんの逃避行になると思ったのに。いや、さすがに作戦が甘かったか。
それにしてもレイはなんと言っていた?あと少しで付き合えそう、だと?
それは、まるで私はあと少しじゃ付き合えない、と言っているようなものではないか。
・・・・・。
わかってるわよ。
こんなの、理不尽じゃないのっ。
さっきはあんなこと言ったけど、そりゃ、ずっと一緒にいるのはずるいじゃないのっ。私は、こうやって遊びに来るしかないのにっ。
私はレイの部屋を出た。
なにが、悪役令嬢よ。
コツコツと廊下に私の足音が小気味よく鳴り響く。
Q ちょっと、ここストップストップ。
私 いいところだったじゃないですか。
Q なんにも良いところじゃないわよ。やっぱり、現実見れてないよね?なんなのよ、このよくわかんない話は。あんた、何馬鹿なこと言ってんのよ。
私 そんな、物語の登場人物に「何馬鹿なこと言ってんのよ」だなんて、野暮ですよ。そりゃ、登場人物なんだし、異世界なんだから野暮なことも言いますよ。
Q また登場人物が、とか言っちゃってさ。そういうのヲタクが好きですよね。メタ的なこと?
私 違いますよ。もっと、メタには意味があるんですよ。
Q なんですか?こっちだって、一生懸命頑張ってるのに、いちいちクレーム来たりおもんないって悪口来たりしてるのに。メタなんて簡単なんですから。こっちはメタに逃げるなんてことしないで頑張ってるんですよ。馬鹿にしないでくださいよ。
私 いや、先に馬鹿にしてきたのはそっちじゃないですか。馬鹿にされる気持ちがようやくわかったんですかね?これだから、顔だけで採用された人は困るわ〜。ろくに苦労もしないで。一個言いますけど、枕は努力の内に入りませんよ。だから、あなたは異世界のアンチの言っていることを代弁する人としてまったくふさわしくないわ。
Q じゃ、じゃあ、転生だって努力のうちに入らないですよね?
私 入らないですけど、枕とは違うんで、一緒にしないでくださいよ。
Q こっちこそ、一緒にしないでもらいたいです。というか、やっぱりあなたこそ逃げた立場なんだから、こっちに何か文句を言う資格なんてないですよね。それに、異世界でも、お得意の現実逃避を発動しているみたいで。ぷっぷっぷ〜。
私 おい、それキショいて。なんなん、あんたそもそもさ。まずは、自覚しようよ。あんたは、外見だけのゴミ。そして、何回も言うけど、あんたの方が現実見れてないから。
Q は、ボケゴラ。黙れカスが。現実逃走犯。死ねよ、ショタコン犯罪者がよ。お前の方こそ、一ミリも社会の役に立たずに、生まれてこの方クソだけして、その片付けもせずに死んでいっただけだろうが。ゴミムシが。
私 私は社会の役に立ってますよ。
Q じゃあ、何か役に立ったっていうなら、言ってみてくださいよ?言えないでしょ?ほら、
私 いちいち結論を急がないで下さい。そうやって、また偏向報道して。それに、反省しないし。いいですよ。じゃあ、これを見ている皆さん。私のお陰で現実逃避しているなって思う人、手を挙げてくださいよ。
Q いや、そっちがしてるんでしょ?ホント、話にならないですね。現実を見ていない人たちは。
私 そうやって、話し合いから逃げるんですか?ああ、そうですか。そうですよね。現実は話し合いじゃ解決できませんもんね。現実を見ていて偉いですね。あ〜、偉い偉い。でも、何度も言いますけど、現実には私みたいな人も沢山いるんです。
Q だから、それは少数じゃないですか。ほとんどの人は、あなたと違って、現実を見て、その人なりの幸せを見つけているんです。
私 じゃあ、その幸せの行き着く先が、私みたいな現実を見ていない人を馬鹿にするってことなんですね。自分より下を見て安心するってことなんですね。いや〜、よくわかりましたよ。皆さん、幸せなんですね。それなら、良かったですよ。ねえ。じゃあ、とっとと次に行きますよ。
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さすがに、一日じゃまだか、
気長にまとう。




