ジュピタとトラとドラゴンと犬2
ジュピタです。
引き続きですけど、まあ私のパートは一旦これで終わりますから。
森の中を一緒に歩かされて、これから一体どうなることやら。
世界征服だなんて言ってるけど、規模が小さい気もするし。
まあ、とりあえず私はクレアちゃんの影に隠れて進むしかないですね。
森の景色というものは、上でも下でも変わらずに木ばかりだ。この道を三日三晩歩けば隣の国にも辿り着くが、それまでは本当に苦しい道のりである。
キェーー。
「キャッ」
私は悲鳴を短く区切り、口を抑えて頭を抱えた。
やることが多い。
クレアは、力がないくせに勇敢に頭上を見上げている。
しかし、事態は予想を大きく上回った。
もちろん、悪い意味で。
ドラゴンが、急降下して襲ってきたのだ。なんで、その小さな羽根で何十トンもありそうな巨大な体を浮かせられているかわからない、この魔法みたいな生物が、上から急に襲ってきたのだ。
唯一の頼りの存在である、クレアの兄がいないか、と私はキョロキョロと周りを確認するけれども、見当たらない。
と思ったら、すぐに、
ボキッ、ドン、ボキボキボキボキボキボキ
という音が聞こえた。
「大丈夫よ。お兄ちゃんがドラゴンの頭に渾身のかかと落としを決めて、そのままドラゴンが落ちた音よ」
クレアは、冷静に説明する。
「お兄ちゃん、そのドラゴンこっちに持ってきてっ」
「まっかせなさいっ」
彼女の兄は、周りの木々をまったく気にせずにボキボキと折りながらこちらへ向かってくる。
ドシッ
彼女の兄は、ドラゴンの二〇メートル程もある巨体を、こちらに投げた。ドラゴンは目を回して、首をぐるぐると振っていた。
「こいつも仲間にするわっ。ジュピタ、なんだか桃太郎みたいだと思わない?」
「知らないけど、」
もう、なんのことやら。
というか、このお兄さんはもしかして伝説の魔法使いだとか、なのか。魔法なんて空想上のものだと思っていたのに。「これ全部魔法なんです」と言われたほうが安心できるし、納得もできる。
「知らないのって、ああ、そうか。そうだったわね。桃太郎っていうのは、」
と、その後はその場にとどまって、クレアの兄とランスタイガーとドラゴンと一緒にみんなでクレアの桃太郎という物語の説明を受けた。
子供が桃という果実から生まれたり、急激に成長したり、鬼というバケモンが金品を奪いに来たり、きび団子という謎の穀物を練ったものが動物に人気だったり、なぜだかお供になる動物が一匹ずつ順番に出てくるし、彼らはなぜか喋れるし、鬼ヶ島は海の上にあるし、桃太郎は生まれたばかりのくせにやけに強いし、まあ他にも何個かツッコミどころがあったが、確かに、今の状況に酷似していると言えなくもないが、私は一応クレアの世界征服の助手をやっている、ということになっているのだ。
であれば、私たちは鬼側だ。
「なんか、名前でもつけてあげたら?」
私は、なんとなく彼女に提案する。一応、ついてきているのに、なにも仕事ができていないのは少し悔しくもあった。当初の私の役割であった遊び相手すら出来ていない。
「名前ね、まあ適当でいいわ。そっちのトラみたいなのは、・・・アクメ侍でいいわ」
「・・・どういう意味なの?」
なんとなく彼女の兄の顔を見たけど、彼は苦笑いをして「あはは」と困ったように笑っていた。
私は、自分に似た名前をつけたのかな、と純粋に思ったのだ。さむらい、というのがなんなのかはわからないが、まあ気にしなくてもいいことだろう。
「ちょっと、耳貸してよ」
何かと思ったら、彼女が名前の由来を説明し始めたのだ。私の体が急激に熱くなる。王族ともあろう彼女が、こんな下品なことを言うとは思わなかった。一〇代くらいで人生に絶望して、家に引きこもって仕事もせずにずっと遊んでばっかりいる二〇代くらいの女性だというならまだしも、まだ子供だというのにハレンチすぎるわっ。
「ドラゴンの方は、あn」
「駄目!!私がつけるわっ」
「なんでよっ!私の子分なのよっ」
後ろで、妹の名付けセンスに引いていた兄が、クレアの横に移動して、彼女のことを「まあまあ」となだめている。そして、貼り付けたような笑顔で「まあ、ついてきてもらってるんだし、たまにはいいじゃないか」と言った。
クレアは「フンッ」と言って拗ねてしまったが、さすがにそんな名前の子分は嫌だ。
それに、今思うと、私だって彼女の心の中では変なあだ名で呼ばれているのかもしれない。
まあ、彼女らしいと言ってしまえば、それで終わりなことだ。
「まあ、いいわ。早く決めなさいよっ」
「え、あ、そうだね・・・」
ついうっかり、自分で提案してあったことを忘れていたが、私が名前をつけなければいけない。
「ランスタイガーの方がハクで、ドラゴンの方はジェハよ」
「なにその名前。まあ、いいわ。じゃあ、早く進むわよっ」
彼女なら負け惜しみの一つや二つ、もしくは三つ、またはそれ以上言うとは思っていたが、逆にこの年代で友達に負け惜しみを言える人間って、クレアくらいしかいないんじゃないか、とポジティブに捉えてみることにした。
まあ、さっきは「心の中では、変なあだ名つけられてるかもしれない」なんて思ったけれども、彼女は誰よりも正直な人だ。でも、王家として庶民を見下している割には、いっつもみんなに混ざって、楽しく遊んでいるわけだし。
それに、人に自慢できる友達ではないか。あまり友達のいない私に話しかけてくれたのだ。
私は、彼女の後ろで揺られながらそんなことを考えていた。
が、それにしても、このランスタイガーは動く度にいちいち背骨がうねるので、乗りづらいったらありゃしない。確かに、足で挟みやすい形状をしているが、これでは乗り物酔いしてしまう。
ザザザザ、
まただ。今度はなんだ?
「お兄ちゃん、また何か出てきたわよっ」
「ああ、任せてもう終わったよっ」
一瞬なにを言っているのかと思ったが、「任せて」と言った時にはすでにもう犬の仲間と思われる動物の頭を鷲掴みにしていた。
いや、速すぎるって。魔法って、こんな感じなの?昨日初めて見たが、魔法っていうのは紙に文字を浮かび上がらせるとか、あんなもんだと思っていたのだ。攻撃できるものではなく、暮らしが便利になるものだと思っていた。
まあ、便利ではあるのだが。
「ちょっと、手で持ちきれなかった分がそこら辺に転がっているから」
彼女の兄がそういうので、私はランスタイガーの背中から辺りを見回してみると、確かに何匹かの狼が気を失い、転がっていた。
「こいつらは潮吹k」
私は嫌な予感がしたので、急いで彼女の口を塞ぐ。
それにしても、さすがに数が多いな。
「まあ、犬でいいわよ。この子たちは。それに、ももたろう?だっけ?それも名前はつけてなかったじゃない」
私がそう言うと、「ああ、確かにね」と意外とすんなり納得してくれた。
そういうわけで、私達は私とクレアと彼女の兄とランスタイガーのハクとドラゴンのジェハと、犬の大群になった。
よくよく考えれば、犬猿の仲という言葉があるのに、よく桃太郎とやらは鬼退治に行けたな、と思った。
あれ、
これって、なにか目標があって進んでいるの?
「全速前進!!」
彼女がそう言ってまた剣を前に突き出す。
「アイアイサー!!」
と彼女の兄が遠くまで澄み渡る声で言うので、私も一応それに合わせて「アイアイサー」と小さな声でつぶやいた。なんなのだろうか?やはり、王家と私のような庶民では教わってきたものも、常識も全然違うのだろうか、と思いながら、私は全速力で森の中を走るランスタイガーの背中にガッチリと捕まる。
お兄さんは、明らかに走っている様子がないのに、ものすごい速さで足を動かして彼ら猛獣たちに追いついている。
クレアは、私と同じように必死にランスタイガーの背中にしがみついていた。私たちのあとに犬の大群がついてきていて、その上では、バッサバッサとドラゴンがその小さな羽根をはためかせる音が聞こえる。
「クレアちゃん、これってどこに向かっているの?」
「わからないわっ。でも、どこかには着くはずよ」
おいおいおい、見切り発車かよ。
他人がいるときは勘弁してくれよ、と思いつつも、この状況を楽しんでいる自分もいることに気づく。というか、楽しんでおかないと、まともにはいられない状況だった。
自己防衛のために楽しまなければいけないなんていうのは、初めてだ。
「ちゃんと帰ってこれるんだよね?」
「大丈夫だわっ。お兄ちゃんもいるし」
確かにそうなんだよな。緊張感に欠けるんだよな。
「なんか、人の家みたいなのがあるわっ。あそこに行きましょうっ」
うわ、絶対にあれ盗賊のアジトだわ。でも、この戦力なら多分ボコボコにできるんだよな。
「突撃するわよっ。ジュピタっ、あんたも戦う準備しておきなさいっ」
「あ〜、わかったよって、え?!私もなの?」
「なに寝ぼけたこと言ってんのよっ。あんたは、私の助手なのよっ」
えっと、
え?本気で?
「私全然強くないよ。なんにもできないよ」
クレアは、気分悪そうに頭をガシガシとかきむしりながら、「なんでわかんないのかなっ」と癇癪を起こす。
いや、こっちの方がわけわかんないよ、という気持ちが恐怖によって自然と抑えられ、私は意味もなく母から授かりし、この刃渡り五センチほどしかない小型のナイフを構える。
「お兄ちゃん、準備は出来てる?」
「ああ、もちろん。世界一可愛い我が可愛い妹よっ」
我が妹の中で、世界一可愛い、と言っているようにも解釈できるんじゃないか、なんて考えていても現実から逃避できない。っていうか、可愛いって二回言ったな。
それに、今までならクレアが「お兄ちゃん」と頼んだときには、返答している瞬間に仕事を済ませていたが、今回ばかりはクレアに手柄を譲る気なのだろう。
「お兄ちゃん、魔法をちょうだいっ」
「その技術が開発されるのは、今から一〇〇〇年くらい先の話だけれども、もちろんいいっさ。我が妹よっ」
あれ、なんだか力がみなぎってくる。
「これで、あんたも強くなったわよっ」
先ほどまでは遠くに見えていたアジトが、どんどんと近づいてきて、異変を感じた盗賊が仲間を呼び寄せている。
アジトは、ツリーハウスのような作りになっていて、真ん中には焚き火の跡があり、それを囲うように木が生えていて、その枝の部分に人が住める場所が作られている。
それにしても、血の匂いなのか、人間の生活している匂いなのか、街も排泄物がところどころあるからあまり綺麗ではないし、匂いも酷いのだが、そんな街よりも酷い匂いがする。
彼らのアジトの入口には、あまり丈夫ではなさそうだが、かなり高い門があり、その上には弓を構えている見張りが何人かいて、こちらを狙ってきてる。
私たちを背中に乗せたランスタイガーがスピードを更にあげる。今更だが、この動物たちはどうやって私たちに懐いたのだ?まあ、今はそんなことを考えている暇はない。
なんだか力がみなぎってくるし、もしかしたら私も戦えるようになったのかもしれない。
何人かの盗賊が、横の茂みから出てきてランスタイガーに槍を突き刺そうとするのだが、その出てきた盗賊たちには、犬の集団が襲いかかる。さっき聞いた桃太郎とその下僕たちは、よく単体であんなことできたよな。
いささか、物語だとしても無理があるように感じてしまう。一人の人間が考えた物語なのだとしたら、整合性があまりにも無いように感じられる。合作なら、仕方のないことだが。
クレアが前で、ガハハ、と笑っている。
実に楽しそうだった。ここで私が「私、いりましたかね?」と言うのは水をさしてしまうかもな、と思い私はナイフを握りしめる。
盗賊たちの叫び声が聞こえる。人間相手なら、国の軍隊ですらも手を焼く盗賊だが、こうも奇天烈動物軍団に来られたら為すすべもないだろう。
ドラゴンの攻撃方法は、基本的に落下で押しつぶすことであり、腹の部分の皮膚が、ものすごく分厚いので、それでダメージを負うことは基本無いそうだ。
私たちが襲われそうになったときは、おそらく彼女の兄がその前に阻止してくれたのだろう。
というわけで、今現在、盗賊のアジトめがけてドラゴンのジェハが落下中である。
ドンっ、ボキッ、パアンッ、ゴロゴロ、ダアン、ボゴッ、キャーッ!!
あらゆる効果音が聞こえた後、盗賊たちの悲鳴が聞こえてくる。
多くの盗賊たちは、ドラゴンの接近を感知してアジトから逃げ出していたらしく、総勢三〇人くらいの盗賊が、今私達を囲っている。
もちろん、そんな状況でもクレアはまったく怯んでいない。
あ〜、空が綺麗だな。
いや、普通に灰色のまんまだ。
「かかれっ」
男の声だ。
何人かの盗賊が、ランスタイガーの動きを止めるために、槍をこちらに向けてくる。狼達は、かなり盗賊によってやられているらしく、統率が取れない程度にまで散り散りになっていた。
ランスタイガーも、ここまで囲まれては下手に動けない。
そう、つまり。私たちがやるしかない。
盗賊側もかかれ、と言っておいてただ囲んでいるだけだが、まあそんなことはどうでもいいから、私はクレアの肩をトントン、と叩き、作戦を伝えようと思ったのだ。しかし、クレアは急に立ち上がると、敵に向かってダイヴした。
私は、目を瞑って最悪の事態に備えたが、こちらには彼女の兄がいるのでそんな最悪の事態なんて訪れるはずもなかった。
彼女はそこから剣を振り回しまくり暴れまくりの大活躍をしたのだ。
が、私が頑張って見た現実をそのまま伝えるならば、彼女の兄が彼女が剣を振るのに合わせて目に見えない速度で、剣を振ったら当たるであろう場所にいる敵を吹き飛ばしていた。敵がクレアに切りかかってきたときは、ギリギリ当たらないくらいのところで敵を止めて、それでクレアがその敵を蹴り落としていた。蹴り落とされた敵は、ランスタイガーに噛まれてそのままどこかへ逃げていった。
これって、もしかして魔法の力なのか?だって、いつもは彼女の兄の動きなどまったく見ることが出来なかったのだから。そのための魔法なら、かけないでくれ、と思った。
まあ、そんなのことを彼女にそれを伝える必要はない。
今は自分の手を汚さずにこの場を乗り切れたことを祝おうと思った。
「ちょっと、あんた達のリーダーはどこなのよっ」
「あ、こんちわっす」
地面の中から、クレアの兄に抱えられて敵のリーダーを名乗る男が出てきた。
こいつ、味方に戦わせて自分は逃げていたのか?盗賊は基本弱肉強食だと思っていたが、こんな腑抜けのリーダーもいるものなのだな。
「あんた、財宝とか返しなさいよっ」
久しぶりに、クレアちゃんの口から至極真っ当な意見を聞いた。
・・・
いや、クレアちゃん自分のものにしようとしてないか?これって、どっちが悪いのだろうか?そもそも金品を盗んできている盗賊と、その盗賊から金品を奪おうとしている彼女と。
そんなことを考えている間にもクレアちゃんは盗賊の長を問い詰めていた。
「でも、そういうのって、隣国に売りつけてるんでなんにも残ってないんですよ」
手をスリスリと擦りながら、実に情けない姿だった。それに、長だというのにかなり細い体つきをしている。
「なに、言い訳する気なの?あんたのことなんか、私にかかれば一捻りよ。殺されたくなかったら、早く全部よこしなさいっ」
私も、彼女に殺されそうになったら全財産を渡すしかないみたいだ。
「でも、なんにもなくてっ」
「お兄ちゃんっ」
「ああ、これがこいつらの財宝だよっ。我が愛しき妹よ、その親愛なる友人よ」
あ、私のことも仲間に入れてくれたみたい。なんか、嬉しいわ。
「ほら、あるじゃないの?」
盗賊の長と思われる男は、なぜだかポカンとしていた。
「え、それ多分俺たちのじゃn」
「いや、こいつらの倉庫みたいなところにあったんだよ」
兄が長の言葉を遮るかのように、言葉を被せた。
「じゃあ、ありがたくもらっていくわっ。あんたたち、庶民以下のくせにイキがってんじゃないわよっ」
とても小学生女子とは思えないが、ペ、とつばを吐きかけてから私の方を振り向いて「じゃあ、帰るわよ」と私の手を引いたのだ。
私は彼女に手を引かれながら、後ろを眺めた。
「あの、ハクとジェハと犬たちはどうするの?」
「そんなの、知らないわよ」
私としては、少し愛着があったので城でいい感じに飼育してくれるのかと思いきや、彼女はきっぱりと断った。
クレアには温情のような感情は無かったようだ。
「あの、お兄様は、これ彼らは持ち帰れないんですか?」
なんでもできるお兄様に、わたくしは助けを乞うてみる。
「場所が無いからね。ドラゴンなんかは普通に無理だし。ごめんね」
駄目らしい。
現実は厳しいな。とでも思っていればいいのだろうか。森には、湿った空気がまとわりつき、その中には色々な命の危険が渦巻いているのだ。
「じゃあ、帰るわよ。これが、あんたの取り分ねっ」
私は、彼女から何やら赤い宝石を手渡された。なんだろう、そもそも宝石なんてものは初めて見た。これは、本当に石なのだろうか。手触りはツルツルとしており、石というよりはガラスの方がイメージとして近いのかもしれない。
「あ、お兄ちゃん半分ジュピタの家まで持ってってあげて」
「かしこまりましたっ」
彼女は、彼女がぶち壊したものを全てそのままにして、奪うだけ奪って帰ろうとした。先ほど戦った盗賊たちは、なんとか身を寄せ合って復興の手立てを考えていた。
「ちょっと、そんなもの見るんじゃないわよっ」
「でも、」
ちょっと、可哀想じゃない?まあ、確かに彼らは他人のものを奪ったり殺したりして生計を立てていたわけだ。彼らのせいで、私たちは安心して移動することもできなかったのだ。
「いい、世界征服に犠牲は必要不可欠なのよっ。あんなものを見ているから、夢を叶えられないのっ」
「でも、」
私の勝手な考えではあるが、「井の中の蛙大海を知らず」って、大海を知っているから、蛙は井の中にこもってしまうんじゃないか、と思う。きっと、クレアもそうだと思っていた。だから、城の中でしか遊ぼうとしないのだと思っていた。
「なに、なにか不満でもあるの?あんたは、黙って私についてくればいいのよ」
「あの、・・・私は見捨てられないよね?」
まあ、ちょっと冗談めかした感じで、でも、やっぱりちょっと彼女のことが怖かったので、私は直接思いをぶつけた。
「大丈夫よ」
まあ、信じていいのかな?いや、信じることにしよう。
「私には、お兄ちゃんがいるわっ」
彼女は私の手を引く。帰りは、徒歩で帰るらしい。
え、どっちなの?お兄ちゃんがいるから、見捨てられるの?
「クレアは、いつも城でなにをしているの?」
まあ、なんとなくだけど、私のクレアの世界征服の手伝いはここまでなんじゃないか、と思うのだ。
彼女は、大海を知らぬまま自分の井戸を広げようとしているのだ。
「遊んでいるだけよ。そうよ、今日一日冒険して大変だったからって、明日もいつも通り遊ぶからねっ。無断欠勤なんて、許さないわよっ」
「え?たまには、いいじゃない。クレアちゃんが、いつもの三人組に意地悪しなければ、私がいなくても大丈夫だよ」
「ふん、あいつらは別にいいのよっ。いっつもいっつも、三人でくっついていてムカつくっ。あーっ、ムカつくムカつく」
帰りの道は、行きよりも遥かに長かった。クレアの愚痴を聞き続けて、意識が何回も遠のきかけたが、気がついた時には街に戻っていた。城のてっぺんに太陽の鼻のあたりがかかり、城の影が私たちを黒く染めている。
「じゃあ、明日ね。絶対に来なさいよっ」
元気な女の子だな、と老人の目線で私は彼女を見送った。
ポケットには、彼女からもらった宝石があるのだが、なにか変な匂いがするな、と思って宝石に鼻を近づけると、アンモニア臭らしき香りがほんのりとした。
すまんけど、これは売らせてもらいますわ。
それから数ヶ月経ち、あまりにも大きな臨時収入が入ったことプラス、森の道が平和になったので、私たち一家は引っ越すこととなった。
彼女のやったことが、こうも巡り巡って私の人生に大きな影響を与えるとは思っていなかった。
Q ちょっとちょっと。このまま終わるつもりじゃないでしょうね?
私 いや、このままいい感じに終わりますよ。
Q いや、ナメてるでしょ、これは。なんかメタ的な手法を使ってるから、あんまり異世界作品を見ない人でも見れるようになってるのかな、なんて思ってたら結局というか、これじゃ誰も満足しないですよ。
私 そもそも、まだ続きますから、そんなに怒らないで下さい。ね?これで現実がわかったんじゃないんですか?
Q 現実だって、もっと綺麗にまとまりますよ。こんな、引っ越して終わりなんて見たことないですよ。
私 だから、これから私の世界征服編に突入するんで、こっから私のエッチな姿含め、迫力のあるアクションシーンもあれば、お涙頂戴の感動もありますから。現実見てるって言う人達は、現実を見ているお陰で時間を大事にしたがるからそうやってすぐに「つまらない」とか「気に入らない」って言うんですよね。
Q だから、これじゃ途中だとしてもモヤモヤしますよ。
私 だから、いいじゃないですか?桃太郎の話だして、「なんか違う解釈の桃太郎やるのかな」と思ったら、まさかの、それですらない、っていう裏切りですよ。
Q それを裏切りなんて言うことは、許しませんよ。なんですか、あれ?一人称を変えた意味もわからないし。結局、お兄さんが強くてなんでも解決するじゃないですか。本当に、よくわからないし。
私 それはそうなんだから、仕方ないですよ。私だって、兄はただのキモい人なのかなって思ってたら、めちゃくちゃなんでもしてくれるので。
Q それに、魔法だって意味がわからないですよ。その、「魔法は人に使わせる方が便利」とか言ってましたけど、これを見て「ああ、そうか」なんてなりませんよ。
私 ああ、そこですか?
Q 馬鹿にしてるんですか?
私 いや、違いますよ。でも、そこはもちろん理由がありまして、普通の作品なら、魔法は主人公の成長のメタファーになるんですけど、ここでは、魔法がただの魔法なんですよ。魔法は望みを叶えてくれる力ですから。
Q なんですか、それは?なにを言ってるんですか?
私 まあまあ、あなたはそうやってどうせ何者にもなれない人生なんだから、時間を無駄にするとか気にしなくていいから、黙って聞いていてくださいよ。
Q さっきから喋らせておけば、私の悪口ばっかり。なんですか?こっちだって、もうやめてもいいんですよっ。
私 ハハハハ。えっとですね、これでは魔法はまっすぐご都合主義のメタファーとして存在しているんですよ。
Q またそうやって都合よく解釈しようとするんでしょ?何度でも言いますけど、あなたはただ現実を見ていないだけで、現実から逃げた極悪人なんですよ。
私 だから、そうやって見下している割には怒ってばっかりで。本当は、現実から抜け出したいんでしょ?あなたたちも。でも、「自分は現実が見えているんだ」っていう自意識の高さのせいで抜け出せずにいるんですよ。現実にはもっと抜け道があるのに、あなた達はそれを自ら放棄しているんです。現実が見えていないから、逃げられないんです。
Q はいはい。とりあえずね、なんでもかんでもあなたに言われる筋合いは無いわ。そうやって、頭お花畑満開でずっとお姫様ごっこしていればいいじゃない。結局、あんただって城の中で現実逃避しているだけでしょ?貴族の仕事もしないで。
私 あなたたちは、現実っぽいものを見ていたいからそんなことを言っているんでしょ?私も、なんどでも言わせてもらいますけど、あなた達の方が、現実を見れていませんから。さっき、井の中の蛙の話が出てきましたよね。
Q そうやって好き勝手解釈してればいいんですよ。所詮は、そんなの貴方がたの言い訳にすぎないんだから。
私 井の中は現実ですよ。そっちこそ、大海に現実があると思って頑張っているわけでしょ?夢を諦めた結果、あなた達は現実を求めたんですよ。
Q はいはい。そうですねそうですね。
私 そうやってね。気に入らない人の話は無視して、楽しいですね。こっちは、気に入らない話でも一歩下がって受け入れなければいけないっていうのに。それに、あなた達の何倍もそういう話をされるんですよ。
Q なんでもいいですよ、もう。ほら、続き見て、早く終わらせましょっ。
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「あんた、引っ越すの?」
「ごめんね。またさ、お姫様になったら私を招待してよ」
すっかり私は大金持ちになってしまい、ここにいたままだとご近所トラブルも嫌だ、ということなので、田舎に大きな土地を買い、小作人を雇って農場を経営することにしたのだ。
「あのね、・・・・グスっ」
「あれ、泣いてるの?」
「泣いてなんか、・・・いないわっ」
ものすごい速度で反論してきたが、あきらかに泣いているし、我慢する素振りすらない。
何回もグスン、と鼻をすすりながら、彼女は顔中に張り巡らされた汗と鼻水の通りを拭きもせず堂々と私の顔を見つめている。
「まあいいわ。世界征服したら、私はカイくんと結婚するのっ。あんたは、指くわえて羨ましそうにしてればいいんだわっ」
そんなに泣かないで、と私の中にある優しさの感情が、初めて彼女に対して芽生えた。
「大丈夫よ。私だって、クレアちゃんに負けないくらいの金持ちになるんだからっ」
まあ、私の願いとクレアの願いの接点がどこにあるのかいまいちわからないが、それでもどこかでまた会えたらいいな、と思ったのだった。
「いい、夢を諦めた女に、価値なんてないわっ。どんなに馬鹿にされても、夢は言っていいものよ」
さっき金持ちになるとは言ったけれども、夢なんて思いつかないな。どうだろう。また、クレアや彼女のお兄様に会う、というのは夢と言っていいのだろうか。
「じゃあ、また会えるように頑張るわっ」
最後に少し、彼女の口調を真似してみた。
不思議と、明るい気分になる。
「そんな夢じゃなくていいのよっ。もっと、大きな夢を持ちなさいっ。そして、死ぬまでそれを追い続けるのよっ」
クレアは、全身を大きく使って私に手を振る。もちろん、私も彼女に手を振り返す。
家に戻ると、家族がすでに引っ越しの準備を済ませて、馬車に乗り込んでいた。
馬車の中には、今までの人生では想像もつかない大量の財宝がある。これで、新たな人生が始まるんだろうか。
私が馬車に乗り込むと、ヒヒーンという鳴き声がしたのちに、馬車は動き出した。
この街を振り返ってみる。城は、街の半分ほどの大きさがあり、クレアは、あんな大きなところに住んでいたんだな、と思い知らされる。あんなところに住んでいても、大きな夢を追っているのだ。
これから行く場所は、私にとってはどのような場所なのだろうか?
でも、井戸の中でだって、カエルは十分跳べるものだ。
また見てね




