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ドキドキ!!

レイです。

・・・・・。

もう、いいんです。

こんな私でもいいなら、笑ってくださいよ。

 「レイ様、調子はどうですか」


 城では、きっと私のいないところで色々なことが毎日起きているのだろう。

 きっと、権力争いがあったり、婚約とか婚約破棄とかで揉めたり、そしてなにより、あの三人組やクレアがいつものように罵り合ったり、外で子供を集めて遊んでいたり。


 私がいなくても、世界は回る。他人の時間は止まらない。


「まあ、いつも通りよ」


 私がいなくても、世界は回る。

 私が頑張っても、世界は止まるわけではない。


「また、お兄様から」


「だから、あんなやつのことはいいからっ。何?何をもらったわけ?」


「わかんないんですけど、食事の時に使う道具らしいんですよ。なんか拳みたいな形をして、なんか棒みたいなのがついてるんですよね。これを押すとなんかできるのかな?あ、動きますね」


「そんなの、いらないわっ。早く、捨ててきてっ」


 私がそう言うと、カイはそれを窓の外に投げ捨てた。


「ああ、うう、・・・・・・もう、ホントにっ」


「落ち着きましょう、大丈夫です。ほら、」


 カイが深呼吸するように促してくる。

 私は、取り乱していたのか。

 自分でも、わからないんだ。

 不安定になっている。


「大丈夫ですか?」


 カイの目がだんだんと黒ずんでいるような気がする。

 私の方の問題なのか、カイの方の問題なのか。

 どちらにせよ、原因は私にある。


「あの、前持ってきた本はどうでしたか?」


 本は、私にとってどういうものなんだろう。

 文字を見ても上手く情景が思い浮かばないのだ。

 ただ、内容はスラスラと頭に入ってくる。

 何日外に出ていないのかわからないけど、この期間に大量の本を読んだ。勉強も、部屋でできる範囲のことはやっている。なぜなのか。私は、もう女王になる必要なんてないのに。

 それでも、私の習慣だったし、私のアイデンティティだったし。


「・・・まあ、読んだわよ。今度は、違う話を持ってきて」


 今回読んだものは、家族が再生していく話だった。

 浮気をした父、体を売っていた娘、夫と娘に暴力を振るっていた母。

 そんなどうしようもない家族が再生していく話。

 なんなんだよこれは。

 そんなめちゃくちゃな家族はいないし、いても再生なんてしねえよ。

 私は、どうなんだろうな。

 皮肉にも、こんなゲスい物語を読んで私は考えさせられてしまったのだ。


 どうやって再生したかって?


 家族が互いの不満を言い合って、それで仲直りしたんだ。父は浮気をやめた。というか、浮気相手を殺した。娘は、自分の稼いで貯めた金をすべて両親に渡した。母は、詳しくは書かれていなかったが、おそらく、虐待した分の報復を受けたのだ。

 不快だし、気持ちが悪い。

 どう思う?

 私には、意味がわからない。それに、こんな物語は正常な人には見せるべきではない。異常だったから、読めた気がする。


「あのさ、この本の内容わかってる?」


「すいません、俺は読んでなくて。今度は、ちゃんと確認してきます」


 嫌がらせなのか?それとも、荒治療か?


「違うの持ってきて」


 私は、その本を投げる。

 カイがそれを拾って、


「図書室に行ってきます」と言った。


 私の家族はどうだ。

 壊れているのは私だけだ。

 壊れるまで頑張ったのは、私だけだ。


 父や母がたまに部屋の扉をノックする。

 兄は、毎日部屋の前に来ては、意味のわからない土産を持ってくる。

 姉は、ただ毎日私がいてもいなくても、誰かと喧嘩して、誰かと遊んで。

 現実が不平等なことはわかってるけど、不平等なのは許せない。

 どこに逃げようとしても、そこには姉がいる。気がする。

 当たり前のように先回りして私の邪魔をするのだ。

 ことごとく、私の努力を無駄にする。

 何にもわからないけど、報われないのが怖いけど頑張っているんだ。私が、なんとかしなきゃと思ったからやったことなのに。


 ずっと、部屋から出られなくなったあの日のことを思い出すのだ。

 あの日、私はただ「頑張ってたんだね」とか「頑張らせちゃってごめん」とか、そう言って欲しかった。

 そりゃ、私が勉強をやめたら、あんたが女王になるでしょうね。

 女王になれば、カイと一緒では無くなってしまうかもしれない。一緒だったとしても、結婚は出来ないだろうし、好きでもない他国の王子とかを抱かなければいけない。そんなやつらの子供を産まなければいけないかもしれない。


 嫌だ。


 でも、それだと私の努力が無駄になる。

 あのとき、姉が謝ってくれれば、私の努力は無駄にならなかった。

 まだ、遅くはないのに。

 あいつは、毎日毎日遊んでばっかりで。

 コンコン


「戻ってきましたよ」


 カイが扉を開けて部屋に入ってくる。


「新しい本を持ってきましたよ」


 カイがこちらへ歩いてくる。


「あのさ、私って面倒くさいかな?」


 目を背けたまま、彼は「そんなことないですよ」と言う。


「ホントに?私たちずっと一緒なんだから、正直に言ってもらっていいのよ」


 彼は本を窓辺に置き、ハンカチを取り出して窓の掃除を始めた。


「俺はいつでも正直ですよ。めんどくさくなんてないです」


 本当のことを言っている気がしないので、腹が立つ。

 バンッ

 私は、ベッドを思い切りグーで殴る。

 ダンッ、ダンッ、

 カイが窓を拭く手を止めて、こちらに駆け寄ってくる。


「大丈夫です」


 私が殴ろうとしたベッドと私の拳との隙間にカイの手が挟まる。


「落ち着いて下さい」


 私は、そのままもう一度布団の中に体をしまう。


「ほら、これ、新しく持ってきた本です。その、なんか作ったばっかりらしいの

で、まだインクの臭いとかしますけど」


 なんとなく、私はその本に鼻を近づけて臭いを嗅いだ。

 自分の臭いが強烈なのか、インクの臭いなんてわからなかった。


「その、悩んでいることとかあったら、教えてください」


 悩んでることなんて山のようにある。


 ただ、彼に言いたいことはない。


「別に、いつも世話してもらってるし大丈夫よ。カイは、なにかないの?」


 カイは、私の詰まっているベッドの上に腰を掛けた。


「俺は、」


 わかってるんだろうな。これで「特にない」とか言うと私が暴れ出すことが。


「最近、勉強が行き詰まってまして、」


「そんなことなら、私が教えてあげるわよ、」


 一応、勉強は続けているし、私の成績は優秀だったのだから、彼に教えることなど朝飯前だ。


「ありがとうございます」


 そういって、あらかじめ私の部屋の机の上に置いてあったであろう勉強道具を持って、私の足の上にそれを乗せた。


「レイ様は、勉強好きですか?」


 好きなのかな?

 勉強をしている私のことが、私は好きなのだろうか。


「勉強ができなくても、私のことは好き?」


「もちろん」


 本音だろうか。

 本音じゃなくても、これくらいは本音だと思っておきたい。


「・・・ああ、ちょっと、大丈夫ですか」


 どうも、最近は涙もろいというか、すぐに不安定になってしまう。


「カイ!!これから、私ってどうなるのよっ」


 何が、不安なんだろう。

 別に、もう一生ここにいても構わないはずなのに。

 わかっている、といったら嘘になるかもしれないけど、でも、一つ確かなことはある。


「レイ様には、俺がついてますよ」


 優しく撫でるように、カイが言った。


「ホントに?もう、信じられないの!」


 また、涙が溢れてくる。


「あなたが不安でも、俺はいつもどおりあなたの傍にいます!」


 そういって、ベッドに座っている私の上半身を彼は優しく包み込む。

 そして、私は彼の体を激しく、強く、掴む。

 そのときの彼の顔は私の体に隠れていたので、見えない。


「あさの、・・グスッ、私さカイに何もしてあげれてないのっ」


「わかってますよ」


「・・・なによ、わかってるっていうのはっ」


「俺は、乙女になろうと思ったんです」


「な、なによ、それは、・・・もう、ハハッ。ホントに、なんなのよ、それはっ」


 聞いたことないわ。そんなの。

 乙女になるだなんて。

 思い返すと、つい笑ってしまいそうになる。ついさっきの出来事なのに。

 すると、カイが私の顔に手を伸ばす。

 そして、私の瞳から漏れ出た涙を彼が指先で拭う。


「笑ってもらえたんなら、よかったんですかねぇ」


 彼は、私の顔を見ているようで、どこか遠くを見ているようだった。


「なんで、乙女になりたいの?」


 私は、涙で少し塩辛くなった彼の指を顔から剥がして、彼にそう尋ねた。


「きっと、それがレイ様のためにもなるのかなって思ったんですよ。まあ、勉強を教えてくださいよ。それとも、もうそんな気分じゃなくなっちゃいましたか?」


 彼はおどけたようにそんなことを言う。


「そうね。・・・もう、私そろそろ寝るわ。カイは、もう休んでいいわよ」


 まあ、私もなんとなくわかっているよ。

 ずっと、カイと一緒にいるんだもの。私は、友達もいなかったし、ずっと二人きりだったけど。

 姉は、友達はいないくせに、むりやり子どもたちを集めて遊んでいたんだもの。

 ずるいわよ、そんなの。


「じゃあ、失礼します。困ったことがあれば、また呼んでください。隣にいますから」


 そういって、カイは部屋から出ていく。

 どうせ、もうこの部屋に勝手に入ってくる人なんていない。

 今日はこのまま寝よう。

 私は、布団を頭まで被る。

 今日も、なんとかこの布団一枚で現実をやり過ごす。

 現実も怖いけど、結局何よりも怖いのは、自分の積み上げてきたものが崩れる時、それが嘘だと分かる時、自分の積み上げてきたものが、なんの役にも立たない時だ。


 一人でいるのは心細いけど、カイといるのは、それはそれで心が痛い。

 ホント、なんで生きてるんだろうな。

 生きているから辛いのか、辛いから生きているのか。

 それに引き換え、姉は努力もせずに毎日楽しそうに暮らしている。

 あのとき、私の人生と入れ替わったままにしてもらえばよかったのかもしれない。


 まあ、私たちは見た目だってほぼ同じだし、中身はこんなに違うけど。

 姉は、入れ替わっても入れ替わらなくても、姉でなくても、姉だろうな。あの人は、あの人だ。

 私は、どこかで人生を間違えたのだろうか。

 それとも、元々間違った人生を歩んでいたのだろうか。

 それか、この世界が間違っているのか。

 努力しても報われない、努力してないやつが楽しく生活している世界が間違っているのか。

 私は、現実を知ってるわよ。

 だから、逃げてるのよ。

 目を閉じる。

 ずっと寝ているんだから、眠いわけがないし、眠れるわけがない。

 光を浴びずに。

 暗い部屋に、一人きりで。

 誰も何も言ってこないし、なんにも言ってほしくないけど。

 でも、誰か私と喋ってほしい。

 カイのことはまだ好きだけど、私だけが好きなんじゃないかって思ってしまう。

 さっきも、あんなことを言ってくれたけど、一体、人の言葉をどれだけ信用できるだろうか。

 こんな、落ちぶれた人間を好きになんて、私はなれない。好きなままでいられるかなんて、きっといられない。

 だから、確かめたくなるし、確かめさせたくなる。

 結局、自己満足でしかない。


「ええ、そうね」


 ハハ、なによ。

 でも、自己満足以外の感情なんて、本当はないんじゃないか、と思う。

 全部、人に押し付けて生きたい。責任は、自分で負いたくない。 努力はするかもしれないけど、その責任は誰かに負ってほしい。


「ちょっと、何してるんですか!!」


 頑張ればがんばった分、報われる世界になってほしい。

 それと、別に現実から逃げても良いと言ってくれる人がいてくれる世界がいい。

 私が無責任でも、その分の責任を負ってくれる人が近くにいてほしい。

 確かめたいものが、本当に確かなのか分かる世界がいい。

 あらかじめ、全部教えてほしい。どこに向かえばいいか、教えてほしい。

 無駄な努力をさせないでほしい。

 私の努力を無駄だとか、言わないでほしい。

 私のしたことだけが、正解になってほしい。

 それがダメなら、失敗してもやり直せる人生が欲しい。

 生きる意味を誰かがくれる人生がいい。

 最初から、環境に恵まれて、不自由なんてなかったのに、それでも私は間違えた。


「あんた、開けなさいよっ」


 外が騒がしい。

 いや、外に騒がしい人がいる。

 もう、二度と会いたくなかったのに。

 あんたのせいだ。

 そうよ、何が悪いの。あんたが、私の努力を無駄にしたんだ。無駄にさせたのだ。

 あんたが、自分を曲げないから。あんたが、なんにも現実を見れていないから。

 まあ全部あんたのせいだよ。

 さっきは間に合うって言ったけど、もう、遅いよ。

 バキッ、ボコッ、

 部屋に光が差し込む。

 鍵を閉めてあった扉に、強引に穴を開けられた。

 私は、ベッドから出て立ち上がる。

 一気に、現実に引き戻される。

 あんたが悪い。


「愛を失くした悲しい我が妹よ。このキュアクレアが、あなたのドキドキ取り戻してあげるわっ」


えっと、こっから大量に関係のない話を挟むので、この続きが見れるのは当分先になりますが、ご了承ください

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