きっと、ずっと、二人だけ
レイです。
現実は辛いです。
本当に、あの姉は嫌い。意味もわからないし。
カイが部屋を出ていってからかなり時間が経った。
やはり、姉は嫌いだ。
私は、こんなに我慢してきたし、頑張ってきたんだ。
ひたすら、頑張ってきたのに。
姉の言ったことなんて、一言たりとも認めたくはない。でも、ハッとしてしまったのだ。確かに、女王になりたくないなら、勉強をしなければよかったのかもしれない。
でも、今更もう遅いとも思うし、それならそれで姉がちゃんと勉強してくれないと、この国は困る。
今更勉強をやめたところで、きっと女王になるのは私だ。
いや、どうなんだろうか。
でも、もう、遅いんだよっ。
バカバカバカバカバカ
ドンドンッ
「ヒャッ」
外から物音が聞こえ、私はベッドに潜り込む。
もしかしたら、カイが帰ってきたのか?
「レイ、お兄ちゃんを入れてくれよっ」
なんだ。
兄だ。
あっちの味方なんだろ?
兄も、嫌いだ。
結局、昨日だって私の味方はしてくれなかった。
兄は、結局姉のことばかり。
カイだけが、私の味方なんだわ。
もう、どうでもいいのよ。
「レイ、あんまりだよっ。僕は、・・グスっ、なにもしてないじゃないかっ」
姉も兄も、二人して最悪だわ。
なにもしてないんじゃなくて、なにもしてくれなかったんじゃないのっ。ずっと、私を一人だけ残してっ。
「ちょっと、お兄様。困りますっ。今、レイ様が傷心中なんです」
「なあ、お前はいいよな。ずっとレイの側にいてさ。昨日、お前レイとなにやってたんだよっ」
え、昨日のこと見られてたの?
でも、ただ抱き合ってただけだし。
姉に散々言われた私のことを、カイが抱きしめてくれたのだ。
「ああ、僕は兄だぜ?お前、簡単に一線越えるなよな。こう見えても、一応兄なんだよ。それに、レイもまだ一三歳だ。変なことしたら、殺すからなっ」
兄の足音なのか、ドスンドスンという音が、扉を突き抜けてこちらにまで聞こえてくる。
結局、兄は私の気持ちをなんにも分かってくれていない。
姉も。
でも、姉にそんなことを言ったら、余計自分自身が傷つく気がしたのだ。
・・・嫌い。
何もかも。
「レイ様、入ってもいいですか」
紛れもない、カイの声だ。
私は扉の前まで行き、鍵を開けた後、二回ノックして入って良しの合図を送る。
「すいません、あの姉は俺には手に余ります」
「別に、いいのよ。私たちで、あいつに立ち向かうのよ。きっと、それが運命よ」
全部敵だ。
姉も兄も、母も父も、この城のこの国も。
きっと、私の愛のためにあるんだわ。全部。
唯一良かったこと。それは、カイと一緒なこと。ここまで一緒にずっと成長してきたってことだけ。
「あの、私トイレ行きたいっ」
「・・・・・・どっちですか?」
「・・・・・・・おしっこ」
カイの顔が赤く染まる。
「トイレまでは、・・・・・」
「・・・外には、出たくないの」
「じゃあ、桶でいいですか、」
カイが、部屋の隅から桶をこちらに持ってくる。
「・・・手伝って」
「一人で、でき、・・・・・・わかりましたよ」
カイが、腹をくくったように力のこもった返事を私によこす。
「・・・こぼれないように、しっかり見ててよ」
カイがいるんだから、もう、どうなってもいいわ。
私はドレスのスカートをたくし上げる。いつも通りに外に出れると思ってドレスに着替えたけれど、怖かったのだ。
外に出るのが怖かった。
現実が、怖かったのだ。
全然思った通りにならない現実が、怖かった。
そして、下着をずらす。
カイが私の股間の位置まで顔を下げて、私の出すものを受け止めている。
部屋に、音が鳴り響く。
姉にもやられたことだ。姉のせいで、カイにも、もうすでに見られていたのだ。
それに、これからずっと、私はカイと一緒にいるのだから気にすることなんてない。
「・・・・・・・・終わりましたか?」
「・・・そうね、ありがとう」
桶は、だいたい直径三〇センチメートルくらいだろうか。桶の半分くらいまで溜まっていた。
不愉快な匂いが立ち込める。
カイが、私が出したものを窓の外に捨てて、そして部屋を出て桶を洗いに行く。
戻ってくるまでの間は、またベッドに戻る。
そして、カイがまた戻ってきたら私は扉を開けるために立ち上がって、鍵を開けて、カイを部屋に入れるのだ。
「まあ、まだ昨日のことですもんね。これから、ゆっくりでもいいですから、」
「・・・・・そうね。カイは、私の味方でいてくれるよね?」
「それは、・・・もちろん」
ぎこちなかったし、恥ずかしそうなんだけど、彼がそういってくれれば安心できるし、この辛い現実にも逃げ場があるんだな、と思える。
「あの、さっきまでお兄様とお姉様に会ってたんですよ」
あんなやつら、知らないわよ。
「あの、お姉様がレイ様に伝えといてって言ってたんですけど、」
「・・・そんな、あいつらの言うことなんて信用しなくていいのよ」
「・・・・・夢を」
「・・・なによ、」
「現実を見て、夢を持てって言ってました」
くだらないし、意味もわからないわ。
姉は、あいつはそりゃ自由なんだから夢だっていっぱい持てるでしょうね。
現実を見て、夢なんて持てるわけがないわよ。
「俺、・・・あのっ!!」
カイが、突然大きな声を出した。一瞬ビクッと肩が震える。
「俺の夢を聞いてもらえますかっ」
「・・・どういうつもりなの。カイは、私の味方でしょ?あんなクソ野郎の言うことなんて聞かなくていいのよっ!!」
私は、カイの肩を強く揺する。
正気に戻って!!
頼むから、正気に戻ってくれ!!
私の味方であってくれ!!!
「俺の夢は、レイ様と結婚することですっ!!」
ああ、
やっぱり、あなたは私の味方でいてくれるんだね。
前は、あんなに恥ずかしがってたのに。
私のために、そんな恥ずかしいことをしてくれたのね。
「レイ様は、夢はありませんかっ。お姉様が言ってました!!夢を追って死ぬのが人生だって。俺とレイ様は、執事とお嬢様、普通なら結ばれる関係じゃないです。それを、可能にしてくれるものも、今のところないです。でも、夢は追って良いんです。叶わないからこその夢で、叶わないからこそ、夢は儚いし、追いたくなるんです。・・・って、お姉様が、」
あいつが、そんなことを思っているわけがないわ。
だって、好きなように生きて、なんでも叶えられる人間じゃない。あいつは。
なんでそんなことを言うのよ。
本当に思っていたとしても、無責任じゃないのっ。
嫌い。
なんにも、わかってない。
私が、どれだけ辛いのか。どれだけ苦しいか。
それに、どれだけ、姉のことを羨ましいと思っているのか。
「だから、レイ様の夢を聞かせて下さいっ。大きくて、叶いそうにないことでも、なんでもいいんですっ!」
「・・・じゃあ、家族と縁を切って、楽しく暮らすこと、」
「・・・それは、ちょっと、」
もちろん、多少はカイに対する意地悪も入っていたけど、きっとカイなら肯定してくれると思っていたのだ。
だが、私の心の中に潜む姉が「あんた、またそうやって人を困らせようとするのっ」と言ってくるのだ。
嫌い。何度生まれ変わっても、私はあいつを恨むわ。
「じゃあ、私もカイと結婚すること、」
「・・・・・っあ、」
「顔、赤いよ」
「へ、部屋が暑いからですよっ。ま、窓でも開けますかね?」
言われてみれば、確かに暑い。
カイが窓を開けると、気持ちの良い風が流れ込んでくる。
外は嫌いだ。風だって、本当なら入ってきてほしくはない。
「あの、・・・大丈夫だよ、・・・レイ」
カイは、風を浴びてどこか清々しそうな顔をしていた。
「俺は、レイから離れるつもりは、・・・ない、から」
やっぱり、彼は照れていた。窓を開けて、暑さも少し緩和されたにも関わらず、耳まで真っ赤にしていた。
「・・・あと、たまには外でも見て気分転換でもしてくださいね。まあ、その、レイ様が夢を抱くことを、お姉様もお兄様も、他の家族も、誰にも邪魔する権利も無ければ、案外、邪魔するつもりすらないものですよ」
ちょっと仕事モードに戻ってしまったが、でも、彼は本当に私のことを大事に思ってくれているんだな、と確信できる。
私は、半分だけ、窓を閉めた。
まだ少し、生ぬるい空気が部屋に残っている。
また見てね。
ようやく、折り返しですね。あと半分です




