姉、襲来
レイです。
そろそろ帰宅です。
ちょっとは、カイとの関係も進んだかな?
帰り道も、カイと二人で、二人だけで馬車に乗って、
・・・・・・・・
なんか、嫌な予感がする、
翌日、会談の日。
昨晩は、眠れなかった。
端的に言おう。
隣の部屋から、ずっと物音がしてたからだ。なんだか、ドキドキしてしまった。その〜、まあ、私自身の気持ちを慮るなら、自分に何度でもしつこく言い聞かせる必要があるんだろうけど、彼のために言わないでおこう。それに、一応寝ているフリをしていた私は、物音が聞こえたときになんとなく目を開けて、そのままドアを眺めていたのだが、暗闇の中ではっきりとは見えなかったが、ドアが何回か開閉していたのだ。
それが一時間くらい続いたのだろうか。正確に時間を測る機械をお兄様が開発したらしいが、私はそれを持っていないので、正確な時間はわからないが、それでも結構長い間、ナニかの物音が鳴り止むと、次の音が聞こえてくるまでの間に扉が何回か開けしめされていた。
あんまり眠れなかった私に、カイはキリッとした顔で「おはようございますっ」と言うとすぐに「これから女中の方が来るので、ここで待っていて下さいっ。俺は、うんこしてくるので」とはっきりと宣言した後に部屋を出ていった。
そして、今、会談の席の端っこの方にちょこんと座らされた私の右後ろに、カイがものすごいすました顔で立っている。
なんだか、大人に見える。
会談の内容なんてものは、とっても薄っぺらいもので、昨日の食事の話を最初にし、ようやく最後の方に政治的な話に移ったかと思えば、ここの領土を下さい、いや駄目です、という問答の繰り返しだ。
で、会談の半分くらいは、隣国の方が人質として娘を送りたいです、と言って、それを受け入れるか受け入れないかの話し合いだった。
私は、父がその話をしているのを黙って聞いていただけだ。
そして、会談が終わり、私は一応カイや他の召使いに連れられて相手方のわたしより少し年下くらいの王子に挨拶に行った。
彼は、まんまるだった。こんな山から少しでも足を踏み外したら、そのまま海まで転がっていってしまいそうな体だ。
「私、レイと申します。どうぞ、よろしく」
「俺、ファットです。こちらこそ」
本当に、どうでもいい挨拶だ。
本当に、それだけ挨拶をして、私たちはそのまま馬車に乗り込んで、帰った。
カイは、まだ効果が持続しているのか、キリッとした顔のまま、まっすぐ馬車の中のなんの変哲もない壁を見つめていた。
「あの、カイ、どうしたの?」
「昨日、なにシてたの?」と聞かれた時の反応も見ておきたかったが、まあ私の印象を下げかねないと思い、ついぞ聞くことはなかった。
「別に、なんでもないですよ。ただ、自然って美しいな、と思って」
窓の外なんてまったく見ていないのに、焦点がガチガチに定まった目で変なことを言っていた。
「・・・昨日の夜さ、期待してたのにな」
「フハハハ、ぬなんのことやらっ」
どことなく、姉に似ている気がする。
あれ、なんだろう。いやな予感がする。
「そこの車、止まりなさいっ」
あれ、幻聴か?
あれ、嫌な予感があたっちゃったのかな。
さっきまですました顔をしていたカイも、この声を聞いて悪寒が走ったのか、窓の外をキョロキョロと見出した。
「カイくんっっ!!!!!!」
馬車の上から首が落ちてきた、と思ったら姉だった。いっそ、本当に首が落ちてきた方がマシだったのに、と思った。
「あんた、なんでこんなところにいるのよっ」
すると、姉が拳を口につっこみ、「ヴォエッ」と言った。そして、口から手を取り出すと、まるで何かを掴んでいるように人差し指と親指の腹の部分をこすり合わせていた。
「これよ。私、これ見つけたときから、「絶対カイくんのだ」って思ったのよっ」
なにを持っているのかこちらからはよく見えないのだが、姉はそれをヒラヒラと揺らしてこちらに見せつけてくる。
「これ、毛よ。カイくん、返すわっ」
姉が馬車の窓といっても、ガラスははめ込まれていないので、そこから車内に侵入してきて、そして、持っていた自称毛を、カイに無理やり持たせた。カイは、それを私になすりつけてきたので、そんな彼の頭を叩いたあと、窓の外に捨てた。
ああ、姉の口の粘膜が付着した毛なんて、気持ち悪いったらありゃしない。
「あんたは、なんでいるのよっ」
「あんたが役に立たないから、私が代わりにやってるんでしょうがっ」
つくづく、都合が良い姉だ。
殺してやりたい。
「あんたも、たまにはそうやって馬鹿みたいなこというのはやめたほうがいいわよっ。まあ、いいわ。カイくんっ。遊びましょっ」
もちろん、少し怯えているカイくん、じゃなくてカイを守るために、私は彼と座る場所を交換して、姉の前に立ちふさがる。しかし、胸の大きさくらいしか見た目の相違点が無いはずなのに、姉が大きく見えてくるのはなぜだろうか。
「なによ、あんた。カイくんをよこしなさいよっ」
「あんた、この前カイのことを泣かせたじゃないっ。少しは懲りさないよっ」
「そ、それは、泣いた方が悪いじゃないのっ。ねえ、」
こいつは、正気でそんなことを言っているのか、正気じゃないのか区別が出来ないから、タチが悪い。
ホント、こんな奴がいなければよかったのに。
「・・・あの、俺はお姉様と仲良くするつもりはないですけど、たまには誰かと仲良くしてみたらどうですか?」
そんなの、無理よ。
「じゃあ、カイくん。私と仲良くしましょっ」
話を聞いていたのか?
私は、姉がカイに向けて差し出した手を払う。
「あんたじゃないわよっ」
そう言って、姉は無理やり自分の尻を私たちの間に入れ込んで、足を開いて座った。
「臭っ、てあんたなんなのよ、これは」
いつも姉が変な模様の服を着て遊んでるな、と思っていたが、その服には大量の土が付着していたし、なにしろ、姉から強烈な自然の匂いを感じた。
「仕方ないわっ。ずっと、歩いてきたのよっ。私、こんなに歩いてきたのよっ。だから、カイくん遊びましょっ」
そこからは、私と姉の喧嘩がずっと続いた。もちろん、一日で帰れる距離ではないので、途中で宿に泊まったり野営をしたりしたのだが、私と姉は三日三晩互いを罵倒し続けた。
もちろん、これが後から振り返るといい思い出になるわけでもなく、ただただあらゆる人に対して不快な思いを残すだけになった。
せっかくのカイとの思い出深い旅行になったかと思えば、姉のせいで全て台無しだ。
まあ、隣の部屋から聞こえたあの音だけが唯一の土産となってしまったわけだ。
城に戻れば、また家族に振り回される日常に戻る。
ドンドン
また、姉が来た。
「起きなさいっ。城に着いたわよ」
目を覚ます。
どうやら、馬車で少し寝ていたみたいだ。
姉が、寝ているカイくんを抱えながら私を足で蹴っていた。私は、そんな姉に一発蹴りを浴びせてから、カイくんを奪取した。
「あんた、明日暇でしょっ。旅行帰りだからって許さないわよっ。朝起こしに行くから、用意してなさいっ」
私に蹴られて転んだ姉が、地面に手を突きながら負け惜しみを言うような感じで、明日の勝手な予定を押し付けてきた。
そして、姉は走り去っていった。
こいつさえいなかったら、私の人生もっと幸せだったんじゃないか、と思ったところで、現実は変えられない。
なんで、何もかも私より劣った姉に人生をめちゃくちゃにされなければいけないのか、と思う。
が、どうせこれも現実なのだろう。
せめて、カイくんがめんどくさくなければよかったのにな、と結局諸悪の根源である姉から目を背ける、という結末になった。
別に、そんな悪いことでもないか。
なにも知らない子どもたちが、遠くで遊んでいる。
また見てね。




