恥じらい、気持ち、
レイです。
隣国で、カイと二人っきりの夜。
期待してていいのかな?
それにしても、ここには姉がいなくて本当に心地良いわ。
いつもは、寝る時や私が希望したとき以外は、カイとは一緒の部屋で暮らしてはいる。誰も彼も、自分の気持ちというものがどんなものよりも恥ずかしいものであって、唯一なんにも恥ずかしいことがなさそうな私の姉を除けば、お天道様さえもが眠りにつく夜に、そういうことはするべきなのだ。
部屋は、さすがに豪華なものであり、白いレンガ造りの建物の中で場違いではあるが、茶色い絨毯が敷かれていて、壁にも防熱のために毛皮が貼られている。
一応、部屋の中の壁で二つに区切られているが、そんなものは今の私にはノーサンクスである。二つあるベッドも、きっと一つしか使わないことになるだろう。まあ、もしかしたら寝れないくらい汚してしまうかもしれないが、そしたらもう一つのベッドを使えばいいのだ。
窓は大きいものが一つあるだけで、窓から外を見たことで、この部屋がかなり高いところにあるんだ、ということがわかった。それに、もう辺りは赤く染まる時間帯だ。
「では、明日の正午くらいに会談の予定ですので、それまでは部屋の中で、ご自由にどうぞ」
そういって案内人が部屋の外に出ていく。
部屋には、私とカイだけだ。
カイは、隣の部屋とこちらの部屋をずっとぐるぐると行き来している。
「・・・っぷ」
つい、こらえきれずに笑ってしまった。
「・・・なんですか、」
「どうしたのよ、そんなにソワソワしちゃって、」
やっぱり、可愛いな、と思う。成長したと言っても、まだ私の目の位置くらいに彼の頭頂部があるくらいだ。
でも、そんな彼もいつまでも小さいままでいるわけではないし、いつか私の身長を越してしまったら、そのときに私は彼のことを好きでいるのだろうか、という疑問が浮かんでくる。
かくいう私も、これから成長すれば、せっかくの今のこの美形が崩れる可能性もあるわけだ。
誰だって、「あれ、なんか横から見ると二重顎が気になるな」とか「ニキビ気になるな」とか「あれ、あんまり鼻高くないな」とか、ちょっといつもと違う見方をしてしまったときに失望してしまうことはある。
ひょっとすると、それが真実であり、今まで見ないできていたものなのかもしれない。
それに気がついたときに、なんだか気持ちが冷めてしまうなんてことはよくあるものだ。
この関係だって、ずっと続くわけではない。カイは、もしかしたらお世話係としてずっと私に仕えることになるのかもしれないが、おおよそ私の運命というものは、どこかの国の王子とかと結婚して、次に王子となる子供を産むことになるのであろう。
姉と同じ生まれでありながら、私はこんな決められた運命を歩んでいくしかないのだ。
そんな現実に気が付かなければいけなくなったのは、半分は姉のせいであり、もう半分は、思春期なんていう面倒くさいものに突入してしまったカイのせいである。
悩んだって、いいことがあるわけでもないのに、ついつい悩んでしまう。
「・・・お、俺は、隣で寝るから、あんま覗かないでよ」
いつも人前では私に対して敬語を使っているが、一対一になると、タメ口になる。
そんな彼が可愛いと思うけれども、可愛いと思うこの感情も、あまり長くは続かないのだろう。
「・・・ちょっと、こっちに来てよっ」
私は、ベッドに座ってカイを手招く。カイの喉仏が、一瞬引っ込んだ後、また元の位置に戻ってくる。
恋なんて、いつまでもできるものではないのだ。
「いいから、いいから」
いつか、カイを好きでなくなる時が来るかもしれないことは怖い。
いつか、自分は決められた運命のレールから外れられなくなるのが怖いから。
私は、カイの手を引く。
一三歳なんて、ちょっと早いけれども、別に早すぎるわけではないだろう。
でも、幼い頃からずっと一緒だったんだし、これはこれで運命なのかもしれない。
じゃあ、運命っていうのはなんなのだろうか。
そんな、投げやりな疑問は嫌いだったけれども、答えが見つからないのは嫌いだったけれども、今はそんなことよりも、いっつも邪魔しにきては、ろくなことをしないあのクソビッチ姉の方が嫌いだ。
「カイ、私はあなたのことが好きなのっ」
私は握った手を、そのまま自分の方に引き込んで、ベッドに彼と一緒に倒れ込む。私とカイは、見つめ合ったままベッドに横向きになった。
「あなたは、どうなのっ」
「・・・え、俺は、」
なんか、カッコつけてるな、と思った。まあ、可愛いけれども。もどかしいけれども、カイの仕草は全て可愛いと思える。もどかしいからこそ、可愛いのかもしれない。
カイは、私が軽く握っていた手からすり抜けて、頭をボリボリと掻く。
「あの、この前お姉様にも、おんなじようなことされたんですけど、」
また、姉だ。
「あいつのことはいいのよ。ねえ、カイは私のことをどう思っているの?」
「え、別に、ただの仕事相手っていうか、仕事の付き合いっていうか」
浮気がバレた時みたいな言い訳を並べる彼の手を、少し強く握る。痛いわけでもないだろうに、カイは「痛っ」と手を引っ込める。
まだ、ちょっと早かったか?
窓の外は、まだ赤い。
最終手段、というわけではないが、私は一度立ち上がってドレスを脱ぎ始める。もう、心は裸になったのだ。恥ずかしいことなんて、なんにもないわっ!!
パンツと、サイズの微妙に合わないブラだけになって、今度は彼の上に私は覆いかぶさるように倒れ込む。
「・・・ちょ、・・・だ、大丈夫ですか、」
そんなことじゃないでしょ。
「大丈夫。私は、カイが今思春期だってことはわかってるし、恥ずかしくてどうしても言えないことも分かっているから」
私は、カイのズボンのベルトに手を差し込む。そして、ガチャリ、という音と共に彼の体とズボンとの間に隙間が生まれる。
「・・・グスンっ、・・ちょっと、レイ、」
私は、ズボンから手を抜いて、彼の顔を見る。
「・・・怖いよ」
私は、そのまま立ち上がる。そして、泣いているカイの手を握って彼を立たせる。
「いや、・・・ごめん」
本当なら抱きしめたかったけど、私のことを怖がっているのだから、逆効果だろう。
「っごほっ、・・・えっと、えっと、あのさ、」
「ごめんごめん、」
私は、どうしていいかわからなかったけど、彼の頭を撫でた。
「その、体急に触られたら怖いし、なんで、そんな、・・俺は、真面目に仕事がじだいのにっ」
「ごめんごめん」
「だから、裸とか見ないようにしてたのにっ」
「いや、ホントにごめん」
こんな私は、大人なのか子供なのか。
「俺、別に嫌いとか言ってないじゃんっ。それに、俺ばっかり恥ずかしいことさせられてる気がするしっ。この前も、お姉様が怖くて泣いちゃったところを見られてさ」
なんか、私の中にある恥ずかしさという感情が薄まっているからか、すっかり私の負っているリスクと釣り合っていないような気がしていたが、彼は色々と恥ずかしかったのか。というか、そりゃそうか。
姉のせいでおしっこしているところを見られた、と聞いたときも、死にたいと思うほど恥ずかしかったし。
「あのさ、・・・女の子の体とか興味ないの?」
「そ、別にないよ!!なんか、前にお姉様からも言われたけどっ」
なんで、そんなところで姉妹そっくりになってしまうのだか。つくづく、姉という引力に大きく私の人生が引っ張られているような気がする。
まあ、そんなものを言い訳にしていては駄目なのだろう。
「あのさ、泣かせちゃってごめんなんだけど、・・・私の話も聞いてくれる?」
これを言えば勝ちだろうけど、これを言ったら負けだと思っていた。
「・・・・・なんですか」
カイくんが目をグリグリと擦りながら言う。
「私たち、もっと仲良くなりたいな」
ずっと、一緒にいるじゃないか。仲が良いときもあれば、悪い時もある。こんなことを言うのは、カイに罪悪感を背負わせるだけなんだろうけど、でも、それってなんか現実的すぎるっていうか、楽しくない気がする。
だからといって、自覚している私は偉い、というわけでもないのだ。
「・・・あ、・・・そ・・・ちょっと、いい・・・ですか?」
「どうしたの、」
「あの、・・・恥ずかしいから、今のままでもいいですか?」
結局、そうか。私が、我慢するのが一番いいのかもしれない。
「・・・そうだね。ごめん」
「その、恥ずかしいから」
「いいんだよ。いつか、恥ずかしくなくなるよ」
この言葉は、誰にとっての救いなのだろうか。
「じゃあ、服着てもらってもいいですか、それだと、ちょっと、」
一応、私のこの豊満ボディはキッズ男子には刺激が強かったかな、と思いつつ、私はさっき脱ぎ捨てたドレスを着直す。明日は、女中が来て、違うドレスを着させてくれるのだ。
そんなことを言いながら、カイは少し違うところを見る振りをして私のことをじっくりと見ている。
「・・・エッチ」
「・・・ち、違います。その、床を見てて、」
「なんで、仲良くしてくれないの」
「だから、・・・さっき言った通りだけど、」
「じゃあ、話変わるけどさ、クレアのことはどう思っているの」
もちろん、あんなやつはあらゆることにおいて私のライバルにはなり得ないと思っているのだが、それでも、男子というものは非日常なことに弱い、と昔からの書物に書かれていた気がする。
「あの人は、嫌い」
「ハハハ、私もよっ。きっと、私たち仲良くなれるよっ」
好きなものより、嫌いなものが同じ人の方が、関係って案外長く続くものなんじゃないか、と直感的に思うのだ。
「・・・でも、やっぱり恥ずかしいから、ちょっと俺のことはそっとしといてほしいんだけど、」
それにしても、強固な思春期心なこった。これは、当分は無理そうだな。
男だというのに、ダラダラと結論を先延ばしする彼に苛立ちつつも、それ以上に苛立つ姉という存在がいることで、そうも私の現実というものは濃い霧に包まれてしまう。
「そうね。・・・カイは私の気持ちはわかってくれた?」
嫌な聞き方かもな、といちいちもしかしたらいるかもしれない視聴者の声を代弁しながらそんな賛否両論ゼリフを彼にぶつけてみると、「・・・わ、わかってますよっ」と彼が答えた。
「じゃあ、一緒に寝るのは駄目なの?」
なんだか、カイの体の動きから、視覚的に彼の拍動がスピードをあげる様子を感じた。
「そ、いや、別に、お、おおお俺は一人で寝ますよっ。それじゃっ」
そういって、彼は隣の部屋に行ってしまった。
ああ、せっかくのチャンスだと思ったのに。
七割くらいは彼のせいなんだけど、男の子って難しいな。私の心なんてのは、もっと単純なのに。感情の損得で、こちらは動いているんだけど、男の子って、プライドとか羞恥心とか、もっといろんなものの損得が頭に流れている気がする。
結局、私はこの部屋で寝ることになるのか。
ひとり寂しい夜は、誰にも見られたくないものだ。
ちょっとむっつりスケベみたいなところがカイにはあるから、一応少し期待しつつも、結局私のこの思いの逃げ場なんてものはどこにもないらしい。
次もまだ私です。
見てください




