レイの異国探訪
レイです。
いつも姉がご迷惑をかけていますが、私はあんな人のために頭を下げたいとは思いませんので。
今日は、役に立たない姉の代わりに私が外交に出かける話です。
きっと、いつもの何十倍も面白い話ですから、いつもとちょっと違った気持ちで読んでもらえると嬉しいです。
家族というものは、本当に鬱陶しい。
姉が王としての器、というか、王としての品性が無いと分かったときから、私は姉の代わりに女王になるために親から期待された。
双子の姉なので、私としてはそこまで姉姉しい印象がないのだが、それでも、王族として生まれたのだから、順序というものはものすごい大切なものである。
五歳くらいから付き人であるカイと一緒に勉強を叩き込まれて、最近はもう認められたのかそこまで窮屈では無くなったのだが、それでも国の大事な式典や、国交のために必要な遠出には私が駆り出されて、城に残っている姉は、ただ街の子どもたちを従えて遊んでいる。
そして今日は、私は父や他の騎士や貴族に連れられて隣国に来ている。
私は姫なのだから、もちろん自分の国の姫になることもあり得るのだが、他国に人質として送られることだって可能性としては十分ありえる。
私とほぼ同時に生まれたくせに、姉はそのしがらみをぶち壊し、そして、それでずっと苦しんでいる私相手にときどき部屋の扉をドンドンと叩いては、カイを連れ出そうとしてくるのだ。
思春期が、もう後半に差し掛かっており、去年辺りは、カイのことを鬱陶しいと思ったり、なんでこんなやつと一緒にいなければいけないの、と不満を抱いていたのだが、なんだか急に、彼のことがキラキラと見えてきてしまいだした。
ということはつまり、私はカイのことが好きなのだろう。
一方カイは、少し思わせぶりな素振りは見せながらも、これからちょうど思春期にさしかかるという時期になり、私とあまり話をしてくれなくなった。
それを狙ってなのかもしれないが、姉がカイを奪いに来るのだ。一〇歳ごろまでは、まったくそんな素振りを見せたこともなければ、別に外で活発に遊ぶタイプでもなければ、部屋をドンドンと叩いて他人に迷惑をかけるわけでもなかったのに、と毎度思う。
「レイ様、もうそろそろ着きますよ」
馬車に揺られて、もう三日ほど経つ。
着替えやらは、いつも女性の女中に手伝ってもらっている。カイには、一度姉との謎の入れ替わり現象が起きたせいで、裸を見られてしまったり、それ以上のことを見られてしまったりしたが、それまではそんなことはなかったのだ。最近は下着くらいはまあサービスとして見せてあげているが、それ以上はない。
姉のことが明確に嫌いになったのは、それからだ。
それまでは、役目を押し付けられている、と感じながらも、幼かったからか、そこまで疑問を抱かずにいたのだ。
たまに窓の外を覗くと、子供たちに混ざりながら、唯一一人だけ楽しそうにしている姉の姿が見えてくる。いっつも、ム、とした表情をしているが、遊んでいるときは、勝ち誇ったように口を、二、と横に広げているのだ。
私も、お嬢様として生まれてこなかったらあんな風に、カイとかと遊べていたのだろうか。
隣国は、山の中腹らへんに都市が形成されているので、かなり気温の差がある。雪は見当たらないが、それでもこちらの国の冬と大して変わらぬ気温が年中続いているのだ。住みにくさこそあれども、この国を攻めようとするのは、かなり困難なことだ。
「寒くないですか?」
カイが、そっぽを向きながら炎魔法で私を温めている。
「カイは、寒くないの?」
私は、温めてあげようと彼の手を握ろうとするが、彼は少し顔を赤くして「大丈夫ですっ」と冷たく言い放つ。
昔は、従順で可愛い男の子だったのに。
馬車からは、山の辺りでしか咲かないシモゴケが一面にびっしりと生えていて、これらは講義の中で習ったことなのだが、土の中の栄養を吸い付くし、その土地を殺してしまうので、人間からかなり嫌われているコケの仲間なのだが、すでに土が死んでいるここの土地では、あまり気にされないのだろう。
そもそも、こうやって広がりきるまえにむしり取るのがセオリーだ。
「あれって、シモゴケよね」
「・・・そうっすね」
彼とは、いわゆる幼馴染なのだ。昔は、もっと友達みたいな関係だった。でも、成長とともにカイは立派な執事を志してしまい、あまり私と仲良くしてくれなくなった。
そして今では、目も合わせてくれない。が、つい先日。またもや、あの悪魔みたいな姉がドンドンとドアを叩いてこちらにやってきた時、私はまんまと姉に騙されて、城の廊下で下着姿で締め出されることになったのだが、少しして、部屋から半泣きのカイが出てきて、私に飛びついてきたのだ。
私は、不可抗力というか、なんというか、思い切り彼を抱きしめてあげたし、そんなカイを泣かした姉を、睨みつけた。
それなのに、姉は、「いつか女王になったら、あんたを奴隷として使ってあげる」だなんて、クソみたいなことを言ってくるのだ。
あなたが国を背負える人間ではない、と判断されたせいで、こちらにその重責がのしかかっているのに、あいつは自分が姉だから、ということで女王になれる気でいる。
一刻も早くこの城から追い出したいが、家族は姉に寛容な態度を取るのだ。それに、姉の執事をやっている兄は、そんな姉のことを溺愛している。乱暴ではないのだが、兄もときどき私の部屋に遊びに来るので、少し困る。
あんな兄を、カイには見せたくない。
兄こそ、いずれはこの国の王になる、ということで他国からこちらへ譲り受けたのだから、あんな姉の世話をしている暇はないと思うのだが、兄は、姉以上にいつもどこにいるのかわからない存在である。
「お城が見えてきましたね。結構、大きいですねっ」
感動したのか、久しぶりにカイの方から私に話しかけてきた。確かに、山の斜面に建てられた不思議な城なのだが、私の住んでいる城の二倍くらいは大きいだろう。白いレンガで作られた建物が、背景の山と相まって、映えている。尖った屋根がそのまま雲に届くのではないかというくらい高い。
城も、一つの大きな建物として存在しているのではなく、いくつかの建物を廊下でつないでいる、という感じで、実用性もありそうだ。
「ようこそ」
待ちきれなかったのか、隣国側の人間が、馬に乗ってこちらにやってきた。別に、あと少しで城の正門に着くのだから、いいのに、と思ったが声には出さない。
私は、一度馬車を止めさせて、馬車から降り、深くお辞儀をする。後ろに並んでいた馬車から、国王である父が降りてきて、私の横に並んで同じようにお辞儀をする。
「では、すこし特殊ですのでご案内いたします」
ああ、なるほど。と、弁解も含めて心の中で相槌を打つ。
「少し回っていただいて、城の横の方に入口がありますので」
私は馬車に乗り直し、そして舗装された道を馬車でスイーと進んでいく。
城の横側にある小さな門をくぐり、私たちは城の中に入る。
城、というか、城と呼ばれる建物群なのだが、門をくぐるとほとんどの建物が見上げるほどの高さがあって、非常に首が疲れる。けれども、なんだかんだ言って、旅行みたいな気分で少しワクワクもしている。
私は、少し後ろを歩くカイに、「これ綺麗だね」とか感想を伝えてみるのだけれども、カイはそれに静かに頷くだけだ。
つい数年前までの自分もこんな感じだったんだろうとは思うが、それでも、自分と他人は別物なのだから、いくら「自分もそうだったよな」と思うことがあっても、それは人を非難するときにさほどブレーキにはならない。
が、私はこの「カイにかまってほしい」という思いを言葉にはせずに、行動にすることで少しずつ消費していくスタイルを貫くと決めたのだ。
「じゃあ、会談は明日ですので、本日はこちらの部屋にお泊り下さい」
城をひと通り見物した後に、私とカイが一つの部屋に案内された。
次回も、私が主人公です!!
見てね!




