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【完結】ドラゴンに助けていただいたお礼として花を贈ったら、婚姻届が返ってきました  作者: 三木悠希


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6/7

6 冷徹公爵様



 あっという間に三ヶ月後の舞踏会。

 国王主催で、国の令息令嬢たちが一堂に集まる、大きなイベントの一つで、小説内でもとりわけ大イベントとして扱われていた。


 それはもちろん、ヒロインであるアレアーヌ様と、ヒーローであるレオン・シュベルト公爵の出会いとなるイベントなのだから当然ね。

 


「ベアリーさま! 本当にありがとうございます」


 私は今、アレアーヌ様に泣きながら感謝されている。


 それもそのはず、公爵様がアレアーヌ様を迎えにいき、この舞踏会の会場までエスコートしたのだ。そうすれば必然的にアレアーヌ様と、公爵様の間に一つの噂が流れる。


 レオン・シュベルト公爵は、平民の血を引く伯爵令嬢アレアーヌが貴族社会へ足を踏み入れることを認めた、と。貴族社会に馴染めていなかったアレアーヌ様にとっては、素晴らしい後ろ盾を得たことになる。


「そんな、感謝されるほどのことでは……」


 しかし、当の私は下心で動いていたので、感謝されるほど心が痛んでいた。

 

 死にたくないから貴女を利用した、なんて言ってしまえば、アレアーヌ様に失望されてしまうだろう。

 それにキセの嫉妬の矛先が、アレアーヌ様へと向くことだろうし、彼女の負担が大きくなるのは間違いない。早めに聖女の力を得てもらわないと。

 

「ちなみに馬車では二人きりだったんですよね?」

「いいえ、ドラゴンが一匹いました」


 わあ! アフエンも来ていらしているんだわ。あとで会えないかしら。


 それは置いておいて。


「それで、なにかお話はされましたか?」

「そうですね……。パートナーになっていただいたことへの感謝と、ベアリー様についてくらいです」

「わ、私? もっと別の話は……?」

「そんなのありませんよ!」


 アレアーヌ様はケラケラとお腹を抑えながら笑った。


「あは、あはは……」


 対して私は笑えなかった。頬が引き攣り、うまく笑えているかどうか……。


 ちょっと、ちょっと待ってよ! これじゃあ小説のストーリーに戻っていないってことじゃない!


 まずい。このままじゃ死ぬことになる。

 全てが未確定になってしまったこの小説内で、死ぬのかすらわからないが、とりあえず大筋は戻さないと。


 どうしたら二人のイベントが発生するのよ!

 

「ところで、公爵様は?」

「それが、ファーストダンスを踊った後、どこかへ行かれてしまって」

「なんてこと! 探しにいきましょう!」


 私はアレアーヌ様の手を引いて、城内をくまなく探した。

 休憩室、お手洗い、庭園や広間——。

 


「ベアリー様、もう諦めましょう……。わたしたちが探せる範囲は全て探しました」


 そんな、嫌だ、死にたくない!


「というか、キセ様って今日いらした?」

「いいえ? ベアリー様を突き落とした事件のあと、キセ様は階段から落ちて大けがをされたとか」


 なにそれ、そんなストーリー聞いてない。キセが大けがをするのは、アレアーヌ様に突き落とされたと嘘をつくときだけ。それも仮病!


 でもこの舞踏会に来ていないってことは、仮病ではなくガチ。


「おや。こんなところに」


 その声に、全身の血が跳ねた。


 な、なに。いつもと違う、振り向くのも恐ろしいほどの威圧感。

 

「……こ、公爵、さま。ご機嫌よう」

「…………ご機嫌ょぅ」


 アレアーヌ様も小動物のような、弱々しい声で挨拶した。

 後ろを向いている私でさえ、振り向くのが怖いのに、対面しているアレアーヌ様はもっと怖いわよね。首をギギギと音が鳴りそうなほど、ゆっくりと回した。

 

「探されていたようなので」


 なんだろう。柔らかくない、とでも言おうか。


「何か、ご用でも?」


 にこりと微笑むその顔も、筋肉質な胸が見えているのも、以前と変わらないはずなのに、どこかヒリヒリとする空気が流れている。


 その変化を察したのか、アレアーヌ様が手をぎゅっと握ってくれた。

 だから貴女はヒロインで、あの冷徹公爵を溶かすことができるのね! そのまま今の公爵様も追い払ってください、ヒロインパワーでお願いします。


「ベアリーさま、ご安心ください。わたしがなんとか」

「耳打ち? 仲、良いんだね。手も繋いでさ」


 なに。

 本当になに。


 まさか、公爵様に殺される?


「わたしとベアリーさまは、旧知の仲なのです!」

「ふぅん。……約束、忘れていなければ、なんでもいい」


 ただそこにいるだけなのに、謎の威圧感。それも私に向けての。公爵様は眉間に皺を寄せ、ただでさえ底冷えするような目をしているのに、今はもっと冷たく感じる。

 

 心当たりが多すぎて、なにを謝ればいいのか見当がつかない。


 公爵様は腕を組み、短く息を吐いた。


「アレアーヌ嬢、疲れたんだけど」

「は、はい?」

「帰りたいんだけど」

「まだラストダンスすら終わっていません! 帰りません!」

「……はあ。休んでる」


 公爵様はそう言って翻り、休憩室へと入っていった。


 それを見た途端、ブワッと脂汗が出てきた。


「ベアリーさま、大丈夫ですか?」

「え、ええ。今日は諦めましょう……」

「なにを諦めるんですか?」

「……こちらの話です」


 しまった。つい口走ってしまった。


 あなたと、公爵様を今日引き合わせるのは、やめた方が良さそうね。



次回、最終話です。

7/3 17:10投稿です!

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