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【完結】ドラゴンに助けていただいたお礼として花を贈ったら、婚姻届が返ってきました  作者: 三木悠希


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4/7

4 死亡フラグ、へし折ったり…?

 


 伯爵領から公爵領へは、馬車で向かった。

 

 馬車から見えた公爵邸を見て、思わず息を呑んだ。公爵邸は、伯爵邸と比べ物にならないほど横にも縦にも大きく、綺麗で手入れが行き届いている。


 うちとは違うわ。さすが公爵邸。国王に次ぐ権力を持つ方だわ。


 公爵邸に着くと、公爵様が出迎えてくれた。忙しいだろうに、わざわざ出迎えだなんて謙虚な人だと思った。


 しばらく庭園を歩くと、大きな緋色の身体が見えてきた。夜に見た時とはまた違う、幻想的な雰囲気を纏っていた。


 これもこれでかっこいい!

 

「アフエンさん! この間のお礼です!」


 そうして抱えきれないほどの花を、アフエンへ差し出した。

 

「グルゥ……」


 アフエンは私の差し出した花束に、片方の鼻の穴を近づけた。

 アフエンが呼吸をするだけで、花がもぎ取られそうになる。花弁が数枚鼻の中へ入ったが、アフエンは気にしていないようだ。


 ただ目を細めて、じっとこちらを見ていた。


「お気に召さない? じゃあ、これは?」


 私は別の花束を差し出した。花の中にも好き嫌いがあるだろうと踏んで、様々な種類の花を用意してきた。


「フンス、フン」

「全部……?」

「グルゥ」


 口の端から涎がたくさん漏れ出ていた。


「ふふ、可愛い子」

「グアアアッ!」


 びちゃびちゃと唾液が飛んできた。おかげでドレスもベトベトだが、構わない。


 ドラゴンの珍しい唾液と、小説への軌道修正を考えたら、ドレスの一着くらい安いものだ。ベアリーのお父様、まだお会いしたことないけれど、ごめんなさい。

 

「……可愛いは、いや。かっこいい、が、いい」

「公爵様はかっこいいですよ? アフエンさんが可愛いんです」


 公爵様は口を尖らせ、アフエンは目を細めた。

 

 どうして、二人揃ってムスッとしているのだろう。


 はっ! エサ代を賄おうと思ったのに、私の持ってきた花が思ったより少なくて幻滅してる!? 安心して、幌馬車三台連れてきたから!


「全部食べてください! 私が山で採ってきたものばかりです! 新鮮ですし、珍しいものもありますよ!」

「いいな」


 人間ってあんまり花、食べないよね?

 

「……この花、初めて見たんですが。あ、毒とかあるのかな」


 薄ピンクの不思議な花だった。伯爵領の隅に生えていたこの花が珍しくて、思わず採ってきてしまったのだ。


「それは!」

「やっぱり毒ですか?!」


 アフエンの口がそこまで迫っていて、思わず手を引いてしまった。


 毒を食べて死んでしまったらと思うと、公爵様の仕返しが恐ろしくて堪らない。

 

「グゥッ」

「…………ち、ちがう……。うん、食べる」

「そうですか。よかった」

 

 花束をドサドサと地面に置いていくと、ドラゴンは鼻先で草と花、蕾の選別を器用に始めた。


 なんて愛らしいのかしら。

 こんなに可愛い子が、恐れられているなんて。まぁ仕方のないことだけれど、キセの言っていた人の腕を、という話は小説にも出てこなかった。


 書く必要がなかった描写なのか、それとも、私が転生したことによるイレギュラーな出来事なのか。


 あ、いけない。お願いを忘れるところだった。

 

「公爵様、お願いがございます」

「…………なに」

「三ヶ月後の舞踏会、私の友人であるアレアーヌ嬢と、パートナーになっていただけませんか?」

「…………嫌だ」


 黒髪が激しく左右に揺れた。

 

「そう、ですか……」


 アレアーヌ様とパートナーになってもらって、私は小説のストーリーからフェードアウトが望ましいんだけど……。そうなるための最難関が、公爵様の説得なのよね。


「…………君のパートナーなら、いいよ」

「それには及びません。私はすでに決まっていますから」


 決まってないけど、アレアーヌ様と公爵様を引き合わせるにはこれしかない。アレアーヌ様には公爵様に会う事情もないし、無理矢理にでも出会わせないと……。


 また、死にかけるかもしれないもの。


「私より、アレアーヌ様の方が素晴らしい方です。公爵様にとってもお似合いだと思います」

「僕は、君がいい」

「グアアアッ」

「…………アフエンも、君がいいって」

「どうしても、だめですか?」


 負けちゃダメよ。どうしてもお願いして、アレアーヌ様とパートナーになってもらわないと。

 

「グアッ——」

「草が詰まりましたか!?」

「…………大丈夫。ただ、心臓にきただけ」


 公爵様はアフエンを一瞥し、冷たくそう言った。

 

「心臓!? それこそお医者様に!」

「平気。強いから、死なない」


 ツンとした表情で公爵様は言った。


「グオオオォォ!」

「…………ぼ、私が、そのお願いを聞いたら、君は、何を聞いてくれる?」


 来た! 勝ち確でしょう、これは!

 

 アレアーヌ様に公爵様(死の危機)を押し付けるみたいで嫌になるけど、小説の力を発揮すればなんとかなるのでお許しください。

 

「なんでも聞きます! 死ぬようなことと、悪事でなければ!」

「ふーん。…………いいよ、その人の、パートナーになってあげる」

「やったー!」


 これできっと、アレアーヌ様と公爵様が仲良くなれる! 

 そして私は小説の舞台から抜け出して、ひっそりと隠居するの。


「……ねえ。アフエンの水浴び、一緒に、行かない?」

「ええ!? いいんですか?」

「うん」


 死にたくないがために、とんでもない約束をしてしまった気がするけど、それはもういいわ。


 ドラゴンの水浴びなんて、絶対壮観よ!



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