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最高神の〝依代〟 〜転生後も不遇で虐げられた公爵子息の、最高神成り上がり譚〜  作者: 蒼波季京
第二部 第四章 愛によって狂うもの

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67.打ち倒すべき人――本来の目的

「ごめんなさい……」


 すっかり意気消沈したテオドアは、肩を落として謝った。

 

 ここは、『試練』に挑む候補者が集っていた、〝神々の楽園〟と呼び習わされた山の、(ふもと)である。

 山の上の屋敷には、一度、『知恵と魔法の女神』が来たことがある。

 念には念を、とのことで、『光の女神』とリュカが、天然の洞窟を改装して即席の拠点に作り変えたらしい。


 巨躯である怪鳥も、入り口さえ通り抜ければ、ゆったりくつろぐことのできる広さだ。

 テオドアも、リュカと共に洞窟に入ったのだが。

 主に女性陣から、総攻撃を受けた。


 『光の女神』には頬に一発平手打ちを喰らい、ハンナからは泣きながら怒られ、ルネリーゼには「しんぱいかけちゃダメなのよ」と諭され、ネフェクシオスからは頭からがぶりと噛まれ、雛たちからは交互に非難され――


 極めつけには、怒れる女性陣と子どもたちから少し離れていたクレイグから、「後先考えろよ」と、呆れたように溜め息を吐かれた。


「いくら不可抗力とは言え、もっとやりようあっただろ。こう、さりげなく、誰でも良いから相談するとかさ」

「えっと……あの時は、誰が信用できるかも分からなくて……」

「あーまあ、そこは同情する。事情はリュカからなんとなく聞いたけど、前世の因果とかって、お前自身にはどうしようもないもんな」

「うん……」


 前世の記憶自体はある、とは言えず、テオドアは神妙に頷いた。


「でもま、それなら、あの人たちの言い分も受け止めてやれよ。心配かけたのは事実なんだから」

「分かった……」


 テオドアは力無く答えて、また女性たちの方へ顔を向けた。

 既に、テオドアが帰着してから、三十分ほど経っている。


 ひとしきり怒って落ち着いたのか、いや落ち着いていないのか。『光の女神』は冷たい声で切り出した。


「今は時間も惜しい。これ以上責めるのは、すべてが終わってからだ」


 腕を組み、睥睨(へいげい)する『光の女神』に、身がすくむようである。テオドアは消えぬ怒りを感じ取って、背筋を伸ばした。

 だが、そこへ、リュカがすすすと寄って耳打ちをする。


「大丈夫っすよ。あの(ひと)、坊ちゃんがめちゃくちゃに好きです。さっきまで本気で、泣きそうなくらい落ち込んでましたから――」

「聞こえてるぞ」


 女神は、今度はリュカを睨みつけた。が、不機嫌そうな声とは裏腹に、頬と耳の辺りがほんのりと赤くなっている。

 リュカが言ったことは、ある程度は真実であるらしい。


「相変わらずの減らず口だな、お前は。先の大戦で消滅したフリをして、地界で気ままに飛び回っていたのも趣味か」

「違いますよ! オレはのんびり気が向いたことをやるのが趣味なんです。天界のヤツらのいざこざに、向こう千年くらい巻き込まれたくなかっただけっすよ!」

「可愛げのない。子どものような見た目をしておいて。だいたいお前は――」

「あーはいはい。分かりました分かりました! 小言も後にしてくださいよ時間ないんで!」


 リュカは嫌そうに耳を塞いだ。まるで、反抗する息子と母親のような構図だ。

 大戦――おそらくは世界を二つに分けたという神代の争い――以前からの知り合いのようだ。が、どうにも、彼らの仲はそこまで良くない。そんな印象を受ける。


 『光の女神』は、今度こそ、テオドアに向き直って言った。


「自らの身を危険に晒してまで攫われたんだろう。まさか、なんの成果もなく帰ってきたんじゃないだろうな?」

「ま、まさか。ちゃんと情報は掴んできました」


 テオドアは、慌てて首を振り、言った。


「――僕たちが止めるべきなのは、ヴィンテリオ公爵です」




 きちんとした情報共有は、洞窟を照らす焚き火を囲んで、行われた。

 女神、リュカ、ハンナ、クレイグ。――ルネリーゼは、雛と三つの卵と共に、ネフェクシオスが面倒を見てくれている。

 彼らの顔を順繰りに眺めて、テオドアは考察を語る。


「最初の違和感は、王家を乗っ取りたい王弟が、あまりにも公爵を警戒していなかったことです」


 聞くに、公爵は魔法の天才だ。

 息をするより簡単に魔法を扱える。『知恵と魔法の女神』ふうに言うのなら、〝感覚〟が先に立つ使い手。膨大な魔力を、大規模な魔法に変換する。それが当たり前の人間。

 王弟にとっては、娘婿である。公爵の実力を見込んで嫁がせたのなら、当然、彼の実力も良く知っているはず。


 なのに、無警戒。おかしな話だった。


「だから、たぶん、公爵は王弟の企みを知っています。もしかしたら、城の人間を眠らせたのは彼かもしれません」


 次の違和感は、『知恵と魔法の女神』が、老女に化けてテオドアの母を誘拐した、と明言したとき。


「『知恵と魔法の女神』さまを、母のいる神殿に送り届けたのも、他ならぬ公爵でした。彼が王弟の屋敷に来てからすぐに、母は誘拐されています」

「そうなると、そいつが、あまり自分の妻を心配していなかったのにも辻褄が合うな」


 『光の女神』・ルクサリネが、得心がいったように口を挟んだ。

 テオドアも同意する。


「はい。公爵が女神のことを知ってたとすると、そもそも心配する必要がないんです。だって、自分の妻は安全圏にいるってことが、もう分かっていますし」


 ハンナとクレイグが、少し話についていけなそうな顔をしたが、すかさずリュカが補足してくれた。ありがたい限りである。

 それが終わるのを待って、テオドアは再び口を開いた。


「……それに、公爵は、僕の母――リーザを熱烈に愛しているようです。王弟の娘との婚約を破棄しようとするくらいには」

「しかし、お前を誘拐する女神たちに、協力した理由としては弱いな」

「公爵と女神たちは、利害が一致したんだと思います」


 テオドアは目を閉じ、先ほどのことを思い返した。

 リュカが、楽園に乱入してくる直前。『戦と正義の女神』は言った。


 ――全ての準備が整えば、汝は幸せな人間に生まれ変わる。汝を慕う三人の処女(おんな)と、優しい母親と、()()()()()()()――


 目を開き、はっきりと言い切る。


「公爵の目的は……母と僕がいる、『楽園』に住むことです」


 ルクサリネは、真面目な顔で、目の前の炎をじっと見つめた。


「……お前がいない二日ほどで、王城は、王の弟の手中に収まった」

「王さまと、お城で働く人たちは……」

「無事だ。命がある、健康である、という意味ではな。だが、『王が急病である』という発表を、誰も疑っていない」


 そこで、「俺がこっそり見てきた」と、クレイグが手を挙げた。


「リュカに言われて、下働きとして潜り込んだ。すぐに撤退したけどな。自分たちが倒れたこととか知らなそうだったし、王さまが急に病気になったのに医者の一人も動いてなかった」

「もしかすると、それもヴィンテリオの当主が、記憶操作に関わったのかもな」


 そう言って、ルクサリネはふと、なにかに引っかかった様子で顔を上げた。


「――テオドア。女神たちは、前世のお前を欲して、今回の騒動を引き起こしたと聞いたが」

「そう、みたいですね。でも、それがどうしたんですか?」

「いや……お前を手に入れるだけで、女神三人が満足していたのか、と。前世のお前は、今のような姿ではなかったんだろう?」

「はい。今の僕は、ヴィンテリオ公爵に似ているみたいなので――」


 テオドアは、女神たちの目的を、一部始終話した。

 テオドアから〝依代〟の地位を剥奪するため、「魂の交換」を行い、第一夫人の息子・パウロベルトを〝依代〟に仕立て上げること。

 三人の女神は王家を憎んでいるため、なにも知らない王弟と第一夫人たちを貶める目的もあるだろう、ということ。


 しかし、話を聞くルクサリネの表情は、どんどん険しくなっていく。


「……それで、魂を交換したあとは、どうなる?」

「どうって、」

「パウロベルトとやらは置いておく。お前の方だ。魂を交換したあとは、お前は異母兄の姿になる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「――あっ」


 確かに。

 と思った途端、テオドアはさっと血の気が引く感覚に襲われた。

 

 そうだ――もし、パウロがテオドアになったなら。必然、テオドアもパウロになる。

 『戦と正義の女神』は分からないが、他の女神二人は、アルカノスティアの王家に並ならぬ憎しみを抱いていた。

 その姿を――例え中身がテオドアと知っているとはいえ、忌憚(きたん)なく愛せるものだろうか?

 いや、むしろ……。


「難しいことは分かりませんけど、も、もし、あたしだったら」


 と、ハンナが、少し怖気付いた様子ながらも声を上げた。


「あたしが、もし、憎いヤツの姿をした人を見たら。中身が違うって言われても――愛する人でも。嫌です。頭では理解してても、吐くくらい嫌だと思います」

「そうだろうな。それが私たちだ。感情を持つ限り、理性で分かっていても、どうしようもないことがある」


 ルクサリネが同意すると、ハンナは安堵して表情を緩めた。

 そこへ、リュカも声を上げる。


「それを言うと、公爵たちも無防備っすよ。だって、王弟とか、公爵の一番目の奥さまとかご子息とかが、真実を知らないままでいる保証がないんですもん」

「……どういうこと?」

「公爵と三女神が手を組んでたとして。無事に、坊ちゃんとパウロさまが、魂を入れ替えたとするじゃないすか」


 リュカは、自らの両拳を交差させ、また戻した。「入れ替え」の形を表したようだ。


「三人が坊ちゃんを〝依代〟にしたくないのは、天界に行ったら()()()()()()()からですよね」

「うん、そう聞いてる」

「パウロさまが天界に行ってから、まったく連絡がつかなくなったら、王弟がまず疑うはずです。で、公爵の奥さまにも話が行く。公爵が永久に『楽園』に住む――つもりなら良いんすけど、そうじゃなかった場合、詰め寄られますよね」


 テオドアは、その場面を想像してみた。


 〝依代〟の権力を当てにして、王座を狙った王弟。無事に『大祭』が終わり、テオドアの姿をしたパウロは天界に昇る。

 だが、いつまで経っても、孫から連絡は来ない。

 おかしい、と思い、娘に連絡する。娘も訝しがる。事情を知っていそうなヴィンテリオ公爵を問い詰める――


 公爵は、なんと言って返すのだろう。


「坊ちゃん。オレの見た感じ、公爵は、()()()()()()()()()()

「……そうだね。母さんが誘拐されたときも、そうだった」

「でしょ。でも、それを自覚してるんだとしたら。そもそも、嘘をつかない状況に持ち込むんじゃないすかね」


 公爵って、強いらしいじゃないですか。頭も回るでしょ、きっと。

 そう言って、リュカは肩をすくめた。


 テオドアは、黙って、洞窟の天井を見上げた。

 すべての情報を組み合わせ、加味して、考える。そうして、ひとつの仮説が浮かび上がってきた。


 ヴィンテリオ公爵は、三人の女神と手を組んで――


 

 王弟と第一夫人と息子たちを、()()()()()()()()なのかもしれない。

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