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万能悪玉令嬢ですが、王命に従い世直し奉仕旅に出ました!【完結済】  作者: 有理守
第6話 悪玉令嬢 山賊の一味に加わる
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其の七 踊り子の素性

 本日も閲覧ありがとうございます。

 本日二部分目の投稿です。よろしくお願いいたします。

 王領御見廻り役の醜聞は、わたしたちが帰り着く頃には、すでに冬の神殿にも伝わっていた。


「喜捨だと言って山羊のミルクを持ってきた、コロンバさんが教えてくれました。山神様にみっともない姿にされたお見廻り様が、馬車から投げ出され、泣き泣き代官屋敷へお戻りになったって」

「いい気味だわ! レオンさんは、夕べの宴で、踊り子に実際に会ったのでしょう? そんなに魅力的な踊り子だったんですか?」


 調理場で、昼食の準備を手伝ってくれているネレアとエステラ(あら? 本当はわたしが手伝う側よね?)は、夕べの宴の様子を詳しく聞きたがった。

 王領御見廻り役が、夕べの宴席で出会った美貌の踊り子に魅入られ、すっかりのぼせ上がってしまったことも彼女たちは知っていた。宴席の手伝いで、代官屋敷に借り出された者が、いろいろと見たこと聞いたことを広めているらしい。この村の情報の伝播は、恐ろしく広く速い。


「犯人は、その踊り子かしらね? 寝込んだところで描いたり剃ったり……、想像すると笑えるわね!」

「でも、山神様が関わっているのでしょう? だったら、その踊り子や楽士も山神様の一味ということなのかしら?」


 わたしは、根菜を刻みながら、夕べ会った踊り子の一座を思い浮かべていた。


 太鼓を叩いていた男――。いわゆる優男であったが、太鼓を打つ手には鞭のようなしなやかさがあり、身のこなしも隙がなかった。武術の心得がある者かもしれない。踊り子の一挙手一投足を穏やかに見つめるさまは、彼女の従者か侍衛という印象だった。

 馬齢と縦笛を演奏していた二人は、まだ、少年といっていいような年齢に見えた。こちらも、演奏をしながら、踊り子に常に注意を向け、何かあればいつでも飛び出して来そうな緊張感を漂わせていた。


 あの一座が山神様の一味だとしたら、頭目の可能性があるのは、あの踊り子しかいない。

 しかし、若い女性が頭目を務める山賊一味など、はたして存在するものだろうか?


 昼食の後、根菜スープを二杯もおかわりして、満足そうに腹をさするジリオラ神官に、山神様について聞いてみた。山神様の名前を出すと、隣にいたヴァスコ神官が、「ほうっ」と妙な声を出した。


「山神様が最初に現れたのは、今のお代官様が着任されて、まもない頃だね。

収税の時期でもないのに、代官所が特別徴税を行うらしいという噂が広がったのさ。お代官様が交替するので、新しいお代官様が前のお代官様に豪華な餞別を贈ろうとして、金が入り用になったんだろうね。

 村中が大騒ぎになった。わずかな蓄えで、ぎりぎり食いつないでいる農家も少なくないからね。税として出せるものなんか何もなくて、村から逃げ出すか、娘たちを売るか、どちらかを選ぶしかないという家もあった。

 そこへ、山神様がやって来た。そして、村名主の蔵に集められた穀物やら金やら娘やらを、徴税台帳と一緒に、全部持って行っちまった」

「えっ?! それでは、ただの盗賊ではないですか?!」

「それが違うんだよ! しばらくしたら、徴税台帳通りに穀物や金は、家々にこっそり返されたのさ。ただ、娘は悪い噂が立っても可哀想だからと、山神様が隣領の村にいい嫁ぎ先を見つけて、嫁に出してくれたらしい。嫁ぎ先から、無事を知らせる手紙が来たそうだよ。おっと、これは内緒の話!」

 

 何という面倒見の良さ! それなら、確かに山賊ではなく、山神様と呼ばれるようになるわけだ。

 村人たちにとって、まさに救いの神であったのだから。


「集めたものを盗まれたのは、村名主の手落ちということで、当時の村名主様は自分の財産をお代官様に差し出した。そうして、その後、村名主のお役目も辞めたのさ。領都に出て、小さな商売を始めたらしいよ。代官所の手先のようなお方だったが、今の強欲な村名主様よりは、ましだったかもしれないね」


 結局、村名主も犠牲者か。そして、役人たちに阿(おもね)る者が、したたかに生き残っていく――。


「わしはなあ、山神様に会ったことがある……と思う」


 ヴァスコ神官が、今日も眉を捻りながら、懐かしい思い出でも語るように、突然話し出しだ。


「一昨年だったかのう。どうにもひもじくなって、山に入って木の実を探していたのじゃ。

 山栗の木を見つけたのだが、落ちている実は少ないし、木はえらく高い。

 拾えるだけ拾って帰ろうと思って、いがを踏んでいたら、突然、どっさり栗が降ってきたのじゃ!

 驚いて見上げると、一人の若者が木に登り、枝を揺らして栗を落としておった。 

 澄んだ凜々しい声で『神官殿、もう良いか?』と言うので、『十分じゃ!』と答えると、若者はひらりと木から飛び降りて、子鹿のように軽やかに跳ねながら、林の奥へ消えてしまった。

 女の様な顔立ちをした、それは、それは美しい若者であったよ。女の服を着て、黙って立っていたら、誰もが女と間違えるじゃろうな。日没間もない空のような、暗い紫色の目をしておってなあ、人ならぬ者のようにも見えた。あれこそ、山神様じゃ、わしは今でもそう思っておる」


 女のような美しい顔立ち、暗い紫色の瞳――。それは、あの踊り子ではないか! 踊っている姿はとても男には見えなかったが、それは、こちらが女だと思い込んで見ていたからかもしれない。


 踊り子が男だったのなら、あの悪戯も容易(たやす)くできただろう。王領御見廻り役と二人きりになったところで、薬でも盛って眠らせてから、描いたり剃ったりして(!)、代官屋敷を抜け出したのだ。もちろん、あの楽士役の三人も手伝って――。山賊集団、山神様の大胆不敵な犯行だ。


「ヴァスコ神官。昨日の宴席にいた踊り子って、その人かもしれないよ」


 黙って話を聞きながら、鍋を抱え最後の一滴までスープをすくおうとしていたギーが言った。


「おいら、姐さんたちが心配だったから、雪隠(せっちん)を探すふりをして、代官屋敷の中をうろうろしてたんだよ。ちょうど屋敷に着いた踊り子の一座を見かけてさ。あんまりにきらきらしているから、ボーッと見とれちゃったんだ。怖いメイドさんに見つかって、すぐに調理場に戻されちゃったけどね。

 ヴァスコ神官が言うような、とてもきれいな紫色の目をしてた。女の人にしか見えなかったけど、あの人、男だったんだね」

「その二人、同じ人物とは限らないよ。ヴァスコ神官が見た若者と夕べの宴の踊り子は、よく似た姉弟(きょうだい)かもしれないよ」

「そりゃあ絶対にない!!」


 ジリオラ神官の推量を、ギーとヴァスコ神官が、一緒になって即座に否定した。


「あんな人とも思えぬ美しい者が、この世に二人もいるわけがないじゃろうが!」

「そうだよ! そんなこと神様にだって無理だよ!」


 ギーの好奇心にも困ったものだ。心配してくれるのは嬉しいが、勝手なことをして――。まあ、悲しく不安そうな顔で可愛らしく謝って、調理場に戻されるだけですんだのだろう。

 しかし、相手によっては、怪しいやつと思われて、役人の前に引き出される可能性だってあったのだ。後で、しっかりお灸をすえておかないといけないわね!

 わたしは、ギーを睨み付け、強引に鍋を取り上げながら、ジリオラ神官に言った。


「わたしも踊り子と若者は同一人物だという気がします。そして、たぶん、彼が山神様の頭目なのでしょう。一緒にいた楽士たちはもちろん、徴税された物資をそっくり蔵から持ち出したことを考えれば、山神様には相当な数の人間が加わっているようですね」

「自ら堂々と代官屋敷に乗り込んだところを見ると、山神様は、何か大きな事を企んでいるのかもしれないねえ?」

「ええ、お見廻り役を辱めるだけでは、終わらないかもしれませんね」 


 そう、それはまだ、このあと起こる大きな事件の前触れでしかなかったことを、わたしたちは後々思い知ることになった。


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 明日は、投稿はお休みします。勤労感謝の日!

 なかなか山賊が登場しない → 長くなる ことのないよう急ぎます。

 

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