八千代の仕事の日(やちよのしごとのひ)
流水の音が天がまだ完全に明るくなる前に、ゆっくりと台所の響きに覆われていった。まず大きな鍋の蓋が「鏘」と一つのこもった音を立てて下から這い上がり、次にまな板の上で包丁の背がにんにくを叩く「たっ たっ たっ」、それからある磁器の碗が力を入れすぎてテーブルにぶつかる「こつ」。ギルドの朝は決して手軽に目を覚ますことはなく、どの音もまだ下に降りていない人のために、事前に登録しているかのようだった。窓の外の光が淡い灰色からゆっくりと蜂蜜色に変わり、斜めに大広間の木の窓格子を抜け、長テーブルの縁で磨かれて光る木目の一筋を金線に晒し出し、その金線は食堂まで滑り込み、小櫻ちゃんがすでに座り込んだその椅子の脚下に落ちた。
小櫻ちゃんは長テーブルの最も窓に近い一区画に座り、桜花色の長い髪が湯碗の縁に擦れても本人は気づかず、髪の先が湯気に垂れ込んで、洗いたての淡い香りを一筋漂わせていた。彼女は両手で一枚、二つ折りにまた二つ折りにした牛皮紙をテーブルの中央に広げ、紙の端には昨夜拭ききれなかったクレヨンの屑がまだ付いていた。それは彼女が昨夜描いた図表で、最初の粗い人形の草図、胸の下縁にほとんど見えなくなるほど淡い小さな点が一つ打たれていた。
八千代はその金線を踏んで入ってきた。古式の薄手のシャツの下擺が歩みにつれて自分のふくらはぎを軽く掃き、布の端がふくらはぎの腹にわざと半秒余分に留まってから滑り開くかのようだった。銀粉グラデーションの長い髪は首の後ろで緩く一本の低いポニーテールに結ばれ、髪先のピンク色は今日特に素直に見え、肩甲骨に沿ってゆっくりと揺れていた。彼女はテーブルに近づくとまずその紙を低頭で見つめ、視線が小櫻ちゃんの胸のあの小さな点に半拍余分に留まってから離れ、口角がゆっくりと悠々とした弧を描いた。
「真好ね。恭喜するわ。」
声は朝の空気をゆっくりと引きずっていくお姉さんの喉で、尾音が小櫻ちゃんの髪のてっぺんに落ちて、ついでに撫でたかのようだった。薇は向かいの椅子に深く沈み、一本の脚を翹げて隣の空いた椅子の横木にかけ、手の中のティーカップはすでにゆっくりと小さな円を描きながら回り、目尻でその図表を一瞥し、軽く「ん」と一つ声を上げた。「〜やっぱりあるのね。」尾音は八千代と同じくらい長く、まるで二人の読者が書評を交換しているかのようだった。団長は隅のいつもの位置に座り、手に今日最初のパンを握り、八千代が入ってきたのを見て半拍動きを止め、黙って自分の朝食の皿を隣の空席の方へ二寸押しやった。図表を見終わると彼は一度頷き、喉の奥から極めて短い「ん」を発し、パンを食べ続け、しかし喉仏は無意識に一つ上下した。
「そういえば」薇のティーカップが二周目を回し、頭は上げなかった。「ソフィアは朝早くから訓練場へ行ったわ。今日こそあの三段斬を自分に納得がいくまで練り上げると言ってた。」
小櫻ちゃんの椅子が突然「ぱっ」と後ろへ半寸弾んだ。彼女は椅子から立ち上がり、また座り、また立ち上がった。「ちょっと待って、ちょっと待って、私が持ってくる、すぐ持ってくる、ちょうど煮えたところ」最後の言葉が終わる前に人はすでに台所へ駆け込み、そのDカップの豊かさが寝間着の下で興奮の動作について二度三度揺れ、布地が張りつめ、端が乳輪の弧を軽く擦っていた。半分も経たないうちに人はまた台所から顔を出し、両手でまだ湯気を立てている陶の碗を運んできた。湯面に三、四枚の金色の油光を帯びた薬草の葉が浮き、端のあの淡くてほとんど見えない香りが碗の縁からゆっくりとテーブル沿いへ滲み出ていた。
「八千代お姉ちゃん、これ」彼女は注意深く碗を八千代の前に置き、鼻先がほとんど相手の耳先に擦れそうになり、吐き出した熱気が八千代の耳輪を一瞬小さな輪で熱くした。「昨日研究した新しい配合、薬草魔導調味、超香! でもまだあんまり自信ないの、変だよね、なんで湯面の色がずっと変わるんだろう? 最初は金色で、それから琥珀色になって、さっきちょっとピンクになったの、メモする暇もなかったよ。えっと、まず飲んで、飲んだら身体に何か反応があるか教えて。」
「あら、今日はずいぶん豪華ね?」八千代はその距離に押されて耳先がわずかに熱くなり、髪先のピンク色が髪筋に沿って上へ半寸燃えてから止まった。彼女は避けず、むしろその勢いでもう片方の手を小櫻ちゃんの肩にかけ、人を少し押さえつけ、指先を湯気の立つ碗の縁の上で吊るし、蒸気が掌心へ撲つけてくるのを感じ、掌心のあの皮膚が熱気で熨されて痒くなり、無数の細かい指が軽く掻いているかのようだった。「これは……」尾音を長く引いた。
小櫻ちゃんが先回りして説明した。「薬草湯の人間版はもう三回煮て大丈夫だった、古精霊版はこれが初めてだから、お願い。」
八千代は碗を唇の前に運び、まず軽く吹いた。蒸気が二筋に分かれて鼻先を回り、一筋が睫毛の根に潜り込み、一筋が前髪へ上がった。最初のひと口のスープが舌面を滑り、温度は彼女の予想より半度低く、ちょうど熱くなく、ちょうど舌面に沿って口腔の後ろ側へ流れ、そのときスープの底に沈んでいた小さな粒がこの瞬間に口腔の中で音もなく溶け開いた。
「どう? どう? おいしい? 少し甘いところがある? 私は……」
「真好ね。ちょっと複雑な甘さ、小櫻ちゃんの手際が上達したわ。」
声はゆっくりと、笑みを帯びたお姉さんの喉で、尾音がちょうどよく引かれ、彼女はついでに袖を上げて小櫻ちゃんの湯碗の縁に擦れていた髪先を払いのけた。碗を置くとき、磁器の碗が木のテーブルに触れたその瞬間の「こつ」という音が彼女の鼓膜の中で二度弾んでから静まった。指腹が碗の縁に半秒留まり、その一輪の磁器の温度が指腹に完全な円形の熱印を残し、熱が指腹から指節の内側へ滲み、第二の指関節まで滲んでからゆっくりと散らばり、彼女は熱印の縁が中心より半秒遅れて温度を退くことさえ感じ取ることができた。
彼女は目を上げて薇を見た。薇のティーカップがまた半周回り、二人の視線が半空中で一秒触れ、八千代の笑みが一格深くなったが何も言わず、薇は軽く目を瞬かせ、口角を曲げた。
小櫻ちゃんはすでにテーブルの反対側へ回り込んで団長を急かしていた。「お兄ちゃんも一口飲んで、飲んだら私に人間の反応と八千代お姉ちゃんとの差がどれくらいか分かるの。なんであなたの水、どんどん遠くへ置くの?」
団長はパンを噛む口は動かさず、手は非常に正直にそのコップの水を自分の方へもう半碗の距離押しやった。動作は小さく、薇の肩だけがこのために軽く一度震えた。彼女はティーカップを唇の前に掲げ、杯の縁で口角を隠して笑い声を漏らさなかった。
八千代はテーブルを支えて立ち上がった。指腹がテーブルを押したときの支点に、極めて細い斜めの木目が彼女の掌心の生命線中央を横切って通り、 その木目は一本の極めて軽い羽のように彼女の感覚神経に沿って上へ這い、手首のところでようやく彼女に意識的に押さえつけられた。古式の薄手のシャツの襟口が立ち上がる動作でわずかに鎖骨の方へ滑り、布の端が鎖骨の外側を擦った。彼女は手を伸ばして腰帯をもう少しきつく結び直し、腰帯の内側のあの層の布が腰窝のあの陥没した皮膚に貼りつき、貼りついた瞬間に彼女の背筋が極めてわずかに真っ直ぐになり、また自然に元の曲線へ戻った。
「では」彼女は笑いながら振り返り、袖口を整え、「今日の朝の用事リスト、布地屋、雑貨屋、薬草屋、一緒に行きましょうか?」
布地屋は城東の三番目の路地にあり、間口は広くないが奥行きが極めて長く、入り口から見ると一面の壁に天井から床まで垂れ下がった見本の布の巻物が一面に掛かっているのが見え、光が天井から斜めに注ぎ込み、その一列の絹地の反射を一本一本、溢れ出しそうな白に打ち出した。八千代が手を上げて扉を押したとき、扉の上の銅の鈴が「ぴん」と一つ鳴った。その音は特別なはずはなく、平日に彼女はこの扉をくぐるだけで少なくとも数百回は聞いていたはずだが、この一度の「ぴん」という字は彼女の鼓膜の内側を一巡りしてからゆっくりと沈んでいった。まるで誰かがその音を洗ったかのようにきれいで、また誰かがわざとその粒の銅鈴を彼女の耳の側へ寄せて鳴らしたかのように立体的に響いた。彼女の耳輪の奥にそのために一本の小さな弦が弾かれた。続いて彼女は無意識に手を上げて耳の側の 一縷の髪を耳の後ろへ撥ね上げ、髪が耳輪を離れたその瞬間に髪の先が耳たぶの背面のあの小さな一片の皮膚を掃いた。それは極めて軽い一掃だったが、掃いたその道筋の上の産毛が極めて微かな風に梳かれたかのように全部立ち上がった。彼女の眉尾が極めて軽く一度動いた。動いたあとすぐに引っ込め、誰にも見せなかった。
「あら、八千代さん、今日はずいぶん早いのね。」店主がカウンターの後ろから顔を出し、手にはまだ布を量るための柔らかいメジャーを握っていた。「先週注文したあの春紗が届いたわよ。あなたに取っておいたのだけど、先に見てみる?」
「真好ね、急がないわ」八千代は笑みを半音長く引き、温かく、お姉さんらしく、常連客らしく。「まず見て回るわ。他に気に入るものがあるかどうか。」
背後の入り口でほとんど同時に小櫻ちゃんが一番に駆け込んできて、目がすぐにその布の壁に吸い込まれ、「わあ」と声を上げて近づき、一番近くの巻物に手を伸ばして触ろうとした。指先が布の端に触れたとたん、団長はすでに沈黙のうちに彼女の方へ二歩近づき、手に持っていた八千代が持たなかった携帯用の布袋を自然に反対の手に持ち替え、空いたその手が小櫻ちゃんの肘の側、半拳ほどの距離に垂れていた。薇はゆっくりと最後についてきて、入り口で外套を腕にかけ、視線は外套について行かず、極めて軽く、まるで本を一頁めくったかのように、八千代の左側の耳先の位置に落ちてから滑り開いた。
「小櫻ちゃん」八千代は横向きに振り返り、声は安定したお姉さんの喉。「見本の布は端の角から触るのよ。一巻き全部引き下ろすと、おじさんに帳簿に記帳されてしまうから。」
「え? 本当?」
「いやいや」店主は笑いながら手を振った。「お嬢ちゃんが触りたいところはどこでもいいけど、八千代さんが言った通り、端の角からこそ本領が分かるのさ。」
彼女はそこで右側のあの列の絹地へ歩み寄り、一巻の珠光白の絹の前に立ち、右手の食指と親指を上げて最も外側の角を摘み、軽く一度こすった。そのこする動作は元々ただの動作で、彼女が何十年もやってきた、織り方と経緯の密度を判断するための職業的な動作だったが、この一度、指紋の紋様の中のあの細かくて普段は存在しないはずのすべての凹みが全部目覚めた。一つ一つの凹みが一本の見えない、極めて短く極めて細い小さな手を伸ばしてあの絹を掴み、絹の糸の織り方、経糸の密度が三本多く、緯糸は偏って細い単糸を使い、その「滑り」は無数の極めて小さな「滑り点」が連続して起こり、一つ一つの滑り点が一つの微小な「跳び」を伴い、跳ぶたびに彼女は指腹から手首の内側のあの青い細い血管の傍らまで熱くなった。
「……この織りはとても細かいわ、おじさん、新入り?」彼女の声はとても安定に抑えられ、自分でも非の打ち所がないと思った。
「先月届いたばかりだよ。東の小さな工房の目は、やっぱり八千代さんが一番だね。」
彼女は「ん」と一つ声を上げ、その巻物の端の角を置き、指腹が絹布を離れたその瞬間はまた一つはっきりと逆方向の過程だった。絹の繊維が彼女の指紋の凹みから一本一本引き離され、一本一本の引き離しが一つの微小な「引く」を伴い、緩んだその瞬間に彼女の指腹にはなんと「失った」ような感覚があり、まるでさっき掴まれていたその手が突然緩んだかのようだった。彼女は極めて浅い息を吸い、織り目に沿って触るのは一つの感覚で、逆方向に触るのは別の逆で、その「引っかかり」の感覚が指先から手首の内側まで伝わり、手首の内側のあの血管の傍らの皮膚がそれについて「ぴく」と一度跳ね、跳ね終わってからようやく自分でも髪の先がすでに牽かれていたことに気づき、髪先のピンク色がまた上へ淡く半寸燃えていた。
彼女は手を伸ばしてその一縷の髪を再び耳の後ろへ撥ね上げた。今回は撥ねるとき特に髪の先が耳たぶに擦れないよう注意したが、古式の薄手のシャツの袖口が手を上げたときに勢いについて下へ一寸滑り、袖口の内側のあの輪のロールが彼女の肘の内側の柔らかい肉を擦り、肘窝の内側に一本の自分だけが感じ取れる極めて浅い、羽に刷かれたようなわずかな痺れが起こった。彼女はその息を喉に含んで外に出さず、一口唾を飲み込んだ。
そして彼女の左後方半歩、外套を腕にかけ動いていない薇の目尻が、ちょうど彼女の耳先があの一点ピンク色へ傾く瞬間を捉えた。薇は何も言わず、眉を上げず、視線を半秒以上留めもせず、たださっき通りで買ってきたあのティーカップを唇の前に運んで小さく一口飲んだ。
「八千代お姉ちゃん、あなたの手、どうしてそんなに長く触ってるの?」小櫻ちゃんが傍から近づいてきて、目が丸かった。「この布、何か特別なの? 私さっき触ってみたけど、何もないよ?」
「……あるのよ、織りに心が込められているわ。」八千代は小櫻ちゃんの手を布の端の角へ連れて行きながら、声を柔らかくした。「小櫻ちゃん、見て、織り目に沿って触って、それから逆方向に一度触ってみて、感じた?」
「……え? どうして両方同じように感じるの?」
「うん。もっと何年も触っていれば分かるようになるわ。」
薇はこのときようやくゆっくりと漂ってきて、八千代の手の布は見ず、見ていたのは天井のあの束の光がどう絹の壁の反射に当たるかだった。「この巻きの珠白色はあなたのあの銀の鎖にすごくよく似合うわ。一枚試してみない? これで晩餐用のショールを作ったらいいと思うの。あなたが布を選ぶなら、私もあなたに一枚注文するわ。」
彼女は言いながら手を上げ、ただ手を伸ばしただけだったが、まだ触れてもいなかったのに、その手が八千代の肩の後ろから回り過ぎる弧が少し近すぎた。袖口の端が、極めて細く極めて軽く、八千代の後頸の下で襟に覆われていないあの小さな一段の裸の皮膚を擦った。その一擦は半秒も続かず、薇の視線は最初から最後までその皮膚に落ちることさえなかった。しかし八千代の後頸のあの皮膚は一本の極めて細い電線が鎖骨から髪の根まで一本に通じたかのように、熱が「わっ」と一気に広がり、まず鎖骨の側辺を焼き、次に脊椎の第一節から髪の根のすべての毛包まで焼いた。彼女は動かず、呼吸は乱れず、笑みも変わらず、ただ右手の食指を掌心へわずかに、目立たぬように、極めて軽く巻き、爪が掌心の柔らかい肉に当たった。
「……いいわ。」彼女の声は半拍遅れて出たが、出たときは依然として大姉さんの温度だった。「おじさん、この巻きの珠白色を八尺ちょうだい。ついでに左のあの麻を四尺。」
「よし」店主はすでに布を引き出していた。
団長は自然に布袋をもう片方の手に持ち替え、空いたその手を伸ばした。彼は何も言わず、ただ手を八千代の隣のあの裁断済みの布を置く小さなテーブルの傍へ伸ばし、彼女があとで受け取るものを準備していた。
裁断のハサミが「ちゃっ」と一つ音を立て、八千代の指先はそのハサミの音の瞬間にまたわずかに跳ねた。彼女は目を伏せ、右手を長いスカートの袖の中に隠して緩い拳に握り、爪が掌心の柔らかい肉から離れた。その柔らかい肉には四つの浅い三日月が残っていた。
「次の駅、雑貨屋よ。」彼女は目を上げ、お姉さんの喉は安定していた。「小櫻ちゃん、もう触らないで。おじさんの布をあなたに毛玉にされてしまうわ。」
布地屋の木の扉が彼らの背後で一度揺れてから静かになった。街の太陽はもう朝のあのまだ水気を含んだ柔らかい光から、刺すように眩しい角度まで昇っていた。外の乾いた風が路地口に入ると真っ直ぐ八千代の襟口へ灌ぎ込み、焼きたてのパンが炉から出たばかりの麦の香り、隣の屋台の婦人の手の中の新鮮なハーブが摘み切られた青い渋み、さらに隣の屋台の果物が切り開かれたときに噴き出す甘酸っぱい果汁、そしてもっと遠くの水路に昨夜片付けられなかったあの酸っぱい腐敗臭——どの匂いも「混合」されて入ってきたのではなく、一本一本分かれて入ってきた。まるで誰かが一本の細い針の束を一本一本彼女の鼻腔へ挿しているかのようで、一本一本の細い針がそれぞれ違う温度を帯びていた。彼女は極めて軽く一口息を吸い、鼻翼がわずかに動いた。お姉さんらしい笑みは依然として口角に安定して掛かり、髪先のあの截のピンク色は第二寸の位置で安定して、もう上へ這い上がらなかった。彼女は手を上げて自然に長いスカートの袖口を整えた。まるで何事も起こらなかったかのように。
「こちらへ」彼女の声は平らで、土地勘のある軽やかさを帯びていた。「雑貨屋は向かいの二番目の角だよ。まず日用品を補充してから薬草屋へ。」
団長はとても静かにあの巻きの珠光白の絹を人行側から外側の肩へ持ち替え、肩を換える動作全体で音を一切立てなかった。しかし換え終わったあと、人は自然に車道側へ半歩寄り、人行の最も内側のあの条を八千代のために空けた。八千代は横頭でその一眼を見た。睫毛の下から見えたのは団長が頭を下げて布袋の縄結びを整えている横顔だった。彼女は笑み、何も言わず、その笑みを口角に収めて歩き続けた。薇はすでに自然に小櫻ちゃんの手首を一つ引っかけて自分の側へ引きずっており、それは小櫻ちゃんが三度目に路辺の飴の葫蘆の屋台に視線を奪われたからだった。
「行くわ」薇の声は怠惰に尾を引いていた。「飴の葫蘆は帰りにね、溶けちゃうわよ。」
「え」
前の、扁担を担いだ行商人が向かいから通り過ぎてきた。扁担の両端に二つの籠の青菜が揺れ、八千代は無意識に肩を左へ五度寄せて道を譲った。その五度で、胸のあの古式の薄手のシャツの襟口が肩について行き、内側の布地が彼女の左乳の下縁のあの円弧を軽く擦って過ぎ、一寸長さの擦れで、彼女は一格一格数えられるほどゆっくりだった。彼女の左乳の下縁のあの元々存在しなかった線がその一秒で内側に生々しく描き出され、まるで誰かが極めて細い筆で弧線に沿って軽く一本引いたかのようだった。心臓が「どん」と一つ鼓膜の内側にぶつかり、また彼女に飲み込まれた。
一人の凧を追う子供が向かいから斜めに駆け込んできて、ぶつかりそうになったので八千代は後ろへ半歩避けた。背後の団長のあの布袋の硬い端が彼女が退いたその一瞬に彼女の腰窝へ擦りついた。今回は布の柔らかいものではなく、布袋の角が硬く真っ直ぐに一つ頂いた。その一頂は腰窝から出発して内側へ一路伝わり、股関節の内側まで伝わってから止まった。彼女の顔の笑みは変わらず、眉尾が微かに察せられないほど半度上がった。髪先のあの截のピンク色がまた上へ半寸上がった。薇は振り返らず、ただ指を小櫻ちゃんの手首の上で軽くも重くもなく一つ摘んだ。
雑貨屋に着いた。入り口に一連の小さな銅鈴と塗装のはげた看板が掛かっていた。銅鈴が「ぴんりんりん」と一回また一回鳴った。
「入って」八千代は振り返って言った。「小櫻ちゃん、あのガラスの瓶に触らないで。」
雑貨屋は布地屋よりさらに小さく、さらに狭く、棚が天井から真っ直ぐ床まで並び、通路は一人しか通れないほど狭かった。八千代は横向きに最初の列の棚を抜け、左肩が右側の掛かっていた一連の干した薬草の乾草の束に擦れた。軽く擦って彼女の裸の肩線を過ぎた。あの干からびた葉が一葉一葉擦り過ぎ、彼女の肩の皮膚がそれらの葉の形について一葉一葉目覚め、一格、また一格、まるで誰かが彼女の肩で点呼をしているかのようだった。
彼女は油燈の棚の前に立ち止まり、手を伸ばして最上層のあのガラスの油壺を取ろうとした。棚が少し高く、彼女はつま先立ちになった。そのつま先立ちで長いスカートの下擺が上へ二寸収まり、露わになった足首のあの銀の鎖が一つ「ぴん」と鳴り、さらに厄介だったのは彼女の内側のあの層が太ももの前側から上へ一公分滑ったことだった。ただ一公分で、彼女の腹の下全体の皮膚が同時にその一公分内側の滑動軌跡を記憶した。恥骨の上から臍の下のあの区域まで、その軌跡はまるで誰かが涼しい指先で彼女の下腹を軽く一本引いたかのようで、引き終わっても元の場所に留まって去ろうとしなかった。
「これ一壺」彼女の声は安定し、油壺をカウンターへ渡した。「それから白い石鹸二個、針糸一束、蝋燭十本。」
「よし、八千代さん」店主の奥さんはきびきびと応じ、手際も早かった。
八千代は振り返って薇の側へ戻ろうとした。高く積まれた米袋の傍を横向きにすり抜けなければならなかった。米袋は粗い麻織りで、彼女の左肩がそれに当たり、再び横向きに擦り過ぎた。その層の粗い麻が彼女の肩線から上腕の外側まで一路擦り過ぎた。擦り過ぎたのは痛みではなく「痒み」で、極めて浅い、上百本の極めて細い小さな毛が彼女の皮膚の上で同時に立ち上がるような痒みで、肩頭から一寸一寸下へ伝わった。彼女の左耳先がその瞬間に耳輪の底部から上へ焼き上がり、赤くきれいに、まるで誰かがあの薄い皮膚の下に一本の細い蝋燭を灯したかのようで、炎は小さかったが、はっきりしていた。
彼女は手を上げて髪を左へ耳の後ろへ撥ね上げた。今回は髪を撥ねる動作が半拍遅れた。
薇は三歩先の雑貨棚の傍に立ち、怠惰に手の中のあの茶葉缶の木の蓋を開けては軽く蓋を戻し、目は漂っていた。まるでどの缶の茶を選ぶか迷っているかのようだったが、その漂う目は八千代が髪を撥ねた瞬間にちょうど彼女の左耳に留まり、一秒も経たないうちに、薇は頭を下げてあの茶葉缶を見ていた。唇の角がゆっくりと極めて小さな弧を描き、何も言わず、茶葉缶を元の位置へ戻した。
八千代は一度笑った。その笑みが口角から目の中へ広がるときは普段より一格深かった。薇は目を一度瞬かせた。
「八千代お姉ちゃん」小櫻ちゃんの声が突然もう一つの通路から伸びてきた。「このきれいな瓶は何を入れるの?」
「……小櫻ちゃん、触らないで」八千代は頭を向け、お姉さんの声が一瞬で戻った。「あれは漬け物用の塩水の瓶よ。倒したら、おばさんに追いかけ回されるわ。」
「え」
団長はすでに布を扉の傍に寄せて置き、カウンターで八千代のために買うものを一つ一つ受け取って布袋の中へ入れていた。彼の動作はとても安定でとても静かで、八千代も見ず薇も見ず、ただその二個の白い石鹸を受け取ったときに布袋の口を八千代の方へ半寸譲った。彼女は笑って団長を一瞥し、何も言わず、石鹸を押し込んだ。
「最後の駅、薬草屋よ」彼女は振り返り、お姉さんらしい笑みを完全に顔に戻した。「おじさんの店は路地の中にあって、私についてきて、迷子にならないでね。」
路地口からようやく出たところで、陽光が二列の軒の隙間から斜めに切り落ち、街の向こうから一つの澄んだ声が伝わってきた。
学生甲:「あ、八千代先生!」
八千代が頭を上げた瞬間に、鼻腔の中のあの薬効の痺れた匂いがまた眉心へ半分這い上がった。三人の附属学院の制服を着た女生徒が向かいから駆け寄ってきた。書包が腰の側で一拍一拍膨らみ、昨日歴史の授業の二列目に座っていたあの子たちだった。彼女たちは八千代から二歩の距離でぴたりと止まり、腰を曲げ、書包の紐がその曲がりの間に肩の前に滑り、また頭を上げたときに背中へ投げ返された。
生徒たち:「先生、おはよう!」
八千代:「真好ね。今日はどうして街へ来たの?」
生徒甲:「筆を買おうと思って……そういえば先生、昨日の歴史の授業のあの題がまだよく分からなくて、つまり古精霊の商路がなぜ第三紀の末に突然中断したのか……」
生徒甲が話しているとき自然に八千代へ半歩近づいた。その半歩で八千代の左前腕の内側がすぐに知った。書包の角が擦り寄り、三秒も経たないうちに、帆布の織り目が肘から手首まで一路読み、一つ一つの線縫いの小さな稜が彼女のあの層の薬効で満タンに調節された皮膚の上で一本の細い痕を叩き出した。彼女は手を上げて耳の側の髪を一度撥ね上げて隠し、撥ねたその一瞬に髪の先端がまた耳輪の後ろへ掃き込まれ、右耳先がその瞬間に焼け上がった。二度目で、さっき雑貨屋のあちらで焼けたよりさらに深くさらに熱く、まるで小さな火の玉が耳輪の内側へ押し込まれ、散ろうとしなかった。
八千代:「商路の中断には三つの原因がある。一つ目は気候よ。」
彼女は自分の声が安定して落ちるのを聞いた。しかし声の下で、彼女の右耳輪はまだその火の玉の中にあり、髪先のピンク色が熱度について上へ半寸這い上がり、また彼女の意志で半寸硬く押し下げられた。
生徒乙:「先生、じゃあこれは私たちの地理の授業で習った火山と関係があるの?」
生徒乙は背が高く、胸の書包の紐に一截緩んだ縄が風の中で軽く揺れていた。縄の端が極めて軽く、予測不能に八千代の右肩を掃き、また風に吹き開かれ、また掃り返り、また吹き開かれた。一掃一掃一掃、一掃の力は一本の羽にも満たなかったが、彼女のあの層の皮膚のセンサーネットは一掃ごとに座標を真剣に記録した。右肩の鎖骨の延伸線の上方一寸、頻度は不規則、温度は皮膚より一度低く、縄の端に小さな結び目が一つ打たれていた。
八千代:「火山はその一つのトリガー要因だけど、より核心的なのは……」
生徒丙:「先生、じゃあもし私たちがレポートを書くなら……」
彼女は髪先のピンク色がまた制御不能に上へ半寸這い上がるのを感じた。これ以上這い上がったら頭のてっぺんまで這い上がり、人に気づかれてしまう。
「あら、この方たちは八千代先生の生徒さんなの?」
薇の声が八千代の左肩に寄り添って斜めに漂ってきた。行雲流水のように彼女とあの三人の生徒の間に半歩割り込んできた。
薇:「とてもお行儀がいいわね。でも八千代先生は今お買い物中よ。お店の人も彼女が会計を待ってるの。質問は次の授業まで待てないかしら?」
生徒甲:「あ……あ、はい。ごめんなさい先生、私たち邪魔するつもりは……」
八千代:「邪魔じゃないわ。授業中に聞いてちょうだい。時間を取っておくから。」
生徒たち:「先生、さようなら。」
生徒たちが小走りで向かいへ退いたとき、八千代は頭を向けた。薇がさっき割り込んできたあの半歩は退いていなかった。彼女たちは今、さっきより拳一つ分近く立っていた。薇の肩が八千代の左肩の外側半寸の距離にあり、触れてはいなかった。しかしその半寸の縫い目に薇の身体の香り——極めて淡い乾いた木と少し焼かれた茶葉——が静かに漂ってきて、彼女の古精霊の嗅覚に鼻腔の奥で三倍に拡大され、まるで誰かが一枚の薄い紙を彼女の鼻の粘膜へ貼り付けたかのようで、紙にはあの木の匂いが付き、木の匂いの中にまた一遍茶葉が燻されていた。
八千代:「……ありがとう、薇。」
薇:「大丈夫よ。先生が生徒に囲まれて質問されると気が散るでしょ。気が散っちゃ困るわ。」
「気が散っちゃ困るわ」この五文字を彼女はさっきのあの「とてもお行儀がいいわね」と同じ語速、同じ尾音、同じ温度で言った。しかし八千代の鼓膜の内側が「どん」と一つ、まるで誰かが耳道の奥から軽く小さな銅鈴を一つ叩いたかのようで、余韻が耳道の壁に沿ってゆっくりと下へ転がった。
八千代は笑った。肩から半吋緩んだような本当の笑みで、薇の手肘の外側を軽く一つ叩いた。「行くわ、薬草屋は前よ。」
薇:「うん」
団長は黙ってあの巻きの布を一つの肩からもう一つの肩へ持ち替え、小櫻ちゃんはすでに隊列の前へ走って路辺にしゃがみ、一匹の三毛猫と目が合っていた。隊列が再び前進した。薬草屋の看板が前方三歩先の頭上の上方にあり、「草」の字の漆が半分剥がれ、下に一条の浅い木目が露わになっていた。八千代の手が上がって扉の取っ手に触れた。その鉄の扉の取っ手は路地の端の陰に浸されて涼しく、涼気が指腹から手背のあの細い血管へ貼りついた。
彼女は立ち止まった。扉を押さなかった。
八千代:「薇、さっきのあの『気が散っちゃ困るわ』という一句は……」
彼女はここで言い、その文を路地の端の空気の中に吊るし、薇自身が手を伸ばして受け取るまで吊るした。
薇の手にはちょうどさっき雑貨屋からついでに持ち出した小さな布包を持っていた。元々八千代への贈り物にするつもりだった。目はあの布包の端の角から上げられ、真っ正面から八千代の目を受け止めた。薇は避けなかった。
薇は八千代の方へ半歩歩み、八千代から三寸の距離で止まり、笑みが口角からゆっくりと目の中へ広がった。「私のこと? 私は『生徒に囲まれて質問されると気が散る』って言ったのよ。八千代先生の生徒さんはとても活発で、先生が煩わしくないならいいけど。」
彼女はボールを打つと同時に手を上げた。その小さな布包を持った手が上がった。布包の端の角が軽く、とても自然に、まるで八千代に見せるために渡すかのように、八千代が扉の取っ手にかけていたあの手に手背を擦った。その一擦は一秒も経たず、布包の端の角の刺繍糸が手背のあの細い血管を粗く擦った。血管がその一秒に三度跳ねた。一度目は擦れ触れに驚かされ、二度目は血管壁自身がそれについて一つ縮み、三度目は薬効のあの層の皮膚がこの一擦の信号を脳へ送り返す瞬間に、右耳先が三度目に焼け上がった。今回は赤みが最も鮮やかで、最もはっきりし、最も持続し、火はもう彼女に押さえつけられず、ゆっくりと右耳輪全体へ暈が広がった。
薇:「あら、この小さな布包を先にあなたに預けてもらえる? 私の布袋が少し一杯なの。」
八千代は笑った。今回は本当に一格崩れた、肩から半寸震え落ちた、少し負かされたような本当の笑みで、髪先のピンク色がその笑みに従って上へまた半寸燃えた。今回は彼女は手を上げて髪を撥ね上げて隠さなかった。
八千代:「いいわ、ありがとう。薇お姉ちゃんって本当に気が利くわね。」
指先が薇の指先と受け渡しの瞬間に極めて軽く一つ触れた。薇の指節がその一触のあとに極めて軽く一度動いた。顔の笑みは変わらなかったが、指節のその一動を八千代ははっきりと見た。
薇:「うん。これからは薇お姉ちゃんと呼んでね。」
小櫻ちゃん:「……八千代お姉ちゃん? 薇お姉ちゃん? あなたたち、扉口で何を話してるの? 猫が逃げちゃったよ。」
薇と八千代がほとんど同時に振り返り、一緒のお姉さんの喉で言った。「大丈夫よ、小櫻ちゃん。」
言い終わると二人は視線を一秒交わし、また同時に我慢できず「ぷっ」と笑い出した。
小櫻ちゃん:「……え? どうして笑ったの?」
八千代は頭を振り、小さな布包を袖口の中へ押し込み、今回は扉を押すときの指の力はさっきのあの回より安定していた。銅鈴が「ぴん」と一つ鳴った。
八千代:「薬草屋に着いたわ。おじさん、私が頼んだあの春薬草をちょうだい。」
薬草屋の中は外から見るよりずっと深かった。三面の壁が床から天井まで引き出しで、各引き出しに手書きの小さなラベルが貼られ、中央に一枚の長い木のテーブルに新しく届いた草が積まれていた。空気の中に数百種の乾燥植物を揉み合わせたような匂いが浮かんでいた。薄荷の涼、甘草の甘、艾草の微かな苦、薔薇弁の甘ったるさ、ある種の八千代が百年も嗅いでいない鎮静系の配合の中の木調。
彼女は極めて軽く一口息を吐き、鼻腔がまだ完全に吐き終わらないうちに、その混合の匂いが体内のあの套の古精霊の嗅覚に自動的に解体された。まるで誰かが彼女のために本の頁をめくっているかのようで、薔薇がまず上顎の中間のあの柔らかい位置に沈殿し、甘さがまるで誰かが指腹で舌を押さえつけて上へ押し上げているかのようだった。薄荷が涼しく喉の後段へ落ち、さっき飲んだ茶のあの軟管に貼りつき、一口唾を飲むたびに涼しくなり、甘草が悶々と舌の根を押し、一点老木の厚みを帯び、艾草が最もいたずらで、鼻翼の傍のあの小さな一片の柔らかい肉を突き、微かな苦い気がそこに留まって去ろうとしなかった。彼女は百年もこのように匂いに分けて安置されたことはなかった。これは彼女が当年最も熟練した本領だったが、今日は自分に再び解体された。
店主がカウンターの後ろから頭を上げ、白い髭が顎を覆い、指は長年の薬草の汁で染まって黄色く、その目は細めて笑うと干からびた菊の花のようだった。
「八千代さん、あなたの頼んだ春薬草が朝届いたばかりだよ。新鮮なやつを、あなたに取っておいたよ。」
「真好ね。ついでに他のも見てみるわ」彼女は笑って返し、お姉さんらしいその余裕は自分自身で捏ね出したもので、捏ねるとき掌心がわずかに汗ばんだ。彼女は左側のあの面の薬草棚へ歩み寄った。これは彼女が最も熟知した領域で、三百年この店で買った薬草を合わせれば一部屋を満たせるほどで、どの引き出しの位置も目を閉じていても触れられた。彼女は手を伸ばして第三列第七個の引き出しを引いた。それは春薬草を入れるあの格で、銅の輪が涼しく、円弧が指腹に貼りついた瞬間に一枚の小さな銅貨が彼女の食指全体の紋様を押さえつけたかのようだった。二本の指が引っかけて外へ一つ引くと、引き出しが木の軌道の上で軽く滑り出る軌道感、滑り出るときに巻き起こす乾燥した草の香り、銅の輪自身の涼しさの三つのことが同時に指先に拡大した。彼女の手が引き出しを半分引いたときに半秒も経たないうちに止まった。
その半秒の間に薇がちょうど彼女の背後三歩のところへ歩いてきて、目は薬棚の上方のあの列のガラス瓶から横に掃き下ろし、一本の上から下へ垂れる細い糸のように、きれいに八千代のあの半秒止まった手背に落ちた。
引き出しの中に一束一束麻縄で縛られた春薬草が整然と並んでいた。細い茎、ピンク色の小さな花、葉の端に一輪の産毛を帯びていた。彼女は手を伸ばして一番上のあの束を摘み、指先が麻縄に触れたとたん、その粗い紋様がすぐに三倍に拡大された。丸い麻縄が指腹の上で転がって過ぎるとき、一本一本の繊維が自分の方向を彼女に教えた。彼女は急いで中指で薬草の本体を押さえ、中指の腹が押しつけたのは茎の上のあの層の細かい毛で、軽く擦り過ぎて彼女の中指の指紋のすべての凹凸を一遍読み終えた。まるで誰かが一本の極めて細い羽で彼女の中指の紋様の中を歩いたかのようだった。彼女はその束をテーブルに置いた。左耳先が焼け上がった。さっきのどの回よりも鮮やかだった。
「おじさん、もう三束ちょうだい」声が少し軽くなり、その熱を喉の底へ押し下げた。
「……八千代さん、あなた今日顔色本当にいいね。何かいいことあったの?」店主の目はさらに深く細め、ちょうど乾燥がちょうどいい一块の甘草を確認するかのようだった。
「ないわよ、天気がいいだけ。おじさん、鎮静系に何か新入りはある?」彼女は次の題を聞いてあの句を逸らした。店主が後堂から三つの小さな罐を運び出してきた。ガラスの底が木のテーブルに三つの違う高さの「どん」をぶつけた。
「これは新しく調合したもので、古精霊の体質に比較的合っているよ。」
彼女は手を伸ばして最初の罐の木の栓を開けようとした。二本の指で摘んで上へ抜く。木の栓とガラス罐口の摩擦力が抜け出る瞬間に一つの極めて軽い「ぽっ」という音を立てた。その音の振動が木の栓から伝わって指先へ行き、また手腕へ半截滑った。木の栓が口を離れたとたん、極めて涼しい薄荷に一点花の香りが罐口から噴き出し、真っ直ぐに彼女の鼻腔へ衝き上がった。
耳先が二度目に焼け上がった。今回は右耳だった。
彼女は左手を上げて髪の中に通し、右耳の髪を耳の後ろへ撥ね上げようとした。自然な動作でその熱を覆い隠そうとしたが、撥ねるとき爪がうっかり耳輪の縁のあの小さな一段の薄い、丸い軟骨に擦れた。
耳輪は彼女の死穴だった。
擦り過ぎた瞬間に、彼女の下半身に一本の見えない線が右耳先から一路下腹へ通じた。線は熱く、極めて細く極めて速く、まるで点火されたばかりの導火線が体腔の内側のあの名前のない通路に沿って下へ焼け、下腹の中間のあの小さな点で止まり、止まったあと逆方向に彼女の脊椎全体を痺れさせた。彼女は本当に「ん」と一つ声を上げた。
「……どうしたの、八千代さん?」店主の眉が一つ上がった。
彼女は頭を下げて罐を嗅ぎ、香りを嗅ぐ姿勢で顔を罐口の近くに隠し、鼻翼がガラスの端に貼りついて息を吸った。「大丈夫。この調合はとてもいいわ、おじさん。もう二罐ちょうだい。」
薇はこのときにゆっくりと近づいてきた。薬棚の後ろから極めて軽い弧を描いて回り、路がちょうど彼女を八千代の右側二寸の距離に止まらせ、肩は触れず、肘も触れず、ただ二人の間の空気が少しきつくなっただけだった。彼女はあの焼け赤くなった耳を見ず、目は斜めにテーブル上のあの束の春薬草に落ち、まるで一つの単純な荷物を見ているかのようだった。しかし彼女の左足の靴先が木の床の上で極めて軽く二度「とっ」「とっ」と鳴った。ほとんど音にならないほど低く、八千代のあの馴致された耳だけが受け取ることができた。
薇はその小さな罐を手に取り、鼻の前に寄せて深く一口吸い、鼻翼が一つ動き、眉が極めてゆっくりと上がった。「いい香りね、おじさん。この鎮静の配合、本当に鎮静するのかしら? 私、嗅いだらちょっとリラックスしすぎる気がするんだけど〜」尾音が長く引かれた。
「薇のお嬢さんの鼻は本当に鋭いね」店主が後ろで笑って「ほほ」と響かせた。「この配合の中には少しリラックス系の成分が入っているんだが、量は少ないよ。」
八千代はそのダブルミーニングを聞かなかったふりをして、薬草を選び続けた。第二の罐、第三の罐、開けるたびに彼女の指先が木の栓に裏切られ、その「ぽっ」という音が一度ごとに指紋にくっついたが、彼女のお姉さんらしい態度は今回は持ちこたえ、髪先のピンク色は頂点で安定し、もう下へ退かず上へも上がらなかった。
「春薬草五束、鎮静系二罐、艾草一束、薔薇弁半両、甘草二段」彼女は一息に報せ終わり、声は乾いてきれいだった。
「よし」
「八千代お姉ちゃん」ずっと扉口でガラス瓶の中のあの乾燥した蝶の標本を見ていた小櫻ちゃんがこのときにようやく我に返り、大きな目を瞬かせて頭を上げた。「これらの薬草は何をするの?」
八千代は一度笑った。この嘘は彼女が流れる水のように言った。「……講師のローブを新調するための香り袋用よ。冬の衣類を箪笥にしまうとカビが生えるから、薬草を少し入れておいた方がいいの。」
「え、そうなんだ」小櫻ちゃんは完全に信じ、視線がまたあの蝶の標本へ落ちた。
団長は扉口で動かずに肩のあの巻きの布を一辺からもう一辺へ持ち替え、麻縄が彼の鎖骨のあの一段を擦った。動作のタイミングがちょうど八千代があの嘘を言い終わったところだった。彼女は頭を上げて彼を一瞥し、彼の目は彼女と半秒視線を合わせただけで離れた。半秒。彼女は睫毛を伏せ、唇の角をわずかに一つ上げた。
店主が大きな一包みの薬草を団長に渡し、団長は黙って受け取り、薬草の包みをさっきのあの巻きの布の麻縄に縛り付け、再び肩に掛けた。
「ではおじさん、いくら」
支払いを終えて出たとき、路地の中の太陽はすでに真ん中へ這い上がり、光線が路地の頂から真っ直ぐに注ぎ落ちていた。彼女は手を上げて目を一つ遮った。目を遮るこの動作で彼女の長いスカートの下擺が上へ二寸上がり、足首の銀の鎖がまた「ぴん」と一つ鳴った。
「ギルドへ戻りましょう。昼食の時間だわ。」
薇が彼女の傍へ歩み、極めて軽く肩で彼女を一つ擦った。肩が布地に触れたとたん離れ、まるで靴先が二度鳴ったことの延長版のようだった。「あなた今日、よく頑張ったわね、八千代先生。」
八千代は「ぷっ」と一つ笑い出した。彼女は右手の食指を掌心でまた一つ巻いた。今回は力の込め方がさらに軽く、ほとんど力の込め方とは言えないほど軽かった。彼女は手を伸ばして右耳の側の髪を耳の後ろへ撥ね上げ、指先が耳輪のあの小さな一段の薄い軟骨を滑った。今回は手は止めなかった。
ギルドの二階廊下の突き当たりのあの扉を彼女が押し入れたとき、手は安定していた。足首のあの銀の鎖が一路「ぴんぴん」と彼女自身の部屋の扉口まで響いてから止まった。彼女の指が扉の取っ手に触れた。まだそれが彼女が百年触ってきた銅の輪で、円弧が涼しく指腹の中央に貼りつき、彼女は勢いについて一つ押し、扉の軸が木の枠の中で軽く滑り開き、彼女は跨ぎ込み、扉が背後で閉まり、「かちっ」。
彼女は背中をあの扉に貼りつけて三秒間動かなかった。
彼女は鼻腔の奥からゆっくりと、ゆっくりと、一日中抑えていたあの息を吐き出した。吐き終わる前に、お姉さんらしい肩が頂点からゆっくりとゆっくりと崩れ落ち、崩れ落ちた一寸で、彼女の胸がそれについて半口緩んだ。崩れ落ちた二寸で、鎖骨の周囲のあの層の張っていた薄い筋が自分から下へ沈んだ。ずっと肩甲骨まで崩れ落ちてようやくそれが普段あるべき位置へ戻った。古精霊の薄手のシャツの襟口が肩が緩んだために自分から弧に沿って下へ半寸滑り、その半寸の織り目が彼女の鎖骨の上方のあの皮膚から一路擦り下り、露わになった皮膚が一瞬で部屋の中の夕方のあの層の微かな涼しい空気に撫でられ、涼しくて彼女の鎖骨全体に極めて細かい鳥肌が立った。
「……あら」
彼女は手を上げて肩のあの大きな一包みの薬草を下ろしてテーブルに置き、薬草袋が木のテーブルに当たって一つのこもった音を立て、肩のあの布袋の縄に押された一片の筋肉が全体緩み、その緩む感覚が肩甲骨から下へ広がり、背中の真ん中のあの骨の溝を過ぎ、ずっと後腰まで広がった。後腰のあの腰窝は、午前中に腰帯の金属のバックルに一度描かれたあと、後でまた布袋の角に薄手のシャツを隔てて頂かれた。今は何もその上を押すものがなく、腰窝が空になり、空になったあと彼女はむしろ押されていたときより敏感で、まるであの小さな陥没自身が何かが貼り戻ってくるのを待っているかのようだった。
彼女は手を上げて自分の右耳先を一つ触った。耳先はまだ熱かった。一日中蓄積したあの層の熱が退いていなかった。彼女の食指が伸ばされて耳輪の後ろのあの薄い軟骨を軽く一つ押した。下半身のあの見えない線がまた一度通じ、線のもう一端が小腹の奥でわずかに一つ抽いた。
彼女はベッドの傍に座り、長いスカートの下擺が彼女が座った瞬間に膝から太ももへ滑り、内側のあの層が太ももの前側から下へ一公分、二公分、三公分擦った。太ももの前側のあの層の皮膚が内側の織り目に上から下まで一遍読まれ、読み終わったあと彼女の両脚が無意識に一つ挟み込んだ。挟み込んだ瞬間に太ももの内側の二つの柔らかい肉が互いに貼り合い、その貼り合いが彼女の尾椎から髪の根まで軽く一度震えさせた。
彼女はベッドの傍を支えて頭を下げ、髪先のあの截のピンク色が低頭の弧に沿って太ももに落ちた。彼女は笑った。
「……小櫻ちゃん、小櫻ちゃん、あなたが私に食べさせたこのもの」
彼女は頭を振り、言い続けず、自分で笑い出していた。八千年の古精霊が附属学院の新人に口へ塞がれた不明の薬草に倒され、自分の部屋にいる。このことを言い出したら彼女の百年の講師の威厳は恐らくその場で二つに割れてしまうだろう。
彼女は手を上げて髪を後ろへ一度撥ね上げた。今回は髪を撥ねるとき爪が耳輪を擦り、その擦り過ぎた力の込め方が羽のように一本の弦を掻いた。彼女は一口息を吸い、その一声の「ん」を極めて軽く喉から漏らした。この「ん」をもし薇に聞かれたら、薇は恐らく外の扉を三度叩き、ゆっくりと「八千代先生、気が散っちゃ困るわよ」と言うだろう。そう思うと彼女は「ぷっ」と笑い出し、肩を完全に緩めてベッドの傍へ倒れ込んだ。倒れ込んだ瞬間に腰窝がベッドの端のあの硬い木の縁に貼りついた。その木の縁がちょうど腰窝の中央を頂き、頂く力の込め方が涼しくて硬く、ちょうどあの空になった一日中の陥没を埋めた。彼女は尾椎から上へ軽く一度震え、急いで身を翻して姿勢を換え、顔をベッドの上の薄い毛布に埋めた。薄い毛布の羊毛の繊維が彼女の頰に貼りつき、一本一本が自分の方向を彼女に教えた。彼女は笑って肩がわずかに震えた。
「まずお風呂に入って、……それから寝るわ。」
彼女は衣装棚の前に歩み寄り、扉を開け、中から一本のお風呂用のバスタオルを取り出した。バスタオルの綿布が彼女の指の間で展開されたときもまた一回の完全な織り目の読み取りだったが、今回は彼女は避けなかった。彼女は笑って「ん」と一つ声を上げ、バスタオルを肩にかけ、また引き出しの中からあの小さな手鏡を取り出した。銀の枠、裏面に刻花、鏡面は掌ほどしかなく、彼女が手に持ったときあまり考えなかった。ただ今日は突然一つの感覚があり、あとでお風呂に入ったあとついでに自分を見てみたいと思ったからだった。彼女は手鏡を軽くバスタオルの挟み層の中へ押し込んだ。
扉口へ歩いたとき彼女は一度立ち止まり、部屋を振り返って一目見、笑って扉を押し開き、浴場の方角へ歩いた。廊下に人はいなかった。足首のあの銀の鎖が「ぴんぴん」と響き、一路廊下の突き当たりの浴場の木の扉の前まで響いた。
八千代が扉を押して入ったとき、木の扉が「ぎしっ」と一つ鳴った。その音がとても長く引かれ、まるで廊下で一路我慢していた何かを下ろしたかのようだった。彼女は手を回して扉を閉め、扉の軸がまた「ぎしっ」と一つ、今度は少し短かった。
彼女は衣架から一番自分に近い木の格を選び、肩のあのバスタオルが彼女が手を上げて解いた瞬間に、綿布が彼女の側頸全体に沿って滑り落ちた。綿布の粗い織り目が一寸一寸彼女の側頸のあの朝から一日中締めつけられていた細い皮膚を擦った。その皮膚はこの一秒で初めて空気に触れられ、また布地に触れられて一段滑り、鎖骨の上沿のあの薄い、一日中襟口の中に隠れていた陥没を滑り過ぎ、上腕の内側のあの彼女が普段注意しないあの柔らかい肉を滑り過ぎ、最後に肘のあの曲がり角から弾け出し、軽く彼女の足元に落ちた。三段の路で彼女の皮膚はそれぞれ記憶した。一段ごとに前の一段よりさらに涼しく、さらに目覚めていた。
「……本当に」
彼女はバスタオルの挟み層の中からあの小さな手鏡を摸み出し、銀の枠、刻花、掌ほど、指腹があの輪の冷たい金属に触れたとたんわずかに一つ震えた。彼女が取り出したときあまり考えず、ただ自然に手鏡をバスタオルの傍に置いた。置いた瞬間に、手鏡の裏面のあの輪の刻花が油燈の光に捕らえられた。古精霊時代の紋様で、一輪の絡みつく蔓草。油燈の光が天井から斜めに落ちてあの輪の刻花に当たり、あの葉の端に反射されて一本の極めて細い光柱になり、光柱が木の格棚の木目に沿って滑り出し、紋様に沿って一寸一寸壁面へ這い上がり、最後に真っ直ぐに彼女の背後の壁面の一面の長い鏡に当たった。あの長い鏡は浴場の脱衣所の元々あったもので、彼女は三百年背を向けて立っていたが、特別注意したことは一度もなかった。しかし今日、油燈が手鏡の刻花に当たって反射したこの束の光が、ちょうど長い鏡の中の彼女の背面の腰窝の位置を照らした。
彼女は古式の薄手のシャツの腰帯を解こうとしていた。指腹がすでに腰帯の結び目のあのわずかに凸起したところに触れ、一つ引こうとしていた。長い鏡の中のあの光に照らされた場所が彼女の目を引きつけた。彼女はその瞬間に動作を止め、指はまだ腰帯に掛かったまま緩めなかった。彼女は今までこの角度から自分の後腰を見たことがなかった。長い鏡の中のあの位置はまだ一層の古式の薄手のシャツを隔てていたが、あの束の反射光がちょうど斜めに腰に当たったために、薄手のシャツの布地が光に照らされてほとんど透明になり、彼女が一層の紗を隔てて自分の腰窝のあの陥没の形を見ることができ、腰側のあの筋肉の走向に自然に牽き出された細い曲線を見ることができた。その曲線が肋骨の下縁から一直線に股関節の上方まで流れ、光がそれを全体持ち上げていた。
彼女は無意識に、非常にゆっくりと腰側をわずかに左へ五度回した。長い鏡の中のあの影像がそれについて回り、その束の反射光が彼女の腰について動き、薄手のシャツを透して彼女の左腰窝の下へ一点の位置を照らした。その位置はまさに朝腰帯をきつく結んだときに彼女が描いたあの陥没だった。今彼女は鏡の中からそれの本当の形を見た。浅く、腰の筋肉に自然に形成された、半月の形の陥没で、陥む具合がちょうどよく、光が陥没の中にさらに明るい小さな塊に集まっていた。
彼女は手鏡を置き、手鏡を持っていたあの右手がわずかに一つ震えた。
「……あら、この鏡、あとでまだ役に立つわね。」
彼女は手鏡を再び整えてバスタオルの上に置き、特に角度を調整し、刻花の裏面が引き続き油燈の方向を向くようにし、その束の反射光が引き続き長い鏡の位置を照らせるようにした。この小さな設置を彼女はとても自然にやった。やり終わると、笑って手鏡の銀の枠を一つ叩いた。指節が銀の枠の上で一つ点き、また一つ点いた。
「いい子ね。あとで逃げないでね。」
彼女は振り返って腰帯を解いた。古式の薄手のシャツの腰帯が一つ開くと、薄手のシャツの前襟が全体両側へ緩く垂れ、鎖骨、胸骨の上方、肋骨の下縁のあの全体の皮膚が同時に脱衣所の微かな涼しい空気に撫でられ、乳首が布地の 下でゆっくりと二つの小さな点に硬くなり、硬くなって自分で薄手のシャツの重さを支え、布地が押し返してきたときにはむしろそれらに頂き返された。
「っ……」
彼女は一口息を吸った。これは一日で初めて発した本当の吸気音だった。彼女は薄手のシャツを肩からゆっくりとゆっくりと下へ脱ぎ、半分脱いだときに薄手のシャツの襟口が上腕に引っかかり、彼女はすぐにそれを脱ぎ終えなかった。ただそれをその位置に留めさせた。半着半着の薄手のシャツが肩から上腕へ垂れ、鎖骨全体、胸口の上半分、後頸を露わにしたが、下半身の長いスカートはまだあり、腰帯が足元に垂れ、まるで一本の素直に片付けられるのを待っている小さな蛇のようだった。彼女は振り返って長い鏡を一目見た。長い鏡の中のあの半着状態の自分。彼女はその形容詞を考え終えずに、直接振り返って引き戸の方へ歩み寄り、半着の薄手のシャツが肩から滑り落ちて肘に引っかかった。彼女は笑って指でそれを肘から脱ぎ、長裙を解き、下ろし、整えて木の格棚に置いた。裸身の瞬間に、脱衣所の微かな涼しい空気が髪の根から足先まで撫で、その一撫でが長く、まるで誰かが上から下へ指先で一遍描いたかのようだった。
「……お風呂に入らなきゃ。」
引き戸が押し開かれ、蒸気が顔に撲ってきた。白い霧が脱衣所のあの束の手鏡の刻花から反射した細い光柱を全体飲み込んだ。彼女は裸足で浴室へ踏み込んだ瞬間に、石板地の微かな涼が足の裏から足首へ這い上がり、銀の鎖はさっき脱いでバスタオルの傍に置いてあった。足首が裸で、足の指が涼しい石板の上で一つ掴み、また緩んだ。
彼女はすぐに浴槽へ入らず、まず壁の木棚の傍へ歩み寄って一木杓の温かい水を肩から注いだ。これは彼女の三百年 来の習慣で、この動作は彼女が歩くより熟れていた。水が肩から下へ流れ落ちる瞬間に、彼女の全体が短く半秒間フリーズした。一日中皮膚に蓄積したすべての敏感点が同時に水流に発見され、肩のあの薄手のシャツに擦れていたところ、鎖骨のあの風に灌がれていたところ、左乳の下縁のあの内側に描かれていたところ、後腰のあの布袋に頂かれていたところ、太ももの前側のあの内側に滑っていたところ——水流が重力について一路串になり、鎖骨から太ももまで流れる一本の、生きている線になった。
彼女は自分の息を一つ吸い込むのを聞いた。第二杓の水を彼女は汲まなかった。汲む勇気がなかった。第二杓の水が同じ路筋に沿って下りてきたら、彼女は直接浴室の床に跪いてしまうかもしれない。彼女はゆっくりと深く息を一つし、お姉さんらしいものを引き戻そうとしたが、引き戻せず、お姉さんらしい笑みが口角に浮かびまた落ち、また浮かびまた落ちた。彼女は笑った。今回は少し自暴自棄を帯びていた。
彼女は熱い水の浴槽へ踏み込んだ。熱い水が足首を過ぎ、小腿を過ぎ、膝を過ぎ、彼女は緩やかに座り込んだ。熱い水が太ももの前側のあの内側に一日中読まれていた皮膚を過ぎた瞬間に、彼女ははっきりと内側の織り目の記憶が皮膚の中から熱い水に溶かされて出てくるのを感じた。元々一本一本の線が熱い水に一枚の全体に化け、その一枚の全体が今彼女の太ももの上で跳ねていた。熱い水が続いて上へ這い上がり、腰窝を過ぎた。
「……あ」
腰窝のあの一日中反復して描かれた位置が熱い水に浸かったその一秒、彼女は鼻腔から極めて軽く、極めて細い声を漏らした。その声は彼女が急いで手を上げて指節を口の中に押し込んで噛み止めた。噛み止めた瞬間に彼女の歯が自分の食指の第二指節のあの柔らかい肉を噛み、柔らかい肉が彼女の古精霊の尖った牙に軽く噛み込まれ、全身が尾椎から髪の根まで一度震えた。
熱い水が続いて上へ、胸口の下方を過ぎ、鎖骨を過ぎ、最後に熱い水の水面が彼女の下顎の下方一寸の位置で止まった。彼女の全体が熱い水の中に沈み、髪先のピンク色が水面に一輪の淡いピンクの光の暈を浮かべ、蒸気が彼女の瞳の色をより深く焼いた。彼女は目を閉じ、噛んでいた食指を緩め、食指に極めて淡い歯の印が一つあり、彼女はその歯の印がゆっくりと消えていくのを見た。お姉さんらしい笑みが完全に崩れ、唇がわずかに開き、呼吸が極めて軽く急促だった。
彼女は熱い水の中で長く静かだった。三百年彼女は無数の回お風呂に入ったが、今日のこの一回で彼女は自分の身体がこのように自分に報いることができることを発見した。彼女の左手が水の中でわずかに一つ動き、指先が自分の肋骨の下縁を軽く一本引いた。その一本の引くが肘から腰側へ滑り、彼女の腰が全体水の中で軽く一度震えた。彼女はまた笑った。笑って肩が熱い水の中でわずかに震えた。
それから彼女は一つのことを思いついた。彼女は目を開けて浴槽の天井のあの蒸気に燻されて黄色くなった小さな油燈を見た。蒸気がランプシェードに絡みつき、ランプの光を一塊の暖かい黄色に糊のようにした。彼女は団長のことを思った。彼女は脳の中で今日朝食のテーブルで水のコップをどんどん遠くへ押しやっていた団長を見、町の街で肩を換えて彼女の視線を受け止めてから離した団長を見、薬草屋で半秒視線を合わせ何も言わなかった団長を見た。彼は今日すべてを見ていた。
彼女は彼が今ここにいてほしいと思った。彼女はこのものを彼に分け与えたいと思った。この念が浮かんだ瞬間に彼女自身もびっくりして、尾椎のあのところがそれについて一度震えた。彼女は「この薬効をもし彼に一口飲ませたらどうなるだろう」、「彼が飲んだあと もこのようだったら」、「彼は必ずしもここにいなくてもいい、公会の大広間で飯を食べていてもいい、でも彼は私が今このような様子であることを知っていなければならない」と思った。彼女は熱い水の中で左手の食指をまた口の中に噛み戻し、今回はより深く噛み、尖った牙の二つの小さな尖がちょうどさっきのあの浅い歯の印に落ちた。
彼女は笑って食指を口から下ろした。
「あなたがいないのは本当に残念ね。そうでなければ……」
彼女は言い続けなかった。彼女はその文の後半を熱い水の中に吊るし、蒸気のようにぼんやりしているが蒸気より重い一塊のものに吊るした。
彼女は熱い水の中でわずかに身を翻して姿勢を換え、浴槽の縁に寄り、頭を後ろへ仰向け、髪先が水の中で散らばった。脱衣所のあの束の手鏡の刻花が反射した光柱はまだあり、それは彼女がお風呂を上がり出るのを待っていた。彼女は笑い、目を閉じた。
「……またあとでね、鏡。」
彼女が熱い水の浴槽から身を起こす動作はゆっくりと、水が彼女の肩の弧に沿い、鎖骨の下のあの浅い陥没に沿い、胸の前に熱い水に浸されてわずかに膨らんだ二つの柔らかい肉に沿い、腰側に沿い、太ももの前側のあの内側に一日中読まれていた皮膚に沿って一路流れ落ちた。一道一道の水痕が彼女の古精霊の珠光白の皮膚の上で一条のわずかに反射する線を引き、線が一本一本彼女の身体の温度に蒸されて極めて淡い霧になり、また貼り戻された。彼女は手を伸ばして傍の木棚からバスタオルを取り、その柔らかい綿布をゆっくりと、慌てず騒がず、髪の先から擦り始めた。後頸を擦ったときに綿布が背脊に沿って滴り落ちてきたあの水滴を吸い取った。皮膚から水が持ち去られた瞬間に一つの極めて軽く、極めて軽い「弾」があり、弾み終わったあと乾燥した、さっきよりさらに敏感な、次の触感を待っている状態が残った。肩を擦り、その「弾」がまた一度跳ねた。腕の内側、胸口の下のあのさっき熱い水に浸されて柔らかくなった弧線、腰側、太もも——綿布が通ったすべての場所で皮膚が彼女のためにこの一回の「擦られた」ことを記憶し、彼女のためにこの一寸の触感を計算していた。
彼女は前を擦り終わり、後ろへ回り、バスタオルが彼女の肩甲骨の間からゆっくりと下へ歩み、後腰のあの腰窝へ来たときに彼女の手が一度止まった。彼女はわざとバスタオルを腰窝のあの陥没の上で二秒余分に留めさせ、綿布があの浅い窪みに沿ってゆっくりと、ゆっくりと押し下げた。あの 一日中反復して描かれた位置が今乾いた綿布に逆方向に一遍描かれ、描かれて彼女が尾椎から髪の根までまた軽く一度震えた。
彼女はバスタオルを巻いて脱衣所へ戻り、引き戸が押し開かれた瞬間にあの束の手鏡の刻花が反射した光柱はまだあった。油燈は消えておらず、手鏡は元の位置から動かされておらず、刻花はまだ反射し、長い鏡はまだ壁にあり、その束の細く、刻花に花びらの形に切られた光柱は依然として忠実に長い鏡の同じ位置に当たり、彼女を待っていた。
彼女は歩み寄り、擦り終わったばかりの足の裏が脱衣所の冷たい木の床を踏み、彼女はあの束の光柱が彼女の背面を照らせる位置に立った。すぐに動かなかった。まず目を閉じて脱衣所の微かな涼しい空気が彼女の全体の擦り終わったばかりの、完全に裸の皮膚の上で撫でて過ぎるのを させた。空気が綿布に代わって引き続き彼女の古精霊の珠光白の皮膚を読み、油燈の下で極めて淡い虹彩を帯び、その層の虹彩が彼女の毎回の極めて浅い呼吸についてわずかに上下した。彼女は目を開け、長い鏡の中のあの裸の自分を見た。髪先のピンク色はすでに頭のてっぺんまで這い上がり、左右の耳先が均等に赤く、頰に一层の自分だけが見える淡い温度があり、肩にはもう薄手のシャツの拘束がなく、緩く垂れ下がり、緩んでほとんど自分の肩のようではなかった。
彼女はバスタオルの傍から手鏡を手に取った。銀の枠、刻花、掌ほど、握りの上にはまだ脱衣所の空気の涼が少し残っていた。彼女が手に取った瞬間に刻花が反射したあの束の光柱が消えた。光柱は元々固定されたあの角度でこそ長い鏡に当たることができた。今彼女は手鏡を手に取ったので、光柱が手鏡について行った。
彼女は振り返り、背を長い鏡に向け、手を上げて手鏡を持ち、鏡面を自分の後方へ向けた。彼女は小さな手鏡の中で長い鏡を見た。長い鏡の中で彼女の裸身の後ろを映し、これは二重反射の回路で、小さな手鏡が長い鏡を映し、長い鏡が彼女の後ろを映し、彼女が手鏡の中から見たのは、後方から撮影された、彼女自身だった。彼女はゆっくりと、ゆっくりと手鏡の角度を下へ調節し、視線が彼女の濡れた後ろから後腰へ滑り、腰窝へ滑った。全体の後腰の皮膚はまだ完全に乾いておらず、背筋の陥没の中にまだ何粒かの水滴が残り、一粒一粒の水滴が油燈の下で一度閃いた。まるで彼女の身体が彼女のために灯した小さな蝋燭のようだった。彼女は続いて下へ調節し、腰窝の下方、股関節の上方のあの円潤な弧線、そして、臀部の上方のあの 下へ行く曲線、そして——
彼女の全体が固まった。手鏡の中で彼女はあの位置に何かがあるのを見た。菊の周囲のあの彼女の記憶以来何もなかった位置に今一輪の淡色の紋様が浮かんでいた。皮膚の中から浮かび上がった一輪の不規則な淡いピンクで、一点珠光を帯び、極めて細い線条が菊の形に沿って一輪回り、彼女が今まで見たことがなく、しかしまたとても長く知っているような図様に回っていた。
彼女は息ができなくなった。彼女の目は古精霊八千年で無数の紋様を見てきた。古王朝の呪文を見て、異界の星図を見て、南方の失伝した経幡を見て、しかし自分の身体でこのようなものを見たことは一度もなかった。彼女ははっきりとこれが何かを知っていた。
彼女は手鏡の前で動かず、その腰を曲げ、手鏡を回している姿勢を保ち、時間が彼女の周囲で遅くなった。脱衣所の油燈の炎が揺れ、薬草包の匂いが彼女がさっき置いた位置から淡く漂ってきて、廊下の外のギルドのどこかから人声がとても淡く伝わってきた。これらすべてを彼女は聞くことができ、嗅ぐことができ、感じ取ることができたが、彼女は動けなかった。彼女はその輪の紋様がゆっくりと彼女の皮膚の上で呼吸するのを見た。それは彼女の心臓の鼓動の節奏について極めて軽く上下し、彼女が一回跳ねるたびに、その輪の淡いピンクが一度明るくなった。心臓の鼓動、明るく、心臓の鼓動、明るく。
彼女はようやく声を出した。一つの極めて軽い気の音で、気の音の中にどんな詞もなかった。彼女は手鏡の角度を極めて軽く一つ調節し、その輪の紋様が彼女によりはっきり見えるようにした。この動作を彼女は考古学者が一つの出土したばかりの古物を触るかのようにやった。彼女は長く見た。長く、五分かもしれない、十分かもしれない、彼女は知らなかった。彼女は背を長い鏡に向け、手鏡を身の後ろに掲げ、こうして自分の菊の周囲のあの輪の淡色を見ていた。何もせず、何も考えず——
いや。彼女は一つのことを考えた。
彼女は笑った。お姉さんらしいあの扁平で柔らかい笑みはもう全くなく、この笑みは一点甘さ、一点独占、一点「誰にも言わないで」を帯び、唇の角の上がる弧度はわずか零点幾度だった。
「……まず私に少し自分で見せて。」
彼女は手鏡の中のあの輪の淡色に向かってゆっくりとそう言った。
彼女の空いたあの片手、左手が、ゆっくりと、ゆっくりと自分の後方へ伸ばされ、食指の先が極めて軽く、極めて軽くその輪の淡色の縁に触れた。全体の脱衣所が一秒静かになった。彼女は尾椎から髪の根まで本当に一度震えた。この震えはその一点から広がり、腰へ、太ももの内側へ、下腹へ、彼女の小さな手鏡の中のあの彼女が見ている画像へ広がった。その輪の淡色が、彼女自身の指の触れの下で、また一階濃くなった。淡いピンクから淡いピンクよりさらに深いピンクへ、線条の形がよりはっきりし、まるで一層の極めて薄い紗がめくられたかのようだった。彼女の指は離れず、彼女は極めて軽くその輪の紋様の縁に沿って一本引いた。皮膚が逆に彼女にどこまで引いたかを教え、彼女は喉の奥から一つの非常に細い声を出し、その輪の紋様がまた一階濃くなった。
彼女は引き続け、指節が震え、その輪の紋様が彼女が認めたいと思う程度まで濃くなった。それからゆっくりと、ゆっくりと散らばっていった。深いピンクから、淡いピンクへ戻り、極めて淡いピンクへ戻り、ほとんど見えない痕跡へ戻った。彼女はその腰を曲げた姿勢を保ってそれが散らばっていくのを見ていた。完全に消えるまで。それから彼女は腰を伸ばし、手鏡をゆっくりと下ろした。彼女は空の脱衣所に向かって一度笑った。
「……今日はこれでいいわ。」
彼女は自分にそう言った。彼女は手鏡をバスタオルで拭いて乾かし、バスタオルの挟み層の中へ戻し、薬草包を再び手に取り、脱衣所の扉を押し開いて廊下へ歩いた。髪先のピンク色がゆっくりと頂点から下へ退き、一寸淡くなり、二寸淡くなり、さっき朝食前の位置まで退いたが、完全に退きはしなかった。
彼女は部屋へ戻り、扉を閉め、薬草包をテーブルに置き、ベッドへ這い上がり、綿の布団が掛かったときに心の中に隠していたあの 発見が一塊の温かい小さな石のように彼女の胸口の中央に置かれ、重量がちょうど、温度がちょうどで、重くて彼女が身を翻すときに石が転がらなかった。彼女は目を閉じた。明日また学院へ授業に行かなければならない。彼女は笑って眠りに落ちた。
現在、番外編として公開する内容を考えています。 ノクターンノベルズ で公開する予定です。




