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Chapter.9 タスクフォース・ブレイブ

遂に真実を知ったエヴァだったが、その命をビソンテスの幹部であるヒトキリが襲う!果たしてエヴァは無事に逃げのびることができるのか!

エヴァはクロスボーンにハーレーを貸し出されて逃走した後、アニマルシティ内にある自身が用意した隠れ家の一つに身を潜めると、胸に入った九ミリ弾を慎重に取り出し、ウイスキーで消毒して手当てを行った後に痛みを和らげるために飲酒し、そのまま傷を治すために二階のベッドで半日ほど眠りについていた。


「…眠ってたのか。」全身が痛みに包まれ、気分も悪く動くだけでもしんどい状態だったが、ハッとなったエヴァは自身の懐をチェックすると、あの時奪ったUSBを無くしていないか注意しながら服を弄り、その感触を感じると束の間の安堵を感じた。


この安物のちっぽけなUSBが今のエヴァの命綱となっている最も大切な物の一つであることを再確認すると、大事に懐に仕舞った。


そして自身のスマートフォンのシムカードを取り出して叩き割ると、隠れ家にあるテレビの電源を付けた。


「〝臨時ニュースをお伝えします。FBIに所属しているエイヴァ・バットリー・キャンベル捜査官がスワット隊員の殺害及び売春斡旋等への重大犯罪へ関与をしていることが本日判明しました。FBIは各法執行機関と連携して捜査を進めており、アニマルシティ内に潜伏していると見られています。犯人を見つけた方は下記の電話番号に通報ください。番号は──〟」


エヴァが眠っている間に副長官は各法執行機関へと根回しをしてエヴァを全米指名手配犯に仕立て上げたようだった。


「完全にハメられた…」そうエヴァは思った。


エヴァはそれだけ副長官が血眼になって探しているUSBの内容が気になると、もう既に指名手配の身であるのだから、禁止されている最高機密のデータを見るのも関係ないと思い、隠れ家に隠してあったラップトップでデータの閲覧を開始した。


内容はよく見る犯罪組織が使用していた証拠が溜まったUSBではあったのだが、中には信じられない情報が山ほど残っていた。


まずは今から三年ほど前にエヴァが従事していたことがあった〝ゴーストガン〟を扱ったFBIとアニマル市警の合同捜査事件だった。


この事件でエヴァが所属していたチームは事前に退却した為に難を逃れたが、アニマル市警スワットの30チームが全滅したことまでは知っており、退却を判断するのが妙に速かったことは記憶していた。


だがその事件の真相は副長官が裏でロス・クルティードと共謀し、ゴーストガンをしつこく追跡していた30チームを爆弾が仕掛けられたポイントに誘導してわざと全滅するように仕向けた作戦であったことが分かった。


しかもそのゴーストガンは回り回って白人至上主義者たちによって使用され、パンダモニカ大学病院でのテロやプライド・パレードの惨劇において使用されたのだ。


そしてその事件の失敗の責任をスケープゴートとして押し付けられたのが、一緒にブルーインパルスを組み立てたあのシバミネ・イブキだったというのだ。


「そんな…」エヴァはショックを受けるほかに無かった。自分が信じてきた組織がこんなに昔から不正を働いていた等と思いたくも無かった。


だが、このファイルはまだ序の口に過ぎない。他にもまだたくさんのファイルがあり、エヴァはおそるおそるも続きを読み進めていく。


ロス・クルティードと共謀していたダブル・タイガーが行っていた美形の子供を誘拐してスナッフポルノに使用するという非合法ビジネスには副長官も顧客として参加していた。


副長官は〝ロリータ・コンプレックスの欠損フェチ〟であり表向きの権力を利用して手足を切り落とした子供を愛玩し、飽きれば虐待死させていたというのだ。


データを漁るとそれぞれの構成員たちとのやり取りが確認され、〝チキンウイング〟や〝ウィールチェア〟といった暗号を使って、少年少女を取引していたようだ。


軽く数えるだけでも十人以上は副長官の腐敗した性欲の餌食になり、その幼い命を散らしたことがわかる。


「クソ、あいつこの事件の罪を私に擦り付けるつもりだったのか!反吐が出る…何故こんなやつの命令を私は聞いていたんだ!私は、父の遺志を継いでFBIに入ったはずなのに!こんなやつにハメられ、せっかく良くしてくれた仲間まで騙さなきゃいけなかった!私が過ごしてきたこの数年間は一体なんだったんだ!利用されてただけだったというのか!」


エヴァは怒りに任せて周りにあった時計やスマホを壁に投げつけて、放心状態になりながら窓ガラスを見ると、下にシボレーのサバーバンが停まっていた。


なんてことのないバンだがエヴァにはそれがFBIかロス・ビソンテスが使用している車両であると直感で理解した。


すると案の定中から武装した兵士たちがガイズリー・スーパーデューティを携えながら隊列を組んで、部屋の鍵をアンロックしている様が見えた。


エヴァはその窮地に気づくとすぐにUSBを抜いて懐に仕舞い、腰に挿していたタイラーのキンバーにプレスチェックをするが、既に弾切れを起こしていたことに気づいた。


「四五口径の弾薬は今この家にはない、クソ、やっぱりオートマチック・ピストルなんて嫌いだ…」


仕方なくエヴァは近くにあるホームディフェンス用の金庫に〝3821〟のパスワードを打ち込むと、中から予備のシグ・P320ピストルと万が一に備えて用意していた十万ドルの札束を取り出してビソンテスに気づかれない様にしながら、階段の隅に身を隠すと敵が目の前に来るまで待機した。


下の階ではフラッシュバンがさく裂する音がこだましていて、圧倒的に不利な状況であることは理解しており、早急に相手が持っているライフルを奪い取る必要があった。


エヴァの家のガレージには防弾仕様に改造した私物のダッジ・チャレンジャーSRTヘルキャットがあり、それで逃げる手筈だ。


今はとにかく生き残ってこの証拠を何とかしてCLAWに届けて正しい報道をしなければならないとエヴァは考えていた。故に今ここで死ぬわけにはいかない。


そしてビソンテスが持つスーパー・デューティの銃身が壁越しから見えた瞬間、エヴァはそれを手で掴むと驚いたビソンテスの兵士に何発もP320を撃ち込んだ。


だが、ビソンテスの兵士はかなり高いクラスのアーマーを着ているようでなかなか倒れようとしない。


なん十発も撃ってようやく沈黙させるが、相手もかまわずにこちらにやたら滅多にフルオート射撃で銃撃を浴びせてくる。


エヴァは弾が当たらない様に隠れながら倒した兵士からスーパーデューティを奪うと、そのまま両方の銃をそれぞれの手で構えて火力を補いながらビソンテスの兵士たちを銃撃して撃ち殺していく。


P320が弾切れを起こせば敵兵の顔面に投げつけて怯ませ、スーパーデューティで銃撃する。


そして倒れた一人の死体をそのまま角へと引きずると、プレートキャリアに入っているマガジンを抜いてリロードを行い、取り付けられたフラッシュバンをもぎとってピンを抜いて投げつけ、相手が怯んだ隙にフルオート射撃でハチの巣にしていった。


数分の沈黙の間にそのプレートキャリアをはぎ取ってエヴァは着こむと、銃を構えながら下の階へと移動していく。


ゆっくりとパイをカットするように死角を確認していくが、今度は逆に敵のビソンテスに銃を掴まれて投げ捨てられると、そのまま相手はナイフを持って格闘戦へと移行し、鮮やかなナイフ捌きを寸前で回避していく。


だが運の良いことにインファイトをしているお陰で相手は巻き添えを恐れたのかなかなか撃てない様子だ。


銃撃できない死角へと一人を投げ飛ばして飛び込みながら銃撃を避け、相手の一人が怯んでいる隙にナイフを奪うとその兵士の動脈を切り飛ばして返り血を浴びながら一人を始末した。


「ラッキー…」


崩れた髪を片手でかきあげ、敵兵が使っていたプレートキャリアからM67手榴弾とサイドアームの1911を発見し、マガジンを取り外すとタイラーのキンバーに装填してスライドを引いて薬室に弾を装填した。


「お前らはチームかもしれないが、こっちは一人だ!仲間意識が仇になったな!」


エヴァは躊躇なく手榴弾のピンを抜いてビソンテスの兵士を派手に吹き飛ばすと、そこからガスに引火したのか家が燃え始めた。


「クソ…生き残るためとはいえしょうがないが、この隠れ家はまだローンが残ってるんだぞ!お前らのせいでこんなに燃えてる!その上に職と名誉まで失った!ビソンテスとクソFBI!このツケはきっちり払ってもらう!」とエヴァは吐き捨てると、そのまま燃える隠れ家を背にガレージへと移動し、シャッターを開けて私物の防弾仕様ヘルキャットへと乗り込むと、ダッシュボードを開いて中に隠してあったフラックス・MP17を取り出し薬室に弾薬を装填して助手席へ投げ、シートベルトを締めてエンジンをかけた。


このヘルキャットはFBIとは関係なくエヴァが私物として購入した車両で、仕事柄プライベートが危険に陥る可能性も考慮し、もし自身が追い詰められた時の為の保険として用意していた〝最終手段〟である。


外見からプッシュバーを取り外して通常のヘルキャットに似せるように塗装を施しているが、大元はアーマーマックス製の警察用防弾車両である。


また、エヴァはどちらかといえばマニュアルトランスミッションを好むが、逃走用車両ということで負傷した際に運転しやすいように実用性を考慮してコラムシフトのオートマチックトランスミッションのモデルである。


この車両の内部にはエヴァが逃走に使用するために工具やサバイバルキットに保存食、それに銃器もMP17だけではなく、P320用の大量の弾倉を仕込んでいる他、バックパックからプレートキャリアに可変するデヴコアPCBとナイツ・アーマメント製のSR-15のフルオート仕様を搭載している謂わば〝プレッパー・カー〟だ。


しかし、ただ一つだけエヴァが持ち込んでいないものが車内に置かれていた。


ベゼルの回転機構が付いた未来的な外観が話題となったリボルビング式を採用している旧式フィーチャーフォン、モトローラ・V70だ。


するとそのV70が突然着信音を響かせ、エヴァはおそるおそる電話を取ると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ハロー、エイヴァ。」


「…誰だ?声の加工が無いってことは副長官ではないな?」


「私だ。一回お前を面接したアニマル市警のドギー・デッカード警視だ。とはいっても顔を合わせたのは一回きりだが。」


「警視…?何故私が秘匿していたこの車にこの旧式の携帯電話が?」


「細かいことは抜きだ。この電話を仕込んだのは古い独自規格の回線を使用することで連中が足取りを追うのに時間を稼げるからだ。お前もFBIの捜査官ならそのぐらいのことは知っているだろう?」


「わかった…それで?今全米で指名手配中の私に何をしろと?」


「簡単だ。私は全ての真実を知っている。その真実が知りたければ…ブルドッグウェイにある旧署まで生きて来るんだ。CLAWの皆には全て真実を話した。」


「…生きているんですか?よかった…」


「ああ、そうだ。全員無事に生き残った。そうでなくては私がCLAWに選んだりしない。ともかく、この通話が終わった後はあらかじめシムを抜いて破壊するんだ。まだお前をビソンテスが追っている。生き延びろ──」そういうと通話は切れ、エヴァは警視の命令通りにシムカードを抜いてへし折り、携帯をガレージの中に投げ捨てるとそのままヘルキャットのエンジンを始動させて走り始めた。


ハイウェイに入ってしばらくすると、後ろから突然一台のスポーツカーが追ってきているのが見えた。そして距離を近づけていくと後ろから煽り始めた。


「トヨタ・スープラMkⅣ…?確かに世界一カッコいい車の一つだが、まさか私にストレートレースを挑むってんじゃないだろうな…こんな時に…」


そのスープラは日本の戦闘機〝紫電〟を模したラッピングが施されており、響くエンジン音は純正の2JZではなく、どこからどう聞いても日産・GT-R用のRB26DETTエンジンの轟音だった。


そしてやがてエヴァのヘルキャットと並走し始め、パワーウインドウを開けると中から見覚えのある人物の顔が見えた。


「ビソンテスのヒトキリ!?」


そしてヒトキリは車内からローニンカスタムのP320を取り出すと、エヴァのヘルキャットに対して銃撃を開始した。


だが、ヘルキャットの防弾装甲はかなり強固で九ミリの弾丸を全く通さない。


「残念だったな…!この車は防弾だ。シバサンの時みたいにはいかない!」


エヴァはスープラに向けてハンドルを動かすと、そのまま体当たりして車を傷つけようとするが、減速して避けられた。


間が悪いことにそれは付近を捜索していた一般のアニマル市警の警官の目に入ると、その警官は大慌てでシビック・インターセプターに乗り込み、サイレンを鳴らしながらエンジンを始動させた。


「クソ、次から次へと…!」


ビソンテスの面々は殺しても問題はないが、アニマル市警の警官は無関係なただの一般警官であり、この場で銃撃をするわけにはいかず、エヴァはただ自身の運の悪さに打ちひしがれる他無かった。


「そこのスープラとヘルキャット!今すぐに停まりなさい!」とアニマル市警の警官は呼びかけるが、当たり前のように二人は無視する。


そしてヒトキリは邪魔者に対して苛立ちを感じながら、シビック・インターセプターに対して銃撃を行う。


「だぁっ、クソ、正気かあのスープラ!撃ってきやがった!本部、こちら7A12!西へ逃走中の暴走車両を二台追跡している!車種はダッジのヘルキャットとMkⅣのスープラ!連中は武装して銃をこっちにまで撃ってきやがった!ん…待てよ、ダッジの運転手は指名手配中のエイヴァだ!付近の警官の応援を要請する!包囲網を敷いてありったけ連れてくるんだ!」


そう警官が応援を要請すると、付近をパトロールしていた一般のインターセプターも大量に集まってきてあたりはサイレンの音が鳴り響く地獄と化した。


頭上を見上げればベル・412ヘリもエヴァもこの二台を追いかけ始めている。


そんな中でヒトキリは助手席に座っていたビソンテスの兵士にハンドルを任せると、そのままスープラの天井の上に乗り刀を抜いた。


「な、なにやってるんだアイツ!?」


ヒトキリはそのままロングコートをはためかせながら飛び上がって後ろにいた一台のパトカーにそのまま乗り移ると、刀で窓ガラスを一突きで破壊して運転手の警官の一人を引きずり出して対向車線に投げ捨てると、他の警官がヒトキリに対して銃撃してきた九ミリの弾丸を刀で真っ二つにし、その切れた弾丸は他のパトカーのタイヤをパンクさせ、そのままスピン状態へと追い込み、バク転しながらスープラの天井に再度乗り移った。


「正気か…?人間業じゃないだろ!ウルヴァリンか何かなのか!?」


エヴァが気を取られている隙に他の車線から急激なUターンを行いながら、シボレーのサバーバンもカーチェイスに参加し始め、そのサバーバンを足場にしながらヒトキリはヘルキャットの天井にしがみつく。


焦ったエヴァはヒトキリを振り切ろうとブレーキを踏むと、その制動で振り落とされそうになったところをスープラが上手く飛び乗った。


そしてヒトキリはサバーバンに対して指で指示をすると、エヴァのヘルキャットに何度も何度もドア部分をぶつけた上、ガイズリー・スーパーデューティでなん十発も銃撃され段々と運転席側のガラスにヒビが入って透明度を失っていき、やがて徐々に穴が空き始めるとエヴァも負けじとMP17を穴に突っ込んでブラインドファイヤでサバーバン目掛けて撃ちまくる。


その銃弾はサバーバンの助手席に座っていたビソンテスの兵士の体をハチの巣にする。


「へへぁーっ、死んでろバカが!」運転席側のビソンテスの兵士は笑いながら、ドアを後部の兵士に開けさせ、死体をそのままハイウェイに投棄すると、後部を走っていた一般車両に轢かれて絶命した。


「あの武装した連中なんて奴らだ!クソ!警官も複数人死傷者が出てる!もっと応援をよこしてくれ──」


その瞬間、シビック・インターセプターはヒトキリがスープラを運転している兵士から受け取ったダネル・グレネードランチャーの直撃を浴びると、そのままハイウェイで警官ごと爆散した。


更にヒトキリは無線機でモールス信号を使って指示を出すと、遠くでステアー・HS.50を携えて待機していたマヌエラが狙撃を行い、上空に飛んでいたベル・412ヘリのローター基部に五〇口径弾を着弾させると、そのまま制御を失いアニマルシティ川へと墜落していった。


更にはエヴァが乗っているヘルキャットに対しても五〇口径弾で銃撃を開始し、四十ミリグレネードの追撃も遭ってボコボコと穴だらけになっていく。


「連中、都会のど真ん中だってのにムチャクチャなことやりやがる!指名手配されてるのは私だってのを警官は忘れるんじゃないか!?」そうぼやきながらエヴァはMP17に新しい弾倉を再装填すると、サバーバンへの銃撃を再開する。


あまりの出来事の派手さに警察ヘリだけでなく、アニマルシティ・タイムズの報道用ヘリまでもが飛び交っている有様だ。


その隙にサバーバンへと再度ヒトキリは飛び移ると、運転席にいたビソンテスが負傷して出血していることを確認する。


「う、う、う、腕を撃たれちまったぁーっ、助けてくれヒトキリ!」


そんな運転手の首をヒトキリは刀で切り飛ばすと、死体を片手で引きずり出して出血している断面をエヴァが運転しているヘルキャットの窓ガラスへと投げ、血で視界を塞いだ。


エヴァは視界を確保するために急いでワイパーを起動するが、その死体が引っかかってワイパーが動かず視界がほぼ九十パーセント塞がれているような状態となった。


そしてハンドルをどこに切ればいいかわからない状態の中で、サバーバンが思い切りヘルキャットにぶち当たると、両者ともハイウェイのブリッジから転落して下側の高架下へと転落した。


「ク、クソ…運がないなんてレベルじゃない、これは不幸だ…!」


エヴァは頭の出血を拭って自身の腕に突き刺さったガラス片を引き抜くと、用意していたバックパックを取り付けて展開し、簡易的なプレートキャリアにしてあらかじめ用意していたチェストホルスターにMP17を挿すと、なんとかクラッシュに巻き込まれることを免れ、潰れずに残っていたSR-15を拾って弾薬を装填し、そのまま構えながら逃走を開始するが、背後のサバーバンからドアを蹴飛ばす音が聞こえると、そのままヒトキリが飛び上がってエヴァに対して縦一文字の剣戟を行う。


間一髪エヴァは回避するが、乱れた髪の先端が切れた上にその次の斬撃は近くに遭った一般車両のルームミラーを綺麗に切断し、そのままヒトキリはフィンガー・スナップで近くにいるビソンテスの兵士に指示を行いながらエヴァに対して集中砲火を浴びせていく。


だが、運が良いのか悪いのか高架下にも警官隊が集まっており、エヴァの確保よりも重武装のビソンテスの排除を優先したのかパトロール・ライフルを用いてアニマル市警の一般警官とビソンテスの兵士が街中で派手な銃撃戦を繰り広げ始めると、その隙間を搔い潜りながら対向車線へと移動し、車にはねられそうになりながら近くの裏路地へと全力疾走して逃走する。


ヒトキリもそれを追いかけようとするが、流石に警官隊が増えすぎたこともあってか飛び交っている弾丸を切り刻むのに終始し、兵士らに指示を出してグレネードランチャーで警官隊を屠っていく。


エヴァは生存本能のままに足を進めていくが、負傷や怪我が祟って体力に限界が訪れ始めると、近くにいた四代目三菱・ランサーベースのタクシーに乗っている食事中の運転手に銃を向けた。


「ハァ…ハァ…タクシーを寄越せ…」


「えぇ?あぁ、なんか派手にやってるね。この辺じゃこういうの珍しくもないけど、あんたもあの銃撃戦の参加者なの?」


「お前この銃が見えないのか…アメリカが誇る最強の殺人兵器、AR-15だぞ…」


「えぇ、でも今私は食事中なんだ。ほら、バーガーキングのマッシュルームワッパー食ってるの見えない?昼休憩だよ。今は労働時間外だって。」


「こっちだって命がけなんだよ…!というか私が怖くないのか!」


「あぁ…そういえばあんたどっかで見かけた顔だね?なんだっけ、エ、エ~えーと、エリック?」


「エイヴァだ…」


「あ、そうそうそうエイヴァね。エイヴァ捜査官。」


「頼む、ぐだぐだやってる暇はないんだ。タクシーを寄越せって…」


「うーんそういわれてもね…私もタクシー運転手だからそれなりのコレを貰えないと…あとこのタクシーは商売道具だから無くなると困る。」


そういってタクシー運転手はお金のジェスチャーをする。


「タダの型落ちのランサーじゃないか!クソ!」


しびれを切らしたエヴァは逃走用資金だった十万ドルから一万ドル分を粗雑に取ると、運転席に投げ入れた。


「おぉぅ…!これはあなた様は太客でいらっしゃる…ささ、中へどうぞ。」


タクシーの運転手はそういって後部座席のドアを開けると、エヴァは乗り込んで束の間の休息を得た。


「で、目的地はどちらです?」


「ブルドッグウェイにある旧署…なるべく早く警察や追っ手に追われないようにしてくれ…」


「わかりました…ところであの後ろのスープラも追っ手ですか?」


「あ!?」エヴァが振り返るとそこにはヒトキリが駆るあのRB26DETTを積んだスープラMkⅣが近づいていた。


「マズいな…そうだ、あいつから逃げてくれ!あいつを撒いてくれたらもう一万ドルやる!この型落ち車でできたらの話だが…」


「心配いりませんよ。それにあいつには私もリベンジしたかったんです。あのペイントは間違いない。しっかり捕まってくださいね!」


運転手がギアを入れて車を急発進させると、そのエンジン音は明らかに純正のランサーに搭載されているノーマルの4Gエンジンの音ではなかった。


「ぐわっ…!なんだこのスピードと音は…!お前この車エンジンスワップしてるな?」


「いや、スワップなんてしてませんよ?」


「じゃあなんだこのイカれたスピードは!」


「いやだって、これエボⅢですもん。」


「ランエボ?」


「派手な車使うと爆走してバレたときに目立って警察にどやされちゃうんで、偽装の為にガワをドノーマルのランサーに変えてあるんですよ!」


「バカなのかっ…!」


だが、ランエボのスピードをもってしても、やはりスープラの異様な速さに直ぐ並走状態へと陥ってしまう。


「追いつかれてるぞ…!」


「心配いりませんって。奴はドラッグ特化なのは前に分析してます。この辺の地理は大体把握してるんですよ。でも奴らは地理関係に詳しくないっ!年下の師匠から教わったテクです!」


「うわああっ!」


タクシーは急にドリフトを開始すると、そのまま車が一台通れるか通れないかギリギリの幅の路地へとアクセル全開のまま侵入して突っ切っていく。


「ぶつかる、ぶつかる、ぶつかるーっ!」


「大丈夫ですって。私の腕前を信用してください。こう見えてもちょっと前までハイウェイパトロールでブイブイ言わせてたんですよ?」


「は、ハイウェイパトロール?法の番人がこんなことしていいのかよ!」


「あの時は真面目にやり過ぎて正直肩が重かったんですよ。だけど、チューンしたマシーンで暴走する快感を覚えてから、それの虜になっちゃいまして!知ってます?この辺で噂になってるブルーインパルスって!」


「おい、待てスープラが回り道してきたみたいだ。この辺は直線ばかりだ。どうする?」


タクシーの運転手はそのままスープラに追いつかれると、スピードメーターが徐々に徐々に上がっていく。


「おい、ドラッグレースはエボじゃ不利ってさっき言ってたじゃないか!」


そして通行料の多い車道でスピードメーターが時速百五十キロをマークしたあたりになると、そのまま運転手は車のドリフトの勢いをスピンに変え、慣性を応用してターンさせて街中を逆走しながら、スープラを振り切った。


「お、お、おおぉ!やった!逃げ切れた!よっっっし!」


「お客さん、約束の追加一万ドル!」


「あ?あぁ、くれてやる!くれてやるこんなもの!」


「まいどありがとうございまーす!」


遂にヒトキリの追跡を振り切ったエヴァはそのままブルドッグウェイにある旧署へと移動すると、そのまま中にある地下駐車場へと移動してようやく目的地へと到着した。


「エイヴァ捜査官、待っていたぞ。」


タクシーのドアを開けるとそこにはあのドギー・デッカード警視が杖をつきながらエヴァの帰還を出迎えた。


そしてタクシー運転手は運転席から降りるとデッカード警視に向けてかしこまって敬礼をした。


「指示の通り本官はエヴァ捜査官をこちらに連れて参りました!デッカード警視!」


「え!?」


「そのアサカ巡査はシバサンの知り合いでな。シバサンを迎えに出してもよかったがリスクが大きすぎるし、何より今マシーンを取りに行ける状況じゃなかった。そこでビソンテスからノーマークの彼女に依頼してタクシー運転手に偽装してもらい、お前をここまで連れてきてもらったんだ。」


「そんなことが…」


「アサカ巡査…ご苦労だった。その金は今回の仕事の報酬として受け取れ。」


「えっ、それは私が稼いだお金で…」


「心配するな、ちゃんとポケットマネーで補填はする。良い仕事には良い報酬を支払わないと、ここじゃ暴動が起きてしまうからな。」


「それでは失礼しました!」


「うむ、ご苦労。」


アサカ巡査はそのままランサーのタクシーに乗ると旧署を後にしていった。


そしてようやくエヴァはタイラーと再会することができた。


「エヴァ…」


「タイラーせんぱぁい…本当に、本当に申し訳な──」


タイラーはエヴァのみぞおちに思い切り蹴りを入れると、エヴァはその場で崩れ落ちた。


「けほっ…かはっ…」


「これは私たちを騙していた分の礼だ!これで恨みっこ無しだぞ!」






「さて、エヴァ。これから真相を話そう。」


デッカード警視がエヴァを含めたCLAWのメンバーを全員旧署の埃が被ったデスクへと集めると、今までの情報の整理を開始した。


「まず、何故私がお前を最初からFBIと知っていたかについてだが、お前の数十年前に亡くなった父親について覚えているか?」


「はい。覚えています。死んだ時のことは今でも忘れません。」


「私はお前の父親と親友だった。互いに悪を正すと誓った盟友だった。とある事件を合同捜査していた時だ。お前の父は当時追っていた犯罪組織の取引現場のがさ入れで罠にかけられ、銃撃戦に巻き込まれた。だが、スワットの応援を呼んだにも関わらず我々に出動命令は来なかった…そして到着したころにはそのまま命を落としていた。私は何故出動命令が伝わらなかったのかずっと疑問を覚えていた。当時作戦を取り持っていたのは今の副長官だった。そして死後に彼のデスクを片付けていた時、とある遺書が残されていた。そこには奴が不正をしている可能性があり、自身が消されるかもしれないと危惧していた文書だった。その時から奴をマークして彼の素性を裏で探っていた。だが、その後に強盗捜査していた事件は解決し、奴は昇進。そしてそれに付随して何故か私も現場を強引に降ろされ巡査部長から警部に昇進してデスクワークに無理矢理移籍させられた。私が勝手に捜査を行っていたことを知って口封じの為に好待遇で動けない仕事に磔にしたわけだ。そこで私はこういったしがらみから逃れるべく、グレーゾーンで真実を追い求められる秘密組織を結成した。それが今のCLAWというわけさ。」


「そんなことが…!奴が、奴が私の父を殺したんですか…!」


「決定的な証拠はそのUSBの中に入っているはずだ。だが、奴の不正をCLAWの前任リーダーであるクロウ・S・マーロンが掴んでいたのが幸運だった。彼女はお前の父と同じく命を懸けてFBIの不正を公にしようとし、志半ばで惨殺され証拠の所在もわからくなっていた…だが、事前に連絡を受け確信を持った私は、父を継いでFBIになった君が親の仇に踊らされているのを逆に利用し、逆に奴の首根っこを掴んだというわけさ。このデータがさえあれば奴を死刑にできるだけの証拠が集まる。」


「でも、そのデータを一体どうやって公表するというんです?今の私が話したところで信用性は皆無…」


「そこで…彼の出番というわけだ。」


警視は署内でくつろいでいたナギサ・ハヤセを指差した。


「そうか、彼は確かにアニマルシティ・タイムズの記者だ!あそこの宣伝効果があれば一気に拡散されて、仮に陰謀論だと言われようと関係なく情報が全世界に流布される!」


「その通りだ。これだけの大スキャンダルを他のメディアが放っておくわけもない。よってこのUSBを手に入れた我々はこの勝負に勝ったと言える。よくここまで運んでくれたなエヴァ。それとナギサ、後は頼んだぞ。お前の力が今一番必要なんだ。」


ナギサは頷くとUSBを受け取って情報を解析し、その情報を基にして自前のノートパソコンで記事を高速でタイピングしながら書き始めた。


「だが、世間に情報を流布しただけではまだ足りない。我々の仕事はFBIの副長官を逮捕することとエイヴァ捜査官の無実を証明することだけか?」


「ロス・ビソンテスの壊滅…!」


「そうだ。まだ仕事は終わっていない。奴らは世間に素性が知れた瞬間にクルティードに支配されていて引き渡し条約も無いメキシコへと逃げるだろう。もしかすれば副長官もそれに乗じて逃げおおせるかもしれない。何せ民間軍事会社だ。身を守るのに最も適している。我々は早急に連中を叩かなければならない。この作戦を成功させればクルティードの強い後ろ盾を二つ奪うことができる。だが…公式上はもう既にCLAWはFBIに解体されてなかったことになっている。そして更にビソンテスの本拠地はサンディエゴにある。つまりこれ以上我々が動くのは完全に違法行為ということだ。さらに言えば装備もほとんど残っていない。だから、これ以上踏み込みたくないものはこの場を去っていい死にに行くようなものだからだ。追いも恨みもしない。お前たちがやらないのなら、私はこの20チームとやり遂げるだけだ。残るものは…今付けているアニマル市警のバッジをデスクの上に置け。」




「私はやります。父の仇を打たなきゃ気が済まない。」




「…私は最初からもう何も持ってないからな、それに指を飛ばされた仕返しもしなくちゃなんない。私はやるぞ。」




「私も。友達を殺されたリベンジをしないと。」




「わたくしもやりますわ!だって…ここまで一緒にやってきたんですもの。死なば諸共ですわ!」




「まだヒトキリが生きてるっていうなら、僕が決着付けないとね!」




「家族が心配だから降りる…といいたいところだが、奴らとケリを付けないと回り回って家族に危険が及ぶ。目の前の敵を逃すわけにはいかない。私もやります警視。」




「…決まってるだろ。グレーゾーンの仕事は私たちがやらなきゃいけないんだ。」




こうして全員が参加の意思を示すと、持っていたポリスバッジをデスクの上へと投げた。




「いいか、我々はこれより完全なる決死隊…死地に赴く勇気ある者、〝タスクフォース・ブレイブ〟だ。」

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