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Chapter.8 デンジャー・クローズ

CLAWから一人離れたブルーだったが、そんなブルーをビソンテスが誇るティア1兵士であるアランが襲撃する。果たして二人の兵士の運命は如何に。

アランはロス・ビソンテスの一団を率いるとブルーの家の中にワイヤートラップ式の爆薬を仕掛けていた。


この異様な街の様子にはアランも困惑するしかなく、こんなところに住んでいるなんて自殺行為だと心の中で思った。


階段を上っていくと斜視でよだれを垂らし、親指をちゅぱちゅぱと吸っている八十代ぐらいの車椅子に座った斜視の老人もいた。明らかにボケてるような様相で銃を見てもピクリとも反応しなかったため、そのまま放置するとブルーの部屋へと不法侵入を行った。


部屋の中は埃とカビでいっぱいで平気でゴキブリが這っているような場所だ。


床には開けた後の豆缶がそのまま地面に捨てられていて、少しハエが寄っている。


ハッキリ言って人が住んでいるというよりはホームレスが勝手に廃墟を使ってるといった様相だ。


そんな長居をしたくない場所にアランたちは部下に指示を行って的確なポイントに爆薬を仕掛けていく。


「…指定したポイントに爆弾は仕掛けたか?」とオッドホーンはアランに無線で通信をする。


「仕掛けました。これでドアを開ければ即死です。ガス爆発に見せかければ世間が騒ぎ立てることも無い。」


「まさか一人だけ先に帰っているとは。逃走者の追跡要因としてお前を手配して正解だった。」


「まあ楽な仕事ですよ。IEDを仕掛けるだけなんて仕組みさえわかれば子供でもできる。」


「もし奴が現れても爆発しなかったときは直接消しに行くんだ。それだけの人数を手配したんだ。失敗することも無いだろう。」


「ですが、油断は禁物です。どれだけの腕前を持つプロでも一瞬の油断が死を招く…俺は油断するつもりはありません。」


「…そうだな。プロとして完璧…それがお前の良いところだ。そこを気に入ったからお前はビソンテスの一員でここまで上り詰めることができたんだ。」






CLAWの本部がロス・ビソンテスによる襲撃を掛けられていた時と同時刻、ブルーはクロウの家に一年以上ぶりに行ったことでセンチメンタルな気分となり、久しぶりに半休を取って早めに帰宅していた。


ブルーの住むスニッド・ロウ地区はアニマルシティ内において最悪の治安を誇る魔境であり、一日に必ず殺人と放火と強姦が連続して起きるまるで悪魔が降誕しているような地域である。


ブルーがノスフェラトゥを連れて歩いている今も、どこかしらから黒煙が舞い上がっているし、常に救急車と消防車のサイレンの音が聞こえる。


こんな地域であるため、車を綺麗な状態で盗まれずに維持するのはあたり一帯を仕切っているヤクザでもない限りはほぼ不可能で、ブルーは盗まれない様に愛車をわざわざ隣の比較的治安のよい地区の倉庫を借りてそこをガレージにしている。


故に一度そのガレージに車を置いた後に自宅までわざわざ十分近くかけて徒歩で帰宅しているのだ。


「おい、そこのデカい姉ちゃん。俺のでっけえのしゃぶんねぇか?五ドルやるよ。」


こういった形でスニッド・ロウには性交渉を求めてくる浮浪者やチンピラは山ほどいる。こういう連中でもここに巣食っているレイプ魔よりは金を払おうとしているだけで百倍マシである。


大抵の場合こういう連中は意気地がないので無視をしていればやり過ごすことができる。


たまに扱きながら近づいて体液をかけるだけかけて逃げていく者もいるが、正直命にかかわることではないのでここでは気にする必要はない。


何度かかけられたことがあり、その時は不快で仕方なかったが、ノスフェラトゥが愛犬になってからは奴らのモノを特に頼まずとも食いちぎってくれた。


次に見えたのはナイフをチラつかせて目が血走っている薬物中毒者だ。こういった薬物中毒者はスニッド・ロウの一般市民のようなもので、その辺によくいる存在だ。


たまによだれを垂らしながら切りかかってくることがあるが、軍時代の経験からナイフファイトに慣れているブルーにとっては敵ではなく、大抵の場合は腕の関節を折って終わりになる。


この辺での暴力沙汰は毎日起きているので、人が死なない限りはわざわざ事件として取り扱う警官も全くと言っていいほどいない。


そして次は銃を持った連中だ。ナイフを持った連中とは違って銃を持った連中は特に強く警戒しなければならない。何故なら撃たれれば即死だからだ。


「おい、姉ちゃん。金を出しな。五ドルだ、五ドルよこせ。」


今日は運の良いことにこちらに絡んできた。悪いときは何も言わずに発砲してくるからだ。


「クレジットカード、三十六分割して相当使っちゃったからない。」


「じゃあ、お前をぶっ殺してレイプしてやるぜぇぇぇ!?──」


その時、ノスフェラトゥが飛びかかって強盗の腕を噛み千切った。その強盗はもだえ苦しみながら血が溢れる断面を抑えて地面でうずくまっていた。


「あああああーーーーっ!俺の、俺の腕が…腕がーーーーーっ!」


近くに病院も無いのでおそらく数分後には失血死するだろうが、正当防衛なので特に気にする必要はない。


そうやっていつも通りの道を通って帰ると、いつもの家賃五十ドルの我が家へと到着する。よく見ると一ブロック先の家でまた火災が起きているようである。これであの家が放火されたのは合計で五十回目だ。


こんな最悪の環境下であるため、全体的に他の州と比べて家賃がかなり高いアニマルシティにも関わらず、スニッド・ロウ周辺だけは五十ドルと二束三文レベルである。


過去にアニマルシティ内だからアドバンテージがあるとこの辺の土地を買って開発しようと計画を立てた物もいたが、そのために雇った建築作業員が全員身ぐるみを剥がされて強姦され街中で放置された挙句、建築資材を全て根こそぎ奪われ闇市場で転売されたことで開発が失敗した過去もある。


周りはゴキブリやネズミだらけであたり一面にホームレスが力なく座っており、ガムやコンドームがへばりついていつも通りヤク中のカップルが青姦をしている。


階段を上っていると、いつも通りヘンリーがいて「あ、エリスさん。サタン、信じてますか!」といつも話しかけてくるため、適当に「うん、信じてるよ。」と返すと今日はサンドイッチをくれた。


血まみれでズタズタの手首がチラチラと見える状態で渡してくるのはハムとレタスを挟んだだけのごく普通のサンドイッチだ。


ブルーはいつもヘンリーが渡してくる料理に対して〝味が薄い〟とか〝砂を食べてるみたい〟と心の中で思っていたのだが、ここ最近はそんな感想を抱かなくなった。ヘンリーが料理の腕前を上げたのかとブルーは思った。


ヘンリーは悪魔崇拝者<サタニスト>で、この辺の近隣住民に対して常に布教活動を行っている。


いつも料理を配っているが一体何故こんなところに住んでいるのかとか、そもそも仕事は何をしているかとか、ブルーはここに住み始めて長いが一度も聞いたことが無い。


当人が「食事を分け与えることは絶対的な正義」という思想を持っており、その思想を使用して悪魔崇拝者を増やすための活動を行っているのだ。


適当に「信じてる」と答えれば食事をくれる関係で周りの人には有難がられており、そのおかげでここら一帯はヘンリーの心の中では基本的に悪魔崇拝者しかいない。


とはいえ、うわべだけ信じてると言っているだけでこの近辺に住んでいる人間のほとんどの実態は無神論者であるのだが…


ヘンリーから貰ったサンドイッチを片手間に食べながら、自宅のドアの前に立つと何故かノスフェラトゥが〝お座りのポーズ〟をした。


そしてドアノブに手を掛けようとした瞬間、隣に住んでいる車椅子に座ったベトナム戦争帰りの老人であるアンクル・ボブが話しかけてくる。




「おい海兵、その扉を開けたら…お前は死ぬ。」




いつもの下品な戯言だと聞き流そうとしたが、ここでノスフェラトゥのお座りのポーズの意味を思い出した。


元々ノスフェラトゥは薬物と爆発物両方の捜査ができる警察犬として育てられており、お座りのポーズは近くにそれらがあるときに行う姿勢なのだ。


「…なんでこの中に爆弾があるって知ってるの?」


「さっきフル武装をした連中がお前の部屋に爆薬を仕掛けるところを見た。ベトナムでよく見たワイヤートラップだ。きっとガス爆発か何かに見せかけてお前を殺すつもりだろう。わしは斜視になってよだれを垂らし、ボケた老人のフリをしてやり過ごした。」


「フル武装…まさか、ビソンテス…?」


「ほれ、コレを使って周りを見渡してみろ。」ボブはM13望遠鏡を渡すと、ブルーはそれを使って周りを確認した。


すると、暗くてディテールは良く見えないが周りに数十人分のナイトビジョン特有の緑色の光が漏れた塊がいくつか見えた。


ブルーは心の中でかなりマズい状況であると思った。部屋が開けられずLE6920ライフルを仕舞ってある車も遠方に置いている状況で、あるのは腰の革製のCQCホルスターにあるパラオーディナンス・ブラックオプスピストルしか携帯していないからだ。


一度ビソンテスと戦ったことがあるブルーはこの包囲された状況を一人で打破するのがどれだけ困難か一瞬で判断できた。


ボブ爺さんはそんな様を見て子供のように無邪気な笑顔を見せながら「くくく…くくくく…戦争じゃ、戦争じゃ、戦争じゃ!」と喜んだ。


「言ってる場合?それにこれは私を狙ってるはず。アンクル・ボブは関係ないよ。」


「いや、目の前にある戦争のチャンスを黙って見過ごせるわけがないだろう!ワシはベトナム戦争でベトナム軍事援助司令部<MACV-SOG>に参加し、数多くのベトコンを葬ってきた。楽しかった…死を躱し、敵を屠り、侵略する快感が!だが、あの戦争でワシは脊髄を負傷してこんな車椅子に押し付けられてつまらない半生を過ごす羽目になった。挙句、あの戦争は侵略だとか間違っていたと世情が変わると、ワシの戦闘行為は蛮行だの戦犯だの言われて散々に侮辱された挙句、勲章を取り上げられたっ…!ワシは何度も何度もあの時戦死できていればどれだけ良かったかと思っていた。心の中で今もあの〝戦争の快感〟が燻っていた…!ベトコンの共産主義者共にM16をババババーッと撃ちまくり、死体を積み上げた快感が!そして今!ワシの目の前に戦争が迫っておる!こんなに嬉しいことはない!久しぶりに人を殺せるこの瞬間が待ち遠しかった!戦争だ、戦争だ、戦争だ!」


「思い出に浸ってる場合じゃない…それに武器はないでしょ?」


「ワシはこのアメリカ合衆国を侵略する不埒な輩が現れた時の為、そいつらを皆殺しにするための準備を続けてきた。だが、そんな日は一度も来なかった。望んだベトナム戦争の続きは訪れなかった。だからこそ、これはワシの〝ベトナムの続き〟だ!」


アンクル・ボブが片手で玄関にある巨大な靴箱を開くと、中には大量の銃器が収納されていた。


M203擲弾筒付きのコルト・XM16E1、銃身を短く切り詰めた中国製のRPD軽機関銃、コルト・M653カービン、M60機関銃、ステンMk-Ⅱ短機関銃、スプリングフィールド・M1903狙撃銃、そして大量の弾薬。


どれもこれもベトナム戦争中に使用されたもののようで外装には非常に年季が入っているが、きちんと手入れしてあったのか動作に淀みは一切なかった。


ブルーが使い慣れたAR-15系統であるM16を取ろうとすると、アンクル・ボブ「これはワシのじゃ。」といって取り上げた為、遠距離向きの銃としてその上にあったM1903狙撃銃を取ると、三〇-〇六スプリングフィールド弾をクリップで装填してボルトを動かした。ブルーは心の中でこの場でアンジーにコレを渡せばどれだけ有利に銃撃戦を行えるだろうと思った。


「…アンクル・ボブ、作戦は?」


「ワシが照明弾を空に撃って奴らのナイトビジョンを潰す。明るくなった隙にそのスプリングフィールドで仕留めろ。」


「…ウーラー。」


「よし、いくぞ、〝俺のデカチンに挨拶しな!〟」


アンクル・ボブがM203擲弾筒の引き金を引くと、照明弾はそのまま宙を舞って数十万カンデラの光を迸らせ、あたりをまるで昼間であるかのように明るく照らした。


「ぐわっ!クソ、照明弾だ!」と視界を潰されたロス・ビソンテスの傭兵たちはナイトビジョンを切ろうとする間に、ブルーに頭を撃ち抜かれた。


そして銃声が聞こえると同時にアンクル・ボブもM203に榴弾を装填して発射して戦争の火蓋が切って落とされた。


「信管が焼き付いちまった。これじゃあオッドホーンに備品を壊したってどやされる!」


「今は金なんて気にするな。あの女を始末すればすべては帳消しだ。あいつを殺せばたんまりと金が貰えるし、昇進も見込めるはずだ。」


アランはそういうと部下を引き連れて遮蔽物を使いながらブルーの住むマンションへと近づいていく。


すると、驚いた顔であたりを歩いていたヘンリーと鉢合わせる。


「わ、わ、わ、派手な撃ちあいしてますね!この辺じゃ珍しくも無いけど…」


「なんだこいつ、アラン隊長、殺しますか?」


「民間人だ。無視しとけ。」


アランがヘンリーに気を取られてる間に、方々に散ったビソンテスの兵士たちは的確に胸や頭を撃ち抜かれていく。


「ウーフー!ワンショット・ワンキル、海兵、カルロス・ハスコックの生まれ変わりだって言われないか?」


「ハスコックはもっとすごい!」


「ハハハ!ワシは本物と一緒に戦ったことがあるからな!その通りだ!奴はもっとすごい!」


アンクル・ボブも負けじとM16をチキンウイングの姿勢で構えてフルオートを正確に点射していき、敵兵を釘付けにしていき、適度なタイミングで榴弾を発射して吹き飛ばした。


弾が切れるとガムテープでぐるぐる巻きにしたスチール製の三十連弾倉を回転させて再装填する。


「相手は狙撃銃とグレネードを使ってる。そろそろ照明弾が切れるはずだ。照明弾が切れたらナイトビジョンがあるこっちが有利だ。一気に距離を詰めろ!」


「イエッサー!」


意表を突かれて苦戦したビソンテスの兵士たちだったが、照明弾が消えると途端に攻撃を強めていき、ブルーとアンクル・ボブを釘付けにしていく。


「銃声が近づいてるな。ハスコック・タイムは終わりだ。お次はランボー・タイムだ!」


ブルーが弾の切れたM1903を床に置くと、そのままアンクル・ボブが用意したM60機関銃を受け取って壁に委託射撃しながら距離を詰めてくるビソンテスの兵士に威圧をかけていく。たまらず隠れたところを壁越しにアンクル・ボブが榴弾で破壊する。


辺りにはとてつもない銃声がしていてもう日が暮れて夜になったはずなのにそれを感じさせないような音と光が鳴り響く。


負けじとアラン率いるビソンテスたちもM320擲弾筒に榴弾を入れると、マンションのコンクリートの壁を破壊する。


擲弾の発射音が聞こえたと同時にブルーは屈むと、その榴弾の爆発を回避して今度はM60機関銃を腰だめで乱射していく。


「海兵、こっちは任せろ!お前は下に降りて近い距離の相手を始末するんだ!」


「ウーラー!」


けたたましい轟音が近辺にいる兵士たちすべてをコンバット・ハイへと導く。


この近辺は最早ただの治安が悪いアニマルシティの一区画ではなく、第二のベトナムであり、第二のイラクである。


戦場でしか生きていくことのできない社会に適応できない兵士たちが、この戦場においては生き生きとした表情で自分の存在理由を再確認するのだ。


ブルーは最も近づいていたビソンテスの一人を撃ち殺すと、片手間に死体からプレートキャリアを取り外して自分の体に着た。


それと同時にM60の弾薬が切れて投げ捨てると、今度は腰に挿していたパラオーディナンスを乱射していき、再度アンクル・ボブのもとに戻るとM653カービンと日本の弾倉を受け取る。そしてボブもまたRPD軽機関銃に持ち変える。


M653カービンの〝使い慣れた〟感覚を味わいながら、頭の横を飛び交う弾薬にスリルを躍らせていく。緊張感のあるリロードタイムがたまらない。


下の階の廊下で距離を取るビソンテスの兵士とヒット&アウェイの銃撃戦を繰り広げる。ノスフェラトゥを放ち、首根っこを噛み千切らせる。


その甲斐の住人の銃声に慄く声がここを戦場だと再認識させてくれる。


「このコンクリートジャングルはッ!一九六八年一月三十日、ベトナムのサイゴンだッ!ワシのいるべきところ!まるで母親の子宮の中のように落ち着ける場所だ!」


アンクル・ボブの表情はまるでアイスをもらった子供かのように無垢で穏やかだ。周りでは悍ましい戦争が繰り広げられているはずなのに、彼は、彼だけは子供のままでいられる。


今は八十代の爺だが心は一九六八年当時の二十代の頃に戻っていた。


何も考えず、ただひたすらに撃って人を殺すだけ。それが彼の見出した史上の快楽。


だが、そんな喜びもやがて終わりが近づいてくる。


三十分は銃撃戦を繰り広げた後、あれだけあった弾は底をつきはじめていた。


そしてアンクル・ボブは一発の流れ弾に胸を被弾した──


「ぐわっ…ク、クソ、一発貰ってしまったか…」


「アンクル・ボブ!?大丈夫!?」


ブルーがアンクル・ボブの様子を見ると胸から血が出ていて、口から吐血していた。


「は…肺をやられた…グエフッ!ゲフッ!」


「喋らないで…」と告げながら、ブルーはアンクル・ボブの胸を腕で抑えるが、ボブはそれを跳ね除ける。


「下の階の足音が聞こえないかッ!いいか、ここは戦場だ。負傷した兵士に構えば自分が命を落とす…お前は逃げろ…」


「でもボブ!死ぬ必要なんかない!」


「いいや、ある!死ぬ必要がな!わしはずっと戦って死にたかった!だが、戦争で負った負傷でワシは死ぬことを何十年と許されなかった!だからこそ、再び味わうことのできた戦争!ここがワシの死に場所なんだ!お前はワシにまた戦争を味合わせてくれた!感謝している!さあ、それがわかったら行け!戦場では余計なものに気を取られるのは命取りだ!」


ボブはとある一丁の小銃とバンダリアを取り出すと、ブルーに投げ渡した。


「M1ガーランド…?」


「それはワシの父が第二次世界大戦で使っとったものだ!餞別だ、お前にくれてやる!お前はまだ若い!それを使って生き残るんだ!」


ブルーはM1ガーランドを受け取ると、手の側面でチャージングハンドルを抑えながら八発装填のクリップを挿入し、後ろから叩いてボルトを前進させた。


「ボブは…?」


「ワシは死に場所を見つけた!あいつらを引き付けている間に逃げろ!」


「でも…!」


「いいから進め、海兵!常に忠誠を<センパーファイ>!」


「常に…忠誠を…!」


ブルーはノスフェラトゥに脱出を指示すると、そのままマンションの壁から飛び降りて着地し、全速力で走り始めた。


アランたちがマンションの三階に到達したころには既に血まみれで動かなくなったアンクル・ボブの姿だけがあった。


アランの指示のもとでビソンテスは列を組みながら虫の息のアンクル・ボブの近くへと移動していく。そして銃口を頭に向けてトドメを刺そうとしたその瞬間だった。




「──ベトコン共!地獄でまた殺し合おうっ!」


「っ!しまった──」




アンクル・ボブは満面の笑みで自分の服の中に大量に括り付けていたC4爆弾の起爆スイッチを押すと、そのまま四方に爆風は広がり、ブルーの部屋に仕掛けられていた爆薬が誘爆してマンションの上側は完全に潰れると、そのまま倒壊していった。


周りにいたビソンテスの兵士は一気に爆風に巻き込まれると一気に黒焦げとなり、破片によって体を切り裂かれると即死し、アランもまたその爆風に遭って気絶した。




ブルーは三階から降りた後にその爆発音で一瞬足を止めると、爆発があった方に向かって受け取ったM1ガーランドで捧げ銃をした。


「アンクル・ボブ…戦争犯罪を自慢する最低な奴だったけど、その自己犠牲と意思にはだけは敬意を…安らかに眠って。」


アランは強靭な意思で即座に目を覚ますと、周りの兵士が生きているかを確認する。


「おい、しっかりしろ!おい!」


だが、どの兵士も沈黙したままで目を開くことはない。


アランの率いていたビソンテスの一団はたった一人の老人の自爆行為によって壊滅状態となった。


アランは建物から出ると、地面に座って上着に入れていたラッキーストライクを一本取り出すとジッポーで着火して一服し始めと、オッドホーンから無線によってジュリアの死亡が伝えられ、つい数時間前まで呑む約束をしていたことを思い出していた。


「ジュリアが逝ったか…アイツと呑むのを楽しみにしていたんだがな…まあいい。時期にな。」


すると、爆発音を聞いてやってきたのかヘンリーが驚いた表情をしながら近づいてくる


「ぼ、ぼ、ぼ、僕の家が!どうしよう、まいったなあ…この辺は物騒だから家から出たくないのに…あ、さっきのおじさん…」


「すまんな。俺たちの戦いに巻き込まれてこの通りペシャンコになっちまった。」


「け、ケガしてますよ…手当でも…」


「いらん。まだ俺にはやることがある。だが、気持ちは感謝する。」


アランは立ち上がるとそのままタバコを吸いながらとぼとぼと歩くと、愛車のポルシェ・マカンターボの運転席に座ってエンジンをかけた。


そしてアクセルを踏み、あたりを散策し始める。


「相手は徒歩だ…まだ近くまで行ってないはず。」


アランは数分車を転がした後、徒歩で逃げているブルーを発見すると、アクセルをベタ踏みする。


ブルーもそれに気づくと止める為にM1ガーランドをポルシェ目掛けて撃ちまくり、アランは頭を下げながら彼女をはねた。


しかし、ブルーははねられた瞬間に肋骨にヒビが入ったことを確信するが、同時にボンネットの上に乗ると、必死でしがみつきながらパラオーディナンスのブラックオプスを運転席にめがけて撃ちまくり、アランはそれを避けて腕を抑えながら開けた道へと移動した。


そしてアニマルシティ川の河川敷までたどり着くとそこで急ブレーキを行い、制動の勢いでボンネットから引き剥がされると、そのまま浅瀬へと叩きつけられた。


川でもがくブルーにアランは腰のカイデックスシースからストライダーのタイガーナイフを抜いて突き刺そうとするが、一瞬躊躇う。近づいてハッキリ見るとそれはあの時カジノで上着をかけた女だった。


オッドホーンから情報を与えられたときにブルーが敵であったと知らされた時には困惑を隠すことができなかった。


よりにもよって自分が助けた女を自分で殺しに行くこと考えると、皮肉な運命に笑うことしかできなかった。


そしてそれはブルーも同じだった。あの時渡された上着を今も大切に着ていたからだ。


だが、アランとしては大勢の仲間が殺されていて後には引けない状況であり、ブルーは既に仲間の仇であり、殺さなければならない状況だ。


「アラン…!あなたとは戦いたくない…」


「ああ、同じことを思っていた。皮肉なもんだ。あの時ひどい目に遭わされていた〝お嬢さん〟と殺し合いをすることになるなんて。」


「ならもうこんなことをは辞めよう…?既に多くの人が死んでしまった。私たちならまだ手を取り合えるはず…」


「それは不可能だ。俺はプロだ。プロの傭兵である以上、依頼された仕事は完遂しなければならない。たとえ、あの時裸で外で投げ出されて寒さで震えたお嬢さんであってもな。」


「やだ…私はやだ!なんで、なんで私は自分に優しくしてくれた人と殺し合わなきゃいけないの!?私に優しくしてくれた人なんて生まれてから片手で数えれるぐらいしかいなかった…ここで殺し合う意味なんかない!」


「甘ったれるんじゃないっ!意味はある。俺はお前に殺意を向け、お前もまた俺に殺意を向けた。そして俺の仲間の命を奪った。お前は自分勝手だ。戦争はまだ終わっていない。互いが力尽きるまで終わることはない!」


アランがストライダーナイフを突き刺そうとした次の瞬間、ブルーはその斬撃を腰のM9銃剣を抜いて受け止め、弾いた。


「ほう…?まだまだ元気そうじゃないか。そうでなければ面白くない。ただ狼狽えるだけのお嬢ちゃんを一方的に刺し殺すのは後味が悪いからな。」


「今のナイフ捌き、元特殊部隊出身…?」


「…ドイツ陸軍特殊戦団にいた。そっちこそその動きとそのナイフ、元アメリカ海兵隊だな?合同演習でスパーリングした海兵隊員と動きがそっくりだった。」


「…アメリカ海兵隊武装偵察部隊<フォース・リーコン>のエリス・アンフォーチュン軍曹だ…」


「名乗られたなら俺も名乗らればな。…俺はドイツ陸軍特殊戦団<KSK>のアレクサンテリ・ドゥルヴァイネン少佐だ…!」


互いに殺意を剥きだしにしながらナイフを構えると、徐々に距離を詰めていく。


プロのナイフファイトというのは一瞬で決まってしまう。それ故に一つのミスが命取りとなるため、互いに隙を探しながらどちらが先に動くかを慎重に吟味しなければならない。


先に動いたのはブルーだった。横薙ぎがアランを襲うが軽く頭を反らして避けると、今度はアランがブルーの脇腹に向かってナイフを刺そうとするが、上手くキャッチされて腕を固められたため、空いた方の手でブルーの顔面を何度も殴打して鼻から出血させた。


怯んで固めが緩んだ隙にアランは拘束から抜け出すと、何事も無かったかのように元の姿勢に戻った。


ブルーもアランも使っているのは特殊部隊向けの殺人術であるクラヴ・マガだ。だが、アランはその経験則からブルーは海兵隊式マーシャルアーツを混ぜて使用していることを一瞬で見抜いていた。


そしてアランがナイフの連撃を行う。素早い動きで四方八方から切りつけることで相手が動きを読むことを困難にする。


だが負けじとブルーもその連撃を回避すると、今度は逆にアランの腕を掴んで投げ飛ばして距離を取った。


ナイフファイトというものは距離を取りながら長時間かかる銃撃戦と違って、常に休まる暇がなく、常に相手に殺意を向け続けなければならない。それ故に集中力を激しく消耗し、一瞬にして息があがっていく。


ブルーがアランの首を斬りつけようとするが、アランもまたブルーの腹を裂こうとする。しかし互いに気づいて腕を押さえつけるとにらみ合いながら膠着状態になる。


アランは脇腹に蹴りを入れると、先ほど轢かれた影響で肋骨にひびが入っていたブルーはその衝撃で悶絶し、そのまま姿勢を崩した勢いでアランはブルーの喉を一突きにしようと、ナイフを持った手に自重を乗せ、ブルーもそれを死に物狂いで受け止める。


互いの体は力み過ぎで震え、顔は真っ赤になる。


そして、一ミリ、また一ミリとストライダーナイフの刃はブルーの胸元に迫ってくる。


互いの息がかかるような距離感でひたすら筋力の耐久勝負となる。


そして段々とブルーの喉元にナイフの剣先が突き刺さり、少しだけ出血し始めてもう終わりだと確信したその時だった。


何故か急にアランの力は弱まると、その場で横に倒れてぐったりとする。


夜中の川瀬でコンバット・ハイ全開の状態で戦っていたため、ブルーは気づかなかったのだがよく見てみるとアランは体からかなりの量を出血していた。


これはブルーが切りつけた痕ではなく、先ほどアンクル・ボブが自爆した際に飛んだ爆片が大きく体に突き刺さった痕だった。


アランは目覚めてからブルーを追うまでの間に既に致命傷を負っていた。その致命傷をなんとか気力で耐えきってここまでブルーを追い詰めることに成功した。しかし、〝ここで限界が来てしまった。〟


アランは苦しそうにしながら川瀬で仰向けになり、ブルーは立ち上がるとアランが倒れているところから血だまりがどんどんと大きくなっていく様を視認した。


「ハァ…もう体が言うことを効かなくなったな…歳かな…」


「アラン、そんな状態でなんで逃げなかったの…?」


「あの時に爆破を食らった時点で既に破片で内臓が損傷した感覚があった。この状態で破片を除去すれば失血死する。この時点でどれだけ治療しても無駄だろうと悟った。だから最後にメインターゲットだけは片付けなくてはと思った。だが…体が持たなかったな。コンバット・ハイで痛みは和らいでたが…今は物凄く痛い。激痛だ。しかもだんだん寒くなってきやがった。クソ、なあ、俺のポケットに入ってるタバコを一本取ってくれないか?温まりたいんだ。」


ブルーは無言でアランの上着に入っていたラッキーストライクを取り出すと、一本取り出してアランの口に咥えさせた。そして同じ場所に入っていたジッポーを使って火をつけた。


「はぁ…やっぱりタバコはいいもんだ。こんなヤバイ状況でも落ち着かせてくれっぐふっげほっ!はぁ……」


「もう…喋らない方がいい。命を縮めるだけだから。」


「…なぁ、最期に頼みがあるんだ。お前が兵士ならこの状態の俺がどれだけ苦しいかわかるはずだ…だから、終わらせてほしい。」


その一言が聞こえた瞬間、かつて仲間に言われたことがフラッシュバックした。


テロ組織マズバハに拘束されて拷問を受けたあの時、自分の介錯を頼んだフォース・リーコンのチームリーダーを結局殺しきれずに半死半生の状態に陥れ、苦しみに苦しみ抜かせた末に死んだ時の事を。


故に死にたくても死ねないこの状態がどれだけ苦しいかをブルーはわかっていた。


あの時のことを仲間に繰り返させやしないと誓っていた。瞳から涙がぽろぽろと零れるが、それを手の甲で拭うと先ほどアンクル・ボブに渡されたM1ガーランドの薬室を確認して構えた。


そしてM1ガーランドのセーフティを人差し指で解除すると、アランの頭へと向けた。


アランは澄んだような顔をすると、タバコの煙を吐きながら目を瞑った。


次の瞬間、ブルーは引き金を指で絞るとM1ガーランドに装填された三〇-〇六スプリングフィールド弾が発射されると同時に、特徴的なマグネシウム製のクリップが排出する音があたり一帯に鳴り響く。


そして、その音がやんだ後にあたり一面は静寂に包まれるとブルーはアランの遺体に敬礼を行った後、M1ガーランドを抱えながら涙を流してその場にへたり込んだ。


無言の間の後にブルーは何を思ったのかアランが吸っていたラッキーストライクとジッポーを取ると、火をつけてその場で一服した。


そして気が付くと隣には匂いで追ってきたのかノスフェラトゥがそこにいた。


ブルーは今までそれほどタバコに興味を持っていなかった、というよりブルーがいた部隊では匂いで察知されることを恐れて作戦中に吸う人間は全くいなかったのだ。


そして吸った味も別に美味しくはない。ただ苦くて紙が焦げたような臭いが口と指先にこびりつくだけだった。




 「…何故。…何故、私はこんなつらい目に遭わなきゃいけないっ!私は、私は今日で私に優しくしてくれた人を二人も失ってしまった!私からどれだけ奪うつもりなんだ!私は何度も失ってきた!だが、得られるものは何一つとしてなかった!何一つ、何一つだ!私の好きになった人間はなんでみんな死んでいくんだ!残酷すぎる、こんなのってない、こんなのって無いよぅ…私は、私はただ普通の幸せを享受したいだけなのにぃ…」

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